14 / 34
014 クソ雑魚
しおりを挟む
「こちらから下手に動くのはやめておいたほうがいいだろう。逆に敵だと分かり切っているのだから、じっくり観察して尻尾を出すのを待とうじゃないか。どうせ釣るなら大物を釣りたいでしょう?」
「美味しくいただけるのなら、小物でも構わないわ」
「はぁ……治世ったらどうしてこんな野蛮な子に育っちゃったのかしら」
「育て親は良かったんだけど育てた親代わりの人が悪かったんじゃない?」
「言ってくれるねえ」
二人の関係性からしてこのやり取りは弄り合いみたいなものなのだろうが、治世の性格が本来のものとは違うためにひやひやする。
「とりあえずは様子見して、慎重にね。あと、彼をちゃんと守るのよ」
「分かってる。こいつを守るのは不本意で面倒でただ大変でだるいだけだけど」
「そんなに言う?」
「ちっ」
「舌打ちやめて?」
俺を守るのが使命だと自ら望んで守ってた性格変更前の君が恋しいよ。
「そうだ文弥君、特異の発動はできるかい?」
「発動、ですか……ど、どうやって?」
「なんて説明すればいいかしらね。んー……そうだなあ、君は異能を自由に操れる異能、だったはずだから、私達に意識を向けて――」
「ちょっと、発動させて大丈夫なの?」
治世は不安そうに俺を見つめてくる。
そんな爆弾でも見るかのような視線はやめてほしいな。
「特異って、あまりにも強力な力で、暴走するかもしれないって話もしてたじゃない」
そうなの?
設定を考えた俺も初耳なんだけどそれは。忘れてるだけかな、うーむ、しっかり思い出していかないとな。
物語を考えた作者として、設定を覚えていないというのは作者失格だぞ俺よ。だから泣かず飛ばずで作家になれなかったんじゃないか、ああ、自分で自分を追い込むのはやめておこう、泣きたくなる。
「すぐに引っ込めれば大丈夫じゃない?」
「……あ、そう」
「さあ、では意識してみよう!」
意識してと言われましても……。
とりあえず、治世のほうを向いてみる。
君の異能を俺の特異で発動させてみたいから……手を、触っていいかな?
「痛いっ」
普通にぺしんっ、と叩かれた。
……どうして?
「こらこら治世~」
「だって、いきなり触ってくるんですもの」
「じゃあそっとならいい?」
「駄目だけど」
「世知辛い!」
分かりましたよ、触らないで意識するだけしてみますよ。
治世の異能を意識して~……。
して~?
思えば、俺には特異が宿っている――とはいっても、その使い方は設定で把握しているのみ。
えーっと……。
魂を、引き出す感じ……だったか、思い出せ、思い出すんだ俺よ。
「最初だから、ゆっくり深呼吸して、自分の中に……そうね、球体があるのをイメージして」
「球体、自分の中に……」
彼女の言葉を反芻し、集中する。
うんうん、そんな感じだったかも。
「次はそれを外に引き出すイメージよ」
「ぬぉぉぉぉお!」
「そんな迫真の声あげなくてもいいから」
「あ、はい」
でもなんか声を出せば出る気がしない?
っと、いかんいかん。集中せねば。
「…………どう?」
「むむむ……」
五分くらい経過したが、何か起きる気配もない。美耶子さんのお茶をすする音が虚しく漂うだけだった。
おかしいな、ちゃんと異能が出るよう意識してやっているんだが。
特異が発動されているのであれば、治世や美耶子さんは違和感を感じるはず。しかし何もないとなると、異能が発動されていないのか……?
