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第二章
7.遺体盗難
しおりを挟む我々特務は指定住居が与えられている、特務の管理するマンションであり一人で住むにはやや広い。
班員は皆同じマンションだ、山路さんの場合はマンションにすら戻る事は稀だが。
自室に戻ったのは夜の九時、初っ端から木崎君を連れ回しすぎたなと後悔している。
このご時勢、働く上での長期勤務は相当厳しくなっている。
いくら国防に関わる事であれこれは変わりない。何より仕事の疲れや精神的な疲れによって自殺を簡単に選んでしまう世の中なのだから、自殺されたらたまったもんじゃない。
心身ともにきちんとケアをするよう心がけられている。ささみちゃんは無視しているようだけど。
体を休めて早めに布団に入るとした、明日も朝は早い。
現場に再び足を運び、管理人と直接話を聞いておきたいな。伊部さんの様子も見にいかなくては。
自殺薬に関してはそれに関わっていると思われる反社会的勢力と一度話をしてみよう。
我々特務側も接触して圧力をかけておきたいのと、伊部さんが使っていた粗悪な危険ドラッグについても突いてみようかと思う。
木崎君にとっても、いい経験になるだろう。ささみちゃんに朝一でアポを取るようお願いしてみよう。
そして――その日の深夜。
それも夜の二時にスマートフォンが振動した。
布団に入って色々と考えていたが、どこで寝入ったのかは記憶にない。
振動は長い、電話のようだ。眠い目を擦りながら電話に出た。
『わりぃ、多比良。急務だ』
「急務……? 何か進展があったのか……?」
声もうまく出ない、仕事の電話だ。思考くらいは早めにはっきりとさせなくては。
『そのだな……病院で危篤状態にあった奴いたろ~?』
「ああ、彼女か。……亡くなったのか?」
『亡くなったのが一時間前だが、遺体が盗まれた』
「……盗まれた?」
電話を肩と耳で挟んで通話しながら俺は服を着替える。
くそっ、深夜は流石に冷えるな……。
『病院の防犯カメラは全部真っ黒、教団の仕業で間違いないけどさ~……』
「……何故彼女の遺体を盗んだんだ?」
『さあ、知らんがとりあえず平輪市中央病院に向かってくれ』
「了解した。木崎君には?」
『まだ連絡はしてない、これからする~』
「いや、しなくていい。慣れない一日で気疲れもあるだろう、休ませてやりたい。それに病院には管理人も来てるんだろう? 話を聞いて状況整理だけなら人数はいらない」
『そうかい。いや~優しい先輩だこと』
「だろう? 惚れたかい?」
『あいにく私は二次元にしか興味ないんで~』
「フラれてしまったか。傷心ながら仕事するよ」
『頑張ってね~』
着替えを済ませてすぐに病院へと向かうとする。
平輪市の端にあたるここからはやや離れている。車で飛ばしても二十分ほどは掛かるな。
特務では時間問わずの急務は何度かある、そのため車内には缶コーヒーを箱で積んである。
一本を取って半分ほど喉に流し込み、ドリンクホルダーへと収めた。
平輪市中央病院へ到着すると管理人がいつものように見える位置に立っていた。
黒い服装であるが故に、光を灯している看板の前に立って自分の存在をアピールしていた。
駐車場に停めてすぐに彼のもとへと駆け寄った。
「お疲れ様です、亡くなった上に遺体が盗まれたと聞きましたが……」
「はい、どうぞこちらへ」
病院内へと案内され、エレベーターで四階へ。
いつもの班が周辺を調べており、その中で例の人物がいたと思われるベッドへと案内された。
個室はベッドの掛け布団が乱れている程度で他は特に荒らされた形跡は無い。
「何故遺体を盗んだんだ……?」
「今までに無い動きを見せてきましたな」
「リスクが高すぎるだろうに。実は回復して意識を取り戻して、口封じに殺されて運ばれた……というのは?」
「いえ、死亡は医者立会いのもとで確かに確認されたとの事です。遺体運び出しの際に教団と遭遇し、その場にいた医者や看護師は拘束されておりました」
