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共同戦線
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再集合の空気が、まだ重いまま。
結界の張られた小部屋で、三人は向かい合っていた。
魔王の身体をしたリュカが、こほんと咳払いをする。
「……とりあえずだ」
勇者の身体をしたラムザが、静かに頷く。
「お互い、バレないように共同戦線だ」
(泣いてる我、キモいな……)
内心の声は、誰にも言わない。
リュカは目を逸らしたまま、低く言う。
「……乳首の秘密、他言したら」
一拍。
「イチモツ、斬り落とすぞ……」
声が、震えている。
「えっ……」
ラムザが一歩引いた。
「やめて?」
即答だった。
魔術師が咳払いをする。
「えー……つまり」
「協力する、他言無用、バレたら終わり、ですね」
三人の視線が一致する。
「……ああ」
魔術師は頷きながらも、内心では別のことを考えていた。
(早く薬を作り直さなきゃいけないのは分かってるけど……)
視線を二人に向ける。
(……面白……いや、緊急事態だ)
こうして。
らしくない二人の生活が、静かに始まった。
―――――
魔王城。
玉座の間で、魔王(中身:リュカ)は深く息を吸った。
(毎日……こんなに勇者が来るのか……)
警戒魔法が鳴る。
「勇者一行、到着です!」
(いや待て。俺、魔法使えない)
玉座に座り、必死に思い出す。
(詠唱? イメージ? 圧?)
とりあえず、手を前に出した。
「……えいっ」
ぽふ。
煙が、少しだけ出た。
沈黙。
魔王のしもべたちが、ざわつく。
「……煙?」
「視界を奪う制圧魔法か……!」
「陛下、勇者を無闇に傷つけぬとは……!」
(え、そうなの?)
魔王(中身:リュカ)は、咄嗟に腕を組み、低く言った。
「……無駄な争いは好まぬ」
一瞬、静まり返る。
「魔王様……慈悲深い……!」
(いや、勇者側の意見言っちゃったな……)
だが、誰も疑わない。
「……下がれ」
威厳ある一言で、なんやかんやで事なきを得た。
(助かった……)
―――――
一方、城外。
勇者(中身:ラムザ)は、即席パーティーメンバーに囲まれていた。
(ふむ……この体、魔法は使えぬか)
剣を渡される。
(……重)
「勇者様?」
(こんな重いものを……人間は振り回しているのか?)
おそるおそる構える。
「……とりゃっ」
剣は、へなちょこに空を切った。
だが、魔物が膝をついた。
「剣圧だけで……!」
「急所を外した一撃……慈悲だ……!」
(……なるほど)
ラムザは、静かに頷いた。
「命を奪う必要はない」
パーティーが、どよめく。
「勇者様……魔王のように合理的……!」
(……魔王側の意見を言ってしまったか)
だが、こちらも疑われることはなかった。
「進むぞ」
パーティーは、完全に納得していた。
―――――
その夜。
それぞれの場所で、二人は同じことを思っていた。
(……言動が、少しずつズレているな)
(……だが、なぜか通ってしまう)
そして。
(……勘違いって、ありがたい)
(……世界、我に意外と優しいな)
魔王城の研究室では、魔術師が机に向かいながら溜息をつく。
(本当に早く戻さないといけない……)
ペンを止め、ちらりと天井を見る。
(でもこのままでも、もう少し観察……いや、だめだ)
そして、三人が同時に思う。
(絶対に、バレるな)
勇者と魔王は、互いの正体と秘密を抱えたまま、今日も“役”を演じている。
結界の張られた小部屋で、三人は向かい合っていた。
魔王の身体をしたリュカが、こほんと咳払いをする。
「……とりあえずだ」
勇者の身体をしたラムザが、静かに頷く。
「お互い、バレないように共同戦線だ」
(泣いてる我、キモいな……)
内心の声は、誰にも言わない。
リュカは目を逸らしたまま、低く言う。
「……乳首の秘密、他言したら」
一拍。
「イチモツ、斬り落とすぞ……」
声が、震えている。
「えっ……」
ラムザが一歩引いた。
「やめて?」
即答だった。
魔術師が咳払いをする。
「えー……つまり」
「協力する、他言無用、バレたら終わり、ですね」
三人の視線が一致する。
「……ああ」
魔術師は頷きながらも、内心では別のことを考えていた。
(早く薬を作り直さなきゃいけないのは分かってるけど……)
視線を二人に向ける。
(……面白……いや、緊急事態だ)
こうして。
らしくない二人の生活が、静かに始まった。
―――――
魔王城。
玉座の間で、魔王(中身:リュカ)は深く息を吸った。
(毎日……こんなに勇者が来るのか……)
警戒魔法が鳴る。
「勇者一行、到着です!」
(いや待て。俺、魔法使えない)
玉座に座り、必死に思い出す。
(詠唱? イメージ? 圧?)
とりあえず、手を前に出した。
「……えいっ」
ぽふ。
煙が、少しだけ出た。
沈黙。
魔王のしもべたちが、ざわつく。
「……煙?」
「視界を奪う制圧魔法か……!」
「陛下、勇者を無闇に傷つけぬとは……!」
(え、そうなの?)
魔王(中身:リュカ)は、咄嗟に腕を組み、低く言った。
「……無駄な争いは好まぬ」
一瞬、静まり返る。
「魔王様……慈悲深い……!」
(いや、勇者側の意見言っちゃったな……)
だが、誰も疑わない。
「……下がれ」
威厳ある一言で、なんやかんやで事なきを得た。
(助かった……)
―――――
一方、城外。
勇者(中身:ラムザ)は、即席パーティーメンバーに囲まれていた。
(ふむ……この体、魔法は使えぬか)
剣を渡される。
(……重)
「勇者様?」
(こんな重いものを……人間は振り回しているのか?)
おそるおそる構える。
「……とりゃっ」
剣は、へなちょこに空を切った。
だが、魔物が膝をついた。
「剣圧だけで……!」
「急所を外した一撃……慈悲だ……!」
(……なるほど)
ラムザは、静かに頷いた。
「命を奪う必要はない」
パーティーが、どよめく。
「勇者様……魔王のように合理的……!」
(……魔王側の意見を言ってしまったか)
だが、こちらも疑われることはなかった。
「進むぞ」
パーティーは、完全に納得していた。
―――――
その夜。
それぞれの場所で、二人は同じことを思っていた。
(……言動が、少しずつズレているな)
(……だが、なぜか通ってしまう)
そして。
(……勘違いって、ありがたい)
(……世界、我に意外と優しいな)
魔王城の研究室では、魔術師が机に向かいながら溜息をつく。
(本当に早く戻さないといけない……)
ペンを止め、ちらりと天井を見る。
(でもこのままでも、もう少し観察……いや、だめだ)
そして、三人が同時に思う。
(絶対に、バレるな)
勇者と魔王は、互いの正体と秘密を抱えたまま、今日も“役”を演じている。
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