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032 怒りの一撃
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「待ちなさい!」
「あまり動かないほうがよろしいですよ?」
「治世! 危ない!」
機械はぐらりと揺れて、倒れてしまった。
「忠告はしたのですがねえ」
「うっ……ぐっ」
壁に引っかかりながら倒れたために勢いは相殺されたが、彼女に圧し掛かる形となったのは変わりない。
ケーブルなどに引っかかって完全に潰されはしなかったのは不幸中の幸いか、しかし相当な重さが彼女の全身を潰しに掛かっている。
治世の異能で怪我は治っていっても、抜け出せなければ状況は変わりない。
凛ちゃんに助けを求めたいが、負担に負担が重なった上での改造スタンガンで流石に動けないでいた。
「あら、傷が治っていきますね。治癒能力……それが貴方の異能ですか。そちらの方は影を使うと。面白いですねえ、アニメや漫画の世界を見てる気分です」
実は小説の世界で、それが現実になっちゃったんだぜ。
――って、心の中であっても言ってる場合か俺は。
「これから更に面白くなると思うと興奮しますね。文弥君はどうですか?」
「お、俺は……」
「気分が乗らない? それもそうでしょうね、分かります分かります。でもここは私に気分を合わせなくてはなりませんよ? 彼女達の命を握っているのは私なのですから」
状況には似付かない無垢な笑顔を見せてくる。
自分に合わせて笑えとでも、言いたげに。
「もうっ、少しは笑ってくださいよ~」
「そんな無茶な……」
「あ、もしかしてあの装置に繋がれるのが不安なんでしょうか……。大丈夫ですよ、痛いのは最初だけですから!」
「最初でも後でも痛いのは嫌だよ!」
「子供じゃないんだからダダをこねないでくださいよう」
手のかかる我が子に呆れたかのような顔して、頬にナイフをペチペチ当てないでもらいたい。
「ぬぅぅぅぁぁあ……!」
「あれりゃ、頑張りますね治世さんは」
「委員長ぅ……!」
「ま、まあ怖い……。今にも持ち上げそうな勢いですね。重たいんですよその機械」
ギシギシと音を立てて、治世は本当に持ち上げるんじゃないかっていうくらいの迫力を見せていた。
委員長もからかうように言っていたが、その迫力には少々圧倒されているようだった。
「文弥君、こちらへ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「待ちませんよ~。抵抗しないでくださいね、刺されたいんですか? まあこの後装置の接続針で結局刺すんですけど」
首筋にナイフを突きつけられて、彼女に追いやられながら俺は装置の前へ誘導される。
「いきますよー」
転がっていたパイプ椅子に座らされ、彼女はケーブルを一本取り出し先端を俺の左手に何の躊躇もなく突き刺した。
「痛っ!」
「もう一本ありますからね、頑張ってくださいね」
装置に完全に繋がれる前に、彼女には……言わなければならない。
「抵抗せず力を抜いてください。出力を上げますよ」
「ぐぎぎ……! そ、想像以上に、きつい!」
体の中から引っ張られるような感覚だ。
その上全身に襲う重圧感に噴き出す汗、呼吸も荒くなっていく、これは……一言で表すと、やばい。
語彙力も低下するくらいに、やばい。
待て、考えろ、考えるんだ。こんな状況であっても、物語的に逆転要素が何かある……はず。
「これで特異を引き出して……ん?」
その時だった。
ふわりと何処からともなく風に乗ってやってきたのは一枚の原稿。
委員長の足元へとそれは落ちていった。
「原稿……?」
彼女はそれを拾い上げて、文章を目で追っていった。
「ふ、ふふっ……面白い事を、書いてますね……」
「な、なんて書いてあるんだい……?」
