死ねば死ぬほど強くなる不死者は死ぬ方法を探している。

智恵 理陀

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第二章

012 広がる噂

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 一先ずある程度の説明も聞き終えて身分証、冒険者ギルド、後方支援の登録と手続きを済ませ、登録料の支払いもしておいた。
 この世界の魔力石を使った技術というのはやはりすごい。
 身分証はすぐに発行された。木製のケースに鉄板が入れられて、どちらも薄く作られているために邪魔にもならない。
 鉄板には俺の名前とボードの形、出身国(東和国にしておいたけど普通に詐称行為ではなかろうか)が刻まれており、ちょっとした免許証みたいなものだった。
 それともう一つ発行されたのが認識票だ。
 ドッグタグに似ていて左右には小さな穴があいており、チェーンをつけられるようになっている。
 首に巻くなり手首に巻くなり、腰につけるなりと目に見えるところであれば装着に関しては特に決まりはないらしい。
 ポケットに入れておこう。そのうちどこに装着するか決めよう。
 冒険者としての準備は整ったかというとまだ全然ではあるが、一応は冒険者のスタートラインには立てた。
 王女から頂いた金貨で身なりも整えて、とりあえずの武器もざっと見てはみる。
 ギルド周辺には武器屋や道具屋などがいくつもあるが……どれを選べばいいのやら。

「俺のは別に考えなくてもいいか。動きやすそうなものを選ぼう。これとこれとこれ~っと」
「ゆ、夕飯の食材でさえもう少し悩むと思いますよシマヅ様……」
「別に死んでも構わないしなあ」
「悲しい事を仰らないください……」
「ハスのはちゃんと考えようね。最高級のごっつごつのやつ!」
「私は後方支援なので安いもので大丈夫ですよ。それに私にはごっつごつのものを装備しても重くて移動だけで疲れてしまいます」

 それもそうか。
 店の奥に並べられていた高そうな鎧を持ってはみたが、それほど重くなくともフル装備となれば重みは感じずにはいられない。
 ハスのような華奢な体にフル装備をさせるところを想像してみたが、肩で息をして寝そべる姿しか浮かんでこない。
 考えても仕方がないので店主に聞きながら、お勧めのものを選びつつ後は手持ちの金銭事情も考慮してそれなりの装備を整えるとした。
 俺もハスも装備は動きやすさを重視して軽装に。
 ただ彼女の装備はややお高いのを選ぶとした。高めのものは軽くて頑丈な素材を使っていてかつ、緑と黒のバランスいい配色は中々お洒落。

「どう、でしょうか……」
「いい、とてもいいね!」

 確かサルエルパンツってやつが俺の世界では言われていたが、こちらの世界ではアルヴスパンツというらしい。思い返せばアルヴの奴……履いてたな。
 このアルヴスパンツ、本来は股下がダボっとしていて激しい動きをするには向いていないが、店で扱っているものは冒険者向けに細めに作られていて刃物や爪、熱も通しづらい素材を使っているのだとか。

「ふんっ、ハイラア族も着せれば変わるもんだな」
「どうだい店員さん、可愛いもんだろう?」
「正直言うと悪くはないぜ。ハイラア族なんてどいつも奴隷の卑屈な奴ばかりで見ててイラっとするもんだが、こいつは一味違うな」
「この子はそもそも奴隷じゃないんでね」
「ああ、足枷はついていないんだったな。悪かったよ」

 ハスはやや縮こまりながら、それでも懸命に笑顔は見せていた。

「しかし私にはもったいない装備でございます……」
「いやいや。もっともっと金をかけて万全を期すべきだ」
「私の装備だけで所持金を使い切るつもりですか?」
「それもやむを得ない」
「やむを得なくないですが!」

 仕方ない、君がそう言うのならほどほどにしておこうじゃないの。
 武器のコーナーではどれを選べばいいのやら、並べられている様々な武器を前に暫く俺は考え込んでいた。
 大剣、小剣……剣術に関してはまったくの素人、どうしたものか。
 とりあえず初心者でも使えそうなもの――店員からは小剣か片手剣を勧められて試しに振ってみる。
 どちらも悪くはない、振りやすいが片手剣は武器を持っているっていう実感が得られる分、俺の中の満足度も高い。
 こいつを購入して、ハスの分は……。

「私は逃げるだけですので」
「でも一応持っておいたほうがいいんじゃない? 大剣と双剣、鉄槌に弓、もあるよ。黄金の剣なんかもあるな、これはどう?」
「そ、その……小剣で」
「自分の命を守るための装備だ、もっと慎重に考えなきゃ駄目だぞ」
「さっきは別に考えなくてもいいかなんて仰っていた方の発言とは思えないのですが……」
「君の装備は例外だ」
「で、では……あとは盾があれば……」

 壁に並べられている盾をいくつか見てみる。
 女の子でも持ちやすいものは――と、小さめのものがあった。

「これはどうだろう」
「ええ、これなら持ち運びもしやすいです」
「高いやつは軽くて頑丈だ、値段は惜しまずいこう」
「どうかその気持ちをご自身にも向けてください」

 自分には向けられないかな。
 俺は身を守るよりも身を捨てる姿勢で臨むつもりだからね。
 別の店ではハスに何があった時用に治療道具一式を購入しておいた。
 この世界では魔力が高ければ高いほど有利に戦闘を進められる、のだとか。なので治療魔法が必要のない軽傷には治療道具を、魔力が尽きないように魔力補給薬を用意するといいらしく店員に言われるまま揃え、それらを収納できるリュックやポーチも購入。

「大丈夫? 重くない?」
「お気遣いありがとうございます、荷物持ちくらいお任せください。慣れておりますので」
「若い子が荷物持ちを慣れちゃ駄目だと思うがね」

 献身的なのはとても嬉しいのだけれどね。

「――あんた、冒険者ギルドに登録したのかい?」
「ええ、そうです」

 冒険者って感じに見えてはきたかな?

「そうかい、頑張りなよ~。しかし帝国には気をつけないとな」
「帝国……何かと聞くのですけれど、そんなに危険なのですか?」
「まあね。昨日も帝国の奴らが騒ぎを起こしたって聞いたよ。それに周辺の依頼では何度か帝国の奴らに襲われたって報告もあるんだぜ」
「襲われた? 物騒ですね……」
「大体が夜に襲われたらしいから昼間は大丈夫だと思うがね。日が暮れたら依頼が達成できていなくても引き返す事を勧めるよ。ヴァフベアっていう狂暴な魔物も出たって話も聞いたから、気を引き締めてかかりなよ」
「ご忠告ありがとうございます」

 そのヴァフベアも既に遭遇済みなのは言うまい。
 しかし皆口々に言う中で何度か出てくる帝国という単語、どれも続く言葉は良いものではなく俺の中で構築されていく帝国の印象は急降下していくばかりだ。
 昨日の件もあって、尚更である。

「そんなにアルヴ教の聖地? が欲しいんですかね帝国って」
「そりゃあそうだろう。影響力は世界で一番だ、何より熱心に信仰すればボードの角が増えるかもしれないしな」
「ボード……」
「あんただってボードの角は増やしたいだろう?」
「え、ええ……そうですね……」

 八角形なものだからなんかこの世界ではもう十分なようだし、別にこれ以上増えなくてもいいかなとは思っているが。

「体質なのか、帝国は三角形ボードが多いからなあ。聖地を手に入れて信仰して、みんな四角形に昇角を目論んでるっていう話も聞くぜ」
「はあ、なるほど」

 そう簡単に昇角出来る話でもないんだがな、と彼は付け足す。

「そうそう。そういえばすげえ人が入国してきたって話だ。なんでも八角形ボードの持ち主で、ハイラア族を……連れた、東洋人……あれ?」
「あっ! 買うものは揃ったので、はい代金! ではでは!」

 おっと危ない危ない。
 すぐにハスと共に店から離れるとした。
 しかしながらどこへ行っても広がる噂は止められず、注目されてしまうために逃げ場などないのだが。
 もう視線にも慣れてきたし、気にせずにいこう。
 その辺の店で昼食をとり、少し休憩をするとした。依頼を受けていないのだ、時間に縛られる事もなくゆっくりできる。
 当座をしのぐ金も手に入って一抹の不安も解消されたわけだし焦る必要もあるまい。
 まあでもだらけていても何にもならないし、休憩が終わったらギルドで何か依頼を受けてみようじゃないの。
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