「そう簡単にはいかないか」
「こ、こんなはずでは……」
「まだ完全には目覚めてないから発動できないのかもしれないね」
「なら文弥は、今はただのクソ雑魚ね」
「クソ雑魚て」
けれども反論できない自分がいる。
俺の書いた物語の主人公は、特異を持っているだけの一般人。身体能力が高いわけではない。その立ち位置にいる俺も、同様であって。
「まあ、じっくりやっていこうじゃないの。特異は暴走する可能性を考慮するとこのままでもいいのかもしれないし」
「そんな余裕を持っていていいのかしら」
「いいのいいの。やる時やれば、ね? ああ、私の異能も見るかい?」
「是非とも!」
腰が上がりそうになるのを堪えた。
治世の異能もそうだけど、他の異能者の能力は兎に角この目で見たい。
「よーし、じゃあここに五百円玉がありまして~」
親指と人差し指で五百円玉をつまみ、美耶子さんはゆっくりと指を閉じていく。
その際に右腕はまるで筋肉質の男性のように膨張し、見るからに異質。
そして五百円玉はなんの抵抗もなく、いともたやすく曲がってしまった。
「おお……」
「タネも仕掛けもございません、あるのは異能だけってね」
それを俺に投げ渡す。
力を入れてみるも当然、元に戻す事など俺には不可能だ。
「本気を出せばそのまま折る事も破る事も潰す事もできるがね、五百円玉があると煙草一箱買えるからやめておくよ。とりあえず、私の異能は馬鹿力とでも思ってくれ」
美耶子さん、実は十年後には煙草も値上がりして五百円玉のみじゃあ買えなくなるんですよ、なんて。
五百円玉を返すと、美弥子さんはこれまた容易く元通りにしてみせた。
「さぁて、大体の説明は終わったね。何か分からない点はあるかい?」
「いえ、ご説明ありがとうございます」
俺の書いた物語はさらっと大体の状況説明のパートは終えたってとこだ。
「すんなり受け入れるね君」
「さ、最近の若者は感受性高いんですよ」
「すごいねえ最近の若者は」
中身は二十代半ばなんですけどね。
「皆がそうじゃないわ。文弥だけよ、こうも普通にしてられるのは」
「いやあ、非現実的な事が起こりすぎたから受け入れるしかないしさ!」
もうちょっと深刻そうに考え込む様子とか出しておいたほうがよかったかな?
思えば確かに、不自然なほどすんなり受け入れすぎてる。
本来は……公人は説明を聞いて、混乱する中ようやく落ち着いて、一度家に帰るんだったな。
今からでもそうするか?
……逆に不自然か。
「気持ちの整理とか必要かと思ったけど、大丈夫そうだね。安心したよ、けれど文弥くん……何だか前より雰囲気変わったねえ」
「そ、そうですか?」
「こいつ、昨日から様子が変なの。なんかずっとそわそわしてるし、クラスではぎこちないし、今日は文芸部を再建しようだなんて言い出したのよ」
「変なものでも食べた?」
「いえ、ご心配なく!」
そうして美弥子さんとの会話イベントも終えて、俺達は帰路についた。
事務所を出ると外はすっかり夜の帳が下り始めていた。
帰りは治世に送られたわけだが、夜中はあまり出歩かない事、何かあったらすぐに連絡する事など、注意事項を説明されてどこか過保護にされているような気分だった。
なんだか……主人公としては、ただただ守られているような感じだ。もう少し活躍の場面を取り入れればよかったかな。
「美味しくいただけるのなら、小物でも構わないわ」
「はぁ……治世ったらどうしてこんな野蛮な子に育っちゃったのかしら」
「育て親は良かったんだけど育てた親代わりの人が悪かったんじゃない?」
「言ってくれるねえ」
二人の関係性からしてこのやり取りは弄り合いみたいなものなのだろうが、治世の性格が本来のものとは違うためにひやひやする。
「とりあえずは様子見して、慎重にね。あと、彼をちゃんと守るのよ」
「分かってる。こいつを守るのは不本意で面倒でただ大変でだるいだけだけど」
「そんなに言う?」
「ちっ」
「舌打ちやめて?」
俺を守るのが使命だと自ら望んで守ってた性格変更前の君が恋しいよ。
「そうだ文弥君、特異の発動はできるかい?」
「発動、ですか……ど、どうやって?」
「なんて説明すればいいかしらね。んー……そうだなあ、君は異能を自由に操れる異能、だったはずだから、私達に意識を向けて――」
「ちょっと、発動させて大丈夫なの?」
治世は不安そうに俺を見つめてくる。
そんな爆弾でも見るかのような視線はやめてほしいな。
「特異って、あまりにも強力な力で、暴走するかもしれないって話もしてたじゃない」
そうなの?
設定を考えた俺も初耳なんだけどそれは。忘れてるだけかな、うーむ、しっかり思い出していかないとな。
物語を考えた作者として、設定を覚えていないというのは作者失格だぞ俺よ。だから泣かず飛ばずで作家になれなかったんじゃないか、ああ、自分で自分を追い込むのはやめておこう、泣きたくなる。
「すぐに引っ込めれば大丈夫じゃない?」
「……あ、そう」
「さあ、では意識してみよう!」
意識してと言われましても……。
とりあえず、治世のほうを向いてみる。
君の異能を俺の特異で発動させてみたいから……手を、触っていいかな?
「痛いっ」
普通にぺしんっ、と叩かれた。
……どうして?
「こらこら治世~」
「だって、いきなり触ってくるんですもの」
「じゃあそっとならいい?」
「駄目だけど」
「世知辛い!」
分かりましたよ、触らないで意識するだけしてみますよ。
治世の異能を意識して~……。
して~?
