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腸詰屋の憂鬱
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日曜日。キリストに約束された安息日である。こんな日に仕事をするなんて馬鹿らしい。俺は外に出て草を触り、「草を触りました(I touched the grass.)」とWebサイトに報告するインターネット・キッズでも無かった。とはいえ、暇である。
「肉屋は今日、休みだよね」
次男のギルバートの部屋は地下にある。地下室の物置きを私物化しているのだ。薄暗い階段を降りると、鉄製のドアがある。
"ここを聖域とする"。そう言って閉じ篭って、平気で1週間ほど風呂に入らないのだ。ドアノブを押すと、扉がコンクリートの床にぎりぎりと跡をつけた。換気の行き届いていない、籠った空気が鼻腔を抜ける。例えるならば、そう、レンタルビデオ屋や古本屋の匂いだ。
ギルバートは伸びきった髪を机上に広げ、俯いていた。黒檀のデスクの下で脛は晒され、デニムとトランクスが置き去りにされている。そして何やら、しきりに腕を動かしていた。荒い呼吸音が数メートル先まで聞こえてくる。
「はーっ、クソ、なんであんなのが佳作なんだよっ、はあ、くっ、俺の方がずっと⋯⋯!」
「ギル」
は、と掠れた声を出涸らしに、ギルバートは勢いよく振り返った。皮脂で重たくなった髪が頬にべたりと張り付いている。目が合う。
筋張った傷だらけの、肉屋の手。彼はその手で黒い布を鷲掴み、顔に押し付けていた。
「あ。それ、俺のパンツじゃない?」
「レイ、待ってくれ。いや、死のうかな⋯⋯」
**
うろうろと切長の目を泳がせ、ギルバートはいつにも増して挙動不審だったが、中には入れてくれた。兄は俺のお願いを断ることができない。
「それ、返してよ。何でギルが持ってるの?」
「ああ、うん⋯⋯。見つけたんだよ、さっき」
手渡された布は、体温が残っているみたいに温かった。小さく丸めてポケットに突っ込む。
デスクには最新のワードプロセッサに物騒な文字列が並んでいた。何か書き走った紙、埃を被ったコーヒーカップが数個、モノクロの写真が散乱している。その隙間からきらりと覗くナイフに目をやると、ギルバートは慌ててそれを隠した。兄たちは刃物を俺から隠したがる。また俺が腕でも切るんじゃないかと思っているらしい。
「ギルは今日、バイトじゃないの?」
「いや、休みだよ。日曜日だからな」
「ふーん、日曜大工でもする?」
「⋯⋯そんなつまらんことは、しない。大体、そんな平凡な核家族的なことを日曜にする奴なんて、ロクなもんじゃない!家族でニコニコとバーベキューだの日曜大工だのする話の何が!面白いんだよ!!血を出せよ、血を!!」
「どうしたの、急に。また賞に落ちたの」
ギルバートは黙ってしまった。
**
「じゃあ、どこか出かけようよ。暇で死にそうなんだ。ギルの好きな所でいいからさ」
そう言ったのは俺だけど、本当にギルバートの趣味は悪い。
ミシガンの治安の悪い通路を抜け、入り組んだ道を更に奥まで進み、連れてこられたのはギルバートの部屋を拡張したみたいな場所だった。古びたアンティークショップでは、蓄音機の不穏な音楽やオルゴールが不協和音を奏でていた。
これは20年代物、30年代物、40年代物⋯⋯。
ギルバートは蜂の巣みたいにぎっしりと棚に並ぶ骨董品を得意げに俺に説明して聞かせた。
「うん、もうわかったよ。ギルは物知りだね」
「そうか?俺なんてこういうのしか興味無いからさ、はは⋯⋯」
「ギルが嬉しそうで、俺も嬉しいよ」
古いポラロイド写真が詰まったダンボールに足を取られた。1枚2ドルと書かれている。摘んでみると、オペ中の縫われた臓器や、裂かれた肉、検死体の青白い顔など、ギルバートの好きそうな写真でいっぱいだった。
「好きだよね、こういうの」
「あっ、こら⋯⋯、あんまり見るなよ。レイは純粋なんだから⋯⋯」
ささくれた手のひらに両目を覆われる。暗いところは好きだ。安心するから。
ギルバートは俺に幻想を抱いている。少年性がどうとか言っていた、気がする。
しばらく店内を何往復もした後、ギルバートは一つのクラシックナイフを手に取った。曲線状の刃が光を反射して、ぎらぎらと淀んだ瞳を照らしている。
