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013 穏健派、強硬派
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「高校生活はどうだい、順調?」
「それなりに、ええ、はい……何とか」
十年振りの高校生を昨日から味わってるわけだが、主人公の立ち位置になったおかげで順調もいいとこだ。
「中学の頃とあまり変わらないわ」
「治世は相変わらずぼっちでしょ」
「あ?」
「そ、そういうわけでは……!」
治世の性格が変更される前の場合は、引っ込み思案で俺以外に友達がいないという状態であったが、変更後はなんというか……気難しいというか近寄りがたいような雰囲気のためか、クラスで委員長以外が治世に話しかける生徒はいなかった。
「ふんっ、ぼっちどころかもう友達千人できたわよ」
「通ってる学校の生徒数より多くない?」
「……」
お茶をすすって回答拒否をする治世。
どうしてそんな見栄を張ったのだろう。ここは俺からフォローをいれてやるとしますか。ヒロインを助けるのは主人公の役目なのさ。
「その~……治世には一人、親しくしてくれている子が、います」
「ええっ!?」
「何を驚いてるのよ」
「けれどその子、敵なんですけどね……」
「あ~、治世から聞いた。クラスにいる異能教の子よね、ちゃんと調べたわ
。うーん、その子は友達としてカウントしていいのかしら? いいや駄目ね」
「私だってカウントしてないわよ」
「つまりは、文弥君以外に友達はいないという事じゃない?」
「……」
またまたお茶をすすって回答拒否をする治世だった。
……可愛いな。
「治世は高校でも相変わらずな感じになりそうねえ」
「別に私は変化を求めてないし」
「友達を作るのはいい事だと思うがねえ。かくいう私も、学生時代は友達なんかいなくて、別にいいかななんて一匹狼を貫いていたけれど、一匹狼っていうのはなんとも悲しいものだよ」
「というと?」
「学校を卒業後は、同窓会やら結婚式の招待状やら、何の魅力のない誘いに見えて自分という人間が実につまらない人間になっちまってるのさ、いやはや。こんな大人を作らないためにも君達は友達を作り、思い出を作り、青春を作り、未来を作るべきなんだ」
とはいうものの、その反動で今は人脈を着々と広げているんだよなこの人。
「状況次第では青春どころか未来もないけれどね」
「君達の生活範囲は安全安心を保てるよう努力するよ、監視員は常に潜り込ませているし、敵もそう下手に動けないでしょ。この街にいると過ごしやすくていいものでしょう?」
「おかげさまで」
けれど頼りきりではいけない。
俺だって戦う日がくるかもしれない。
今のうちに美耶子さんに戦い方について教えを乞おうかな。そうすれば異能者と戦闘になっても足を引っ張らないんじゃあなかろうか。
「文弥君のほうは、最近調子どう?」
「調子は、絶好調ですっ」
体が十年前に戻ったのもあって、尚更絶好調。
「そうかいそうかい。絶好調はとても良い事だ、不調なんてなりたくないものさね。君の中には特に、特異が眠っているから体調には気を付けないとね」
「そう、ですね……」
「といっても異能はそんな簡単に力が発動するものじゃあないんだがね。さあ、先ずは異能について話すとしよう」
いつの間にか、場の雰囲気は移り変わっていた。
美耶子さんが煙草に火をつけて、漂わせる煙はゆるやかに空を舞い始める。
「異能とは――簡単に言うと魂の突然変異だ」
「突然変異……ですか」
「そう、そして魂は肉体に影響を及ぼす。そうして人は異能に目覚めるのさ、といっても……異能自体に謎が多くて詳しい説明なんて私にもできないがね」
うん、そういう設定だ。
「君の異能について、話そうか」
「はい、お願いします」
「君は私達と違って、後天性の異能者――特異との体の適性があって、適合したんだ。その経緯は?」
「分かりません、何故自分に?」
いや、分かってはいるんですけどね。
