ある日突然タイムリープしてしまった社畜、自分の書いた物語が現実となった過去をやり直す。

智恵 理陀

文字の大きさ
22 / 34

022 思惑

しおりを挟む
「ごめんごめん、たまたま知り合いとトイレで出くわしてさ」
「あら、そうだったのですか。んも~待ちくたびれましたよ~」

 ぷくぅと頬を膨らませる委員長。
 学校とは違う一面をここぞとばかりに見せてくる。……ずるいぞ。

「はわー、腕が疲れました~」
「俺も久しぶりのボウリングに腕がパンパンだ。いやーしかし体を動かすっていいもんだねえ」
「ですねえ!」

 一階の休憩スペースで寛ぎつつ。
 スコアを見せ合いながら、ゆったりするのはいいのだがさて、どこで話を切り出そうか。

「……」
「文弥君?」
「ん?」
「どうしましたか?」
「え、何が?」
「なんだか、考え事してるような、どこか心ここにあらずのような感じがしまして」
「あ、いやちょっとね」

 誤魔化すようにジュースを口へ運ぶ。
 分かりやすいな、我ながら。
 喧騒に包まれたこの空間で、彼女に異能の話をするのはどうも……雰囲気が一致しないというか、もう少し静かな空間であれば自分も落ち着いてすらりと切り出せたかもしれない。
 うーむ、駄目だ。
 ただ単に理由を付けて切り出したくないだけだなこれは。
 今日は楽しかった――その余韻にもう少し浸りたかったりする。

「あの、ですね。今日は私に付き合ってくれてありがとうございます」
「いえいえこちらこそ」

 どうしたんだ、いきなり畏まって。
 あ、何か仕掛けようとしてるのかな?

「時に文弥君」
「はいはい」

 この先の展開はどうなるんだろうか。
 本来は治世を含めて三人で談笑しているはずなんだが、二人きりだと彼女からの話も多少変わってくるよな。

「私達って、相性が良いと思いませんか?」
「相性?」
「そうです。私は今日、とても楽しかったです。文弥君はどうですか?」
「俺も楽しかったよ」

 委員長は頬を朱に染める。
 もじもじと身を揺らし、何か言い出したいけど言い出せない――そんな仕草を見せて瞬き数回。
 こういう仕草は……あれだ、彼女が俺を誘惑する一つの攻撃でもある。
 駄目だぞ文弥、気をしっかり持て!

「どうでしょう、お付き合いをしてみる……とか」
「お、お付き合い……?」
「ま、まあ、所謂彼氏彼女の関係? カップル? 恋仲? そ、そんな、感じの、でして!」

 そういう手を使ってくるか君は。
 けどそうだよなあ、二人きりになれたんだしこれは彼女にとって好機。
 当然その言葉に真意は無く、特異を持っていると思われる人物の中で一番濃厚なのが俺だから――距離を縮めてしまいたいのだろう。
 ラトタタとはもう連絡はついたか? いや、まだついてないから保険も兼ねてこの手を使ったんだろうな。
 どうであれ……時間の問題には変わりはない。どう答えるか。

「あっ……。その、早まりすぎたでしょうか。すみません……」
「謝らなくても……」
「という事は!?」

 身を乗り出す委員長。
 そのぐいぐい来る迫力に押し倒されそうになる。

「……オーケーってわけじゃなくて」

 中々言葉が喉からすんなりとは出ていかない。
 彼女は演技をしている、それは承知の上なのだが心臓はまるで別物のようにさっきから鼓動が跳ね上がってしまっている。

「ば、場所が悪かったですか?」
「そういうのでもなくて……」
「う~……。その反応の悪さはもう、答えが分かっちゃいます……」

 きゅっとスカートの裾を掴み、ゆっくりと椅子に深く凭れる。
 ここいらが、切り出すには良いタイミングかもしれない。

「君が求めているのは……」

 意を決して俺は、言葉を喉から引きずり出した。

「――俺じゃなくて、特異だろう?」

 その時。
 先ほどまで落ち着きの無かった委員長は、ぴたりと動きを止めた。
 笑顔は固まり、やや目を見開いていた。
 喧騒の中、テーブルを挟んだ俺達二人の空間だけがまるで切り取られたかのように、静かな、そして凍てついた空気へと変貌した。

「あれりゃ」

 一言そう呟き、彼女の笑顔は消えた。

「存じておりましたか」
「どこまで知ってるか気になってるだろうけど、ラトタタも、君の正体も、異能教も全部知ってるよ」
「……どうやら、貴方を甘く見過ぎていたようですね」

 肩をすくめて彼女は天井を仰いだ。
 物語はこれで大きく変わる。
 本来訪れるであろう展開はもはやなぞる事などできなくなった、ここからはアドリブってやつだ。

「場所、変えましょう」
「そうしよっか」

 ここで話すには些か雰囲気が合わない。
 俺達は外に出て、一先ずは先行する委員長についていく形となった。
 治世はちゃんと見守ってくれているかな。
 どこに向かっているのだろう。街外れではないが……ラトタタに連絡をしつつどこか話が出来る場所を探している?
 ……そうでもないか、待ち合わせをしたあの広場に戻るつもり、かな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...