ある日突然タイムリープしてしまった社畜、自分の書いた物語が現実となった過去をやり直す。

智恵 理陀

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031 委員長

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「それで……ここはどこ?」
「ラトタタ達の拠点だよ」
「へえ、ここが。物が散乱してるわね、実験場として環境を整えていたのかしら」
「そんなとこ」

 足元のケーブルや周辺の機械類を触りだして状況確認を始める治世。
 そういえば異能を発動させる装置が見当たらない、大きめだしすぐに見つかると踏んでいたのだが、もっと奥に行けばあるのかな?

「そういえば装置もあるんだよな……」
「どうする?」
「装置? 何の装置よ。私の知らない情報でやりとりしないで。張り倒すわよ」
「張り倒さないで!」

 治世には装置について説明をしておくとした。
 特異を取り出し保管するための装置――少なくとも目の届く範囲には無い、このあたりはガラクタばかりだ。

「……そんなものがあるのね、粉々にして委員長の前にばら撒きたいわ」
「すぐには見つからないなら一度ここから脱出してから、仕切りなおすのも一つの手かな」
「仕切りなおしか、確かにそれもいいかもねえ。僕は異能を使いっぱなしで体力的にキツいや」
「ラトタタがやってくるかもしれないし――」

 このままここを脱出してしまえばもしかしたら、なんて思っていたがどうやらそう簡単には済まないようだ。

「これは……」

 それもそうだよな、物語的に作者ならここいらでラストスパートをかけたい場面だ。
 ――その合図を、どこからともなく舞い降りる原稿が知らせてくる。

「……原稿の異能者は、近くにいるのかしら」
「いるのかもしれないね……」

 近くで見ているのか、それとも遠くから高みの見物をして、ここだ! と原稿を送り込んだのかは定かではないが。


 --------------------
 
 策はいくつも用意している。
 どれを選択するかは自分次第だ。
 治世を盾にして文弥を手中に収めるというのも策の内の一つではあったが、確実性は低い。
 もっと確実に、自身の求める結果に繋がるようにするには――と、異能を発動させるその装置に月子は手を加え始めた。
「一仕事、しましょうか」
 これまで幾度となく彼女自身が調整に調整を重ねてきた、改良もお手の物だ。
 そもそもこんな手術台のような見た目はあからさますぎて、前々からこれはどうなのだと首を傾げるばかりだった。
 警戒されるに決まってる、警戒されないほうがおかしい。
 何なら見られただけで破壊されかねない、独断ではあるが月子は手を加えるとした。
「装置の設置をお願いはしましたが、彼らはどうも遅い」
 スパナにプラスドライバー、マイナスドライバーといくつもの工具を取っ替え引っ替えしながら次々と繋ぎなおされていくケーブルに機械類。
 その手は指揮者のように滑らかで、レーシングエンジニアのように俊敏に動き、休まる気配はない。
 助手は必要とせず、むしろ助手が彼女に合わせられず足手まといになってしまうだろう。
 だから彼女は一人だ。
 いつも、一人だ。
「少々無茶な調整になるかもしれませんが、大丈夫でしょう」
 異能さえ持っていれば高い地位も得られた、強硬派のラトタタと組んでこうも強引な手に出る必要もなかった。
 異能は望んでもそう簡単に手に入る代物ではないと諦めてはいるが、そんな考えが脳裏を過ぎる度に彼女は下唇を噛んでいた。
 常に貼り付いていた笑顔の仮面も今はすっかりと剥がれてしまっている。付け直すに少々時間が掛かりそうだ。
 ともあれ。
 装置がうまく起動されれば、特異を引き出して自分の思うままに操れるはず。文弥は犠牲になってしまうかもしれないが、それは仕方のない事だと、彼女は小さく笑みを浮かべた。

 --------------------

 後方、俺達が来た道が突如として崩壊した。
 積み重ねられていた機械類が倒れたようだ。

「あら、なんともまあべたな演出だこと」
「別の道を通るしかなさそうだね」
「この原稿、委員長視点のようだけど彼女はどこにいるのかしら。どうせなら探してとっちめたいわ。目的も分かった事だしね」
「賛成」

