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第二章
Karte.013 治療士の世界
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北ギルド支部は巨大な四角い箱をどんと置いたような、建物としては特に面白みのない外観をしている。
中に入ると高い天井は開放感があるもののそれほど広い建物ではないために油断すると肩をぶつけ合う事もしばしば。
右側にある掲示板の前には治療士達が多く留まっている。
端から端まで、壁一面を惜しみなく使った掲示板は実に荘厳で、数えきれないほどに貼られている紙一枚一枚が依頼書だ。
それほどまでに世界は脆く、多くの治療士に助けを求めているのだ。
とはいっても声を出せるわけではない、ギルド職員達が魔力を感知し、引っかからないものに関しては調査員が自ら足を運んで情報を集めてくる。
この掲示板に依頼書が一枚も張られない日は果たして訪れるのだろうか。
「ほら、これが今きてる依頼だ」
「すごい数、いつもこうなの?」
「まあな」
レイコは瞠目して、掲示板を右から左へとその目でなぞっていく。
何人もの治療士達が一枚一枚見てまわり、奥のテーブル席で話し合うという流れを見ては、次なる視線はテーブル席へ。
どうだレイコよ、すごいもんだろう?
掲示板、テーブル席、受付、そして現場へ、そういった流れが直に見れて、緊張感も直に味わえる。
人の行き来も激しく、活気溢れる空間だ。最初のうちは、この流れを観察しているだけでも飽きないってもんだ。
……師匠が俺を連れてきてくれた日を、思い出すよ。
あの時も、こうして肩を並べて暫くこの流れを眺めていた。偶然にも、同じような位置で、同じようにしている。
「この二枚重なってるのは?」
「それは診療録って言ってな、病名や症状が詳しく記載されている書類付きだ」
「なら診療録付きのほうが良いという事?」
「そうでもない、診療録付きの中には、前に担当した治療士が処置できなかったから診療録を付けた場合もある。難易度が違うものが混じってるって事だ」
だからこそ診療録が付いてるからありがたいと飛びつくのではなく、しっかり目を通して自分の技量を考慮し慎重に選ぶ必要がある。
依頼を受けて、達成できずにこの掲示板へ張りなおしは評価が下がる一因ともなってしまう。
レイコは一枚一枚じっくり見ていた。
まだ治療士の知識を微塵も得ていない彼女からすれば何が書かれているかなどよく分かってないとだろうが。
……というか。
「……なあレイコ、文字は読めるのか?」
「私の知っている文字じゃない、それは確かなのに何故か……読める。不思議な、感覚」
「ほう、そうか……。まあ、一から文字の読み書きをする手間が省けていいな」
「うん、それはいい」
しかし別世界から来たにも関わらず文字を読めるというのは、一体どういう事なのだろうか。
なんか特殊な……ライザックさんが言っていたように、何かしら変化を起こした上でのものなのか?