「失敗する、なんて、まさか。……いえ、もっと出力を上げるべきなのでしょう」
……なるほど。
原稿には、失敗する展開が書かれているのか。となれば……この後の展開はもはや決まったも同然、か。
内容に納得しなかったのか彼女はくしゃりと原稿を握りつぶしてポケットへ雑に突っ込んでしまった。
どんな展開で失敗に至るのか、原稿を読ませてはくれないものか。
「そ、装置から変な音が鳴りだしてるけど……」
「大丈夫ですよ、まだいけます」
「ほ、ほら! もう建物も、建物なのかどうかってくらい異界に侵食されちゃってるよ、ここいらで一旦止めるというのも手では!?」
「問題ありません、出力を上げますよ」
「がぁあ……!」
言葉を重ねてはみるも、もはや聞き流されている始末だ。
出力が上げられ、装置から漏れる異音は不穏な空気を醸し出していた。
「やる気が出ないのでしたら、ほら、ほらほら、ほらほらほら! ちゅっちゅ!」
ほっぺに雑に何度も彼女はキスをしてくる。
……というかあまりにも雑すぎてキスとは言いがたく、ただ唇を当てているだけというのが正しい。
キスすら経験不足なのがバレバレだぜ委員長。
「や、やめっ……!」
「あれ? 嬉しくないのですか?」
後方から聞こえる金属を軋ませる音、治世は俺達の様子を見てふつふつと怒りが沸いているのではないだろうか。これは、まずいね。
……待てよ? 逆に、逆にだ。
言葉にしてみて、一つ“刺激”を与えてみるのはどうだろうか。
やってみる価値は、ある。
「う、嬉しくないと言ったら、嘘になる……かな!」
「そうですよね、男の子ですものね! ほらちゅっちゅ! 頑張ってください!」
更に後方の音は、激しさを増していく。
流石に委員長もその異変には気付いたようだ。
「なん、でしょうか。あれ? この台詞、原稿に……」
「おぉぉまぁぁぁぁぁえぇぇぇえ!」
「な、なっ……!?」
怒声と共に何かが折れる音も聞こえてくる、何が起きているのかは青ざめる委員長の顔から容易に想像出来る。
振り向いてみると、先ほどまで押しつぶされそうになっていた治世はこれまで見せた事のない、まさにこれぞ怒りといった形相で機械を持ち上げていた。
その重量に体が悲鳴を上げているも、治癒能力によって瞬時に回復されている。
……いい“刺激”になったようだ。原稿にもこういう展開になるよう書かれていたのかな。
「なんて無茶苦茶な……」
「い、今のうちに謝っておいたほうがいいぞ?」
治世は手錠を強引に引きちぎり、機械を払いのけるや一歩一歩に怒りを込めて委員長へ向かっていった。
「と、止まりなさい! 彼がどうなってもいいのですか!?」
委員長はナイフを俺に突きつけてきた。
おいおい、俺は大事な人質だろうに。治世の威圧感に圧されて混乱しているんだな?
治世は構わず突っ込んでくる、治世も治世でどうやら怒りのあまりに我を失っているようだ。
そんな彼女の様子を見て、委員長は「くっ!」と言葉を漏らしてはナイフの矛先を治世へと変えていた。
ナイフは心臓を狙って、殺すつもりでの一撃を委員長は向けているが、治世の異能は刺す程度じゃあ駄目だぜ委員長。
一撃で殺さなければ……ま、それは無理な話か。
「こ、この――」
「お゛ぁ゛ぁ゛ー!」
刺されるのも構わず、治世はナイフを左手で掴むように受けて、残った右手は……。
「んぐひっ」
委員長の顔面にめり込んだ。
ぐしゃっと、眼鏡が砕ける音に加えて耳に残る鈍い打撃音がどれほどの痛さなのか痛感させられる。
「治世たん、ぱねえ」
倒れたままの凛ちゃんは、そんな感想を述べていた。
終結を迎えたにしては、一方はナイフを相手の左手に突き刺し、もう一方は血に塗れて綺麗なフォームとは言えない豪快さある一撃を少女の顔面へとお見舞いするこの光景は……確かに、ぱねえ。
それと本来、こういう終盤の場面は主人公が締めくくるべきなのだが、ヒロインにその見せ所を譲ってしまった。