「強硬手段に出るとは、何が何でも運び出す必要があったという事ですか。何か理由があったのか……?」
場所を移して教団の逃走ルートを探るとする。
エレベーターで遺体を運び、正面ではなく急患用の裏口から逃走したようだ。
受付の警備員も同様に眠らされており、巡回していた警備員は負傷して縛られていたという。
相手の人数は五人、短時間で侵入、鎮圧、逃亡を成し遂げられるとなるとかなりのやり手だ。
「逃亡に使用された車は?」
「聞いたところ大型の黒いバンでしたので昨日の事件で使われたものと同じでしょうな。ナンバーはガムテープで隠されていたとの事です」
「防犯カメラの細工は病院内だけですか?」
「そのようで、街中の防犯カメラを調べて追跡するにも時間が掛かるので後手に回ってしまいますが、警察車両の巡回はお願いしております。追跡はしてみますか?」
「ええ、やれるだけやってみましょう」
「畏まりました」
すぐに俺はささみちゃんに電話をかけた。
『街中の防犯カメラで黒いバンの行方を解析しろってとこかいな~?』
「ああ、頼めるか?」
『もうとっくの昔にやってるわ。あと消えた遺体の身元が分かったぞ』
「そうか、どうだった?」
『おめーの言ってた通り、宮内早苗って名前だったよ』
「本当か……?」
『ああ、本当本当~どこで知ったんだその名前。他はまだ検視も済んでないってのによ~』
「霊能力者から聞いた話だ」
『は~? マジか? じゃあガチの霊能力者って事? でも人は死んだら天国だろ? 幽霊なんているわけねーんじゃ?』
「……彷徨うタイプもいるようだ。彼女にはそいつが見えている」
彼女の話を、信じる価値は十分に出てきた。
捜査をする上で、また話を聞かなくては。
『とりあえず宮内早苗についてのデータは後で送る、今はバンの行方を追えよ~』
「ああ、運転するからサポートしてくれ」
『あいよ』
後の事は管理人に任せてすぐに俺は車を走らせた。
深夜であれ都心部は車両の数は多い。
奴らも同じ土台に立っているのだ、速やかな逃亡はできていないはず。
焦りもあったのか、今回は防犯カメラの細工は病院内のみ。であれば街中の防犯カメラからバンがどのようなルートで逃亡したのかは割り出せる。
ナンバーを隠した黒いバン――分かりやすくて助かる。
無線機をつけて、巡回中の警察官からも情報をもらっていき、少しずつルートが浮かび上がっていく。
都心部から出て、平輪山方面に向かっているようだ。
近くには高速道路がある、このまま高速道路に入って遠方への逃亡を?
しかしそうなれば益々防犯カメラでの追跡がしやすくなる。
山へと近づくにつれて防犯カメラを避けて移動している節がある、奴らが高速道路を選ぶとは思えない。
「……平輪山の北西に向かってるのか?」
『もしかしたら捕まえられるかもな~』
車載ホルダーに固定したスマートフォンからささみちゃんが随時情報を送ってくれているおかげで追跡は順調だ。
他の警察車両は一部を先回りするよう配備してもらっている。
獲物を追い込むハンターのように、取り囲めている手ごたえはある。
こんな状況になるのだったら木崎君も呼び出して二人で追うべきだったか、とも考えたが、まあいいだろう。
『隣町までの一直線の道路は通過が確認されてない、途中で山に入ったっぽいぞ。あんたの思ったとおり、平輪山の北西に向かってる』
「……天教真神会の総本山が、ある場所だよな?」
『ああ、奴らの敷地近くまで行くと面倒な事になるぜ~?』
「天教真神会にも防犯カメラがあるはずだ、ハッキングはできるか?」
『いやーそれは無理だねえ、独立してる監視カメラだから内部に直接入らんとなあ』
「では天教真神会の敷地に入っていったかは不明か」
『そういう事だね』
「とりあえずその付近まで行ってみる、先回りしている警察車両には引き続き一部待機と巡回を指示してくれ」
『あいよ』
アクセルをゆっくりと、深く踏み込んでいく。
道路は渇いており、路面凍結の恐れもないために思い切り走行しても問題はないだろう。
平輪山の北西へと至る道へと差し掛かる。