「レイ!これはラギオールのヴィンテージだぞ!見ろ、ここにG. Davidの刻印があるだろ。これは本物だ!」
「そうだね。買うの?」
「ああ、当たり前だろ!相場よりかなり安い。こんな機会そうそう無い⋯⋯あ!?」
俺の肩を叩きながら、ギルバートは古びた皮の財布を開いて硬直した。そこには10ドル札と1ドル札の数枚しか入っておらず、到底足りるとは思えない。ギルバートは気まずそうにちらりと外の方を見て、大きく舌打ちした。野性的な風貌に苛立ちが宿り、地下鉄に居たら誰も近寄らないであろう顔をしている。
「おい、爺さん。これ安くしてくれよ」
鈍い音が静謐な店内に響く。
ギルバートがブーツの先でカウンターを蹴ると、店主のお爺さんは後退って狼狽えた。
「いや、うちは値引きは⋯⋯」
「うるせえ!売れってんだよ!価値もわからない老害がよ!!」
足先が店主の腹に食い込み、口から泡の立つ音がした。普段のコミュ障が嘘のような、容赦のない暴力。こうでないとミシガンではやっていけないのだ。
「ギル、おじいさんが可哀想だよ。足りない分、俺が出してあげるからさ」
店主の口から、乾いた息だけが漏れた。
発した声は思いの外大きく、だが静かに響いた。
頭に血が上っていたギルバートは、ぱちりと目を見開いて俺を見た。
「ええっ、いいのか!?レイ、お前はなんて良い弟なんだ⋯⋯。ロランも見習えってんだよ!あー、助かった!」
それを言いたいのは店主のお爺さんだろう。
さっきまでの狂犬じみた態度は一変し、へらへらした締まりの無い顔で俺の肩を抱いた。ギルバートは腕力が強い。暴力沙汰になったら一溜りも無いだろう。
厚手のミリタリーコートは重く伸し掛り、猛獣の飼育員のような気分だった。
**
「ごめんな、レイ。こんな出来損ないの兄貴で。俺は本当にダメだ。院出で低学歴の、こんな変な趣味したゴミ人間なんだ⋯⋯。その上、レイに小遣いを出させるなんて。バイト代が出たら絶対返すから⋯⋯」
「それ、もう10回目だよ」
だらだらと謝罪と自虐を繰り返すギルバートは物凄く面倒臭い。でも、どこか放っておけない可愛げのある兄だった。白んだ吐息が空気中に混じり、ふわりと消える。
「アイス、食べたい」
この街にもアイスクリーム屋くらいある。
壁にはスプレーでGANGと落書きされていた。そんな店で売るものがアイスクリームなのだから、笑える。
ダイナー風のその店で、テーブルの上の占いマシーンをつつきながら俺はバニラアイスを口に運んだ。氷の塊が喉を通り、じわりと冷える。
こうして正面から見ると、ギルバートは意外と端正な顔をしている。すっと通った鼻筋に、隈に囲まれた気怠げな灰色の瞳。優雅でどこかしとやかなモーガンと違い、ワイルドで男らしい。伸ばした髪も相まって、ヘヴィメタルでもやっていそうだ。その間も、ギルバートの饒舌は止まらない。
「あいつ、俺のヴィンテージナイフのコレクションを全部溶かしたんだ。『誰のお陰で生活できてると思ってるの?』ってうるさくてよ、やっていいことと悪いことの区別もつかないようなサイコなんだよあいつは!これだから商学部出身のやつは!」
「あの人、たまにお母さんみたいなことするよね」
仏文学科中退のギルバートは文化の保存にうるさいのだ。効率ではなく、意味を重視する。そういう所は好きだ。
「でも、ちょっと羨ましいな」
「羨ましい?」
「モーガンは俺にそんな風に感情を剥き出しにしたりしないからね」
あっても、一回くらいだけだ。何年か前、初めてモーガンが俺を傷つけたあの日⋯⋯。
ギルバートの声が遠くなった。
スプーンが、空のカップに当たって音を立てる。
「レイ、お前はあいつの本性を知らないんだ⋯⋯。あいつはサイコパスだ!昔はもっとヤバかったんだよ⋯⋯」
あの人が怖い人だなんてずっと前からわかってる。それよりずっと臆病な人だってことも。俺より長い時間をモーガンと過ごしてきたギルバートが、ずっと羨ましい。気づいたらアイスクリームは溶けてしまっていた。
「大体あいつ、昔からキモいんだよ!毎朝コテで髪の毛巻いてるんだぜ、女かっつーの!おまけにババ臭い匂いの香水なんか付けやがって⋯⋯」
「殺されるよ、モーガンに」
兄から弟へ、さらにその下の弟へ。