主人公としてこれはどうなのだろうと、思うのだが、いやしかし……解決できたしよしとしよう。
「あまり動かないほうがよろしいですよ?」
「治世! 危ない!」
機械はぐらりと揺れて、倒れてしまった。
「忠告はしたのですがねえ」
「うっ……ぐっ」
壁に引っかかりながら倒れたために勢いは相殺されたが、彼女に圧し掛かる形となったのは変わりない。
ケーブルなどに引っかかって完全に潰されはしなかったのは不幸中の幸いか、しかし相当な重さが彼女の全身を潰しに掛かっている。
治世の異能で怪我は治っていっても、抜け出せなければ状況は変わりない。
凛ちゃんに助けを求めたいが、負担に負担が重なった上での改造スタンガンで流石に動けないでいた。
「あら、傷が治っていきますね。治癒能力……それが貴方の異能ですか。そちらの方は影を使うと。面白いですねえ、アニメや漫画の世界を見てる気分です」
実は小説の世界で、それが現実になっちゃったんだぜ。
――って、心の中であっても言ってる場合か俺は。
「これから更に面白くなると思うと興奮しますね。文弥君はどうですか?」
「お、俺は……」
「気分が乗らない? それもそうでしょうね、分かります分かります。でもここは私に気分を合わせなくてはなりませんよ? 彼女達の命を握っているのは私なのですから」
状況には似付かない無垢な笑顔を見せてくる。
自分に合わせて笑えとでも、言いたげに。
「もうっ、少しは笑ってくださいよ~」
「そんな無茶な……」
「あ、もしかしてあの装置に繋がれるのが不安なんでしょうか……。大丈夫ですよ、痛いのは最初だけですから!」
「最初でも後でも痛いのは嫌だよ!」
「子供じゃないんだからダダをこねないでくださいよう」
手のかかる我が子に呆れたかのような顔して、頬にナイフをペチペチ当てないでもらいたい。
「ぬぅぅぅぁぁあ……!」
「あれりゃ、頑張りますね治世さんは」
「委員長ぅ……!」
「ま、まあ怖い……。今にも持ち上げそうな勢いですね。重たいんですよその機械」
ギシギシと音を立てて、治世は本当に持ち上げるんじゃないかっていうくらいの迫力を見せていた。
委員長もからかうように言っていたが、その迫力には少々圧倒されているようだった。
「文弥君、こちらへ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「待ちませんよ~。抵抗しないでくださいね、刺されたいんですか? まあこの後装置の接続針で結局刺すんですけど」
首筋にナイフを突きつけられて、彼女に追いやられながら俺は装置の前へ誘導される。
「いきますよー」
転がっていたパイプ椅子に座らされ、彼女はケーブルを一本取り出し先端を俺の左手に何の躊躇もなく突き刺した。
「痛っ!」
「もう一本ありますからね、頑張ってくださいね」
装置に完全に繋がれる前に、彼女には……言わなければならない。
「抵抗せず力を抜いてください。出力を上げますよ」
「ぐぎぎ……! そ、想像以上に、きつい!」
体の中から引っ張られるような感覚だ。
その上全身に襲う重圧感に噴き出す汗、呼吸も荒くなっていく、これは……一言で表すと、やばい。
語彙力も低下するくらいに、やばい。
待て、考えろ、考えるんだ。こんな状況であっても、物語的に逆転要素が何かある……はず。
「これで特異を引き出して……ん?」
その時だった。
ふわりと何処からともなく風に乗ってやってきたのは一枚の原稿。
委員長の足元へとそれは落ちていった。
「原稿……?」
彼女はそれを拾い上げて、文章を目で追っていった。
「ふ、ふふっ……面白い事を、書いてますね……」
「な、なんて書いてあるんだい……?」
「失敗する、なんて、まさか。……いえ、もっと出力を上げるべきなのでしょう」
……なるほど。