……考えたところで俺には答えを見出せやしないな。
「見ろよ、診療録がない依頼を選んだチームが話し合ってる」
四人チームの治療士達だ。
各々が資料を持ち出して見せ合っていた。診療録もなく、難易度は高い依頼なのだろう。話し合いの段階で、表情や目つきからは気迫を感じられる。
「これまで似たような症状の資料を持ち出してどんな病魔かの予測を立てているんだろうな」
「なるほど」
手術に必要な持ち物も変わってくるために、彼らの話し合いは実に真剣そのものだ。
見たところ、きっと俺よりも階級は高いだろう。ベテランの雰囲気をそこはかとなく感じる。
「準備も道具も足らずにとんぼ返りで病魔が悪化――それだけは避けなくちゃならん」
「みんな、慎重なのね」
「そりゃあな。自分のせいで魔物が生まれたなんていうのは最悪だぜ」
今日は十数に及ぶチームが机を埋めていた。
割りと多いほうだな。俺もいくつか目を通したが診療録付きの依頼はどれも難易度が高かった。
中には診療録無しの依頼を選んだチームもいるだろう。その場合、話し合いは長く、おそらく今日一日は準備で終えるチームもいたはずだ。
ざっと掲示板を見ると今日の依頼は難易度は高め、いつもよりテーブル席は埋まっていた。
俺が次元病を処置したというのが、彼らに良い刺激となったのもあるかもしれない。
「何か依頼、受けないの?」
「んー、手頃なのはなさそうだし、やめとこうかな。お前のお守に専念するよ」
「つまらない」
「誰のせいだよ誰の」
レイコは依頼書を掲示板から剥がして俺に見せつけてくる、受けろとでも? いいややめておこう。
すかさず俺は元の場所へと戻した。
「この世界では木や岩、空気などに病巣ができる――だったっけ」
「ああ、そうだ」
「何故? 普通の病気とは違うのは、分かったけど」
俺達にとっては常識ではあってもレイコにとっては疑問の一つ。
別世界の人間にとってこの差異は大きいだろう。
「そもそも病巣ができる原因は解明されてない。発展に伴う環境破壊や、大地から沸く魔力に異常が生じて病巣の原因になってるのではとされているがな」
「発展していくと病魔が増える?」
「増えているのは事実だ」
ただし発展を抑える事はしない。
この都市のみならず、他の都市や国も、同じ考えであろう。
「なら発展をやめれば?」
「発展ってのはな。下り坂に球体を転がすようなもんなんだぜ」
幼い頃、俺も似たような質問を師匠にしたもんだ。
師匠から聞いた返答をそのまましてやろう。
「というと?」
「障害物があろうとも、速度の上がった球体はずっと転がり続ける。止められるわけがないし、誰も止めたがらない」
それに発展が病巣の増加に直接結びつくとも限らないからな。
「この世界からすれば俺達人類も病魔みたいなもんかもしれないな」
「どの世界も人が最も害をなす。けど害を治すのもまた人、ね」
彼女は腕を組んで一人で頷いていた。
自分の言葉に酔いしれているだろうか。
だが彼女の言葉には共感できるものがある。
「これは?」
先ほど話していた神妙さは既に無く、彼女はとたとたと別の掲示板へ向かっていた。
俺には到底真似できない模写、絵が描かれた紙を彼女は手に取る。
「こいつらは長らく処置できていない魔物だ」
「誰か処置しないの?」
「追跡が難しいんだ。こいつを見てみろ」
一つの依頼書を指さした。
特に変哲のない川のイラストが載っているが――
「川が病魔に侵されていて、病魔自体も見た目がほとんど水に近い。こいつを川の中から見つけるなんて難しいどころの話じゃない」
「大変そう」
「他には山が病魔によって魔物になっちまったのもあるが、相手がでかすぎてな。ま、こっちはほとんど動かんからいいが気まぐれに噴火されちゃあたまらん」
