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第七章
047 泣きたい夜
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「貸出料も安いし簡易ベッドもふかふかで悪くないな」
いびきをかいてだらしなく眠るミルルさんをベッドへと寝かせた。
結構酒を飲んでいたけど明日は大丈夫なのだろうか。
「冒険者は我が国に大変貢献していただいておりますので、国としても配慮は欠かさず、そして支えられるよう努めております」
「では今のところ存在すら忘れそうなほどに何の効果のないこの免罪符の買い取りもお願いできる?」
「兄にはどうか販売を止めるよう説得しておきます……」
「何か効果があるのならいいけどさ……」
「おそらく何も効果は見込めないでしょう」
「だよね」
俺はタダで貰ったからいいけど、他の奴らはみんなありがたいありがたい言って買っていくもんだからなあ。
宗教を利用というより、悪用した商売はいかがなものか。
せめて防御力が上がるとか何かしらの効果が欲しいものだ。
焚火の傍へと戻り、後は眠気がくるまでゆっくりと火を眺めるとする。
「あれ? フラーウは?」
「少し一人になりたいと仰ってこの場を離れました」
「そっか……」
このまま戻ってこない、なんて事にならなければいいが。
一先ず待つとしよう。
夜の森は少し冷える、山から冷えた空気が降りてきているからだろう。焚火に当たりながら、俺は小さなため息をついた。
様々な感情が込められたため息だ。
「やはり疲れましたか今日は」
「……いや、今日はまだ一度も死ねてないと思って」
「課題みたいに言わないでくださいよ」
龍に何度も殺されて魔力の器が広がり、強くなっていったのも一因であるが、よくよく考えれば何よりもダンジョンには龍より強い魔物などいるはずがないのだ。
龍より強い魔物がいたら、ダンジョンの蓋代わりとなっていた龍を退けて地上へと出ているはずなのだから。
まぁしかしだ、ウォルスネークは大蛇系であるので丸飲みしてもらって死ねるか試したいところではある。
それにダンジョンを深く潜っていればもしかしたらマグマとかなんでも溶かす酸なんてものも見つかるかもしれない。
「明日も頑張ろうな」
「自殺を頑張ろうとしないでくださいね?」
「え~……」
「え~じゃないですよ」
ハスは俺のため息よりも大きなため息をついた。
「シマヅさん、もう少し生きる事を前向きに考えてみてはどうでしょうか」
「生きる事を……か」
「シマヅさんがどうしてそれほどまでに死に急ぐのかはあえて聞かないでおきますが……せめて生きる喜びについて訴えていきたいと思っております。煩わしいかもしれませんが」
「いやいや、煩わしいだなんて」
仮面越しであれ、彼女に視線を合わせられないでいる自分が情けなくなってくる。
真剣に向き合ってくれているのに、逃げてしまっているのだ自分は。
「そうだ、折角ですからガルフスディア以外の国を見て回ってみるのもどうでしょうか?」
「ん~……まあ、それはいいかも」
「ハスもお付き合いしますよ~」
「そのうち機会があれば、かな……」
けれども悪くない提案だ。
この世界に来て、まだガルフスディアとその周辺しか足を運んでいない。
山を越えた先にも村や街がある。その街を過ぎた先にも国がある。
俺はこの世界をまだ何も知らないのだ。
知ったからといって、何かがあるわけではないが……興味がないというわけではない。
「ただ……俺以外に不死者がいる可能性がある。少なくともその辺を調べてからになるな。例の集団も気になるし」
「手がかりが何も掴めていない現状からして、今後もこちらからの調べではまともな手がかりは得られそうにないですね」
「相手の出方待ち、か……」
「はわ……ハスは不安になってきました……」
「そんなすぐには動かないだろうよ、逃げ足が早いって事は慎重派な連中なんだろうし」