でも説明役として美耶子さんがいるのだから、ここは仕事を取らないでおこう。
「君は子供の頃に重度の肺炎で入院した事があったろう?」
「……ええ、ありましたね」
俺自身はない。主人公・公人の過去だ。
「君が入院していた病院は密かに異能の研究をしていてね。異能教の奴らや治世の両親達が働いていたのさ」
「治世の両親が?」
「ああ、元々はこの子の両親が異能の研究を始めたんだよ、私はその助手だった。科学で異能を調べ、異能の中でも特別な――特異を見つけ出したんだ。特異は十代の少女が所持していたんだが、事故で亡くなって病院で調べられていたのさ。そして特異を取り出す事に成功した、科学っていうのはすごいもんだねえ、もはや魔法だよ魔法」
異能もまさに魔法とも言えるんだがね。
「そんで宗教の道具として利用しようとする異能教と衝突して……治世の両親は特異をどこかへ隠そうとした結果、偶然君の中へってわけ」
「なるほど。そういう経緯が……」
あったわけなんです。
俺の中にどうして特異があるのかのおさらい、終わり。
「この事実を知っているのは私達だけで、異能教は特異を誰が持っているのかをずっと探しているってわけだ」
「異能教の中に両親の仇がいる。絶対に見つけ出して、ついでに異能教を潰してやるんだから」
ごめんよ治世。
俺が考えた設定のせいで、君は両親を亡くす事になってしまって……。
「異能教についてはどこまで知ってる?」
「な、名前だけなら……」
全部知ってますなんて言えない。
「名前を知っているだけでも十分ってもんだね。異能教は簡単に言うと宗教団体なんだが、異能について昔から調べている連中でね。しかし謎の多い組織だよ、全体ではどれくらいいるのかも不明だ」
「日常の中にも、異能教の教徒が潜り込んでるんですよね……」
「ああ、十分に注意してくれ。異能教については日々調べを進めている、何か分かったらすぐに教えるよ」
「異能教に俺の家族が狙われる可能性は……」
「それは大丈夫、私が万全のサポートを行っているからね。自宅に乗り込まれる心配もしなくていい」
今は問題ないだろう、ラトタタと委員長のみがこの街にいるだけだからね。
異能教は全国に点々としていて、一か所にすぐ猛者達が集合する事はない。
この街では勢力としては比較的手薄になっている。形勢としてはこちらが有利だ、異能教側のほうがこそこそと動かねばなるまい。
「虫使いの異能者――ええっと、なんだっけ?」
「ラトタタ」
「そう、ラトタタのほうは常々探してはいるが、隠れるのが上手いねえあの子。未だに尻尾が掴めないわ」
「ふんっ、まあいいわ。もう一人のほうは?」
「文弥君の言っていたあの子か。異能教穏健派の、あー……委員長葵は、今は特に動きは見せてないねえ。ここ数日の行動記録を調べたけれど正直、異能教なのかも分からないくらいに、普通の女子高生ね」
「……文弥、本当にあいつは異能教なの?」
「そ、そのはず……」
「君がどこでその情報を得たのかは知らないが、警戒はしとくさ。なんてったって異能教の教徒は身分を隠すのが上手い。さて、ここまでで何か質問はあるかな?」
「うぅ……」
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です……」
頭を抱えて俺は自ら作り出した黒歴史に、度々心に大きなダメージを負っていた。
俺ってば……先輩にこの話をドヤ顔で説明してたんだよなあ。
先輩はいつも優しい笑顔で聞いてくれていたから、もう早口であれこれ説明していたが今思い返すと本当に、いたたたたた……。
「質問のほうは、特には……大丈夫です」
「あら、意外とあっさりしてるわねえ」
「いや、はは……」
話し続けたからか、休憩と言わんばかりに美耶子さんは二本目の煙草に火をつけた。
治世は嫌そうに表情を歪めているが、しかし灰皿をそっと美耶子さんのほうへと寄せてくれていた。こういう気配りがね、いいよこの子。俺に対してはどうしてか冷たい対応になっちゃってるけど、きっとそのうち気配りをしてくれるはずさ。
信じてるよ、信じていいんだよね?
三人で熱を保ったお茶を新たに注いで、ゆっくりと飲みながら軽い休憩を挟んだ。
気持ちや思考の整理をする間を与えてくれているのであろうが、正直全部把握している俺には別に必要ない。
美耶子さんは煙草を灰皿に押し付けて、
「よし、これからについての話をしよう。君は異能教の他に、一般の組織にも狙われる可能性があるから絶対に特異については他言無用だよ」
「一般の組織、ですか」
そういえばそうだったなあと……密かに思う。
「特異を欲しがる連中もいれば、特異を危険視して殺してしまおうっていう連中もいる。一般人にとって我々異能者は危険そのものだからね、特異となると尚更だ」
思い返すと、俺の立場って本当にやばい。
冷や汗が頬を伝う。
今自分が安全に過ごしていられるのは美弥子さんの影響力あってこそだ。
特異の情報も隠してくれているし、怪しい勢力は牽制してくれてもいる。けれども、異能教のように構わずやってくる組織もいる。その辺を頭に入れておかなくては。
この安全は、昨日のように一瞬で崩される可能性は、大いにある。俺の考えた物語なのだから、そりゃもう大いに、ある。
こうなるのならもっとほのぼの日常ラブコメにしておけばよかったよ。
「異能教としては、特異適合者の文弥は生かしておきたいのよね」
「穏健派はそうだろうねえ。強硬派はどうか知らないけど。特異は取り出す事が可能だと証明されているから、殺しにくるかもしれないけれど、折角の適合者、他にすぐ適合者が見つかるとは限らないから……捕獲ってとこかしらね」
その認識で合っている。
ただ、場合によっては特異のみ回収に走る――ってだけだ。
「ラトタタも穏健派であればよかったんだがねえ。強硬派なだけあってこの街に来てすぐに問題を起こしてくれて困ったものよ」
「少しの間は落ち着きますので……」
「あー、なんか寝床探しなんかに時間を使うんだって? そうしてくれるとありがたいね、警察にも一々お呼ばれされちゃあ敵わん」
警察の手に負えないものは当然美耶子さんに連絡がいく。
呼び出しは夜中が多いので美耶子さんにとってはその時点で面倒な案件でしかないのだ。
「その他には――原稿を使った異能者ね」
「原稿?」
「文弥、持ってきてる?」
「あ、うん」
鞄から二枚の原稿を取り出して美耶子さんに見せる。
訝しげに原稿を見ては載っている文章に目を通し、やや首を傾げていた。
「この文章は……」
「書いてある事はその後実際に起きたのよ、ラトタタのほうにも原稿が渡っていて、それで私達の事が知られたの」
「ほう……。原稿に未来を写す異能ってとこならば、これまた一風変わった異能だねえ」
当然、俺の書いた物語でもそんな異能者は存在しない。
一体何なんだこの原稿も、この書き手も。
「これはぁ……君達とラトタタを引き合わせるのを目的に原稿を渡したのかねえ? だとしたら敵とみていいが、君のほうに渡ったこの原稿は、別に何か目的があったわけでもないように思えるね。ふふっ、観察って……」
「あ、いや……観察っていうのは、別に……」
俺はすぐに原稿を返してもらい、鞄の中へと押し込んだ。
一枚目の原稿は、ただ治世を観察していた描写のみだった。こんなものまで原稿として出してきて、今一目的が分からない。
俺に精神ダメージを与えるというのが目的であるならば、効果大ではあったが。
隣からは冷たい視線が向けられている、目線は合わせないでおこう。
「しかしまいったね。強硬派のラトタタに原稿の異能者、クラスには穏健派の委員長葵、と……一気に敵が湧いてきたもんだ」
「面倒ね。委員長はもう拷問して全部吐かせたほうがいいんじゃないかしら」
「一理あるさね」
「いやいやいや!」
「冗談冗談」
二人して恐ろしい会話を繰り広げてくれるもんだ。
冗談ならばもう少し笑顔を作っておいてもらいたいね。
「それなりに、ええ、はい……何とか」