「よし、山の魔物を治療しよう」
「よしじゃねーよ。これほどの病魔だとそうだな……病巣は君のサイズくらいの球体ってとこだろうな。それを広大な山の中で探すのを想像してみろ、しかも病巣は埋まっていて視診できない状態をな」
彼女は天井を仰いで、やや眉間にしわを寄せた。
「無理すぎて軽くウケる」
「ウケんな」
皆持て余してるからずっと残ってる依頼だ、完治できるのはいつになるやら。
「私も早く治療士になって依頼をこなしたい」
「先ずは仮登録だが……話は試験に受かったらだな」
試験自体はさほど難しいわけではない。
治療士としての最初の位置に立つための試験みたいなものだから、基本を押さえていれば大体は合格できる。
問題は、そこからが大変なのだ。
「ちなみに治療士になってもある程度実績をあげないと治療士称号剥奪処分があるからな」
「では治療士になったらすぐに依頼をこなす」
「せめて難なくこなせるだけの腕と知識を得てからにしろよ」
まだ何も知らないってのに自信だけは達者だ。
近くに置いてあった治療士について簡単にまとめたパンフレットを彼女に手渡す。
「階級は意外と多いのね。ルヴィンはどのあたり?」
「銀下級だ。依頼をこなした量より、依頼内容の質でギルド側が判断するから近道なんてないぞ」
次元病の処置をした件で中級か上級に上がれる可能性が高いがね。
早く通知こないかねえ。素直に期待している。
「私が治療士になったら山の病魔を処置して一気に階級を上げる」
「無謀だからやめようね」
こいつは治療士というもの自体を甘く見てやがるな。
一度依頼の一つを受け取って見せてみるのも手だが、果たしてギルドが許可するかどうか。
「処置の難しい依頼はこのまま放置?」
「悪化する前に他の治療士がメンバーを集めて処置に掛かるさ、今は準備が出来てないだけで放置はしてないんだぜ」
「君もメンバーに選ばれる?」
「それはないだろうよ。上位の治療士達は派閥を作ってるから大抵がその派閥に所属している奴らから選ばれる」
俺はどの派閥にも所属していないし、所属する気も今はない――と言葉を添えておく。
「ルヴィンは、どこか所属しないの?」
「いいや。派閥に入ってると処置メンバーに加わったり知識や技術は学べるけど、今のところは……どこにも入る予定はないかな」
「自分中心で動いたほうが気が楽?」
「ああ、そうだな」
とりあえずギルド内を見て回る。
換金所から休憩所、メンバー募集欄にと一通り見せてちょいとだけ彼女に自由時間を与えた。
「はぁ……」
子守は疲れる。
ライザックさんとエルスが朝から武器や薬の調合云々言って早々に出て行ったのはもしや俺にレイコを押し付けたかっただけなのではないか。
彼女の見える位置で休憩しながら、コーヒーを一杯飲むとした。
「また会ったねぇ」
「……その声は」
振り返る前に、腕の一本が俺のコーヒーを奪い彼女――ルォウの口元に。
「んかっ、苦いわぁ。お茶はないさね?」
「人の飲み物奪っておいてそれかよ」
「彼女、楽しそうねぇ」
「俺は楽しくないがな、それよりコーヒー返してくれないか? あとなんでここに来てんだ? あんたはいつも西区だろ?」
ルォウからコーヒーは取り返したが二口で随分と飲まれたな。
もうほとんどないじゃないか。
「そりゃあレイコちゃんが来てるって話を聞きつけたから来たに決まってるさね」
「意外と暇人なんだな」
「ん、んー、あの子に会うために今日の予定は全てキャンセルしただけよ」
そこまでするかね普通。
「本部ならともかく別の支部にまで来るなんて、治療士にいい目では見られないぞ?」
「依頼を横取りしにきたわけじゃないしいいでしょう?」
新人治療士ならまだしも、別区の支部へと足を運ぶのは好まれる行為ではない。
