入れ替わり勇者と魔王は、世界の秩序を乱すか

さか様

文字の大きさ
6 / 12

共同戦線

しおりを挟む
再集合の空気が、まだ重いまま。

結界の張られた小部屋で、三人は向かい合っていた。

魔王の身体をしたリュカが、こほんと咳払いをする。

「……とりあえずだ」

勇者の身体をしたラムザが、静かに頷く。

「お互い、バレないように共同戦線だ」

(泣いてる我、キモいな……)

内心の声は、誰にも言わない。

リュカは目を逸らしたまま、低く言う。

「……乳首の秘密、他言したら」

一拍。

「イチモツ、斬り落とすぞ……」

声が、震えている。

「えっ……」

ラムザが一歩引いた。

「やめて?」

即答だった。

魔術師が咳払いをする。

「えー……つまり」

「協力する、他言無用、バレたら終わり、ですね」

三人の視線が一致する。

「……ああ」

魔術師は頷きながらも、内心では別のことを考えていた。

(早く薬を作り直さなきゃいけないのは分かってるけど……)

視線を二人に向ける。

(……面白……いや、緊急事態だ)

こうして。

らしくない二人の生活が、静かに始まった。

―――――

魔王城。

玉座の間で、魔王(中身:リュカ)は深く息を吸った。

(毎日……こんなに勇者が来るのか……)

警戒魔法が鳴る。

「勇者一行、到着です!」

(いや待て。俺、魔法使えない)

玉座に座り、必死に思い出す。

(詠唱? イメージ? 圧?)

とりあえず、手を前に出した。

「……えいっ」

ぽふ。

煙が、少しだけ出た。

沈黙。

魔王のしもべたちが、ざわつく。

「……煙?」

「視界を奪う制圧魔法か……!」

「陛下、勇者を無闇に傷つけぬとは……!」

(え、そうなの?)

魔王(中身:リュカ)は、咄嗟に腕を組み、低く言った。

「……無駄な争いは好まぬ」

一瞬、静まり返る。

「魔王様……慈悲深い……!」

(いや、勇者側の意見言っちゃったな……)

だが、誰も疑わない。

「……下がれ」

威厳ある一言で、なんやかんやで事なきを得た。

(助かった……)

―――――

一方、城外。

勇者(中身:ラムザ)は、即席パーティーメンバーに囲まれていた。

(ふむ……この体、魔法は使えぬか)

剣を渡される。

(……重)

「勇者様?」

(こんな重いものを……人間は振り回しているのか?)

おそるおそる構える。

「……とりゃっ」

剣は、へなちょこに空を切った。

だが、魔物が膝をついた。

「剣圧だけで……!」

「急所を外した一撃……慈悲だ……!」

(……なるほど)

ラムザは、静かに頷いた。

「命を奪う必要はない」

パーティーが、どよめく。

「勇者様……魔王のように合理的……!」

(……魔王側の意見を言ってしまったか)

だが、こちらも疑われることはなかった。

「進むぞ」

パーティーは、完全に納得していた。

―――――

その夜。

それぞれの場所で、二人は同じことを思っていた。

(……言動が、少しずつズレているな)

(……だが、なぜか通ってしまう)

そして。

(……勘違いって、ありがたい)

(……世界、我に意外と優しいな)

魔王城の研究室では、魔術師が机に向かいながら溜息をつく。

(本当に早く戻さないといけない……)

ペンを止め、ちらりと天井を見る。

(でもこのままでも、もう少し観察……いや、だめだ)

そして、三人が同時に思う。

(絶対に、バレるな)

勇者と魔王は、互いの正体と秘密を抱えたまま、今日も“役”を演じている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

処理中です...