AVENIR 未来への一歩

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迷い続ける生き物

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 深い闇の中にウィークはいた。音もなく何も見えず、指一つ動かせない。
 
「これが、漆黒の槍を使った者の末路か……。何もない空間がお似合いだな」

 王子として生を受け、王になる前に王国が滅んだ。優しい心を持った少年は自らの弱さを嘆き強くなろうと覚悟し、復讐心を確固たるものとするため漆黒の槍に身を任せた。
 復讐を果たしてもその後に待っているのは槍の導きによる殺戮の戦い。目の前で数えきれないほどの人間が自身の手により散った。血を浴び、悲痛な叫びを聞き、命乞いをされど無慈悲に槍を突きつける。
 心が枯れていくのがわかった。でも、一度手にしてしまうと自分の気持ちだけでは離れることができない。強さを手にしてしまったから弱くなれななかった。

 闇の中で思う。何が正解だったのか、何を間違えたのか。どれも間違えでもしかしたらどれも正解だったのかもしれない。しかし、そんな中で一つだけ確実に後悔しない行いができた。それは、自分とは正反対の道に行ったミーアを守ったことだ。
 もし、生まれる順番が違えばお互いの立場は逆だったかもしれない。だが、仮にミーアが漆黒の槍をもっても、自分のように闇に落ちたはウィークは思えなかった。弱さゆえの純白だったウィークと、強くなっても純白なままでいたミーアとは、似ているようで確実に違ったのだ。

「……あれは」

 闇の中に照らす微かな光。消えてしまいそうなほどに弱い光だったが、ウィークは鉛のように重い体を必死に動かし手を伸ばそうとする。あれを掴まなければいけない、もし今あれを逃したらもう二度と光を見ることはない。そんな気がしていた。

「動け……! 動け……! 動けぇぇぇ!!!」

 まっすぐに光だけを見つめ手を伸ばした。指先にぬくもりを感じる。闇の中で感じることのできなかったぬくもり。体の感覚が、奪われたはずのすべてが、戻ろうとしていた。

「光なんか見せられたら、またあいつに会いたくなるだろうが!!」

 必死に手を伸ばし光を掴むと、闇を消し去り光が世界を埋め尽くす。


 体を温かい何かが包む。爽やかな風が肌に触れ、小鳥のさえずりが聞こえる。
 ウィークはゆっくりと目を開けた。
 自分が今どこにいるかわからなかったが、まるで貴族が使うようなベッドで寝ていることだけはわかった。体を起こし窓のほうまで行くとそこには町が広がっていた。

「……スバラシアか? でも、壁がない」

 部屋の扉が開いた。ウィークは警戒しつつも、油断していると見せかけながら音を聞いていると女性の驚く声がした。

「ウィ、ウィークさん……。お目覚めになられたのですね」
「君は?」
「給仕のレシアです。あの、ちょっと待っててください!」

 そういうとレシアは走っていった。
 ほどなくして別の者を連れて戻って来た。
 その姿を見てウィークは驚く。

「そういうことか。よく似合ってるぞ」
「ちょっと馬鹿にしてない? ……おはよう、ウィーク」
「おはよう、ミーア」

 ミーアはティアラをつけドレスに身を包んでいた。

「俺はなぜ生きている?」
「本当はよくないことだと分かっている。人間の領域を越えること。……黄金の槍であなたを生き返らせた」
「ほかにも死んだやつらはいっぱいいる。俺だけか?」
「……うん」

 やってはいけないこと。ミーアはそれを理解していた。偶然とはいえ手にした力で多くの人間を戦いに巻き込み、不殺を貫いた。しかし、あるがまま受け入れようと自分を納得させようとしたが、大切な者を失いぽっかりと空いた心の穴にミーアは耐えられず、槍の力を使ってしまったのだ。

「あの戦いで私は大きく成長できたと思っていた。なのに、結局自分のために槍を使ってしまった。あなたに会わせる顔がないと思っていた。でも、あなたが目覚めたことを知ると、足は勝手に前へ進み、心が躍るような気持ちになった。私はあなたのことが好きなの」
「目覚めて早々に何を言うかと思えば」
「私は本気なの」
「俺は王になる器じゃない。それに、黄金の槍をあれだけ酷使したなら君はこの先多くの時間を過ごすことになる。俺の師匠のように」
「それが私の責任。ウィークが嫌じゃなければそれを支えてほしい。あなたの意志で。それで、もし私のことを気に入ってくれたその時は……」

 ウィークは町を眺めた。壁は解放を意味し完全に排除され、さらに町を拡大しようとしていた。微かにだが見える人々の動きは、とても楽しそうで自由で開放的で、戦いが終わったのだと理解する。

「こっちに来てくれ」
「一人で立ってるの辛いよね。ごめん、気が利かなくて。やっぱり自分のことばっかり……」
「いいから」
「えぇ」

 ミーアが支えようとした時、ウィークは額へ口づけをした。

「俺は君の純白に触れるのが怖かった。だけど、君が望んでくれるなら、こんなにうれしいことはない」
「も、もう! 急にそんなことしないでよっ! ……恥ずかしいじゃない」

 二人の仲は戦う仲間からより深いものへ変わったが、正式な婚約はしなかった。幸せになるには取らなきゃいけない責任が多いこと、まだやるべきことがたくさんあること。そのすべてが終わるその時までは、最高のパートナーとしての存在でいようとしたのだ。

 戦いが終わったとマグナは森に帰り、ビートは旅に出た。新しい自分を見つけるために大陸を横断し東の島へいくという。
 三騎士は兵士たちの指導を行い第二第三の三騎士を生み出すために日夜頑張っていた。
 ウィークは目覚めた後に町へ行き少女に槍の稽古をつけてあげるために滞在することに決めた。何かあればいつでもミーアの下に駆けつけると約束する。
 ミーアは正式に女王となり戦いのない世界を作るために、支配ではなく同盟によりまずはこの島から手を伸ばすことを決定した。無論、完全に戦力を放棄することはなく、どこが偽善染みたものだと揶揄もされたが、人間が利用したとはいえ巨人の力や、予想のできない異変が発生したときのために戦う力が必要だと判断し、多くの国へ外交をする計画を立てる。
 

 友好な王国に育った姫と王子は、似たような運命に出会い、似たような出来事に遭遇し、全く違う判断をした。悲しみを乗り越え力を得ても迷い続け、成長している時でさえ何が正解か何が間違えかわからない。戦いが終わった今でさえもだ。
 明日の光は見えても何をするべきかなんてのは結局不明瞭なまま。支配、不殺、復讐、そのどれもが正当で不当で世界という天秤がいつだってどちらかに傾く。
 人は、生きている内に明確な答えを導き出すことは不可能なのだ。ただ、正しいことをしていると信じ前へ進み、やってしまったことの責任をとることでしか物事を解決できない。
 かつて姫であり王子だった二人は今でもまだ迷い続ける。だが、支えあえる存在がいるなら、その迷いもまた二人を強くするきっかけになるだろう。

「スバラシア王国の復活をここに宣言する! 私は女王、ミーア・ペイルライン。町を拡大し戦いのない世界を望む。すべての民よ、兵士よ、私と共に未来へ!」

 黄金の槍と漆黒の槍は、深い海の底へと投げ込まれた。
 その場所を知っているのは戦争で大きな戦果を上げたミーア、ウィーク、ボルトック、レイ、ウォースラー、マグナ、ビートたちだけであり、後にこの七人のことをこの島では巨人を倒した七英雄として名が広がった。
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