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021 ちゃんと見ていた
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そうしてやや時間が掛かりつつも到着したボウリング場。
このボウリング場は昔からあってちらほら老朽化も見えていたのだが、ここでも物語の影響があったようで、建物はつい最近建てられたかのように綺麗なものになっていた。
……違うな。
建物は一回り大きく、別物になってしまっているぞ。
ボウリング場というより中規模のショッピングモールだ。
中に入ると数々の店に、休憩スペース、おやおやゲームセンターまでもあるんかい。十年前の記憶と明らかに違う、これも物語の影響だな。
「休日はやはり人が多いですねえ」
「そうだねえ……めっちゃ、多いね」
こんな光景、見るのは当然初めてだ。彼女にとっては当たり前の光景なのかもしれないが。
しかし女の子とボウリングなんて初めてだな。
どうせなら治世と行きたかったなあ。
「そりゃ~」
いざボウリングが始まった。
彼女のボールはまるで千鳥足のようにふらつきながらピンへと向かっていく。
「あれりゃ。1ピンしか倒せませんでした」
「どんまいどんまい」
本当はボウリングくらい難なくこなせるのに、こういうとこでもか弱い少女を演じている。それは分かってはいるけれど……頬が緩んでしまう。
普通に楽し――いかんいかん! 彼女のペースに飲み込まれているな……。
「ちょっとトイレに行ってくるよ」
「ごゆっくり~」
気持ちを切り替えねば。目的を忘れてしまいそうになる。
洗面台に視線を落として小さな溜息をついた。
経験不足が響いている。そのためにこの機は逃さず貪欲に、いいや純粋に、楽しみたいと思ってしまっているのだ。
しっかりするんだ俺、と顔を上げた。
「ん?」
鏡に映る俺、その後ろには――治世がいた。
「ほぁぁぁぁあ……!」
彼女は鏡越しに俺を睨み、ゆらりとした足取りで近づいてくる。
肩に手を置き、振り向かせて――
「楽しそうね」
同時に壁ドン。あっ、この場合は鏡ドン? どうでもいいか。
ミシミシと音が聞こえる、鏡……割らないよう気をつけてね。
「その、えっと……ごめんなさい」
「どうして謝るの? 委員長と楽しんでたから?」
「そ、そういうわけじゃあ……ってかここ、男子トイレだけど……」
「それがどうかしたの?」
「どうもしないです」
話をはぐらかそうとしているわけではないが、余計な会話を持ち出すのは得策ではないな。
「あの」
「何よ」
「いえ、てっきり近くにはいないものだと」
「そんなわけないでしょ。お前とあの子を二人きりにするのは危険だって私も分かってるわ」
「そ、そうだよね。……今からでも、混ざる?」
「結構よ、どうぞ私抜きで楽しんで。私は遠くからお前達の様子を窺っているわ、もしかしたらラトタタを見つけられるかもしれないから」
「そ、そうですか……」
治世は一度男子トイレの入り口へ行き、誰も来ない事を確認して壁に持たれかけていた清掃中の看板を入り口へ立てかけた。
周囲を確認し、これでよし、と言わんばかりに小さく頷き、ゆっくりとこちらを向く。
俺は男子トイレから生きて出られるのだろうか。
死に場所がここになるのだけは避けたい。
「喫茶店では、何を話してたの?」
「えっ、その時も……見てたの?」
「は? 悪い?」
「いえいえっ! 何も悪くはございません!」
帰るふりだけして近くにずっといたようだ。
彼女がこうも不機嫌そうなのは、あれから俺と委員長が喫茶店でお茶をしては、今度はボウリングを楽しみ始めたからであろう。
すぐにでもスマホで治世に連絡を取るべきだった。これじゃあまた悪い印象を与えてしまったかも。
「喫茶店では取るに足らない話で、ただこのまま解散ってのもアレなんでボウリングにという流れでして……はい」
「……あ、そう」
その双眸は未だに鋭く、機嫌はまだ完全には直ってはいないようで不機嫌そうに腕を組んでいた。
正座でもしたほうがいいのだろうか。
「彼女、何か動きは見せたりした?」
