死ねば死ぬほど強くなる不死者は死ぬ方法を探している。

智恵 理陀

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第七章

048 自信

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 テントの生地をほどよく過ぎる朝日が瞼の裏に引っ付いて、覚醒へと導かせた。
 目覚まし時計のアラームと違って、陽光に起こされるのは目覚めがいい。
 木の弾ける音がテントの外から聞こえ、暖かな空気も漂っている。
 その空気に乗るのは香ばしい香り――どこも焚火をつけて朝食を頂いているのだろう。

「おはようございますっ」
「おはよ~……」

 テントから出ると焚火を囲む一同、その中にはミルルさんはおらず、彼女が眠っていたテントを見ると未だにいびきが聞こえてくる。
 このまま置いていったほうがいいのではないだろうか。

「洗い場が作られておりますよ」
「お、そうか。じゃあ行ってくる」

 ハスから歯ブラシとタオルを受け取り、洗い場へ向かった。
 新たに建てられた看板が洗い場のある方向を示してくれているので分かりやすい。
 洗い場は木造の土台に木製の貯水タンクが取り付けられて端のほうに設置されていた。
 どこからか汲まれてきた水が溜められているようだ、蛇口をひねると水が流れていく。
 歯磨きと洗顔を終えてさっぱりし、軽く朝の準備体操をして皆のところへと戻った。
 スキレットでジュージュー焼かれるベーコンに卵。
 いやあ最高の朝だね。
 これでミルルさんのいびきがなければもっといいのだが。
 とりあえず起こそう。

「ミルルさんミルルさん」
「んがっ」
「はぁ~……」

 大きく口を開けて涎を垂らし、大股を開いて尻を掻く。 
 女性としての魅力をこうも雲散できるのはある意味才能ではないだろうか。

「起きてください、ミルルさん」
「にゃむ」
「にゃむじゃなくて」

 無理やり上体を起こすと彼女はほぼほぼ寝ているような状態ながらなんとかテントから出てきた。
 すぐそばに置いてあった大槌を何度か触れて、足元へと引き寄せて焚火にあたる。
 大槌が傍にあれば落ち着くのだろうか。
 それにしても改めて見ると、女性が振り回すにしては大きい――大きすぎる。
 まるで大木を切って取り付けたかの、そう、言い表すならば厚さ50cmの鉄製丸太を付けたかのような武器で重さも相当だ。
 よく軽々と触れるものだ。

「おはよう、皆の衆……」
「お、おはようございます……」
「あたしのパーティじゃない……」
「貴方のパーティは昨日解散したじゃないですか」
「そうだったか……」

 それで何故か俺のパーティを勝手に吸収しているのだけれど、その辺のパーティ状態はどうなっているのだろう。
 朝食を食べながらミルルさんのエンジンが掛かるのを待つとし、心配なのはフラーウだ。
 笑顔を作ってはいるけれど、どこか無理しているかのような笑顔。
 どうするのが正解なのだろう。
 どうすべきなのだろう。
 誰か教えてほしいもんだ。

「よし、じゃあ今日もウォルスネークを狩りに行くぞ!」

 朝食を食べたミルルさんは溌溂さを既に取り戻しており、心身共に回復の早い女性だ。
 これもまた白金級故、であろうか。

「あの、シマヅ様」
「はい?」

 いざ入ろうという時に、マルァハさんが俺を呼び止めた。
 ミルルさんとは距離を取り、俺の耳元へと声を潜めて話そうとしているあたり、彼女には聞かれたくない様子だ。

「ミルル様は、シマヅ様のパーティに?」
「なんか、ええ、一時的ですがそうなって……るのかな?」
「ミルル様の結成の手続きはされておりませんのでもし組まれるのでしたら申請書への記入が必要になります。しかしミルル様のパーティは解散とはいえ他三人が脱退という形でしたので、ミルル様のパーティ自体は残っておりまして……」
「その場合どうなるんですか?」
「共同依頼扱いとなりますが、ダンジョンの場合はその辺の線引きははっきりとはさせていないので冒険者側からの口頭報告になりますね。ミルル様はどのようにされるのか……パーティの事となると不機嫌になるのでお聞きしづらくてですね……」

 ミルルさんと俺達とのパーティの関係性が曖昧な状態になっている上で更にダンジョンという普段とは違う状況であるために曖昧と曖昧が重なってしまっている。
 ここははっきりさせておきたいのだが……。
 ミルルさんはどかどかといった足取りでダンジョンへ潜ってしまった。

「……手続きを踏まなくていいのは、共同依頼扱いですよね」
「そうなりますね」
「パーティの状態もはっきりしますし、それでお願いします」
「かしこまりました。ミルル様のパーティは一応、消滅していないという事にしておきます」

 これでよし、だ。
 俺達のパーティはミルルさんに吸収されているわけでもないし。

「それではお気をつけて。ミルル様のほうもどうか、暴走しないよう見ていてくださればギルドとしては嬉しいです」
「努力します……」

 心は既に折れそうだが、頑張ろう。
 ダンジョンは昨日よりも冒険者の数が多く活気づいていた。
 俺達は昨日魔物と戦闘があった付近まで移動し、とりあえずウォルスネークの開けた穴を調べていくとした。

「ふんっ、新しい穴を開けてるな。ここよりも地下の層に逃げたんだろう」
「じゃあ追いますか」
「おうよ! ついてこい!」

 すっかりリーダーの立ち位置についてしまったミルルさんは先行して俺達を引っ張っていく。
 彼女の手綱を引くのは不可能な気がする。

「この階層はまだ冒険者も少ないな」
「かっ。魔物が多いもんだからビビって潜らねえ奴らが多いんだろうよ。ほらそこの仮面女! いつまで草と戯れてるんだ!」
「これは薬草にもなるダンジョンでしか生えない貴重な植物なのですよ、ヤグー草といってまだまだ研究すべき事が多く、魔力を含んだ際の効果などを検証していけば更なる応用ができるかもしれないわけでして、採れる時に取っておきたいところなのですっ。もしかしたら回復薬にもなるかもしれませんし――」
「あ~ガリ勉研究者特有の早口~」

 中身は王女なのであんまり失礼しないほうがいいよと忠告したいけれど、できないちょっとしたもどかしさ。

「う、上の階層とは違って、生えている植物や周りの環境自体違ってきてますね……」

 階層でいうと地下三階層。
 フラーウが壁に触れてみると、少し湿っぽいのか壁の土が指に引っ付いていた。
 所々黒々としており、なんというか全体的に湿っぽい。

「あの幻想的な世界とは裏腹にこっからはまるで地獄みたいな世界だな」
「かっ! 地獄は大いに結構!」
「ハスは天国のほうがいいです~」
「慣れればどこでも天国だ! 今のうちに慣れるんだなハイラア!」

 ハスは口をへの字にしてこの環境は好きになれない様子。
 俺も彼女と同じく――しかし、王女はせっせと周りの植物を試験管に入れて楽しそうにしていた。
 いやはや、王女にとってここは天国かな?

「魔力石照明は持ってきてるか?」
「ちゃんと補充してきました」
「でかしたぞハイラア」

 先行するミルルさんに手渡し、彼女は壁に設置していった。
 俺達よりも先を行ったと思われる冒険者は設置が甘かったのか、行く先々で一個二個、魔力石照明が落ちており、なんとも冒険者としての腕前がいかがなものかも分かるものだ。
 こういう些末な事でさえしっかりしておかなければならない。
 普段はなんでも大雑把な事をする印象を得がちなミルルさんでも、魔力照明を設置して落ちないよう確認をしている。
 やはり白金級は、やる事はきちんとやる。
 ただの移動でさえ他とは違う。
 定期的に周辺の安全確認、分かれ道や曲がり角では自身の大槌を先に出して罠や魔物がいないかの確認もしている。
 この中で一番冷静で、場数を踏んでいるために迷いのない足取りは俺達を安心させる。

「三体、いるな。昆虫型だ」
「昆虫型……ああ、この足音、っぽいですね」

 カサカサと、音だけ聞いていると嫌な想像が浮かび上がる。
 構えろ――と、ミルルさんの指示に従い武器を構えた。
 道は広いために互いの距離は取りやすい。
 ミルルさんが大槌を振るうと同時に、先に飛び出してきた魔物は殻が潰れるような音と共に爆ぜた。

「マルアントだな、雑魚だ」

 殻の硬さはそれほどでもなさそうだが――俺は六本足の丸みある胴体を捉えて横に一線し、

「フレイム!」
 続く二体の魔物―マルアントを焼き払った。
 フレイムの炎により奥にいるマルアントの姿も露わになったが、およそ八体――しょっぱなから意外に多いがどれもサッカーボールほどの大きさで素早さもなく、戦闘力自体は低いように思える。

「そっちに行ったぞガキんちょ!」
「ひゃ、ひゃいっ!」

 フラーウのほうにもマルアントが飛び掛かっていく。
 彼へのフォローも頭に入れておかなくては。
 近くには王女もいるし大丈夫だとは思うがね。
 フラーウは構えるや、たどたどしさはあったものの何とかマルアントに一撃食らわせた。

「はぅ……」

 しかし腰が入っていなかったのか、マルアントは転げて腹を見せ、わしゃわしゃと足を動かして体を揺らし起こし、再び襲い掛かる。

「ショックボルト! 今です!」

 数体のマルアントが痺れて動けなくなり、フラーウはマルアントの頭部へ一撃をお見舞いし、無力化に成功した。
 残るマルアントは任せてもらおうじゃないの。

「よいっしょー!」

 片手剣で斬りつけていきながら、フレイムで燃やしつくす。
 マルアントは仲間を呼んでいるのか、キキキキと鳴き声を上げて奥からいくつもの足音が聞こえてくる。

「あたしのウィンドウスピアに合わせてフレイムを唱えろ!」
「了解ですっ」

 二人で奥の闇へ――彼女がウィンドウスピアを発動すると同時に俺もフレイムを放った。
 フレイムはとぐろを巻くように彼女の魔法へ乗り、いくつもの鳴き声が奥から聞こえる。

「一掃できたかな。かっ、雑魚は群れても所詮雑魚だ。まあいい運動にはなったがな」
「流石です~!」

 拍手しながらもハスはマルアントの爪を素早く採取していく。
 流石なのは君もだな、素材回収はもはやお手の物だ。

「フラーウ、その調子だ」
「あ、ありがとうございます」

 彼には自信をつけさせてやりたい。
 自信こそが大きな武器になるのではないだろうか。
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