依頼を奪ったりでもしたら支部との衝突もありうる。
どこかの派閥に入っていればそこからまた絡みに絡んでの連鎖が生じるため、何かしら重要な用件がない限りは別区の支部へは足を運ばないのが暗黙の了解だ。
「それならまあ、いいけど。あいつと話をしたいならどうぞお好きに」
ルォウどの派閥にも所属していないのもあっては然程煙たがられやしないしへの尊敬の眼差しを向ける者もいる、所謂人気者だ。
……無名の俺と違ってね。
今日は折角時間を割いてくれたんだ、ここは彼女の希望を叶えてやるとしよう。
「いやぁありがたいわぁ」
俺より歳が上なくせにまるで子供のようにスキップをしながら彼女はレイコに近づいていった。
「レイコちゃ~ん!」
「ルォ~ウ」
レイコは六つの腕それぞれにハイタッチ。
あれ? こいつら昨日会ってちょっと話しただけだよな? ここから見ると旧知の仲みたいに見えるのだが。
……よし、レイコは暫く彼女に任せてもよさそうだな。
折角ギルドに来たんだし、ふらっと見てまわろう。
中に入ると高い天井は開放感があるもののそれほど広い建物ではないために油断すると肩をぶつけ合う事もしばしば。
右側にある掲示板の前には治療士達が多く留まっている。
端から端まで、壁一面を惜しみなく使った掲示板は実に荘厳で、数えきれないほどに貼られている紙一枚一枚が依頼書だ。
それほどまでに世界は脆く、多くの治療士に助けを求めているのだ。
とはいっても声を出せるわけではない、ギルド職員達が魔力を感知し、引っかからないものに関しては調査員が自ら足を運んで情報を集めてくる。
この掲示板に依頼書が一枚も張られない日は果たして訪れるのだろうか。
「ほら、これが今きてる依頼だ」
「すごい数、いつもこうなの?」
「まあな」
レイコは瞠目して、掲示板を右から左へとその目でなぞっていく。
何人もの治療士達が一枚一枚見てまわり、奥のテーブル席で話し合うという流れを見ては、次なる視線はテーブル席へ。
どうだレイコよ、すごいもんだろう?
掲示板、テーブル席、受付、そして現場へ、そういった流れが直に見れて、緊張感も直に味わえる。
人の行き来も激しく、活気溢れる空間だ。最初のうちは、この流れを観察しているだけでも飽きないってもんだ。
……師匠が俺を連れてきてくれた日を、思い出すよ。
あの時も、こうして肩を並べて暫くこの流れを眺めていた。偶然にも、同じような位置で、同じようにしている。
「この二枚重なってるのは?」
「それは診療録って言ってな、病名や症状が詳しく記載されている書類付きだ」
「なら診療録付きのほうが良いという事?」
「そうでもない、診療録付きの中には、前に担当した治療士が処置できなかったから診療録を付けた場合もある。難易度が違うものが混じってるって事だ」
だからこそ診療録が付いてるからありがたいと飛びつくのではなく、しっかり目を通して自分の技量を考慮し慎重に選ぶ必要がある。
依頼を受けて、達成できずにこの掲示板へ張りなおしは評価が下がる一因ともなってしまう。
レイコは一枚一枚じっくり見ていた。
まだ治療士の知識を微塵も得ていない彼女からすれば何が書かれているかなどよく分かってないとだろうが。
……というか。
「……なあレイコ、文字は読めるのか?」
「私の知っている文字じゃない、それは確かなのに何故か……読める。不思議な、感覚」
「ほう、そうか……。まあ、一から文字の読み書きをする手間が省けていいな」
「うん、それはいい」
しかし別世界から来たにも関わらず文字を読めるというのは、一体どういう事なのだろうか。
なんか特殊な……ライザックさんが言っていたように、何かしら変化を起こした上でのものなのか?
