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第一章
Karte.008 身元引受人
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「――この世界にどうやって来たのかは皆記憶が欠落していて次元病の中というのは実際どうなっているのかは未だに不明ですが、あれは世界と世界を繋ぐ通路の可能性が高いかと」
「なら再び次元病が発生した時にレイコを吸い込ませれば元の世界に帰せるんですか?」
「次元病から出たものは、吸い込まずその場に残っているので定かではございませんが……試した方はおりませんね」
何より次元病に遭遇する機会がないので、と付け加えられる。
確かに……何年かに一度、どこで発病するかも分からない病になど狙って立ち会えるものではない。
何より放出時のものは吸い込まないとあれば、次元病がレイコを受け入れるかどうか。
とはいえその条件は放出時に限り、かもしれない。誰も試していないのならば、もしも――もしもまた次元病に遭遇する事が出来ればの話だが、試す価値はあるだろう。
それがいつになるかは定かではないが。
「これについては考えても致し方ありません。彼女の検査と、そして今後の生活に関しての話を今は優先しましょう」
「今後の生活……」
どうするのだろう。
ギルドが保護してくれるのだろうか。
ふと職員が部屋へと入ってきた。先ほどの職員とは違う。
「失礼」
ラハルェさんに何やら耳打ちをして、二人とも話し合いが始まった。
機密事項なのか、俺には聞こえないように話をしている。しかし時折こちらに一瞥をくれているあたりからして、俺にも何かしら関係ある話らしい。
ようやくして職員は部屋から立ち去り、ラハルェさんは営業スマイルを作り直して話し始めた。
嫌な予感がする。
「彼女はどうやらルヴィン様を気に入っているようですが」
「……どうなんでしょうかね。無表情なもんでよく分からないですけど」
「ですが貴方を頼っている素振りを見せておりますよね」
否定はしない。
俺の袖に何か気に入るものでもあるのか、何度もつまんできたがあれか? 雛が最初に見たものを親だと思い込むみたいなやつか?
どうであれ感情を読み取るのが難しくて何を考えているのかまったく分からん。
「どうでしょう、身元引受人として引き受けるのは」
「えっ、はぁ!?」
思わず、紅茶を吹き出しそうになった。
おいおい、さっき話をしていたのは身元引受人に関しての話か?
「確かルヴィン様が現在お住まいになっているのはお師匠様が残した館でしたね。一人くらい住まわせるのは容易いのではと……」
よく調べてますね。
面倒事の押し付けにはちょうどいいものがあったってか?
……いや、そんな意地悪からくるものではないだろうな。帝国への対応、次元病についての調査、再発しないかの確認などやる事が山のようにあり、雪崩のように押し寄せているはずだ。
手を貸してくれれば助かる――そんな言外の願いを汲み取ったものの、すんなりとは頷きがたい。
「その上で、彼女は東和国からの旅人という事で、ルヴィン様のチームとは偶然会った――と表向きはそういうていでお願いしたいのですが……」
「あー……そういう事ですか」
次元病の中から人が出てきた――そんな噂を広めたくはないのだろう。
レイコが常に注目されてしまうし生活もしづらくなる。ならばいっそ旅人として偽ってしまおうとな。
……悪くはない、レイコのためを思うとむしろそれが最善かもしれない。
「我々としましても有能な方々が彼女のそばにいるというのは安心できますし、彼女もまた安心できると思うのです」
「……先ずはレイコに聞くべきでしょう」
「それがですね、レイコ様はすでに身元引受人をルヴィン様に指定しておりまして」
「……えぇ?」
「いかがなさいましょう?」
そこまでもう話が進んでいたのか。
彼女の置かれた状況を考えると……放ってはおけない自分もいる。どうもこういうのは、手を差し伸べちまう。
頼られ耐性というべきか、そういったものがないためだ。我ながらこれは長所としてみていいのだろうか。
「わ、分かりました……」
「それでは、手続きがございますので、一旦場所を移しましょう」
広間に行くと窓の外の橙色はすっかり色濃くなっていた。
もう夕方過ぎ、治療士達も続々とギルドへ寄っていく時間帯だ。来た時より治療士達が増えていた。
魔物化した病魔の依頼を終えたのか、自分の身長よりも高い剣を持つ者、治療道具がいくつも入った鞄を持った者などさまざまだ。
このギルド本部となれば俺よりも治療士としての階級が高い人ばかりで、自分には場違いだ、少し居づらい。
「次元病治療処置の報酬をご用意させていただきますのでこちらに」
