異世界の治療士達

智恵 理陀

文字の大きさ
8 / 37
第一章

Karte.008 身元引受人

しおりを挟む
「――この世界にどうやって来たのかは皆記憶が欠落していて次元病の中というのは実際どうなっているのかは未だに不明ですが、あれは世界と世界を繋ぐ通路の可能性が高いかと」
「なら再び次元病が発生した時にレイコを吸い込ませれば元の世界に帰せるんですか?」
「次元病から出たものは、吸い込まずその場に残っているので定かではございませんが……試した方はおりませんね」

 何より次元病に遭遇する機会がないので、と付け加えられる。
 確かに……何年かに一度、どこで発病するかも分からない病になど狙って立ち会えるものではない。
 何より放出時のものは吸い込まないとあれば、次元病がレイコを受け入れるかどうか。
 とはいえその条件は放出時に限り、かもしれない。誰も試していないのならば、もしも――もしもまた次元病に遭遇する事が出来ればの話だが、試す価値はあるだろう。
 それがいつになるかは定かではないが。

「これについては考えても致し方ありません。彼女の検査と、そして今後の生活に関しての話を今は優先しましょう」
「今後の生活……」

 どうするのだろう。
 ギルドが保護してくれるのだろうか。
 ふと職員が部屋へと入ってきた。先ほどの職員とは違う。

「失礼」

 ラハルェさんに何やら耳打ちをして、二人とも話し合いが始まった。
 機密事項なのか、俺には聞こえないように話をしている。しかし時折こちらに一瞥をくれているあたりからして、俺にも何かしら関係ある話らしい。
 ようやくして職員は部屋から立ち去り、ラハルェさんは営業スマイルを作り直して話し始めた。
 嫌な予感がする。

「彼女はどうやらルヴィン様を気に入っているようですが」
「……どうなんでしょうかね。無表情なもんでよく分からないですけど」
「ですが貴方を頼っている素振りを見せておりますよね」

 否定はしない。
 俺の袖に何か気に入るものでもあるのか、何度もつまんできたがあれか? 雛が最初に見たものを親だと思い込むみたいなやつか?
 どうであれ感情を読み取るのが難しくて何を考えているのかまったく分からん。

「どうでしょう、身元引受人として引き受けるのは」
「えっ、はぁ!?」

 思わず、紅茶を吹き出しそうになった。
 おいおい、さっき話をしていたのは身元引受人に関しての話か?

「確かルヴィン様が現在お住まいになっているのはお師匠様が残した館でしたね。一人くらい住まわせるのは容易いのではと……」

 よく調べてますね。
 面倒事の押し付けにはちょうどいいものがあったってか?
 ……いや、そんな意地悪からくるものではないだろうな。帝国への対応、次元病についての調査、再発しないかの確認などやる事が山のようにあり、雪崩のように押し寄せているはずだ。
 手を貸してくれれば助かる――そんな言外の願いを汲み取ったものの、すんなりとは頷きがたい。

「その上で、彼女は東和国からの旅人という事で、ルヴィン様のチームとは偶然会った――と表向きはそういうていでお願いしたいのですが……」
「あー……そういう事ですか」

 次元病の中から人が出てきた――そんな噂を広めたくはないのだろう。
 レイコが常に注目されてしまうし生活もしづらくなる。ならばいっそ旅人として偽ってしまおうとな。
 ……悪くはない、レイコのためを思うとむしろそれが最善かもしれない。

「我々としましても有能な方々が彼女のそばにいるというのは安心できますし、彼女もまた安心できると思うのです」
「……先ずはレイコに聞くべきでしょう」
「それがですね、レイコ様はすでに身元引受人をルヴィン様に指定しておりまして」
「……えぇ?」
「いかがなさいましょう?」

 そこまでもう話が進んでいたのか。
 彼女の置かれた状況を考えると……放ってはおけない自分もいる。どうもこういうのは、手を差し伸べちまう。
 頼られ耐性というべきか、そういったものがないためだ。我ながらこれは長所としてみていいのだろうか。

「わ、分かりました……」
「それでは、手続きがございますので、一旦場所を移しましょう」

 広間に行くと窓の外の橙色はすっかり色濃くなっていた。
 もう夕方過ぎ、治療士達も続々とギルドへ寄っていく時間帯だ。来た時より治療士達が増えていた。
 魔物化した病魔の依頼を終えたのか、自分の身長よりも高い剣を持つ者、治療道具がいくつも入った鞄を持った者などさまざまだ。
 このギルド本部となれば俺よりも治療士としての階級が高い人ばかりで、自分には場違いだ、少し居づらい。

「次元病治療処置の報酬をご用意させていただきますのでこちらに」

 周りの治療士も次元病の話となると遠くから視線を向けている様子だった。
 受付に行き、書類に記載している間、隣では紙幣の束が一束、二束……そして硬貨がぎっしり詰まった袋が三つ。
 思わず二度見した。
 待て待て……落ち着け、取り乱すな俺。
 凛とした態度を保たなくては。
 今までの依頼の中でも一番の報酬金額だ、これで数ヶ月は割りと贅沢な生活ができるな。
 いかんいかん、頭の中では今、高級治療道具や豪華な夕食が浮かび上がってやがる。
 ……少し思考を変えよう。

「そういえば、次元病の中から出てきた人はどう過ごしてたんですか?」
「帰ろうと方法を探したり、はたまたこの世界で有意義に過ごしたりしていたなんて聞きますね。真相は定かではありませんが」
「その人達は今は生きてるんですか?」
「申し訳ございません、詳細については機密事項になっておりまして」

 受け取りの書類を書き終え、正式にこの札束達が俺の所持金となった。
 笑みがこぼれちまう、こんな金額が一気に手に入るとなると。

「それとこちらは支給金となります」
「支給金?」
「レイコ様に必要なものを買う際にお使いください」

 そうか、そりゃあ人を預けるのだから金もくれて当然か。
 ありがたく受け取っておこう。額はそれなりにあるね。

「足りなかった場合は申請してください。くれぐれも無駄遣いをしないようお願いいたします」
「分かりました」

 その他には、レイコを預かるための書類や、俺のチームについての詳細なりなんなりについての記入を何枚もして、疲労もあって最後あたりは殴り書きに近くなってしまった。
 こういう書類記入は、面倒で嫌いだ。

「これにて手続きは完了でございます、レイコ様はまだ少しお時間が掛かると思いますのでお待ちください」
「ええ、気長に待ってます」
「恐縮でございます。そうそう、金額が金額なので持ち歩かずに銀行に預けに行くのをお勧めしますよ」
「そう、ですね」

 預ける前に少しだけ持ち歩いていたい。
 重みを感じたいんだ、意味はないけど。
 ずっしりとしてる金袋の中身もすぐに見たいがこれは後でのお楽しみ。

「あと、次元病についての論文……お待ちしておりますよ」
「ええ……」

 うっ、現実にぐいっと引き戻された。
 大病を処置したとなれば当然論文を書いて欲しいとせがまれる。
 論文は治療士としての評価にも繋がるから書いておいて損はないが、色々とこれまた厄介な事情も生じるから気乗りしないのだ。

「――次元病、だって?」
「あの青年が?」
「いやまさか」
「けど見てみろよあの報酬――」

 周りでは俺が次元病を治したという話で持ちきりだった。
 こういう扱いは初めてなものだから……むずかゆい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...