入れ替わり勇者と魔王は、世界の秩序を乱すか

さか様

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待ち遠しい

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城外、勇者の宿。

夜は静かで、窓の外からは虫の声が聞こえていた。

勇者(中身:ラムザ)は、簡素な机の前に腰掛け、
旅装を解きながら、ふと手を止めた。

荷袋の奥から、一冊の手帳が出てくる。

革張りで、角が少し擦り切れている。

「……旅の記録、か」

表紙には、几帳面な文字でそう書かれていた。

(あの勇者のものだな)

無断で見るのは本意ではない。
だが、現状では自分が“勇者”なのも事実だ。

少し迷ってから、ページを開いた。

――魔王ラムザ、第一印象。
――圧倒的な魔力。正面突破は不可能。

「……ふむ」

冷静な書き出しだ。
観察も正確。

――結界が硬い。
――近接戦は論外。
――距離を取っても、主導権を握られる。

「……よく見ている」

読み進める。

――奇襲は無意味。
――罠も効かぬ。
――こちらの動きを先読みされている。

――強さは本物。
――歴代の魔王と比べても、別格。

(評価が高いな)

ラムザは、少しだけ口元を緩めた。

だが、ページをめくるごとに、
記録の性質が、少しずつ変わっていく。

――それでも、殺されなかった。
――毎回、意識を失うだけだ。

――目を覚ました場所は、いつも同じ宿。
――身体は回復している。

(……やはり、気づいているな)

――なぜだ。
――なぜ、殺さない。

――なぜ、宿まで送る。

文字の間隔が、少し広くなっている。

――魔王は、合理的だ。
――無意味な慈悲はしないはずだ。

――なのに。

ラムザは、静かにページをめくる。

――今日も魔王城へ行った。
――分かっている。倒せない。

――だが、足が向く。

(……)

――城の結界が見えると、
――なぜか、胸が落ち着く。

――おかしい。

その一文の横に、
小さく疑問符がいくつも並んでいた。

――魔王は、
――こちらを見ている。

――敵を見る目ではない。
――試す目でもない。

――観察している。

(……よく見ているな)

ラムザは、無意識に自分の胸に手を当てた。

――戦闘の最中、
――視線が合う瞬間がある。

――そのとき、
――なぜか、剣が鈍る。

ページをめくる指が、わずかに止まる。

――恐れているのか?
――いや、違う。

――緊張?
――それとも……。

言葉が、途切れている。

――今日も行った。
――また倒された。

――それでも、
――明日も行くだろう。

(……)

そして、最後の数ページ。

文字数が、明らかに減っている。

――攻略方法、未だ見つからず。
――結論。正面からは無理。

――だが。

短い行のあと、
ぽつりと書かれていた。

――毎日、魔王城に行くのが待ち遠しい。

理由も、説明もない。
ただ、それだけ。

ラムザは、しばらくその行を見つめていた。

(……待ち遠しい、か)

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

(リュカ……)

手帳を閉じ、そっと撫でる。

(我に会うために、通っていたと思っていいか?)

無自覚で、それでも確かに、そこにある感情。

「……悪くない」

誰にともなく、呟く。そして、静かに思う。

(この勇者を、傷つけてはならんな)

傷付けてはならない。

それが、誓いになっていることにまだ気づかない。
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