周りの治療士も次元病の話となると遠くから視線を向けている様子だった。
受付に行き、書類に記載している間、隣では紙幣の束が一束、二束……そして硬貨がぎっしり詰まった袋が三つ。
思わず二度見した。
待て待て……落ち着け、取り乱すな俺。
凛とした態度を保たなくては。
今までの依頼の中でも一番の報酬金額だ、これで数ヶ月は割りと贅沢な生活ができるな。
いかんいかん、頭の中では今、高級治療道具や豪華な夕食が浮かび上がってやがる。
……少し思考を変えよう。
「そういえば、次元病の中から出てきた人はどう過ごしてたんですか?」
「帰ろうと方法を探したり、はたまたこの世界で有意義に過ごしたりしていたなんて聞きますね。真相は定かではありませんが」
「その人達は今は生きてるんですか?」
「申し訳ございません、詳細については機密事項になっておりまして」
受け取りの書類を書き終え、正式にこの札束達が俺の所持金となった。
笑みがこぼれちまう、こんな金額が一気に手に入るとなると。
「それとこちらは支給金となります」
「支給金?」
「レイコ様に必要なものを買う際にお使いください」
そうか、そりゃあ人を預けるのだから金もくれて当然か。
ありがたく受け取っておこう。額はそれなりにあるね。
「足りなかった場合は申請してください。くれぐれも無駄遣いをしないようお願いいたします」
「分かりました」
その他には、レイコを預かるための書類や、俺のチームについての詳細なりなんなりについての記入を何枚もして、疲労もあって最後あたりは殴り書きに近くなってしまった。
こういう書類記入は、面倒で嫌いだ。
「これにて手続きは完了でございます、レイコ様はまだ少しお時間が掛かると思いますのでお待ちください」
「ええ、気長に待ってます」
「恐縮でございます。そうそう、金額が金額なので持ち歩かずに銀行に預けに行くのをお勧めしますよ」
「そう、ですね」
預ける前に少しだけ持ち歩いていたい。
重みを感じたいんだ、意味はないけど。
ずっしりとしてる金袋の中身もすぐに見たいがこれは後でのお楽しみ。
「あと、次元病についての論文……お待ちしておりますよ」
「ええ……」
うっ、現実にぐいっと引き戻された。
大病を処置したとなれば当然論文を書いて欲しいとせがまれる。
論文は治療士としての評価にも繋がるから書いておいて損はないが、色々とこれまた厄介な事情も生じるから気乗りしないのだ。
「――次元病、だって?」
「あの青年が?」
「いやまさか」
「けど見てみろよあの報酬――」
周りでは俺が次元病を治したという話で持ちきりだった。
こういう扱いは初めてなものだから……むずかゆい。
「なら再び次元病が発生した時にレイコを吸い込ませれば元の世界に帰せるんですか?」
「次元病から出たものは、吸い込まずその場に残っているので定かではございませんが……試した方はおりませんね」
何より次元病に遭遇する機会がないので、と付け加えられる。
確かに……何年かに一度、どこで発病するかも分からない病になど狙って立ち会えるものではない。
何より放出時のものは吸い込まないとあれば、次元病がレイコを受け入れるかどうか。
とはいえその条件は放出時に限り、かもしれない。誰も試していないのならば、もしも――もしもまた次元病に遭遇する事が出来ればの話だが、試す価値はあるだろう。
それがいつになるかは定かではないが。
「これについては考えても致し方ありません。彼女の検査と、そして今後の生活に関しての話を今は優先しましょう」
「今後の生活……」
どうするのだろう。
ギルドが保護してくれるのだろうか。
ふと職員が部屋へと入ってきた。先ほどの職員とは違う。
「失礼」
ラハルェさんに何やら耳打ちをして、二人とも話し合いが始まった。
機密事項なのか、俺には聞こえないように話をしている。しかし時折こちらに一瞥をくれているあたりからして、俺にも何かしら関係ある話らしい。
ようやくして職員は部屋から立ち去り、ラハルェさんは営業スマイルを作り直して話し始めた。
嫌な予感がする。
「彼女はどうやらルヴィン様を気に入っているようですが」
「……どうなんでしょうかね。無表情なもんでよく分からないですけど」
「ですが貴方を頼っている素振りを見せておりますよね」
否定はしない。
俺の袖に何か気に入るものでもあるのか、何度もつまんできたがあれか? 雛が最初に見たものを親だと思い込むみたいなやつか?
どうであれ感情を読み取るのが難しくて何を考えているのかまったく分からん。
「どうでしょう、身元引受人として引き受けるのは」
「えっ、はぁ!?」
思わず、紅茶を吹き出しそうになった。
おいおい、さっき話をしていたのは身元引受人に関しての話か?