十年振りの高校生を昨日から味わってるわけだが、主人公の立ち位置になったおかげで順調もいいとこだ。
「中学の頃とあまり変わらないわ」
「治世は相変わらずぼっちでしょ」
「あ?」
「そ、そういうわけでは……!」
治世の性格が変更される前の場合は、引っ込み思案で俺以外に友達がいないという状態であったが、変更後はなんというか……気難しいというか近寄りがたいような雰囲気のためか、クラスで委員長以外が治世に話しかける生徒はいなかった。
「ふんっ、ぼっちどころかもう友達千人できたわよ」
「通ってる学校の生徒数より多くない?」
「……」
お茶をすすって回答拒否をする治世。
どうしてそんな見栄を張ったのだろう。ここは俺からフォローをいれてやるとしますか。ヒロインを助けるのは主人公の役目なのさ。
「その~……治世には一人、親しくしてくれている子が、います」
「ええっ!?」
「何を驚いてるのよ」
「けれどその子、敵なんですけどね……」
「あ~、治世から聞いた。クラスにいる異能教の子よね、ちゃんと調べたわ
。うーん、その子は友達としてカウントしていいのかしら? いいや駄目ね」
「私だってカウントしてないわよ」
「つまりは、文弥君以外に友達はいないという事じゃない?」
「……」
またまたお茶をすすって回答拒否をする治世だった。
……可愛いな。
「治世は高校でも相変わらずな感じになりそうねえ」
「別に私は変化を求めてないし」
「友達を作るのはいい事だと思うがねえ。かくいう私も、学生時代は友達なんかいなくて、別にいいかななんて一匹狼を貫いていたけれど、一匹狼っていうのはなんとも悲しいものだよ」
「というと?」
「学校を卒業後は、同窓会やら結婚式の招待状やら、何の魅力のない誘いに見えて自分という人間が実につまらない人間になっちまってるのさ、いやはや。こんな大人を作らないためにも君達は友達を作り、思い出を作り、青春を作り、未来を作るべきなんだ」
とはいうものの、その反動で今は人脈を着々と広げているんだよなこの人。
「状況次第では青春どころか未来もないけれどね」
「君達の生活範囲は安全安心を保てるよう努力するよ、監視員は常に潜り込ませているし、敵もそう下手に動けないでしょ。この街にいると過ごしやすくていいものでしょう?」
「おかげさまで」
けれど頼りきりではいけない。
俺だって戦う日がくるかもしれない。
今のうちに美耶子さんに戦い方について教えを乞おうかな。そうすれば異能者と戦闘になっても足を引っ張らないんじゃあなかろうか。
「文弥君のほうは、最近調子どう?」
「調子は、絶好調ですっ」
体が十年前に戻ったのもあって、尚更絶好調。
「そうかいそうかい。絶好調はとても良い事だ、不調なんてなりたくないものさね。君の中には特に、特異が眠っているから体調には気を付けないとね」
「そう、ですね……」
「といっても異能はそんな簡単に力が発動するものじゃあないんだがね。さあ、先ずは異能について話すとしよう」
いつの間にか、場の雰囲気は移り変わっていた。
美耶子さんが煙草に火をつけて、漂わせる煙はゆるやかに空を舞い始める。
「異能とは――簡単に言うと魂の突然変異だ」
「突然変異……ですか」
「そう、そして魂は肉体に影響を及ぼす。そうして人は異能に目覚めるのさ、といっても……異能自体に謎が多くて詳しい説明なんて私にもできないがね」
うん、そういう設定だ。
「君の異能について、話そうか」
「はい、お願いします」
「君は私達と違って、後天性の異能者――特異との体の適性があって、適合したんだ。その経緯は?」
「分かりません、何故自分に?」
いや、分かってはいるんですけどね。
でも説明役として美耶子さんがいるのだから、ここは仕事を取らないでおこう。
「君は子供の頃に重度の肺炎で入院した事があったろう?」
「……ええ、ありましたね」
俺自身はない。主人公・公人の過去だ。
「君が入院していた病院は密かに異能の研究をしていてね。異能教の奴らや治世の両親達が働いていたのさ」
「治世の両親が?」
「ああ、元々はこの子の両親が異能の研究を始めたんだよ、私はその助手だった。科学で異能を調べ、異能の中でも特別な――特異を見つけ出したんだ。特異は十代の少女が所持していたんだが、事故で亡くなって病院で調べられていたのさ。そして特異を取り出す事に成功した、科学っていうのはすごいもんだねえ、もはや魔法だよ魔法」
異能もまさに魔法とも言えるんだがね。
「そんで宗教の道具として利用しようとする異能教と衝突して……治世の両親は特異をどこかへ隠そうとした結果、偶然君の中へってわけ」
「なるほど。そういう経緯が……」
あったわけなんです。
俺の中にどうして特異があるのかのおさらい、終わり。
「この事実を知っているのは私達だけで、異能教は特異を誰が持っているのかをずっと探しているってわけだ」
「異能教の中に両親の仇がいる。絶対に見つけ出して、ついでに異能教を潰してやるんだから」
ごめんよ治世。
俺が考えた設定のせいで、君は両親を亡くす事になってしまって……。
「異能教についてはどこまで知ってる?」
「な、名前だけなら……」
全部知ってますなんて言えない。
「名前を知っているだけでも十分ってもんだね。異能教は簡単に言うと宗教団体なんだが、異能について昔から調べている連中でね。しかし謎の多い組織だよ、全体ではどれくらいいるのかも不明だ」
「日常の中にも、異能教の教徒が潜り込んでるんですよね……」
「ああ、十分に注意してくれ。異能教については日々調べを進めている、何か分かったらすぐに教えるよ」
「異能教に俺の家族が狙われる可能性は……」
「それは大丈夫、私が万全のサポートを行っているからね。自宅に乗り込まれる心配もしなくていい」
今は問題ないだろう、ラトタタと委員長のみがこの街にいるだけだからね。
異能教は全国に点々としていて、一か所にすぐ猛者達が集合する事はない。
この街では勢力としては比較的手薄になっている。形勢としてはこちらが有利だ、異能教側のほうがこそこそと動かねばなるまい。
「虫使いの異能者――ええっと、なんだっけ?」
「ラトタタ」
「そう、ラトタタのほうは常々探してはいるが、隠れるのが上手いねえあの子。未だに尻尾が掴めないわ」
「ふんっ、まあいいわ。もう一人のほうは?」
「文弥君の言っていたあの子か。異能教穏健派の、あー……委員長葵は、今は特に動きは見せてないねえ。ここ数日の行動記録を調べたけれど正直、異能教なのかも分からないくらいに、普通の女子高生ね」
「……文弥、本当にあいつは異能教なの?」
「そ、そのはず……」
「君がどこでその情報を得たのかは知らないが、警戒はしとくさ。なんてったって異能教の教徒は身分を隠すのが上手い。さて、ここまでで何か質問はあるかな?」
「うぅ……」
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です……」
頭を抱えて俺は自ら作り出した黒歴史に、度々心に大きなダメージを負っていた。
俺ってば……先輩にこの話をドヤ顔で説明してたんだよなあ。
先輩はいつも優しい笑顔で聞いてくれていたから、もう早口であれこれ説明していたが今思い返すと本当に、いたたたたた……。
「質問のほうは、特には……大丈夫です」
「あら、意外とあっさりしてるわねえ」
「いや、はは……」
話し続けたからか、休憩と言わんばかりに美耶子さんは二本目の煙草に火をつけた。
治世は嫌そうに表情を歪めているが、しかし灰皿をそっと美耶子さんのほうへと寄せてくれていた。こういう気配りがね、いいよこの子。俺に対してはどうしてか冷たい対応になっちゃってるけど、きっとそのうち気配りをしてくれるはずさ。
信じてるよ、信じていいんだよね?
