新卒社畜、SS級ランカー御用達の娼館で肉体労働します。〜毎日俺を買う勇者たちが絶倫すぎる〜

さか様

文字の大きさ
28 / 29

28

しおりを挟む
その日は、朝からおかしかった。

目が覚めた瞬間から、体が重い。
重いというより、芯が抜けている感じで、起き上がろうとしても、思考が一拍遅れる。

(……あ、これ)

経験則が先に立つ。
社畜時代に何度もやったやつだ。

熱。
しかも、わりと悪い。

喉が焼けるみたいに乾いていて、頭の奥がじんじんする。
いつもなら無理やり服を着て、顔を洗って、仕事に行くところだけど――ここは異世界で、俺は商品で、体調不良は普通に“止められる”。

「……すみません」

そう言った自分の声が、やけに遠かった。

リーネは一目で察したらしい。
俺の額に手を当てて、眉を寄せる。

「……あー、だめだこれ」

即断。

「今日は休み。で、病院」

「え、だいじょ……」

「大丈夫じゃないやつの顔」

被せるように言われて、反論できなかった。

「こういうときはね」

リーネは手早く毛布を掴みながら言う。

「昴みたいなのを診る病院がある」

……あ。

その言い方で、少しだけ背筋が冷えた。
忘れてた、俺、ここで生まれたわけじゃない。

(俺、そっちに分類されるんだ。)

考える余裕は、そこまでだった。

――

歩いている途中から、景色が歪み始めた。
石畳が波打って、音が水の中みたいにくぐもる。

誰かに名前を呼ばれていた気がする。
ガルドか、アルベルトか、それとも――

次に意識がはっきりしたとき、俺は“見て”いた。

夢だと思った。
でも、夢にしては、やけに情報が多すぎた。

小雨とアスファルトの匂い。
仕事終わりのあの夜。

マンホールの縁で空を切った足。
視界が回転して、変に長い浮遊感。

(……あ)

落ちた。

知ってる。
この感覚、知ってる。

次の瞬間、視点が変わる。
マンホールの中。

そこに、人が倒れている。

動かない。
不自然な角度。
服に、見覚えがある。

(……俺だ、)

理解が追いつく前に、事実だけが積み重なる。

雨に打たれて、時間が経って、
通勤の足音だけが、上を通り過ぎて。

顔が、姿が、もう――
はっきり言って、酷かった。

(……嘘だろ)

助けるでもなく、戻るでもなく、ただ“確認する側”として、見ている自分。

誰かが来る。救急隊?警察?
遅れて、ようやく。

「……うわぁ、酷いなこれ」

その言葉だけが、やけに鮮明だった。

(……あれ)

胸の奥が、すとんと落ちる。

(俺、帰れるかもとか思ってたよな)

異世界転送だって笑って、どこかで、戻れると思って。

(……死んでたじゃん)

そこで、視界が真っ白になった。

「――っ!」

息を吸い込んだ瞬間、喉が焼けた。

シーツが、妙に冷たかった。
さっきまで見ていた雨の感触が、まだ皮膚に残っているみたいで。

起きようとしても体が言うことをきかない。

目の前が揺れて、焦点が合った先に、顔が三つ。

ガルド。
アルベルト。
リーネ。

全員、妙に静かな顔をしていた。

「……昴」

リーネの声が、低い。

「落ち着いて。今、ここ病院」

ここ。
白い天井。
薬の匂い。

「高熱が引かなかったのと、心拍、だいぶ落ちてた。
一時は、危篤」

……危篤。さらっと言うな。

言葉の意味が、さっき見た光景と重なって、胃がひっくり返る。

「……もしかして」

リーネが、少しだけ間を置く。

「何か、見た?」

その一言で、全部が戻ってきた。

雨の音。
倒れている体。
“酷い姿”。

「――うっ」

喉が勝手に痙攣して、体を起こすより先に、吐いた。

何も入ってないのに、えずく。
胃液の酸っぱさと一緒に、さっきの映像が押し上がってくる。

ガルドが背中を支えているのが分かる。
アルベルトが、何か言っている。

でも、頭に残ったのは一つだけ。

異世界だって笑ってた、あの日。
帰れるかもって、思ってた、あの日。

俺は、もう。

「……俺」

声が、情けないくらい震えた。

「……死んでた、」

それを言葉にした瞬間、胸の奥で何かが完全に崩れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません

ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。 全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?

拝啓、親愛なる王子、魔族に求婚されて元従者は花嫁と相成りそうです

石月煤子
BL
「――迎えにきたぞ、ロザ――」 とある国の王子に仕える従者のロザ。 過保護な余り、単独必須の武者修行へ赴く王子をこっそり尾行し、魔獣が巣食う「暁の森」へとやってきた。 そこでロザは出会う。 ウルヴァスという名の不敵な魔族に。 「俺の花嫁に相応しい」 (は? 今、何て言った?) ■表紙イラスト(フリー素材)はお借りしています■

気絶したと思ったら闇落ち神様にお持ち帰りされていた

ミクリ21 (新)
BL
闇落ち神様に攫われた主人公の話。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

処理中です...