「確かルヴィン様が現在お住まいになっているのはお師匠様が残した館でしたね。一人くらい住まわせるのは容易いのではと……」
よく調べてますね。
面倒事の押し付けにはちょうどいいものがあったってか?
……いや、そんな意地悪からくるものではないだろうな。帝国への対応、次元病についての調査、再発しないかの確認などやる事が山のようにあり、雪崩のように押し寄せているはずだ。
手を貸してくれれば助かる――そんな言外の願いを汲み取ったものの、すんなりとは頷きがたい。
「その上で、彼女は東和国からの旅人という事で、ルヴィン様のチームとは偶然会った――と表向きはそういうていでお願いしたいのですが……」
「あー……そういう事ですか」
次元病の中から人が出てきた――そんな噂を広めたくはないのだろう。
レイコが常に注目されてしまうし生活もしづらくなる。ならばいっそ旅人として偽ってしまおうとな。
……悪くはない、レイコのためを思うとむしろそれが最善かもしれない。
「我々としましても有能な方々が彼女のそばにいるというのは安心できますし、彼女もまた安心できると思うのです」
「……先ずはレイコに聞くべきでしょう」
「それがですね、レイコ様はすでに身元引受人をルヴィン様に指定しておりまして」
「……えぇ?」
「いかがなさいましょう?」
そこまでもう話が進んでいたのか。
彼女の置かれた状況を考えると……放ってはおけない自分もいる。どうもこういうのは、手を差し伸べちまう。
頼られ耐性というべきか、そういったものがないためだ。我ながらこれは長所としてみていいのだろうか。
「わ、分かりました……」
「それでは、手続きがございますので、一旦場所を移しましょう」
広間に行くと窓の外の橙色はすっかり色濃くなっていた。
もう夕方過ぎ、治療士達も続々とギルドへ寄っていく時間帯だ。来た時より治療士達が増えていた。
魔物化した病魔の依頼を終えたのか、自分の身長よりも高い剣を持つ者、治療道具がいくつも入った鞄を持った者などさまざまだ。
このギルド本部となれば俺よりも治療士としての階級が高い人ばかりで、自分には場違いだ、少し居づらい。
「次元病治療処置の報酬をご用意させていただきますのでこちらに」
周りの治療士も次元病の話となると遠くから視線を向けている様子だった。
受付に行き、書類に記載している間、隣では紙幣の束が一束、二束……そして硬貨がぎっしり詰まった袋が三つ。
思わず二度見した。
待て待て……落ち着け、取り乱すな俺。
凛とした態度を保たなくては。
今までの依頼の中でも一番の報酬金額だ、これで数ヶ月は割りと贅沢な生活ができるな。
いかんいかん、頭の中では今、高級治療道具や豪華な夕食が浮かび上がってやがる。
……少し思考を変えよう。
「そういえば、次元病の中から出てきた人はどう過ごしてたんですか?」
「帰ろうと方法を探したり、はたまたこの世界で有意義に過ごしたりしていたなんて聞きますね。真相は定かではありませんが」
「その人達は今は生きてるんですか?」
「申し訳ございません、詳細については機密事項になっておりまして」
受け取りの書類を書き終え、正式にこの札束達が俺の所持金となった。
笑みがこぼれちまう、こんな金額が一気に手に入るとなると。
「それとこちらは支給金となります」
「支給金?」
「レイコ様に必要なものを買う際にお使いください」
そうか、そりゃあ人を預けるのだから金もくれて当然か。
ありがたく受け取っておこう。額はそれなりにあるね。
「足りなかった場合は申請してください。くれぐれも無駄遣いをしないようお願いいたします」
「分かりました」
その他には、レイコを預かるための書類や、俺のチームについての詳細なりなんなりについての記入を何枚もして、疲労もあって最後あたりは殴り書きに近くなってしまった。
こういう書類記入は、面倒で嫌いだ。
「これにて手続きは完了でございます、レイコ様はまだ少しお時間が掛かると思いますのでお待ちください」
「ええ、気長に待ってます」
「恐縮でございます。そうそう、金額が金額なので持ち歩かずに銀行に預けに行くのをお勧めしますよ」
「そう、ですね」
預ける前に少しだけ持ち歩いていたい。
重みを感じたいんだ、意味はないけど。
ずっしりとしてる金袋の中身もすぐに見たいがこれは後でのお楽しみ。
「あと、次元病についての論文……お待ちしておりますよ」
「ええ……」
うっ、現実にぐいっと引き戻された。
大病を処置したとなれば当然論文を書いて欲しいとせがまれる。
論文は治療士としての評価にも繋がるから書いておいて損はないが、色々とこれまた厄介な事情も生じるから気乗りしないのだ。
「――次元病、だって?」
「あの青年が?」
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