1 / 34
001 プロローグ
しおりを挟む
現実というものは非常に退屈である。
――なんていうありきたりな台詞はもう聞き飽きている人もいるのではないだろうか。
割りと使われている気がするこういう書き出しの物語に限ってそんなに面白くなかったりするのだ。
けれど本当に、どうしようもなく現実というのは退屈そのもので、物語のようにはいかない。
どうあがいても、物語を越える事などできないのだ。
そもそもの話からしよう。
そもそも、ああ……そもそも現実と物語とでは登場人物からして大きな差がある。
可愛い妹や美少女の幼馴染、女友達や美人のお姉さんなんかそう都合よく身近にいるわけもなく、主人公の傍によくいる包容力のある友人なんかも現実には中々いない。
果たしてそんな環境下で過ごしている奴はこの世にどれくらいいるのだろう。
何も登場人物だけではない、日常で起きる出来事なんかもそうだ。
華やかな学校生活やラブコメは訪れる気配もないし、入学早々に何かしらトラブルやイベントにも巻き込まれやしない。
ましてやトラックに轢かれて異世界転生なんてするわけもなく、次元が割れて別世界に行くようなビッグイベントも訪れない。
期待するだけならほんの少しだけでもしてもいいのでは? いいや甘い甘い。
期待するだけ無駄なのだ。
それが現実ってもんさ。
……しかしながら。
そんな退屈な現実もたまにはちょっとした誤作動というか、妙な事が起こるもので。
「おはよう」
玄関の扉の先には、少女が一人。
腰まで伸びる艶やかな黒髪、ぱっちり二重まぶたに潤いある唇、ハリのある肌に整った顔立ちは――美少女、いいやこんな簡単な単語じゃあ不釣合いだ。
絶世の、と付けるかそうだな……天が与えたもうた奇跡の降臨、うーん……これは流石に盛りすぎか。
やっぱり美少女の一言で片付けておいたほうがいいかもしれない。
そのやや鋭く冷たい双眸は俺達を照らす陽光ですら暖かさを失いそうでちょいと気になるが、幼馴染が迎えに来てくれている朝というのは最高だね。
しかし現実ではこんなシチュエーションなど滅多にない、物語の世界でなら日常茶飯事かもしれないけれど。
「お、おはよう……」
「治世姉、おはよう!」
後ろから灯花が――妹の、灯花がにゅっと頭を出してくる。
快活な足取りで彼女の元へ。撫でてもらっては屈託の無い笑顔を浮かべていた。俺も撫でてやろうかな。
「今日も元気ね、いい事だわ。実にいい事よ」
口角を上げて、薄らではあるも灯花には笑顔を向けていた。
その笑顔、俺にも向けてもらいたいものだが、視線が合うや否や仏頂面に近い顔へ戻ってしまった。
どの表情でも可愛いから別にいいけどさ、なんて思いつつもほんのり不満を残して、学校へ向かうとした。
「治世姉治世姉! 兄ちゃんったら朝から変だったんだよー」
「へえ、そうなの」
「俺は……いつも通りだよ?」
ううむ、この状況。
右手には幼馴染、左手には妹。両手に花とはこの事か。
「どこか、雰囲気が違うような気も……するわね」
「そ、そうかなあ?」
「うんうん、なんかいつもの兄ちゃんと違う感じー」
「顔を見せて」
一度立ち止まり、彼女の細い指が俺の顎に触れる。
くいっと顔の向きを変えられ、治世とまじまじと正面から顔を合わせる。同時に、心臓の鼓動が跳ね上がった。
「いつもと変わらないアホ面ね」
「アホ面!?」
「兄ちゃんアホ面言われてやんのー」
そんな俺の心境を容赦なく崩す彼女の言葉。
溜息までつかれて、辛辣な対応。
だがしかしこのようなふれあいは……悪くはない。
――って、そうじゃない! あまりにも心地がいいからって甘受して酔いしれている場合じゃないぞ俺。
確認をしておかなくちゃあならない。
これは重要な確認だ。
「さあ、行きましょう」
「その前に……質問、いいかな?」
「……何?」
「どうしたの兄ちゃん!」
聞くには少々勇気がいる。
二人の顔を見て、俺は深呼吸をしてから――これは現実……現実なんだと心の中で、自分にしつこいほど言い聞かせて口を開いた。
「君達って、物語の登場人物だよね?」
この質問は、俺の思い違いでなければ……の話ではあるが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――なんていうありきたりな台詞はもう聞き飽きている人もいるのではないだろうか。