思えば、俺には特異が宿っている――とはいっても、その使い方は設定で把握しているのみ。
えーっと……。
魂を、引き出す感じ……だったか、思い出せ、思い出すんだ俺よ。
「最初だから、ゆっくり深呼吸して、自分の中に……そうね、球体があるのをイメージして」
「球体、自分の中に……」
彼女の言葉を反芻し、集中する。
うんうん、そんな感じだったかも。
「次はそれを外に引き出すイメージよ」
「ぬぉぉぉぉお!」
「そんな迫真の声あげなくてもいいから」
「あ、はい」
でもなんか声を出せば出る気がしない?
っと、いかんいかん。集中せねば。
「…………どう?」
「むむむ……」
五分くらい経過したが、何か起きる気配もない。美耶子さんのお茶をすする音が虚しく漂うだけだった。
おかしいな、ちゃんと異能が出るよう意識してやっているんだが。
特異が発動されているのであれば、治世や美耶子さんは違和感を感じるはず。しかし何もないとなると、異能が発動されていないのか……?
「そう簡単にはいかないか」
「こ、こんなはずでは……」
「まだ完全には目覚めてないから発動できないのかもしれないね」
「なら文弥は、今はただのクソ雑魚ね」
「クソ雑魚て」
けれども反論できない自分がいる。
俺の書いた物語の主人公は、特異を持っているだけの一般人。身体能力が高いわけではない。その立ち位置にいる俺も、同様であって。
「まあ、じっくりやっていこうじゃないの。特異は暴走する可能性を考慮するとこのままでもいいのかもしれないし」
「そんな余裕を持っていていいのかしら」
「いいのいいの。やる時やれば、ね? ああ、私の異能も見るかい?」
「是非とも!」
腰が上がりそうになるのを堪えた。
治世の異能もそうだけど、他の異能者の能力は兎に角この目で見たい。
「よーし、じゃあここに五百円玉がありまして~」
親指と人差し指で五百円玉をつまみ、美耶子さんはゆっくりと指を閉じていく。
その際に右腕はまるで筋肉質の男性のように膨張し、見るからに異質。
そして五百円玉はなんの抵抗もなく、いともたやすく曲がってしまった。
「おお……」
「タネも仕掛けもございません、あるのは異能だけってね」
それを俺に投げ渡す。
力を入れてみるも当然、元に戻す事など俺には不可能だ。
「本気を出せばそのまま折る事も破る事も潰す事もできるがね、五百円玉があると煙草一箱買えるからやめておくよ。とりあえず、私の異能は馬鹿力とでも思ってくれ」
美耶子さん、実は十年後には煙草も値上がりして五百円玉のみじゃあ買えなくなるんですよ、なんて。
五百円玉を返すと、美弥子さんはこれまた容易く元通りにしてみせた。
「さぁて、大体の説明は終わったね。何か分からない点はあるかい?」
「いえ、ご説明ありがとうございます」
俺の書いた物語はさらっと大体の状況説明のパートは終えたってとこだ。
「すんなり受け入れるね君」
「さ、最近の若者は感受性高いんですよ」
「すごいねえ最近の若者は」
中身は二十代半ばなんですけどね。
「皆がそうじゃないわ。文弥だけよ、こうも普通にしてられるのは」
「いやあ、非現実的な事が起こりすぎたから受け入れるしかないしさ!」
もうちょっと深刻そうに考え込む様子とか出しておいたほうがよかったかな?
思えば確かに、不自然なほどすんなり受け入れすぎてる。
本来は……公人は説明を聞いて、混乱する中ようやく落ち着いて、一度家に帰るんだったな。
今からでもそうするか?
……逆に不自然か。
「気持ちの整理とか必要かと思ったけど、大丈夫そうだね。安心したよ、けれど文弥くん……何だか前より雰囲気変わったねえ」
「そ、そうですか?」
「こいつ、昨日から様子が変なの。なんかずっとそわそわしてるし、クラスではぎこちないし、今日は文芸部を再建しようだなんて言い出したのよ」
「変なものでも食べた?」
「いえ、ご心配なく!」
そうして美弥子さんとの会話イベントも終えて、俺達は帰路についた。
事務所を出ると外はすっかり夜の帳が下り始めていた。
帰りは治世に送られたわけだが、夜中はあまり出歩かない事、何かあったらすぐに連絡する事など、注意事項を説明されてどこか過保護にされているような気分だった。
なんだか……主人公としては、ただただ守られているような感じだ。もう少し活躍の場面を取り入れればよかったかな。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
断罪されそうになった侯爵令嬢、頭のおかしい友人のおかげで冤罪だと証明されるが二重の意味で周囲から同情される。
あの時削ぎ落とした欲
恋愛
学園の卒業パーティで婚約者のお気に入りを苛めたと身に覚えの無いことで断罪されかける侯爵令嬢エリス。
その断罪劇に乱入してきたのはエリスの友人である男爵令嬢ニナだった。彼女の片手には骨付き肉が握られていた。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる
ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる