死ねば死ぬほど強くなる不死者は死ぬ方法を探している。

智恵 理陀

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第二章

011 ギルド

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 ボードを閉じて、宿を出る支度をする前に……ハスへ一つ、聞いてみる。

「なあハス、君は行きたいところとかないのかい?」
「行きたいところ、ですか?」
「ほら、君はもう自由なんだし。手伝ってくれとは言ったけれどもし君の行きたいところがあればそっちを優先してもいいんだよ?」

 まだ知り合ってそれほど時間は経過していない。
 けれど色々な事があった、濃厚とも言える時間を過ごした。
 これは……遠回しに言っている――俺と一緒にいたくなければ離れてもいい、と。

「私には行きたい場所は特にはございません。命の恩人の、それも神の使いであるシマヅ様のお助けができるのであれば、この身を捧げる思いです」
「神の使いじゃないんだけどなあ……」
「いつでも私を捨てて構いません、どうか貴方への恩返しのためにもお供させてください」
「捨てるなんて事はしないけど……そう言ってくれて嬉しいよ。じゃあ、よろしく」

 心の中にぽつりとあったちょっとしたしこりも無事に取り除き、支度をして外に出るとした。
 陽光に照らされて、軽く深呼吸をする。
 夜の街並みとは打って変わって朝から街は人、人、人で溢れかえっていた。
 こうも変わるものなのか、都会の通勤ラッシュを思わせるな。
 しかも中には、明らかに人間ではない人種もいる。

「なあハス、あれは?」
「人獣種でございます。受け継ぐ血の濃さで見た目が獣に近かったり人に近かったりとしますが、今では見た目がまさに獣、といった方は少なくなりました」

 言われてみれば確かに自分の視界に入る人獣種とやらは、何人もいるが誰も彼もが所謂獣耳がついている程度。
 まさかこの目で猫耳娘を見れるとは……。

「他にはどんな種族がいるんだ?」
「ええっと我々人類種、耳が長く長命なエルフ種に、背は低いのですが力があり大地の変化を肌で感じる事のできるドワーフ種がおりまして、人獣種含めてこれらが四大種族と呼ばれております」
「この人波はまさに四大種族そのものだな」
「他には海に住む海種、精霊種がいるらしいのですが私は見た事はなく……」
「魔物はどの種族に入るんだ?」
「魔物は大地から湧く魔力が変異して生まれるとされておりますので、どの種族にも含まれません」
「そうなんだ。いやしかしハスは物知りだな」

 聞けばなんでもすぐに答えてくれる。
 俺にとってはこの世界についての辞書みたいなものとなってくれている。

「ボードも乏しい奴隷の身でしたから、知識くらいは蓄えなければと思い、商人様の所有していた本を何度も読んでおりました」
「努力家なんだな君は」
「いえいえそんな。しかしどれほど努力してもボードの角が増える事はなく……」
「ボードなんか気にするなよ」
「ありがとうございます、そう言ってくださるだけでもハスはとても嬉しく思います」

 俺にとってはたとえボードが三角形であってもこの子には教えてもらってばかりで、優秀有能としか思えないのだが世の中はそう受け止めないものなのかねえ。



「ようこそお越しくださいました、シマヅ様ですね?」
「そ、そうですけど……」
「ギルドの利用をするとお話は伺っております、私はギルドの受付役をやっておりますマルァハ・セイウスと申します」

 どうも、と軽く頭を下げる。
 何だろうなこの両手を大きく広げて待っていたかのような状態は。眩しいほどの満面の笑みには、逆に近寄りがたさがある。

「今日はギルドにお越しくださり誠にありがとうございます! ささっ、こちらへどうぞ。あら、可愛らしいお嬢様もお連れしているのですね~」
「は、はひ……」

 マルァハさんの勢いにハスはすっかり気圧されて後ろに隠れてしまった。
 ギルドに向かう道中、やけに視線を感じるなとは思ったがここに辿り着いて確信に変わった。
 周りは明らかに俺達を見ている、彼らの耳打ちに聞き耳を立ててみるとどうやらハイラア族を連れた東洋人が八角形持ちであるという噂がすでに広がっているようだ。
 俺達の情報は入国の際に衛兵からギルドへ書類が渡っている。はてさて衛兵かギルドの職員、どちらがこうも情報を漏らしたのだろう。
 やりづらくてたまらん。
 案内された部屋ではいくつかの書類がテーブルに並べられており、俺達が着席するやすぐに香りのいい紅茶が出てくる。
 彼女は終始笑顔を崩さず、今日はいい天気ですね~とかいい街でしょ~なんて世間話をいくつかしてきてから、さて! などと切り替えの言葉を紡いでいよいよ本題へ、といった様子。
 ……かと思いきや、彼女は手に持っている書類は一旦置いて、何やら手元にあった木箱に手を伸ばした。
 中からは小銭の音が漏れる袋、膨らみも中々ある。

「シマヅ・イクヤ様、ハス・ピパル様には謝礼金なるものを預かっております」
「謝礼金?」

 ハスと顔を見合わせて、はて? と首を傾げた。
 ギルドに来て早々、謝礼金なるものを受け取るような何かがあったか?

「フラニ・ウェトラス様から、イトラ・ガルフスディア様を助けていただいたお礼との事でございます」
「ああ……昨日の」
「やはり、そうなのですね?」

 なんだか目に輝きを乗せて、身を乗り出す勢いで俺にぐいっと顔を近づけてくる。
 思わずのけぞってしまった。

「や、やはりというと……?」
「昨日、深夜に帝国軍と思われる侵入者を東洋人が撃退したとのがありましたので」
「撃退というか……なんというか。まあ、そうですね」
「という事でこちらをお納めください。金貨20枚が入っております」

 ハスが、はわっ……なんて反応を見せていたので金額的には相当なものなのだろう。
 これまでの貨幣でのやり取りは大体銀貨数枚で済んでいた。街の商人と客とのやり取りを何度か見ていたが、貨幣の価値としては日本円で考えると……金貨が一万円、銀貨が千円、銅貨が百円ってところかな?
 であれば二十万ほどを頂いた事と同等となる。
 ああ、うん……いきなり渡されて実感が無いもののよくよく考えてみればたいそうな大金を頂いたものだ。
 王家にとってははした金に過ぎないのだろうが。

「ハス、これ預かっててくれない?」
「えっ……これはシマヅ様の所持金ですよ」
「俺達の、だろ? 俺は、ほら、何があるか分からないわけだし君が管理してくれたほうがいいかなって」
「で、ですが……」
「いきなり大金を預けられて困るだろうけれど、駄目かな?」
「い、いえ……! 分かりました、お任せくださいっ」

 そんな俺達のやりとりを訝しげに見るマルァハさん。
 何か言いたい事でもおありでしょうか? ないですよね?

「その、もしよろしければ八角形ボードのほうをお見せしてもらっても?」
「ええ、いいですよ」

 別に減るもんでもないし、手をかざして八角形ボードを出現させた。
 マルァハさんはそれを見てはおぉっ……と小さく声を上げて、アルヴ教の祈りをする。
 今後とも俺は誰かにボードを見せて祈られるのだろうか。歩く神社か何かか俺は。
 早々にボードを消して話を進めてもらうとしよう。

「ではギルドの説明に入らせていただきますね。このような冒険者のための――所謂冒険者ギルドのご利用はこれまでにございますか?」
「いいえ、初めてです」
「ではご説明させていただきます。冒険者ギルドはガルフスディア国内及びその近辺での様々な依頼を扱い、掲示板にて提示させていただいております。魔物退治や護衛、その他には労働作業の仕事も依頼として扱っておりますので時には冒険者、時には労働者としても働く事が可能となります」
「それはいいですね。俺の知っているギルドみたいなのは労働の仕事しか扱ってなかったな。しかも結構なブラック率」
「ブラック率?」
「ああいや、こっちの話です」

 この世界ではブラック企業はどうか誕生しないでほしい。
 もしかしたらもうすでにあるのかもしれないが。

「基本的には依頼を受けてこなし、魔物を倒した際に素材が得られたら、ギルドの換金所にて貨幣に変えさせていただきます。素材が加工・販売されて国の利益となりますので、依頼条件に素材回収が指定されていたり希少素材を手に入れた時は是非とも換金所をご利用ください。個人取引はなさらぬようお願いいたします、商業ギルドに登録して正式な店を構えて管理・加工技術などの資格取得者のみ取引が可能となります」

 こちらも渡しておきます、と商業ギルドの資料を頂いた。

「俺達には縁のない話かなあ」
「引退後や老後に冒険者時代に得た知識をもとに店を出すのもいいと思いますよ」

 まあ気が向いたら、店の一つでも構えてみるのもいいかもしれない。資格やらはその時にでも考えよう。
 ……老後、老後かあ。
 ――歳をとる事も、もうない。
 アルヴはそう言っていた。俺には老後なんていう時期も訪れないんだよな。

「登録には身分証が必要でして、入国の際の書類とここでの手続きで発行できますので進めても構いませんね?」
「ええ、お願いします。この子の分も」
「えっ、あ、はい。かしこまりました」

 彼女が最初にハスを見ていた時、その視線は足首だった。
 足枷がないという事は奴隷ではない、それは瞬時に理解したであろうが身分証を発行するに至るのはそれほどの事なのであろうか。

「冒険者ギルドの登録もこのまま致してもよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「その……そちらの方も、冒険者ギルドでよろしいのでしょうか?」

 彼女はハスを見て、少し首を傾げた。
 冒険者としてやっていけるようには見えない、それは俺も同感だ。
 かといって商業ギルドのほうはまだ資格取得などはしていないだろうし……。

「ん~……」
「いえ、私は登録の条件を満たしておりませんので」
「というと……三角形ボード、でしょうか?」
「はい……」

 証明としてか、ハスは自らの三角形ボードを見せる。
 その瞬間に、マルァハさんがハスへ向ける視線もどこか、変わったような気がした。

「……三角形ボードだと冒険者ギルドの登録は無理なんですか?」
「はい、規定により冒険者ギルドの登録はできないようになっております。たとえ登録しても三角形ボードではこなせる依頼も少ないでしょうし、命を落とす危険もございますので」

 ここでもボードが基準かよ。
 秘められた可能性とか将来性とか、そういうのは考えないのかな。
 ……って、そういうのを考えずに自殺をした俺が語る資格も思う資格もないか。

「商業ギルドであればボードの基準は設けておりませんので、そちらなら登録はできます。資格取得をしなければ取引は行えませんが……」
「資格を持っていなければ登録しても意味はないですよね……?」
「はい。大抵の方はすぐにでも店を出すか取引できる準備が整った方が登録しますね」

 今はまだ無理でも一応資料は頂いておこう。ハスには様々な道を用意してやりたい。俺のように、ブラック企業なんかに勤めないように。
 何より俺が死ねた時、ちゃんとこの子が生活できるようにしてやらねばな。

「なので三角形ボードの方がどうしても冒険者と依頼をこなしたい場合は後方支援についてもらうのがいいでしょう」
「後方支援?」
「はい。ギルドからの依頼を直接は受けられないのですが他の方の後方支援として登録すれば依頼への参加は可能です。こちらの場合、登録の際の条件はございません。回復薬や武器を渡すなど、文字通り後方支援に徹する職でございます。戦闘面では直接の参加はできませんが、ご自身を守る分での戦闘は許されております」
「それなら、後方支援で登録してもらおうかな?」
「私には後方支援ですらお力になれるかどうか……」
「君の知識は力になる。心配するな」

 俺が死んだ時は頼んだぞ。

「ただ依頼をこなして功績を上げた時による階級の昇格もなく、報酬は後方支援をお願いした方がお支払する決まりとなっておりますので、ご了承ください」

 ギルドからは報酬も出さないという事ね。三角形ボードの救済処置ってところか。
 後方支援は冒険者が雇うようなもののようだがそれは別に構わないな。

「階級というのは?」
 こちらを、と資料を渡される。

「下から銅・銀・金・白銅・白銀・白金とあり、それぞれ三級から一級まで設けております。最初は能力に関係なく誰もが銅三級から始まります。上の階級ほど難易度が高まりますがその分報酬も多くなっていきます」

 文字は読めないながら、バッジのようなものが六つ描かれており、一番上に描かれているものは円をモチーフに豪華な模様が描かれていた。
 おそらくこれが白金級。
 円の内側には女神の絵が描かれている、多分……これはアルヴだろうな。どいつもこいつもアルヴを信仰しやがって。

「怪我や病気以外の理由で一定期間依頼を受けずにいると失効警告が入り、警告から二週間で失効となりますのでご注意ください。なお失効して再手続をした場合、階級は最初からとなります」

 失効……か。
 それは注意しておこう。
 しかし警告が入ってから猶予もあるのでよっぽどの事が無い限りは失効しなさそうだ。
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