「今のところは何も。けど委員長はラトタタに見つけてもらえるよう街中を歩いているから、街中に紛れ込んでる教徒から既に伝達されてるかも」
「そうなの? じゃあどうしましょうか、どう……してやりましょうか」
腰の小さなポーチに手を伸ばしていた。
……何が入っているのかは、聞かないでおこう。
「あの、一つ提案があるんだけど」
「何?」
考えていた事がある。
悪い提案ではない、とは思うのだが。
「俺の特異の事、バレるのが時間の問題なら逆にこっちからもう話しちゃってもいいかな?」
「あえて話して、どう動くか見るって事?」
「そんなとこ」
「……いいかもね。真正面からぶつかったほうが手っ取り早いし、全力で殴りあいましょうってわけね」
「いやそんな好戦的な考えではなかったんだけど……」
どうしてやる気に満ち溢れているの君。
そんなに戦いたかったのかな。
「良かったわ、お前もただ遊んでたわけじゃないのね」
「し、正直言うと……ちょっと、楽しんでたのは、事実」
「ふうん?」
ここは、素直に打ち明けよう。
だがただ打ち明けるのではない、ちゃんと好感度を上げるための台詞を言わなくちゃ。
「でも君と一緒じゃないから、心の底からは楽しめてなかったよ」
「……そ、そう。……ったく……りと、言うわね」
「え、何?」
「なんでもない」
治世の眉間のしわが少し薄くなった。
機嫌は良い方向に傾き始めているとみていいのだろうか。
ここいらで服でも褒めてみよう。
「その私服いいね。似合ってるよ」
「何よいきなり」
デニムにレザージャケットはすらりとしたその体躯を実に強調させてくれている。スタイルの良さが引き立って制服姿の彼女とはまた違った魅力があるね。
「褒めるタイミングを逃しちゃったから」
「……今も褒めるタイミングじゃあないと思うけど」
あら、そっけない。
今の一瞬の間は、きっと照れているからこそ生じたものに違いない。
「けど」
「けど?」
「……なんでもないわ」
あ、やっぱり照れてるねこの子。
いやーこういう時のこの目を逸らす仕草、実にいい!
「この後の流れはお前に任せるわ。私は近くにいるから、何かあったらすぐ連絡。いい?」
「了解です!」
さあ……やってみますか。
このボウリング場は昔からあってちらほら老朽化も見えていたのだが、ここでも物語の影響があったようで、建物はつい最近建てられたかのように綺麗なものになっていた。
……違うな。
建物は一回り大きく、別物になってしまっているぞ。
ボウリング場というより中規模のショッピングモールだ。
中に入ると数々の店に、休憩スペース、おやおやゲームセンターまでもあるんかい。十年前の記憶と明らかに違う、これも物語の影響だな。
「休日はやはり人が多いですねえ」
「そうだねえ……めっちゃ、多いね」
こんな光景、見るのは当然初めてだ。彼女にとっては当たり前の光景なのかもしれないが。
しかし女の子とボウリングなんて初めてだな。
どうせなら治世と行きたかったなあ。
「そりゃ~」
いざボウリングが始まった。
彼女のボールはまるで千鳥足のようにふらつきながらピンへと向かっていく。
「あれりゃ。1ピンしか倒せませんでした」
「どんまいどんまい」
本当はボウリングくらい難なくこなせるのに、こういうとこでもか弱い少女を演じている。それは分かってはいるけれど……頬が緩んでしまう。
普通に楽し――いかんいかん! 彼女のペースに飲み込まれているな……。
「ちょっとトイレに行ってくるよ」
「ごゆっくり~」
気持ちを切り替えねば。目的を忘れてしまいそうになる。
洗面台に視線を落として小さな溜息をついた。
経験不足が響いている。そのためにこの機は逃さず貪欲に、いいや純粋に、楽しみたいと思ってしまっているのだ。
しっかりするんだ俺、と顔を上げた。
「ん?」
鏡に映る俺、その後ろには――治世がいた。
「ほぁぁぁぁあ……!」
彼女は鏡越しに俺を睨み、ゆらりとした足取りで近づいてくる。
肩に手を置き、振り向かせて――
「楽しそうね」
同時に壁ドン。あっ、この場合は鏡ドン? どうでもいいか。
ミシミシと音が聞こえる、鏡……割らないよう気をつけてね。
「その、えっと……ごめんなさい」