あの事件以来、黒フードの目撃情報もまったく聞かない。
霧のように消えてしまったのかと思うほどに。
けれどどこかに必ずいる、それは確かな事だ、残念ながら。
「心の片隅に置いておく程度でいいさ、常に身構えてたら疲れるだけだぞ。何かあったらあったで、俺を盾にしてね」
「それはちょっと……」
「遠慮しなくていいからさ」
「それはシマヅ様が望んでいるからですよね?」
「緊急時は不死者っていうのを存分に活用すべきだぞ、ハス」
「あんまり活用はしたくないのですが……」
便利だと思うんだがな。
ゲームだったら仲間が死んでも生き返る能力を持ってたらそいつをずっと盾に使って進めるぞ俺は。
夜も更けてあたりの喧騒も止んでき。
魔力石照明も光は落とされ、代わりに微弱な光が点々としてそろそろ就寝の頃合いになってきた。
「……フラーウ、戻ってこないな」
気になるは、未だにフラーウが戻ってきていない事だ。
「探してきましょうか」
「俺一人でいいよ。もう二人は寝る準備に入ってくれ」
ハスなんかは船を漕ぎだしている。
歯磨きをさせて、ちゃんと洗顔も忘れずに、と。
ベッドへと寝かせて、テントのチャックも閉めておく。
「よし、ちょっと見て回るかな」
「お気をつけて」
「うん、じゃあおやすみ」
王女もテントへと入っていく。
寝る時も一応仮面はつけておいてるんだな。
さて、フラーウはどこにいるのやら。
木々が伐採されて広場になっていて見渡しはいい、歩道として作られた道には魔力石照明が一定位置で配置されており、その道を沿う。
ぱっと見では彼の姿は捉えられない。
一人になれる場所、となれば左右に広がるテントだらけのこの広場にはいないのかもしれない。
歩みを進めて広場から少し離れてみる。
洞窟付近まで近づいてみたが、流石にダンジョンへ潜りはしないだろう。
そもそもにして深夜は閉鎖されている。兵士達が見張りをしており忍び込んでまでダンジョンには行かないだろう。
「となれば……」
ひと気が少ない山の方?
ともあれ散歩がてら向かってみよう。
ほどよく体にアルコールが入ったために心地良くて苦ではない。
「そこの君」
「はい?」
ふと声を掛けられて、闇夜へ顔を向けた。
雑草を踏む音の中に混じって聞こえるは鎧のこすれる音。
月夜に反射するその白と銀――聖騎士が現れた。
「夜間はあまりうろつかないほうがいい」
長身で渋い男性の声が鎧越しから聞こえる。
「あっ、その……仲間を探しておりまして」
「仲間?」
「少年のエルフを見ませんでしたか? これくらいの、身長で、見た目は女の子っぽい感じの」
自分の胸のあたりに手を水平に置いて身長を表した。
改めてフラーウの身長を思い返すとちっこいなあの子。
「ああ……その子なら見たぞ。この先の休憩スペースにいる」
「そうですか、どうもありがとうございます」
「むっ、君はどこかで……」
すると聖騎士は手に持っていた魔力石松明を俺の顔へと近づけて覗き見た。
「ああ、君か。シマヅイクヤ、国を救った英雄じゃないか」
「救っただなんて大げさな……」
「あの事件は我々聖騎士も不甲斐なくて申し訳なかった。私の友も聖塔で負傷していたが君達が敵を撃退してくれたおかげで大事に至らなかった。友の代わりに礼を言う」
「いえいえっ」
祈りを捧げられ、おもばゆい気持ちになる。
「周辺の巡回はしてはいるが魔物が出ないとは限らない、十分に気を付けてくれ」
「分かりました」
聖騎士と別れ、この先にあるという休憩スペースを目指した。
聖騎士と初めて話をしたが全員鎧を纏って顔が隠れているが何か隠す決まりでもあるのだろうか。
今度また話す機会があれば聞いてみようかな。
相変わらず文字は読めないものの、この先休憩スペース――のような雰囲気を感じる。
照明は落とされている代わりに木々がないために月の光がその場を照らしてくれていた。
切り株が椅子代わりになっており、丸太は縦に切って倒して切断面を上にする事でテーブルとして活用しているようだ。
深夜とあって利用者は当然いない――が、小さな人影が奥に見えた。