割りと使われている気がするこういう書き出しの物語に限ってそんなに面白くなかったりするのだ。
けれど本当に、どうしようもなく現実というのは退屈そのもので、物語のようにはいかない。
どうあがいても、物語を越える事などできないのだ。
そもそもの話からしよう。
そもそも、ああ……そもそも現実と物語とでは登場人物からして大きな差がある。
可愛い妹や美少女の幼馴染、女友達や美人のお姉さんなんかそう都合よく身近にいるわけもなく、主人公の傍によくいる包容力のある友人なんかも現実には中々いない。
果たしてそんな環境下で過ごしている奴はこの世にどれくらいいるのだろう。
何も登場人物だけではない、日常で起きる出来事なんかもそうだ。
華やかな学校生活やラブコメは訪れる気配もないし、入学早々に何かしらトラブルやイベントにも巻き込まれやしない。
ましてやトラックに轢かれて異世界転生なんてするわけもなく、次元が割れて別世界に行くようなビッグイベントも訪れない。
期待するだけならほんの少しだけでもしてもいいのでは? いいや甘い甘い。
期待するだけ無駄なのだ。
それが現実ってもんさ。
……しかしながら。
そんな退屈な現実もたまにはちょっとした誤作動というか、妙な事が起こるもので。
「おはよう」
玄関の扉の先には、少女が一人。
腰まで伸びる艶やかな黒髪、ぱっちり二重まぶたに潤いある唇、ハリのある肌に整った顔立ちは――美少女、いいやこんな簡単な単語じゃあ不釣合いだ。
絶世の、と付けるかそうだな……天が与えたもうた奇跡の降臨、うーん……これは流石に盛りすぎか。
やっぱり美少女の一言で片付けておいたほうがいいかもしれない。
そのやや鋭く冷たい双眸は俺達を照らす陽光ですら暖かさを失いそうでちょいと気になるが、幼馴染が迎えに来てくれている朝というのは最高だね。
しかし現実ではこんなシチュエーションなど滅多にない、物語の世界でなら日常茶飯事かもしれないけれど。
「お、おはよう……」
「治世姉、おはよう!」
後ろから灯花が――妹の、灯花がにゅっと頭を出してくる。
快活な足取りで彼女の元へ。撫でてもらっては屈託の無い笑顔を浮かべていた。俺も撫でてやろうかな。
「今日も元気ね、いい事だわ。実にいい事よ」
口角を上げて、薄らではあるも灯花には笑顔を向けていた。
その笑顔、俺にも向けてもらいたいものだが、視線が合うや否や仏頂面に近い顔へ戻ってしまった。
どの表情でも可愛いから別にいいけどさ、なんて思いつつもほんのり不満を残して、学校へ向かうとした。
「治世姉治世姉! 兄ちゃんったら朝から変だったんだよー」
「へえ、そうなの」
「俺は……いつも通りだよ?」
ううむ、この状況。
右手には幼馴染、左手には妹。両手に花とはこの事か。
「どこか、雰囲気が違うような気も……するわね」
「そ、そうかなあ?」
「うんうん、なんかいつもの兄ちゃんと違う感じー」
「顔を見せて」
一度立ち止まり、彼女の細い指が俺の顎に触れる。
くいっと顔の向きを変えられ、治世とまじまじと正面から顔を合わせる。同時に、心臓の鼓動が跳ね上がった。
「いつもと変わらないアホ面ね」
「アホ面!?」
「兄ちゃんアホ面言われてやんのー」
そんな俺の心境を容赦なく崩す彼女の言葉。
溜息までつかれて、辛辣な対応。
だがしかしこのようなふれあいは……悪くはない。
――って、そうじゃない! あまりにも心地がいいからって甘受して酔いしれている場合じゃないぞ俺。
確認をしておかなくちゃあならない。
これは重要な確認だ。
「さあ、行きましょう」
「その前に……質問、いいかな?」
「……何?」
「どうしたの兄ちゃん!」
聞くには少々勇気がいる。
二人の顔を見て、俺は深呼吸をしてから――これは現実……現実なんだと心の中で、自分にしつこいほど言い聞かせて口を開いた。
「君達って、物語の登場人物だよね?」
この質問は、俺の思い違いでなければ……の話ではあるが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
0
あなたにおすすめの小説
足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。
――僕には才能がなかった。
打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる