入れ替わり勇者と魔王は、世界の秩序を乱すか

さか様

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恋文ですね

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魔王城、研究室。(通称:秘密の部屋)

魔術師は、書類の山に埋もれながら薬の配合を考えていた。

その扉が、勢いよく開く。

「魔術師!!」

振り返った瞬間、魔王の身体をしたリュカが、ずかずかと踏み込んできた。

「は、はい?!リュ、陛下……?」

「早く元に戻る薬を作ってくれ……」

声が、どこか切羽詰まっている。

「俺の心が、もたない……」

魔術師は瞬きをした。

「え、あの……戻すための薬は現在――」

「違う!!」

リュカは懐から、あの革表紙の日記を取り出した。

「見てくれ、これを!!」

「い、いや……それは陛下の日記では……?」

「見!!!ろ!!!!」

ばんっ!!

机に、勢いよく叩きつけられる日記。

魔術師がびくっと肩を跳ねる。

「ひぃっ……!」

恐る恐る、ページを開く。

――今日も勇者が来た。
――待っていた。

数行読んだところで、魔術師の動きが止まった。

「…………」

さらにページをめくる。

――殺したくなかった。
――ただ、傷つけたくない。

――可愛い。
――眩しい。

――これは、恋というものか。

魔術師は、そっと日記を閉じた。

「……」

一拍。

「……恋文ですね」

「だろ!?!?」

リュカが叫ぶ。

「何なんだよこれ!!魔王の日記ってもっとこう、世界征服とか!恐怖政治とか!!
そういうやつじゃないのかよ!!」

魔術師は困ったように頭をかいた。

「陛下が…色ボ…恋に落ちてるだけでは……」

「しかもだ!!」

リュカは、別のページを勢いよく開く。

「ここの予定!!」

指差す。

「酒池肉林パーティーって何だよ!!
日記に『これは恋か』とか書くやつが酒池肉林するなよ!!」

魔術師は、思わず目を逸らした。

「私に言われても……」

そして、ぽつりと付け足す。

「あ、でも……」

「?」

「なんか、いつも集まる美女って……」

言い淀みながら、視線を上げる。

「……リュカさんに、似てますよね」

沈黙。

「…………」

リュカの顔が、みるみる赤くなる。

「なっ……?」

言葉が、詰まる。

「……???」

次の瞬間。

「もう寝る!!!!」

日記を抱えたまま、踵を返す。

「お、おやすみなさい陛下!」

扉が、勢いよく閉まった。

研究室に残された魔術師は、深くため息をつく。

(これは……戻したあとが地獄だな……)

机の上に残った日記を見つめ、小さく呟いた。

(戻さなくても…)

慌てて首を振る。

「だめだだめだ」

魔王城の夜は、
今日も静かに更けていく。

(……どうしてくれるんだよ、ラムザ……)

その中心で、魔王の身体をした勇者は、布団の中で顔を真っ赤にしていた。

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