……考えたところで俺には答えを見出せやしないな。
「見ろよ、診療録がない依頼を選んだチームが話し合ってる」
四人チームの治療士達だ。
各々が資料を持ち出して見せ合っていた。診療録もなく、難易度は高い依頼なのだろう。話し合いの段階で、表情や目つきからは気迫を感じられる。
「これまで似たような症状の資料を持ち出してどんな病魔かの予測を立てているんだろうな」
「なるほど」
手術に必要な持ち物も変わってくるために、彼らの話し合いは実に真剣そのものだ。
見たところ、きっと俺よりも階級は高いだろう。ベテランの雰囲気をそこはかとなく感じる。
「準備も道具も足らずにとんぼ返りで病魔が悪化――それだけは避けなくちゃならん」
「みんな、慎重なのね」
「そりゃあな。自分のせいで魔物が生まれたなんていうのは最悪だぜ」
今日は十数に及ぶチームが机を埋めていた。
割りと多いほうだな。俺もいくつか目を通したが診療録付きの依頼はどれも難易度が高かった。
中には診療録無しの依頼を選んだチームもいるだろう。その場合、話し合いは長く、おそらく今日一日は準備で終えるチームもいたはずだ。
ざっと掲示板を見ると今日の依頼は難易度は高め、いつもよりテーブル席は埋まっていた。
俺が次元病を処置したというのが、彼らに良い刺激となったのもあるかもしれない。
「何か依頼、受けないの?」
「んー、手頃なのはなさそうだし、やめとこうかな。お前のお守に専念するよ」
「つまらない」
「誰のせいだよ誰の」
レイコは依頼書を掲示板から剥がして俺に見せつけてくる、受けろとでも? いいややめておこう。
すかさず俺は元の場所へと戻した。
「この世界では木や岩、空気などに病巣ができる――だったっけ」
「ああ、そうだ」
「何故? 普通の病気とは違うのは、分かったけど」
俺達にとっては常識ではあってもレイコにとっては疑問の一つ。
別世界の人間にとってこの差異は大きいだろう。
「そもそも病巣ができる原因は解明されてない。発展に伴う環境破壊や、大地から沸く魔力に異常が生じて病巣の原因になってるのではとされているがな」
「発展していくと病魔が増える?」
「増えているのは事実だ」
ただし発展を抑える事はしない。
この都市のみならず、他の都市や国も、同じ考えであろう。
「なら発展をやめれば?」
「発展ってのはな。下り坂に球体を転がすようなもんなんだぜ」
幼い頃、俺も似たような質問を師匠にしたもんだ。
師匠から聞いた返答をそのまましてやろう。
「というと?」
「障害物があろうとも、速度の上がった球体はずっと転がり続ける。止められるわけがないし、誰も止めたがらない」
それに発展が病巣の増加に直接結びつくとも限らないからな。
「この世界からすれば俺達人類も病魔みたいなもんかもしれないな」
「どの世界も人が最も害をなす。けど害を治すのもまた人、ね」
彼女は腕を組んで一人で頷いていた。
自分の言葉に酔いしれているだろうか。
だが彼女の言葉には共感できるものがある。
「これは?」
先ほど話していた神妙さは既に無く、彼女はとたとたと別の掲示板へ向かっていた。
俺には到底真似できない模写、絵が描かれた紙を彼女は手に取る。
「こいつらは長らく処置できていない魔物だ」
「誰か処置しないの?」
「追跡が難しいんだ。こいつを見てみろ」
一つの依頼書を指さした。
特に変哲のない川のイラストが載っているが――
「川が病魔に侵されていて、病魔自体も見た目がほとんど水に近い。こいつを川の中から見つけるなんて難しいどころの話じゃない」
「大変そう」
「他には山が病魔によって魔物になっちまったのもあるが、相手がでかすぎてな。ま、こっちはほとんど動かんからいいが気まぐれに噴火されちゃあたまらん」
「よし、山の魔物を治療しよう」
「よしじゃねーよ。これほどの病魔だとそうだな……病巣は君のサイズくらいの球体ってとこだろうな。それを広大な山の中で探すのを想像してみろ、しかも病巣は埋まっていて視診できない状態をな」
彼女は天井を仰いで、やや眉間にしわを寄せた。
「無理すぎて軽くウケる」
「ウケんな」
皆持て余してるからずっと残ってる依頼だ、完治できるのはいつになるやら。
「私も早く治療士になって依頼をこなしたい」