「フラーウ」
「はっ、シ、シマヅさん……」
「もう夜も遅い、そろそろ寝ないか?」
「はい……」
彼の腰は重い。
隣の切り株へと座り、視線を落としているフラーウに対して俺は夜空を見上げる。
「眠れない?」
「その……」
「今日の事、引きずってるのか? 俺の怪我なら大丈夫だぞ」
「で、でも僕は……ただ迷惑をかけるだけで……。やっぱり僕は何もできない駄目なエルフなんです……。パーティから脱退させてください……」
「おいおい、まだ初日だろ?」
まいったな。
彼がどうしてもと言うのであれば仕方がないけれど……ここで彼を手放すのは、無責任に感じる。
「成り行きで組んだとはいえ、今日一日で抜けるにはあまりにも判断が早くないか?」
「僕は足を引っ張ってばかりで……」
「足を引っ張って結構。君は冒険者になりたてだ、最初からなんでもできる人なんていないさ」
彼への励ましの言葉を、出来の悪い脳みそで何とか探してみる。
フラーウは部下、大切な部下で今日は出社一日目――そう思いながら、自然と浮かんでくる言葉から、構築していく。
「誰だって最初はそんなもんだよ、自分で自分のハードルを上げて苦しむなよ」
「う、うぅ……しかし……」
「ミスを恐れなくていい。ミスしたらそこから学んでいけばいいだけなんだから」
ようやく顔を上げてくれた。
未だに不安そうに眉を弱々しく歪めているも、反応してくれたのはいい事だ。
こういう時は笑顔を作っておかなければ。相手が安心するような、優しい笑顔を。
「俺なんか若い頃はミスしてばっかだったぜ。もう人生向いてないって思ったね」
「ええっ!? 八角形ボードのシマヅさんでもそんな時期があったんですか!?」
「まあ……色々とね」
サラリーマン時代だけど。
その時はボードなんか持ってもいなかったが、もしボードを見れたらどんなものだったのだろう。三角形の中でも最底辺ってとこかもしれない。
「自分で自分を見捨てて、その結果は碌な事にならなかった。君は俺と同じになるなよ」
少しは励ませているのだろうか、分からない。
彼の垂れた長い耳は、ほんの少しだけ上がったような気がする。眉も今は歪んでいない。
「それに何もミスをしているのは君だけじゃない。俺達だってうまく連携できずにいてパーティとしては全然駄目だ。君だけが責任を感じるなよ」
「君のボードには何をやっても駄目だって表示されてるわけじゃあないだろう? 自分に希望を持て」
「うぅ……」
「よ~しよし。泣きたい時は思い切り泣け~」
フラーウは大粒の涙をこぼし始め、俺は彼の頭を優しく撫でてやった。
夜空でも眺めながらゆっくりしようじゃないか。
「さあ、そろそろ戻ろう」
「はい……」
落ち着いた頃、夜も更けに更けてしまい、俺達は寝床へと向かった。
焚火もすっかりくすんでしまっており、夜風に当てられて少し冷えた体に温もりを取り戻すべく俺は小さくフレイムを注いだ。
フレイムの火力は流石だ、焚火もすぐに復活する。
王女が持参してくれていた茶葉は自由に飲んでいいと言われたので寝る前にちょいと飲むとしよう。
「飲むかい?」
「い、いただきますっ」
緑の茶葉は緑茶であろうか。
これを淹れてみよう。
ポットはステンレスっぽいもので実に軽い、表面はややざらつきがあり、ステンレスとは少し異なるのであろうが性質としてはほぼ同じものではないだろうか。
直火での使用ができて取っ手もついていて重宝する。
木製のコップも持ちやすい、これってなんか俺のいた世界でもあったよな。ククサとかなんかそういう名前で。こっちの世界では日用品の一つだ。
「うーん、中々美味いな」
「はい……美味しいです」
味は少し渋めな緑茶。
茶の香りはくっきりとしていてそれでいて主張しすぎない、心を溶かしてくれるかのような、落ち着ける香りだ。
彼の心も、ほぐして溶かしてくれればいいのだが――
「飲んだらもう今日は寝よう」
「はい……」
まだ完全には立ち直れていないように見える。
こんな俺でも、彼の心を癒す事が出来るのだろうか。
悔しいけれど、こういう時はまだアルヴのほうが癒してくれる。
神様としては……最悪なのに。
いびきをかいてだらしなく眠るミルルさんをベッドへと寝かせた。
結構酒を飲んでいたけど明日は大丈夫なのだろうか。
「冒険者は我が国に大変貢献していただいておりますので、国としても配慮は欠かさず、そして支えられるよう努めております」
「では今のところ存在すら忘れそうなほどに何の効果のないこの免罪符の買い取りもお願いできる?」
「兄にはどうか販売を止めるよう説得しておきます……」
「何か効果があるのならいいけどさ……」
「おそらく何も効果は見込めないでしょう」
「だよね」
俺はタダで貰ったからいいけど、他の奴らはみんなありがたいありがたい言って買っていくもんだからなあ。
宗教を利用というより、悪用した商売はいかがなものか。
せめて防御力が上がるとか何かしらの効果が欲しいものだ。
焚火の傍へと戻り、後は眠気がくるまでゆっくりと火を眺めるとする。
「あれ? フラーウは?」
「少し一人になりたいと仰ってこの場を離れました」
「そっか……」
このまま戻ってこない、なんて事にならなければいいが。
一先ず待つとしよう。
夜の森は少し冷える、山から冷えた空気が降りてきているからだろう。焚火に当たりながら、俺は小さなため息をついた。
様々な感情が込められたため息だ。
「やはり疲れましたか今日は」
「……いや、今日はまだ一度も死ねてないと思って」
「課題みたいに言わないでくださいよ」
龍に何度も殺されて魔力の器が広がり、強くなっていったのも一因であるが、よくよく考えれば何よりもダンジョンには龍より強い魔物などいるはずがないのだ。
龍より強い魔物がいたら、ダンジョンの蓋代わりとなっていた龍を退けて地上へと出ているはずなのだから。
まぁしかしだ、ウォルスネークは大蛇系であるので丸飲みしてもらって死ねるか試したいところではある。
それにダンジョンを深く潜っていればもしかしたらマグマとかなんでも溶かす酸なんてものも見つかるかもしれない。
「明日も頑張ろうな」
「自殺を頑張ろうとしないでくださいね?」
「え~……」
「え~じゃないですよ」
ハスは俺のため息よりも大きなため息をついた。
「シマヅさん、もう少し生きる事を前向きに考えてみてはどうでしょうか」
「生きる事を……か」
「シマヅさんがどうしてそれほどまでに死に急ぐのかはあえて聞かないでおきますが……せめて生きる喜びについて訴えていきたいと思っております。煩わしいかもしれませんが」
「いやいや、煩わしいだなんて」
仮面越しであれ、彼女に視線を合わせられないでいる自分が情けなくなってくる。
真剣に向き合ってくれているのに、逃げてしまっているのだ自分は。
「そうだ、折角ですからガルフスディア以外の国を見て回ってみるのもどうでしょうか?」
「ん~……まあ、それはいいかも」
「ハスもお付き合いしますよ~」
「そのうち機会があれば、かな……」
けれども悪くない提案だ。
この世界に来て、まだガルフスディアとその周辺しか足を運んでいない。
山を越えた先にも村や街がある。その街を過ぎた先にも国がある。
俺はこの世界をまだ何も知らないのだ。
知ったからといって、何かがあるわけではないが……興味がないというわけではない。
「ただ……俺以外に不死者がいる可能性がある。少なくともその辺を調べてからになるな。例の集団も気になるし」
「手がかりが何も掴めていない現状からして、今後もこちらからの調べではまともな手がかりは得られそうにないですね」
「相手の出方待ち、か……」
「はわ……ハスは不安になってきました……」
「そんなすぐには動かないだろうよ、逃げ足が早いって事は慎重派な連中なんだろうし」
あの事件以来、黒フードの目撃情報もまったく聞かない。
霧のように消えてしまったのかと思うほどに。
けれどどこかに必ずいる、それは確かな事だ、残念ながら。
「心の片隅に置いておく程度でいいさ、常に身構えてたら疲れるだけだぞ。何かあったらあったで、俺を盾にしてね」
「それはちょっと……」
「遠慮しなくていいからさ」
「それはシマヅ様が望んでいるからですよね?」
「緊急時は不死者っていうのを存分に活用すべきだぞ、ハス」
「あんまり活用はしたくないのですが……」
便利だと思うんだがな。
ゲームだったら仲間が死んでも生き返る能力を持ってたらそいつをずっと盾に使って進めるぞ俺は。
夜も更けてあたりの喧騒も止んでき。
魔力石照明も光は落とされ、代わりに微弱な光が点々としてそろそろ就寝の頃合いになってきた。
「……フラーウ、戻ってこないな」
気になるは、未だにフラーウが戻ってきていない事だ。
「探してきましょうか」
「俺一人でいいよ。もう二人は寝る準備に入ってくれ」
ハスなんかは船を漕ぎだしている。
歯磨きをさせて、ちゃんと洗顔も忘れずに、と。
ベッドへと寝かせて、テントのチャックも閉めておく。
「よし、ちょっと見て回るかな」
「お気をつけて」
「うん、じゃあおやすみ」
王女もテントへと入っていく。
寝る時も一応仮面はつけておいてるんだな。
さて、フラーウはどこにいるのやら。
木々が伐採されて広場になっていて見渡しはいい、歩道として作られた道には魔力石照明が一定位置で配置されており、その道を沿う。
ぱっと見では彼の姿は捉えられない。
一人になれる場所、となれば左右に広がるテントだらけのこの広場にはいないのかもしれない。
歩みを進めて広場から少し離れてみる。
洞窟付近まで近づいてみたが、流石にダンジョンへ潜りはしないだろう。
そもそもにして深夜は閉鎖されている。兵士達が見張りをしており忍び込んでまでダンジョンには行かないだろう。
「となれば……」
ひと気が少ない山の方?
ともあれ散歩がてら向かってみよう。
ほどよく体にアルコールが入ったために心地良くて苦ではない。
「そこの君」
「はい?」
ふと声を掛けられて、闇夜へ顔を向けた。
雑草を踏む音の中に混じって聞こえるは鎧のこすれる音。
月夜に反射するその白と銀――聖騎士が現れた。
「夜間はあまりうろつかないほうがいい」
長身で渋い男性の声が鎧越しから聞こえる。
「あっ、その……仲間を探しておりまして」
「仲間?」
「少年のエルフを見ませんでしたか? これくらいの、身長で、見た目は女の子っぽい感じの」
自分の胸のあたりに手を水平に置いて身長を表した。
改めてフラーウの身長を思い返すとちっこいなあの子。
「ああ……その子なら見たぞ。この先の休憩スペースにいる」
「そうですか、どうもありがとうございます」
「むっ、君はどこかで……」
すると聖騎士は手に持っていた魔力石松明を俺の顔へと近づけて覗き見た。
「ああ、君か。シマヅイクヤ、国を救った英雄じゃないか」
「救っただなんて大げさな……」
「あの事件は我々聖騎士も不甲斐なくて申し訳なかった。私の友も聖塔で負傷していたが君達が敵を撃退してくれたおかげで大事に至らなかった。友の代わりに礼を言う」
「いえいえっ」
祈りを捧げられ、おもばゆい気持ちになる。
「周辺の巡回はしてはいるが魔物が出ないとは限らない、十分に気を付けてくれ」
「分かりました」
聖騎士と別れ、この先にあるという休憩スペースを目指した。
聖騎士と初めて話をしたが全員鎧を纏って顔が隠れているが何か隠す決まりでもあるのだろうか。
今度また話す機会があれば聞いてみようかな。
相変わらず文字は読めないものの、この先休憩スペース――のような雰囲気を感じる。
照明は落とされている代わりに木々がないために月の光がその場を照らしてくれていた。
切り株が椅子代わりになっており、丸太は縦に切って倒して切断面を上にする事でテーブルとして活用しているようだ。
深夜とあって利用者は当然いない――が、小さな人影が奥に見えた。
「フラーウ」
「はっ、シ、シマヅさん……」
「もう夜も遅い、そろそろ寝ないか?」
「はい……」
彼の腰は重い。
隣の切り株へと座り、視線を落としているフラーウに対して俺は夜空を見上げる。