社会常識という、不確かだが確かに存在するもの。それが兄弟で共有されることは無かった。代わりに、独自のルールがある。そんな治外法権の土地で育って、外が楽しいわけが無い。
冬休みが明けて欲しく無いな、とぼんやり思った。
「肉屋は今日、休みだよね」
次男のギルバートの部屋は地下にある。地下室の物置きを私物化しているのだ。薄暗い階段を降りると、鉄製のドアがある。
"ここを聖域とする"。そう言って閉じ篭って、平気で1週間ほど風呂に入らないのだ。ドアノブを押すと、扉がコンクリートの床にぎりぎりと跡をつけた。換気の行き届いていない、籠った空気が鼻腔を抜ける。例えるならば、そう、レンタルビデオ屋や古本屋の匂いだ。
ギルバートは伸びきった髪を机上に広げ、俯いていた。黒檀のデスクの下で脛は晒され、デニムとトランクスが置き去りにされている。そして何やら、しきりに腕を動かしていた。荒い呼吸音が数メートル先まで聞こえてくる。
「はーっ、クソ、なんであんなのが佳作なんだよっ、はあ、くっ、俺の方がずっと⋯⋯!」
「ギル」
は、と掠れた声を出涸らしに、ギルバートは勢いよく振り返った。皮脂で重たくなった髪が頬にべたりと張り付いている。目が合う。
筋張った傷だらけの、肉屋の手。彼はその手で黒い布を鷲掴み、顔に押し付けていた。
「あ。それ、俺のパンツじゃない?」
「レイ、待ってくれ。いや、死のうかな⋯⋯」
**
うろうろと切長の目を泳がせ、ギルバートはいつにも増して挙動不審だったが、中には入れてくれた。兄は俺のお願いを断ることができない。
「それ、返してよ。何でギルが持ってるの?」
「ああ、うん⋯⋯。見つけたんだよ、さっき」
手渡された布は、体温が残っているみたいに温かった。小さく丸めてポケットに突っ込む。
デスクには最新のワードプロセッサに物騒な文字列が並んでいた。何か書き走った紙、埃を被ったコーヒーカップが数個、モノクロの写真が散乱している。その隙間からきらりと覗くナイフに目をやると、ギルバートは慌ててそれを隠した。兄たちは刃物を俺から隠したがる。また俺が腕でも切るんじゃないかと思っているらしい。
「ギルは今日、バイトじゃないの?」
「いや、休みだよ。日曜日だからな」
「ふーん、日曜大工でもする?」
「⋯⋯そんなつまらんことは、しない。大体、そんな平凡な核家族的なことを日曜にする奴なんて、ロクなもんじゃない!家族でニコニコとバーベキューだの日曜大工だのする話の何が!面白いんだよ!!血を出せよ、血を!!」
「どうしたの、急に。また賞に落ちたの」
ギルバートは黙ってしまった。
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「じゃあ、どこか出かけようよ。暇で死にそうなんだ。ギルの好きな所でいいからさ」
そう言ったのは俺だけど、本当にギルバートの趣味は悪い。
ミシガンの治安の悪い通路を抜け、入り組んだ道を更に奥まで進み、連れてこられたのはギルバートの部屋を拡張したみたいな場所だった。古びたアンティークショップでは、蓄音機の不穏な音楽やオルゴールが不協和音を奏でていた。
これは20年代物、30年代物、40年代物⋯⋯。
ギルバートは蜂の巣みたいにぎっしりと棚に並ぶ骨董品を得意げに俺に説明して聞かせた。
「うん、もうわかったよ。ギルは物知りだね」
「そうか?俺なんてこういうのしか興味無いからさ、はは⋯⋯」
「ギルが嬉しそうで、俺も嬉しいよ」
古いポラロイド写真が詰まったダンボールに足を取られた。1枚2ドルと書かれている。摘んでみると、オペ中の縫われた臓器や、裂かれた肉、検死体の青白い顔など、ギルバートの好きそうな写真でいっぱいだった。
「好きだよね、こういうの」
「あっ、こら⋯⋯、あんまり見るなよ。レイは純粋なんだから⋯⋯」
ささくれた手のひらに両目を覆われる。暗いところは好きだ。安心するから。
ギルバートは俺に幻想を抱いている。少年性がどうとか言っていた、気がする。
しばらく店内を何往復もした後、ギルバートは一つのクラシックナイフを手に取った。曲線状の刃が光を反射して、ぎらぎらと淀んだ瞳を照らしている。
「レイ!これはラギオールのヴィンテージだぞ!見ろ、ここにG. Davidの刻印があるだろ。これは本物だ!」
「そうだね。買うの?」
「ああ、当たり前だろ!相場よりかなり安い。こんな機会そうそう無い⋯⋯あ!?」