「先ずは仮登録だが……話は試験に受かったらだな」
試験自体はさほど難しいわけではない。
治療士としての最初の位置に立つための試験みたいなものだから、基本を押さえていれば大体は合格できる。
問題は、そこからが大変なのだ。
「ちなみに治療士になってもある程度実績をあげないと治療士称号剥奪処分があるからな」
「では治療士になったらすぐに依頼をこなす」
「せめて難なくこなせるだけの腕と知識を得てからにしろよ」
まだ何も知らないってのに自信だけは達者だ。
近くに置いてあった治療士について簡単にまとめたパンフレットを彼女に手渡す。
「階級は意外と多いのね。ルヴィンはどのあたり?」
「銀下級だ。依頼をこなした量より、依頼内容の質でギルド側が判断するから近道なんてないぞ」
次元病の処置をした件で中級か上級に上がれる可能性が高いがね。
早く通知こないかねえ。素直に期待している。
「私が治療士になったら山の病魔を処置して一気に階級を上げる」
「無謀だからやめようね」
こいつは治療士というもの自体を甘く見てやがるな。
一度依頼の一つを受け取って見せてみるのも手だが、果たしてギルドが許可するかどうか。
「処置の難しい依頼はこのまま放置?」
「悪化する前に他の治療士がメンバーを集めて処置に掛かるさ、今は準備が出来てないだけで放置はしてないんだぜ」
「君もメンバーに選ばれる?」
「それはないだろうよ。上位の治療士達は派閥を作ってるから大抵がその派閥に所属している奴らから選ばれる」
俺はどの派閥にも所属していないし、所属する気も今はない――と言葉を添えておく。
「ルヴィンは、どこか所属しないの?」
「いいや。派閥に入ってると処置メンバーに加わったり知識や技術は学べるけど、今のところは……どこにも入る予定はないかな」
「自分中心で動いたほうが気が楽?」
「ああ、そうだな」
とりあえずギルド内を見て回る。
換金所から休憩所、メンバー募集欄にと一通り見せてちょいとだけ彼女に自由時間を与えた。
「はぁ……」
子守は疲れる。
ライザックさんとエルスが朝から武器や薬の調合云々言って早々に出て行ったのはもしや俺にレイコを押し付けたかっただけなのではないか。
彼女の見える位置で休憩しながら、コーヒーを一杯飲むとした。
「また会ったねぇ」
「……その声は」
振り返る前に、腕の一本が俺のコーヒーを奪い彼女――ルォウの口元に。
「んかっ、苦いわぁ。お茶はないさね?」
「人の飲み物奪っておいてそれかよ」
「彼女、楽しそうねぇ」
「俺は楽しくないがな、それよりコーヒー返してくれないか? あとなんでここに来てんだ? あんたはいつも西区だろ?」
ルォウからコーヒーは取り返したが二口で随分と飲まれたな。
もうほとんどないじゃないか。
「そりゃあレイコちゃんが来てるって話を聞きつけたから来たに決まってるさね」
「意外と暇人なんだな」
「ん、んー、あの子に会うために今日の予定は全てキャンセルしただけよ」
そこまでするかね普通。
「本部ならともかく別の支部にまで来るなんて、治療士にいい目では見られないぞ?」
「依頼を横取りしにきたわけじゃないしいいでしょう?」
新人治療士ならまだしも、別区の支部へと足を運ぶのは好まれる行為ではない。
依頼を奪ったりでもしたら支部との衝突もありうる。
どこかの派閥に入っていればそこからまた絡みに絡んでの連鎖が生じるため、何かしら重要な用件がない限りは別区の支部へは足を運ばないのが暗黙の了解だ。
「それならまあ、いいけど。あいつと話をしたいならどうぞお好きに」
ルォウどの派閥にも所属していないのもあっては然程煙たがられやしないしへの尊敬の眼差しを向ける者もいる、所謂人気者だ。
……無名の俺と違ってね。
今日は折角時間を割いてくれたんだ、ここは彼女の希望を叶えてやるとしよう。
「いやぁありがたいわぁ」
俺より歳が上なくせにまるで子供のようにスキップをしながら彼女はレイコに近づいていった。
「レイコちゃ~ん!」
「ルォ~ウ」
レイコは六つの腕それぞれにハイタッチ。
あれ? こいつら昨日会ってちょっと話しただけだよな? ここから見ると旧知の仲みたいに見えるのだが。
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