「眠れない?」
「その……」
「今日の事、引きずってるのか? 俺の怪我なら大丈夫だぞ」
「で、でも僕は……ただ迷惑をかけるだけで……。やっぱり僕は何もできない駄目なエルフなんです……。パーティから脱退させてください……」
「おいおい、まだ初日だろ?」
まいったな。
彼がどうしてもと言うのであれば仕方がないけれど……ここで彼を手放すのは、無責任に感じる。
「成り行きで組んだとはいえ、今日一日で抜けるにはあまりにも判断が早くないか?」
「僕は足を引っ張ってばかりで……」
「足を引っ張って結構。君は冒険者になりたてだ、最初からなんでもできる人なんていないさ」
彼への励ましの言葉を、出来の悪い脳みそで何とか探してみる。
フラーウは部下、大切な部下で今日は出社一日目――そう思いながら、自然と浮かんでくる言葉から、構築していく。
「誰だって最初はそんなもんだよ、自分で自分のハードルを上げて苦しむなよ」
「う、うぅ……しかし……」
「ミスを恐れなくていい。ミスしたらそこから学んでいけばいいだけなんだから」
ようやく顔を上げてくれた。
未だに不安そうに眉を弱々しく歪めているも、反応してくれたのはいい事だ。
こういう時は笑顔を作っておかなければ。相手が安心するような、優しい笑顔を。
「俺なんか若い頃はミスしてばっかだったぜ。もう人生向いてないって思ったね」
「ええっ!? 八角形ボードのシマヅさんでもそんな時期があったんですか!?」
「まあ……色々とね」
サラリーマン時代だけど。
その時はボードなんか持ってもいなかったが、もしボードを見れたらどんなものだったのだろう。三角形の中でも最底辺ってとこかもしれない。
「自分で自分を見捨てて、その結果は碌な事にならなかった。君は俺と同じになるなよ」
少しは励ませているのだろうか、分からない。
彼の垂れた長い耳は、ほんの少しだけ上がったような気がする。眉も今は歪んでいない。
「それに何もミスをしているのは君だけじゃない。俺達だってうまく連携できずにいてパーティとしては全然駄目だ。君だけが責任を感じるなよ」
「君のボードには何をやっても駄目だって表示されてるわけじゃあないだろう? 自分に希望を持て」
「うぅ……」
「よ~しよし。泣きたい時は思い切り泣け~」
フラーウは大粒の涙をこぼし始め、俺は彼の頭を優しく撫でてやった。
夜空でも眺めながらゆっくりしようじゃないか。
「さあ、そろそろ戻ろう」
「はい……」
落ち着いた頃、夜も更けに更けてしまい、俺達は寝床へと向かった。
焚火もすっかりくすんでしまっており、夜風に当てられて少し冷えた体に温もりを取り戻すべく俺は小さくフレイムを注いだ。
フレイムの火力は流石だ、焚火もすぐに復活する。
王女が持参してくれていた茶葉は自由に飲んでいいと言われたので寝る前にちょいと飲むとしよう。
「飲むかい?」
「い、いただきますっ」
緑の茶葉は緑茶であろうか。
これを淹れてみよう。
ポットはステンレスっぽいもので実に軽い、表面はややざらつきがあり、ステンレスとは少し異なるのであろうが性質としてはほぼ同じものではないだろうか。
直火での使用ができて取っ手もついていて重宝する。
木製のコップも持ちやすい、これってなんか俺のいた世界でもあったよな。ククサとかなんかそういう名前で。こっちの世界では日用品の一つだ。
「うーん、中々美味いな」
「はい……美味しいです」
味は少し渋めな緑茶。
茶の香りはくっきりとしていてそれでいて主張しすぎない、心を溶かしてくれるかのような、落ち着ける香りだ。
彼の心も、ほぐして溶かしてくれればいいのだが――
「飲んだらもう今日は寝よう」
「はい……」
まだ完全には立ち直れていないように見える。
こんな俺でも、彼の心を癒す事が出来るのだろうか。
悔しいけれど、こういう時はまだアルヴのほうが癒してくれる。
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