死ねば死ぬほど強くなる不死者は死ぬ方法を探している。

智恵 理陀

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第七章

049 彼の心の中は――。

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「おい見てみろ」

 先ヘ進み、広い空間に到達した。
 特に何もない空間だが、彼女が視線を向けた天井には――

「ウォルスネークの開けた穴だなこりゃあ」
「まだ開けたばかりかな?」
「多分な」

 ぱらぱらと穴からは土が落ちていた。
 穴は他にもあるが、このあたりは通ってはどこかへ行っての繰り返しをしたのか、いくつも穴が開いている。
 近くにいる可能性も、無きにしも非ずだ。

「むっ……」

 奥へと進むミルルさんの足が止まった。
 何かを察知したようだ。
 確かに俺も何か、感じる。両足から伝わるのは微弱な振動――

「下か!?」

 その時、地面に亀裂が入り、足場が不安定になった。

「うぉぉ!?」

 亀裂を縫うように這い出てきているそれはまさに大蛇――ようやくウォルスネークのお出ましだ。
 追いかけていた俺達に気付いて待ち構えていたのか。
 頭上にあるいくつもの穴に意識を向けさせて、下からの奇襲、こいつ……意外と知能がある?

(って、分析してる場合じゃない!)

 崩壊は床から壁へ、壁から天井へと、この空間全てが崩れている。

「――ハス!」
「わ、私は大丈夫です~」

 一番後ろにいたハス、それと近くにいた王女は崩壊の中心部からも外れていて難を逃れたようだ。

「避難していてくれ!」

 俺の足元は崩壊が早い。
 落下していく中、すぐ傍には大きな影が近づいていた。
 ウォルスネークに違いない。
 ミルルさんは即座にウィンドスピアを発動するも、まるで滑るように移動するウォルスネークは捉えられない。

「ちっ……!」

 彼女は舌打ちをし、大槌を振るい一度落下からは逃れる体勢に入る。
 俺もそうしようと片手剣を鞘から抜こうと思ったが、

「あわわっ……」

 ふとフラーウが目に留まり、彼を引き寄せた。

「大丈夫かっ!」
「は、はいっ……」
「捕まってろ!」

 俺は怪我をしても問題はない、むしろ死なせてくれればありがたい。
 彼を抱きかかえて、落下していく。
 下は別の空間があるようだが、そこまでの高低差はかなりのもの。
 ここは俺が体を下にすれば、クッションになるはずだ。

「シ、シマヅさ――!」

 ふー。
 また落下死というのは我ながら死に方に芸がないが、久しぶりに死ねるな。
 このまま永遠に目を覚まさなければいいのだが、落下死は試したから流石にないか。
 ――案の定。
 背中に走る衝撃により一瞬意識は途絶える。
 気が付くと、魔力石照明によって照らされるフラーウの顔が目に入った。

「む……また死ねなかったか」

 心配そうに涙目で俺を見ている。
 俺のために泣くのは涙の無駄だぜフラーウ。

「ああっ! い、生き返った! 奇跡です! これもアルヴ様の起こした奇跡ですね……」
「違うと思う~」

 しかしもとをアルヴの力には違いないのだが。
 いや、なんというか一応俺の固有魔法なんでね。あいつが起こした奇跡なんて言われたくはない。

「さて、状況は……」

 体を起こして上を見上げる。
 複雑に瓦礫が重なり合って上の階層には完全に行けないな。

「周りは……通れる道はこの穴か」
「ウォルスネークの開けた穴の一つですね……」
「あんまり通りたくないけど、仕方がないな。しかし見たかあの姿」
「はい……顔と体の部分はまるで巨人のような体躯でした……」
「口にある二つの牙も長くて太かったが……両手の爪もすげぇもんだったな……」

 想像していたものよりも、なんというか……上体だけ見るならば蛇人間に近い。

「しかしシマヅさん……怪我のほうは、大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。もう治ってるよ」
「あれっ!? 本当だ……。こ、これも奇跡!?」
「俺の固有魔法の一つ。呪いみたいなもんだけど」

 ほら、と彼に俺のボードを見せてやる。
 説明するより見せたほうが早い。
 俺の固有魔法を見て、ちょっとした説明を沿えるとフラーウは瞠目して暫し俺のボードを眺めていた。

「は、八角形ボードは……領域が違いすぎて……」
「話せば長くなるが、八角形ボードというより俺の抱えている事情がね……。普通の人はきっと、どれだけ昇角してもこの固有魔法は手に入らないだろうよ」
「では……言い伝えにある、不死者様……?」
「あー、まあ……そう思ってくれていいよ、俺は死にたいけど」
「な、なんというお方を前にしてしまっているんだ僕は……うぅ、アルヴ様の祝福に感謝致します……」
「祈るな祈るな」

 早いとこここから出ようじゃないの。

「それよりフラーウ、君のほうは怪我はない?」
「はい、シマヅさんのおかげで僕は軽い打撲程度で済みました。ありがとうございます。僕って、本当に足を引っ張ってばかりでまたシマヅさんにご迷惑を……」
「あれは俺が死んでも生き返るからやった力業なの。君が責任を感じる事はないぞ」

 でも――と、隙あらば自分を卑下しようとするフラーウに、俺はおでこを突いて制止。
 しかし――と、めげずに卑下しようとするので更に突いて、そのやり取りは数回続いた。

「自分の評価を下げるほうにばかり頑張ろうとするのはよくないぞ」
「は、はい……」
「よし、じゃあ……みんなと合流しよう」

 上を見上げるも、崩落時に岩盤が左右からずり落ちたかのようにうまい具合に蓋がされてしまっている。
 すぐそばには瓦礫が天井まで続いている、下手したら瓦礫の下敷きになっていたかもしれない、運がよかった。
 瓦礫をよじ登って天井にフレイムを打ち込んで穴を開けようかとも考えたが……更なる崩壊を招くかもしれないのでそれはやめておこう。

「シマヅさん、聞いても、いいですか?」
「いいよ、なんだい?」
「死ぬって、どんな感じですか?」
「うーん……別にどんな感じと言われてもな……。死ぬまでは痛かったり苦しかったりはするけど、死ぬのは一瞬だし」
「そ、そうですか……」

 なんだろうな。
 少し、引っかかる。

「あ、周囲には穴が多く見られますね」

 まあ……いいか。
 今は現状の解決が優先だ。

「ウォルスネークの活動場所ってとこかね……」

 剣は……よかった、ちゃんとある。
 鞘から抜いていつでも戦闘に入れるよう身構えておこう。

「この階層はまだ誰も踏み入れていないからか真っ暗ですね」
「俺達のお先も真っ暗だね、なんて」
「はひ……」
「ごめん……」

 いや、ね?
 状況は深刻だけど和まそうと思っただけなんだ。
 手持ちの魔力石照明だけでは心もとない。

「おっ、これを使うか」

 木の根が壁から飛び出している、先ほどの崩落によって突き出てくれたのだろう。
 それを斬って、服の袖を破って巻き付ける。

「この根には天然樹脂であろう油分が分泌されてますね、松明の油に使えます」
「たっぷりつけよう」

 着火はフレイムで行い、ようやくほどよい光を手に入れた。

「さて、どこに向かうべきか」
「どこに繋がっているのかも分からないですし……困りましたね」
「風の通る道を選ぶか」

 松明をいくつかの穴に向けて、火の動きを見てみる。
 ……動きは微妙なものばかり。

「正直、はっきりとは分からないな。とりあえず入ってみるか」
「そ、そうですね……」

 穴の大きさは十分だ。
 恐る恐る中へと入り、道なりに進んでいく。
 ウォルスネークが近くにいる可能性は十分にある。
 俺は常に剣を持って前へと進んだ。

「おっ、風が流れてる」

 二手に分かれている道に到着した。
 右手側からは肌で感じるほどに風の流れがあった。
 その道を通っていき、

「またマルアントか!」

 奥からカサカサとやってくるマルアントに遭遇する。
 数は少ないな、三体ほどか。

「フラーウ、やれるか?」
「が、頑張ります!」
「よし!」

 正面のマルアントへと剣を振り下ろすと同時に、フラーウは俺の脇を抜けて続くマルアントへ一撃を食らわせた。

「最後の一ぴ……」

 と、残るマルアントを見るも。
 バキャッと音がすると共に、マルアントの身は半分がちぎられていた。
 闇に見えるは赤い点が二つ。
 シュルルルといった音。
 俺達は唾を飲み、動きを止めた。
 松明の炎が大きく揺れ動くと共に、飛び出してくるその影――ウォルスネークはフラーウへと先にとびかかってくる。
 フラーウは……また、動きが鈍い。
 俺はすぐに間へと入り――

「ひゃぁぁぁぁあ!? シ、シマヅさぁぁぁぁあん!」

 彼の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
 ウォルスネークのねっとりとした生々しい口内からでは少しその声はこもって聞こえてくるが。
 ぐしゃっと色々なものがつぶれる音と同時に、元通り。

「うーん、お前でも俺は殺せないか。まあ大体予想は出来てたけど……あ、上着が……」
「も、元に戻った……」
「そういう仕様なんだ、安心してくれ」

 松明は食べられなかったようだ、拾い上げて、再びウォルスネークと対峙する。
 ウォルスネークは口内に残った俺の服を吐き出し、俺を訝しげに見ていた。
 すかさず俺はフレイムを放つと、ウォルスネークは声を上げて奥へと逃げ込んだ。

「追いかけるぞ!」
「は、はい……!」
「あ、その前に」

 一度踵を返し、フラーウのほうを見る。

「フラーウ、俺の気のせいじゃなければいいんだけどさ……」

 どうだろうな。
 いや、確かだとは思う。
 一応、聞いてみる。

「君、死にたがってない?」
「えっ――」

 思わぬ問いかけだったのか、フラーウは体を一瞬びくつかせた。
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