「どうして謝るの? 委員長と楽しんでたから?」
「そ、そういうわけじゃあ……ってかここ、男子トイレだけど……」
「それがどうかしたの?」
「どうもしないです」
話をはぐらかそうとしているわけではないが、余計な会話を持ち出すのは得策ではないな。
「あの」
「何よ」
「いえ、てっきり近くにはいないものだと」
「そんなわけないでしょ。お前とあの子を二人きりにするのは危険だって私も分かってるわ」
「そ、そうだよね。……今からでも、混ざる?」
「結構よ、どうぞ私抜きで楽しんで。私は遠くからお前達の様子を窺っているわ、もしかしたらラトタタを見つけられるかもしれないから」
「そ、そうですか……」
治世は一度男子トイレの入り口へ行き、誰も来ない事を確認して壁に持たれかけていた清掃中の看板を入り口へ立てかけた。
周囲を確認し、これでよし、と言わんばかりに小さく頷き、ゆっくりとこちらを向く。
俺は男子トイレから生きて出られるのだろうか。
死に場所がここになるのだけは避けたい。
「喫茶店では、何を話してたの?」
「えっ、その時も……見てたの?」
「は? 悪い?」
「いえいえっ! 何も悪くはございません!」
帰るふりだけして近くにずっといたようだ。
彼女がこうも不機嫌そうなのは、あれから俺と委員長が喫茶店でお茶をしては、今度はボウリングを楽しみ始めたからであろう。
すぐにでもスマホで治世に連絡を取るべきだった。これじゃあまた悪い印象を与えてしまったかも。
「喫茶店では取るに足らない話で、ただこのまま解散ってのもアレなんでボウリングにという流れでして……はい」
「……あ、そう」
その双眸は未だに鋭く、機嫌はまだ完全には直ってはいないようで不機嫌そうに腕を組んでいた。
正座でもしたほうがいいのだろうか。
「彼女、何か動きは見せたりした?」
「今のところは何も。けど委員長はラトタタに見つけてもらえるよう街中を歩いているから、街中に紛れ込んでる教徒から既に伝達されてるかも」
「そうなの? じゃあどうしましょうか、どう……してやりましょうか」
腰の小さなポーチに手を伸ばしていた。
……何が入っているのかは、聞かないでおこう。
「あの、一つ提案があるんだけど」
「何?」
考えていた事がある。
悪い提案ではない、とは思うのだが。
「俺の特異の事、バレるのが時間の問題なら逆にこっちからもう話しちゃってもいいかな?」
「あえて話して、どう動くか見るって事?」
「そんなとこ」
「……いいかもね。真正面からぶつかったほうが手っ取り早いし、全力で殴りあいましょうってわけね」
「いやそんな好戦的な考えではなかったんだけど……」
どうしてやる気に満ち溢れているの君。
そんなに戦いたかったのかな。
「良かったわ、お前もただ遊んでたわけじゃないのね」
「し、正直言うと……ちょっと、楽しんでたのは、事実」
「ふうん?」
ここは、素直に打ち明けよう。
だがただ打ち明けるのではない、ちゃんと好感度を上げるための台詞を言わなくちゃ。
「でも君と一緒じゃないから、心の底からは楽しめてなかったよ」
「……そ、そう。……ったく……りと、言うわね」
「え、何?」
「なんでもない」
治世の眉間のしわが少し薄くなった。
機嫌は良い方向に傾き始めているとみていいのだろうか。
ここいらで服でも褒めてみよう。
「その私服いいね。似合ってるよ」
「何よいきなり」
デニムにレザージャケットはすらりとしたその体躯を実に強調させてくれている。スタイルの良さが引き立って制服姿の彼女とはまた違った魅力があるね。
「褒めるタイミングを逃しちゃったから」
「……今も褒めるタイミングじゃあないと思うけど」
あら、そっけない。
今の一瞬の間は、きっと照れているからこそ生じたものに違いない。
「けど」
「けど?」
「……なんでもないわ」
あ、やっぱり照れてるねこの子。
いやーこういう時のこの目を逸らす仕草、実にいい!
「この後の流れはお前に任せるわ。私は近くにいるから、何かあったらすぐ連絡。いい?」
「了解です!」
さあ……やってみますか。
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