 凛ちゃんも乗り気だ。
 治世の意見には全肯定だろうけど。

「委員長は……」

 見えにくい足元だが、ここへ来た時に目に留まった足元のケーブル。
 あれはどこへ向かっていったものなのか――考えるまでもない。

「ケーブルだ」
「ケーブル?」
「ほら、足元の。このケーブルを追おう」
「……なるほどね。これを追っていけば自ずと装置も、委員長も見つかるわね」
「そういう事」

 建物の規模的にそう遠くにはいないはず。
 俺達は奥へ奥へとケーブルを辿っていって、行き着いた一室。
 ……空気が明らかに違う。
 そこに委員長がいるという根拠としては充分だった。

「いかにもって感じね。気をつけて」
「うん……」

 扉を開けると機械だらけの部屋が広がっていた。
 起動による重低音が漂い、辛うじて一つだけ点灯している蛍光灯の淡い光の宿るその部屋の中心には、人影が一つ。
 背を向けていて何か布を被っている。
 儀式や祈りなどで被るものであろうか。ダマスク柄の模様が不気味に見える。

「……委員長?」

 呼びかけてみるが、反応はない。
 この手の展開は、大体布を取り払うと別の置物っていうフェイクが待っている。
 一歩一歩、警戒して歩み寄る。
 注意すべきはその人型の布より周辺。
 ――カン、と。
 金属音が聞こえた。

「んん……!?」

 どうやら予想は当てが外れたらしい。
 治世も布がフェイクかもしれないと警戒はしていた。
 だからこそその物音が、物陰に隠れている委員長かと敏感に反応したが、そちらがフェイクだった。
 布を被っていたのは委員長で間違いなく、視線が移ったその瞬間――視線を戻したその一瞬――布をこちらに投げつけて視界は既に遮られており、治世の手に何かが絡められた。
 ガチャンという金属音――そして拘束される左手、彼女の手首には手錠が掛けられていた。

「なっ……!?」
「ミスタースミスッ」

 凛ちゃんの動きはやや鈍く疲労が滲み出ていた。
 ミスタースミスは、すぐには出現しなかった。

「ふふっ、遅いですね」

 委員長は歪んだ笑顔を浮かべ、凛ちゃんの首に何かを当てた。

「あぅぅ……!」

 小刻みに刻む激しい電撃音、スタンガンだ。
 これはまさか……治世の持っていた武器か? 彼女を捕らえた時に手にしておいたのか。しかも改良して威力を増幅させているな。
 利用できるものは何でも利用する、委員長らしい戦い方だ。

「こんにちは、文弥君」
「ど、どうも、委員長……」
「彼から離れなさい!」

 治世の手首に掛けられた手錠は、彼女の身長を軽く上回る箱型の機械に繋がれていた。金属製の手すり部分はとてもじゃないが壊せそうにない。
 よく見ると機械は斜めにされており、力を入れたり引っ張ろうとすれば倒れるようにされている。
 重量もさぞかしのものであろう、倒れてきたらひとたまりもない。
 そんな状況分析をしている俺だが、どうやら彼女の心配をしている場合でもなさそうだ。
 首筋に冷たく伝わるその感覚は、軽く撫でるだけで朱を噴き出すには十分の刃物。

「待っておりましたよ。さあ……貴方の特異、取り出しましょう。ついでに広範囲で発動させて、混乱に陥れてくだされば私達はこの場から安全に立ち去れます。協力、してくださいね?」
「くっ……お、落ち着いて、話し合わない?」
「その必要はございません」

 襟を掴まれて、奥へと引っ張られる。
 様々な機械類を組み合わせた歪なその装置――こいつが、特異を取り出す装置。その他に、委員長の言葉から察するに、特異の発動も可能としているだろう。
 手術台のような見た目から打って変わってどこかスチームパンクな雰囲気も出ているが、気になるのは……先端に針がついている二本のケーブル。
 これ、絶対刺すよね?
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