俺の肩を叩きながら、ギルバートは古びた皮の財布を開いて硬直した。そこには10ドル札と1ドル札の数枚しか入っておらず、到底足りるとは思えない。ギルバートは気まずそうにちらりと外の方を見て、大きく舌打ちした。野性的な風貌に苛立ちが宿り、地下鉄に居たら誰も近寄らないであろう顔をしている。
「おい、爺さん。これ安くしてくれよ」
鈍い音が静謐な店内に響く。
ギルバートがブーツの先でカウンターを蹴ると、店主のお爺さんは後退って狼狽えた。
「いや、うちは値引きは⋯⋯」
「うるせえ!売れってんだよ!価値もわからない老害がよ!!」
足先が店主の腹に食い込み、口から泡の立つ音がした。普段のコミュ障が嘘のような、容赦のない暴力。こうでないとミシガンではやっていけないのだ。
「ギル、おじいさんが可哀想だよ。足りない分、俺が出してあげるからさ」
店主の口から、乾いた息だけが漏れた。
発した声は思いの外大きく、だが静かに響いた。
頭に血が上っていたギルバートは、ぱちりと目を見開いて俺を見た。
「ええっ、いいのか!?レイ、お前はなんて良い弟なんだ⋯⋯。ロランも見習えってんだよ!あー、助かった!」
それを言いたいのは店主のお爺さんだろう。
さっきまでの狂犬じみた態度は一変し、へらへらした締まりの無い顔で俺の肩を抱いた。ギルバートは腕力が強い。暴力沙汰になったら一溜りも無いだろう。
厚手のミリタリーコートは重く伸し掛り、猛獣の飼育員のような気分だった。
**
「ごめんな、レイ。こんな出来損ないの兄貴で。俺は本当にダメだ。院出で低学歴の、こんな変な趣味したゴミ人間なんだ⋯⋯。その上、レイに小遣いを出させるなんて。バイト代が出たら絶対返すから⋯⋯」
「それ、もう10回目だよ」
だらだらと謝罪と自虐を繰り返すギルバートは物凄く面倒臭い。でも、どこか放っておけない可愛げのある兄だった。白んだ吐息が空気中に混じり、ふわりと消える。
「アイス、食べたい」
この街にもアイスクリーム屋くらいある。
壁にはスプレーでGANGと落書きされていた。そんな店で売るものがアイスクリームなのだから、笑える。
ダイナー風のその店で、テーブルの上の占いマシーンをつつきながら俺はバニラアイスを口に運んだ。氷の塊が喉を通り、じわりと冷える。
こうして正面から見ると、ギルバートは意外と端正な顔をしている。すっと通った鼻筋に、隈に囲まれた気怠げな灰色の瞳。優雅でどこかしとやかなモーガンと違い、ワイルドで男らしい。伸ばした髪も相まって、ヘヴィメタルでもやっていそうだ。その間も、ギルバートの饒舌は止まらない。
「あいつ、俺のヴィンテージナイフのコレクションを全部溶かしたんだ。『誰のお陰で生活できてると思ってるの?』ってうるさくてよ、やっていいことと悪いことの区別もつかないようなサイコなんだよあいつは!これだから商学部出身のやつは!」
「あの人、たまにお母さんみたいなことするよね」
仏文学科中退のギルバートは文化の保存にうるさいのだ。効率ではなく、意味を重視する。そういう所は好きだ。
「でも、ちょっと羨ましいな」
「羨ましい?」
「モーガンは俺にそんな風に感情を剥き出しにしたりしないからね」
あっても、一回くらいだけだ。何年か前、初めてモーガンが俺を傷つけたあの日⋯⋯。
ギルバートの声が遠くなった。
スプーンが、空のカップに当たって音を立てる。
「レイ、お前はあいつの本性を知らないんだ⋯⋯。あいつはサイコパスだ!昔はもっとヤバかったんだよ⋯⋯」
あの人が怖い人だなんてずっと前からわかってる。それよりずっと臆病な人だってことも。俺より長い時間をモーガンと過ごしてきたギルバートが、ずっと羨ましい。気づいたらアイスクリームは溶けてしまっていた。
「大体あいつ、昔からキモいんだよ!毎朝コテで髪の毛巻いてるんだぜ、女かっつーの!おまけにババ臭い匂いの香水なんか付けやがって⋯⋯」
「殺されるよ、モーガンに」
兄から弟へ、さらにその下の弟へ。
社会常識という、不確かだが確かに存在するもの。それが兄弟で共有されることは無かった。代わりに、独自のルールがある。そんな治外法権の土地で育って、外が楽しいわけが無い。
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