他にもいくつかあるが、この先の防犯カメラではバンの通過は確認されていない。この道を選んだ可能性は高い。
道路舗装もされておらず、外灯もついていないために酷く暗い。
左右に並ぶ森林は漆黒が纏わりついて虚のようだった。
車両が一台通れる程度の幅しかない、後方ではパトカーが遅れてやってきたが一先ず待機してもらうとする。
道も悪いために車両を連なって走らせるのは避けておく、予期せぬトラブルや罠がある可能性も考慮せねばならない。
自分が先行して安全の確認をしておく。先に到着したからというわけではなく、何より特務特権があるために警察は指示がなければ動けない。
この先がどのようなルートになっているかはスマートフォンの画面に俯瞰で表示されている。
いくつか蛇のように曲がりくねってはいるが基本的に一本道、山の中腹辺りで道は無くなっている。
であれば、先回りしてもらう必要はない。
このあたり一帯を包囲してもらう指示も既に出している。
「そろそろだな……」
『後続の待機車両はどうするよ』
「数台寄越してくれ」
途中で道幅が広いところもあったからすれ違いも可能だ。
木の枝や葉が落ちていたあたり、車高の高いバンであるからこそ引っ掛けたのであろう。
この先に行ったとみていい。当たりを引いた。
基地局が近くにあるのか、電波も問題はない。
更に進んでいくと、行き止まりに差し掛かった。
だがすぐ脇には緩やかな斜面があり、轍がついている。
地図では表示されないほどの、道としては認められていないものであろう。
奥は車のライトによって薄らと照らされており、バンらしきものが目視できている。
停車し、静かな森の中に立った。
「バンを発見した」
『了解~、気をつけろよ』
「通話状態のままにする」
車のライトは照らしたままにする。
後方からは車両の音がかすかに聞こえる、これからパトカーが数台やってくる。
懐から銃を取り出す。
S&W、M37エアーウェイト――リボルバーの弾倉を見て弾の装填を確認する。
警察時代でも撃つ機会はそうそう無かった、特務についてからは一度も無い。
日本ではそもそも撃つ機会が無いに等しいが、天国事件以降の治安悪化によって発砲事件も増えてきていると聞く。
携行性、軽量さ重視でリボルバーが採用されてきており、自動拳銃への切り替えは打診されていたものの捜査が中心の自分には必要性が薄いとは思ったが、今は弾数五発は心細い。
弾倉を戻し、バンへとゆっくりと近づいていく。
山の空気は街とは別物だ、冷気が容赦なく肌に吸い付いてくる。
バンに近づくにつれて、心臓の鼓動も高まっていく。
一見、ひと気はないように見えるが油断してはならない。
後ろ向きになっているバンはエンジンを停止しており、運転席側へ身を低くして一気に距離を詰め、銃を構えた。
席には誰もいない、扉を開けて助手席を見るも同様だ。
「何も無し、バンを乗り捨てて逃亡したようだ」
『この広い山だと、今から探すのは大変だなぁ。包囲網は張ってあるが引っかかるかどうかだね~』
「管理人に連絡してここの位置を知らせてくれ」
『あいよ。つーか奴ら、やっぱり天教真神会に逃げ込んだんじゃねえのか~?』
「どうだろうな……。流石に露骨すぎる気がするけど、確かめるにも今から乗り込んで調べるのは無理だ」
果たして天国教団がこれほど分かりやすい行動に出るだろうか。
天教真神会に疑いの目を向けてその間に確実なる逃亡――企てはこちらのほうが考えられる。
『めんどくせえからなああいつら。何かあれば新明党からクレームなんかくるし』
新明党は天教真神会を支援団体としている。
自由民生党とも連立政権を組んでおり、天国事件以降の法改正では新明党は宗教的思想とその観点から安楽死制度などのいち早い取り組みによって指示を得ている。
特務特権があるにせよ、政府を相手取るのは具合が悪くなる。
管理人が来るまで現場を確保し、周辺は警察の包囲網で朝まで教団捜索をしたが結局見つからなかった。
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