ある日突然タイムリープしてしまった社畜、自分の書いた物語が現実となった過去をやり直す。

智恵 理陀

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001 プロローグ

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 現実というものは非常に退屈である。
 ――なんていうありきたりな台詞はもう聞き飽きている人もいるのではないだろうか。
 割りと使われている気がするこういう書き出しの物語に限ってそんなに面白くなかったりするのだ。
 けれど本当に、どうしようもなく現実というのは退屈そのもので、物語のようにはいかない。
 どうあがいても、物語を越える事などできないのだ。
 そもそもの話からしよう。
 そもそも、ああ……そもそも現実と物語とでは登場人物からして大きな差がある。
 可愛い妹や美少女の幼馴染、女友達や美人のお姉さんなんかそう都合よく身近にいるわけもなく、主人公の傍によくいる包容力のある友人なんかも現実には中々いない。
 果たしてそんな環境下で過ごしている奴はこの世にどれくらいいるのだろう。
 何も登場人物だけではない、日常で起きる出来事なんかもそうだ。
 華やかな学校生活やラブコメは訪れる気配もないし、入学早々に何かしらトラブルやイベントにも巻き込まれやしない。
 ましてやトラックに轢かれて異世界転生なんてするわけもなく、次元が割れて別世界に行くようなビッグイベントも訪れない。
 期待するだけならほんの少しだけでもしてもいいのでは? いいや甘い甘い。
 期待するだけ無駄なのだ。
 それが現実ってもんさ。
 ……しかしながら。
 そんな退屈な現実もたまにはちょっとした誤作動というか、妙な事が起こるもので。

「おはよう」

 玄関の扉の先には、少女が一人。
 腰まで伸びる艶やかな黒髪、ぱっちり二重まぶたに潤いある唇、ハリのある肌に整った顔立ちは――美少女、いいやこんな簡単な単語じゃあ不釣合いだ。
 絶世の、と付けるかそうだな……天が与えたもうた奇跡の降臨、うーん……これは流石に盛りすぎか。
 やっぱり美少女の一言で片付けておいたほうがいいかもしれない。
 そのやや鋭く冷たい双眸は俺達を照らす陽光ですら暖かさを失いそうでちょいと気になるが、幼馴染が迎えに来てくれている朝というのは最高だね。
 しかし現実ではこんなシチュエーションなど滅多にない、物語の世界でなら日常茶飯事かもしれないけれど。

「お、おはよう……」
「治世姉、おはよう!」

 後ろから灯花が――妹の、灯花がにゅっと頭を出してくる。
 快活な足取りで彼女の元へ。撫でてもらっては屈託の無い笑顔を浮かべていた。俺も撫でてやろうかな。

「今日も元気ね、いい事だわ。実にいい事よ」

 口角を上げて、薄らではあるも灯花には笑顔を向けていた。
 その笑顔、俺にも向けてもらいたいものだが、視線が合うや否や仏頂面に近い顔へ戻ってしまった。
 どの表情でも可愛いから別にいいけどさ、なんて思いつつもほんのり不満を残して、学校へ向かうとした。

「治世姉治世姉! 兄ちゃんったら朝から変だったんだよー」
「へえ、そうなの」
「俺は……いつも通りだよ?」

 ううむ、この状況。
 右手には幼馴染、左手には妹。両手に花とはこの事か。

「どこか、雰囲気が違うような気も……するわね」
「そ、そうかなあ?」
「うんうん、なんかいつもの兄ちゃんと違う感じー」
「顔を見せて」

 一度立ち止まり、彼女の細い指が俺の顎に触れる。
 くいっと顔の向きを変えられ、治世とまじまじと正面から顔を合わせる。同時に、心臓の鼓動が跳ね上がった。

「いつもと変わらないアホ面ね」
「アホ面!?」
「兄ちゃんアホ面言われてやんのー」

 そんな俺の心境を容赦なく崩す彼女の言葉。
 溜息までつかれて、辛辣な対応。
 だがしかしこのようなふれあいは……悪くはない。
 ――って、そうじゃない! あまりにも心地がいいからって甘受して酔いしれている場合じゃないぞ俺。
 確認をしておかなくちゃあならない。
 これは重要な確認だ。

「さあ、行きましょう」
「その前に……質問、いいかな?」
「……何?」
「どうしたの兄ちゃん!」

 聞くには少々勇気がいる。
 二人の顔を見て、俺は深呼吸をしてから――これは現実……現実なんだと心の中で、自分にしつこいほど言い聞かせて口を開いた。

「君達って、物語の登場人物だよね?」

 この質問は、俺の思い違いでなければ……の話ではあるが。

              ◆  ◆  ◆  ◆  ◆
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