原稿には、失敗する展開が書かれているのか。となれば……この後の展開はもはや決まったも同然、か。
内容に納得しなかったのか彼女はくしゃりと原稿を握りつぶしてポケットへ雑に突っ込んでしまった。
どんな展開で失敗に至るのか、原稿を読ませてはくれないものか。
「そ、装置から変な音が鳴りだしてるけど……」
「大丈夫ですよ、まだいけます」
「ほ、ほら! もう建物も、建物なのかどうかってくらい異界に侵食されちゃってるよ、ここいらで一旦止めるというのも手では!?」
「問題ありません、出力を上げますよ」
「がぁあ……!」
言葉を重ねてはみるも、もはや聞き流されている始末だ。
出力が上げられ、装置から漏れる異音は不穏な空気を醸し出していた。
「やる気が出ないのでしたら、ほら、ほらほら、ほらほらほら! ちゅっちゅ!」
ほっぺに雑に何度も彼女はキスをしてくる。
……というかあまりにも雑すぎてキスとは言いがたく、ただ唇を当てているだけというのが正しい。
キスすら経験不足なのがバレバレだぜ委員長。
「や、やめっ……!」
「あれ? 嬉しくないのですか?」
後方から聞こえる金属を軋ませる音、治世は俺達の様子を見てふつふつと怒りが沸いているのではないだろうか。これは、まずいね。
……待てよ? 逆に、逆にだ。
言葉にしてみて、一つ“刺激”を与えてみるのはどうだろうか。
やってみる価値は、ある。
「う、嬉しくないと言ったら、嘘になる……かな!」
「そうですよね、男の子ですものね! ほらちゅっちゅ! 頑張ってください!」
更に後方の音は、激しさを増していく。
流石に委員長もその異変には気付いたようだ。
「なん、でしょうか。あれ? この台詞、原稿に……」
「おぉぉまぁぁぁぁぁえぇぇぇえ!」
「な、なっ……!?」
怒声と共に何かが折れる音も聞こえてくる、何が起きているのかは青ざめる委員長の顔から容易に想像出来る。
振り向いてみると、先ほどまで押しつぶされそうになっていた治世はこれまで見せた事のない、まさにこれぞ怒りといった形相で機械を持ち上げていた。
その重量に体が悲鳴を上げているも、治癒能力によって瞬時に回復されている。
……いい“刺激”になったようだ。原稿にもこういう展開になるよう書かれていたのかな。
「なんて無茶苦茶な……」
「い、今のうちに謝っておいたほうがいいぞ?」
治世は手錠を強引に引きちぎり、機械を払いのけるや一歩一歩に怒りを込めて委員長へ向かっていった。
「と、止まりなさい! 彼がどうなってもいいのですか!?」
委員長はナイフを俺に突きつけてきた。
おいおい、俺は大事な人質だろうに。治世の威圧感に圧されて混乱しているんだな?
治世は構わず突っ込んでくる、治世も治世でどうやら怒りのあまりに我を失っているようだ。
そんな彼女の様子を見て、委員長は「くっ!」と言葉を漏らしてはナイフの矛先を治世へと変えていた。
ナイフは心臓を狙って、殺すつもりでの一撃を委員長は向けているが、治世の異能は刺す程度じゃあ駄目だぜ委員長。
一撃で殺さなければ……ま、それは無理な話か。
「こ、この――」
「お゛ぁ゛ぁ゛ー!」
刺されるのも構わず、治世はナイフを左手で掴むように受けて、残った右手は……。
「んぐひっ」
委員長の顔面にめり込んだ。
ぐしゃっと、眼鏡が砕ける音に加えて耳に残る鈍い打撃音がどれほどの痛さなのか痛感させられる。
「治世たん、ぱねえ」
倒れたままの凛ちゃんは、そんな感想を述べていた。
終結を迎えたにしては、一方はナイフを相手の左手に突き刺し、もう一方は血に塗れて綺麗なフォームとは言えない豪快さある一撃を少女の顔面へとお見舞いするこの光景は……確かに、ぱねえ。
それと本来、こういう終盤の場面は主人公が締めくくるべきなのだが、ヒロインにその見せ所を譲ってしまった。
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