三人で熱を保ったお茶を新たに注いで、ゆっくりと飲みながら軽い休憩を挟んだ。
気持ちや思考の整理をする間を与えてくれているのであろうが、正直全部把握している俺には別に必要ない。
美耶子さんは煙草を灰皿に押し付けて、
「よし、これからについての話をしよう。君は異能教の他に、一般の組織にも狙われる可能性があるから絶対に特異については他言無用だよ」
「一般の組織、ですか」
そういえばそうだったなあと……密かに思う。
「特異を欲しがる連中もいれば、特異を危険視して殺してしまおうっていう連中もいる。一般人にとって我々異能者は危険そのものだからね、特異となると尚更だ」
思い返すと、俺の立場って本当にやばい。
冷や汗が頬を伝う。
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特異の情報も隠してくれているし、怪しい勢力は牽制してくれてもいる。けれども、異能教のように構わずやってくる組織もいる。その辺を頭に入れておかなくては。
この安全は、昨日のように一瞬で崩される可能性は、大いにある。俺の考えた物語なのだから、そりゃもう大いに、ある。
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「穏健派はそうだろうねえ。強硬派はどうか知らないけど。特異は取り出す事が可能だと証明されているから、殺しにくるかもしれないけれど、折角の適合者、他にすぐ適合者が見つかるとは限らないから……捕獲ってとこかしらね」
その認識で合っている。
ただ、場合によっては特異のみ回収に走る――ってだけだ。
「ラトタタも穏健派であればよかったんだがねえ。強硬派なだけあってこの街に来てすぐに問題を起こしてくれて困ったものよ」
「少しの間は落ち着きますので……」
「あー、なんか寝床探しなんかに時間を使うんだって? そうしてくれるとありがたいね、警察にも一々お呼ばれされちゃあ敵わん」
警察の手に負えないものは当然美耶子さんに連絡がいく。
呼び出しは夜中が多いので美耶子さんにとってはその時点で面倒な案件でしかないのだ。
「その他には――原稿を使った異能者ね」
「原稿?」
「文弥、持ってきてる?」
「あ、うん」
鞄から二枚の原稿を取り出して美耶子さんに見せる。
訝しげに原稿を見ては載っている文章に目を通し、やや首を傾げていた。
「この文章は……」
「書いてある事はその後実際に起きたのよ、ラトタタのほうにも原稿が渡っていて、それで私達の事が知られたの」
「ほう……。原稿に未来を写す異能ってとこならば、これまた一風変わった異能だねえ」
当然、俺の書いた物語でもそんな異能者は存在しない。
一体何なんだこの原稿も、この書き手も。
「これはぁ……君達とラトタタを引き合わせるのを目的に原稿を渡したのかねえ? だとしたら敵とみていいが、君のほうに渡ったこの原稿は、別に何か目的があったわけでもないように思えるね。ふふっ、観察って……」
「あ、いや……観察っていうのは、別に……」
俺はすぐに原稿を返してもらい、鞄の中へと押し込んだ。
一枚目の原稿は、ただ治世を観察していた描写のみだった。こんなものまで原稿として出してきて、今一目的が分からない。
俺に精神ダメージを与えるというのが目的であるならば、効果大ではあったが。
隣からは冷たい視線が向けられている、目線は合わせないでおこう。
「しかしまいったね。強硬派のラトタタに原稿の異能者、クラスには穏健派の委員長葵、と……一気に敵が湧いてきたもんだ」
「面倒ね。委員長はもう拷問して全部吐かせたほうがいいんじゃないかしら」
「一理あるさね」
「いやいやいや!」
「冗談冗談」
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