異世界の治療士達

智恵 理陀

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第二章

Karte.020 不穏

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「ルヴィン様」
「ん? どうしました?」

 自分からはこれといって口を開かなかった御者が初めて先に口を開いた。
 言葉にはどこか動揺さも窺える。

「前方にて、おそらく未発見であろう病魔を確認しました」
「病魔だって?」

 馬車が止まると同時に俺はすぐに小窓から覗き見るとした。
 遠回りしてもらっているため、ここは街からは少し外れたひと気の少ない地域だ。
 御者の目線を追いかけると、一部地面が隆起していた。
 それだけならばなんの事はないのだが、僅かながら動いているのだ。

「魔物になりかけてるな、早く処置しないと」
「処置……ですか」
「何か問題でも?」

 妙な間があった、視線も一瞬レイコに向けたような気がしたが。

「いえ。治療道具はございますか?」
「新品があるので」
「レイコ様は、如何様に?」

 ああそうか、あんたらは目の前の病魔よりレイコが心配なんだな。

「私も処置に掛かる」
「おいおいお前はまだ治療士にすらなってないんだぜ」
「処置してみたい、やってみたい、やらせなきゃギルドにも協力しない」

 最後の言葉で職員を一気に困り顔にさせてしまった。

「治療士が付き添っている場合と、緊急時であれば治療士でなくても補助は許可されておりますが……」
「えっ、やらせるんですか?」
「危険な処置には携わらないと約束してくれるのならば……」

 手術はいつだって危険と隣り合わせ陀。
 携わらせないなんて、無理な話である。
 
「……病魔の症状からして治療に参加させるのはちょいと厳しいんだがな」
「処置を体験してみたいだけ、お願い」
「では少しでも危険が増しましたらルヴィン様、彼女の避難をお願いします」

 ギルド職員の許可も下された、下されてしまった。

「おいおいマジかよ……」
「マジのようだよ」

 レイコに指導処置ってとこか。
 念のためにと剣だけ持ってきてよかった、完全に魔物化して動き出してしまった場合でも対処はできる。

「早速処置にかかるぞ」
「先ずは何をすればいい?」

 今日買った道具を一式腰袋に入れて彼女に装着させた。
 本来ならば俺が腰袋を帯につけるべきなのだが女性用の帯は若干サイズが異なる、何より使い慣れた帯じゃないと違和感で気が散ってしまいそうだ。

「付け心地は?」
「悪くない、ただ帯が少し硬くて」
「使い続けていけば自分の体に合うようになる、今は我慢しろ」

 では処置に入るとしようか。
 不安しかないが、なんとかやってみよう。

「くれぐれもお気をつけて。何かありましたら我々も手を貸しますので」

 御者は馬車を移動させて離れたところで俺達を見守るつもりのようだ。
 彼の言う我々、という単語を聞くと周りにはやはりギルドの職員が潜んでいるのだろう。

「視診からいくぞ」
「視よう」
「色が変わっている場所や動きのある場所、そういうのは特に注意しろ。じゃないとモブさんみたくなるぞ」
「宙は舞いたくない、よく視るとする」
「同時に嗅診だ、この辺りは草木の香りも漂う場所だが、それとは違った鼻孔を刺激するような、鉄に似た匂いを感じたら空気が病魔に侵されている可能性がある」

 レイコはくんくん、とそこらじゅうを嗅ぎ始め――

「異常なし」
「……ああ」

 餌を探す犬のようによく嗅いだな。むしろ良い事なのだが、もう少し人間らしく匂いを嗅いでもらいたい。

「麻酔針を隆起している周辺に三つ刺してくれ」
「了解、ぶすぶすぶすっと」

 言わんでいい。

「もう少し深く刺すんだ」
「ずぶずぶずぶっと」

 これから麻酔針を刺すたびにそんな声を出すんじゃないだろうな。

「次は触診だが、その前に手袋とマスクをしろ」
「手袋、おっけー。マスク……」
「ああ、魔力石に触れて魔力を送るんだ。どれ、やってやる」

 マスクの発動も問題なしだ。
 準備を終えて、レイコはどこか嬉しそうに体を揺らしていた。

「よし、触ろう」
「慎重にな」

 隆起している部分の周辺から、そっと撫でるように触れていき、レイコも俺の動きを真似た。

「周辺への転移はないかな。何かシコリがあるような感覚はあったか?」
「特に、何も」

 隆起している部分にも触れてみる。動いているからあまり刺激は与えたくないが、軽く押して指先に伝わる感覚で病巣の大きさを図りたい。
 大体ではあるが……俺の頭蓋ほどはあるか。普通程度のサイズだ。

「――無菌結界浄化テント展開」

 装置を頭上に投げて病巣を中心に俺達を半透明の膜が覆う。

「おお~」
「これで周辺への感染予防になる」

 執刀に掛かるとして、ここは……そうだな。
 彼女への指導も怠らずにせねばなるまい。現場で指導というのも、あまりやりたくはないのだが致し方がない。

「レイコ、何をどうしていいのか分からないよな? こっちに寄れ」
「うん、ぬわっ」

 レイコに覆いかぶさるように体を密着させて、彼女の両手を掴んだ。
 二人羽織といこうじゃないか、手っ取り早く動きや感覚を掴ませるにはただ処置を見せるよりもこうして直に手を動かして教えるとする。

「……これは?」
「集中しろ、ほら、右手を動かすぞ。切開用のナイフを持って隆起してる部分に切れ込みを入れる。麻酔針が効いて刃は通りやすいはずだ」

 細腕に細い指、肌は滑らか。
 大きめの人形を動かしている気分だ。
 しかし勘違いしないでいただこう、これは別にレイコと触れ合いたいとかそういうのではなく、俺が師匠に最初に教えてもらった時もこの二人羽織りスタイルだったからだ。

「中々集中できない、体の密着が高い」
「ガキじゃあるまいし」

 彼女の手を動かして、切れ込みを終えて次は病巣探し。
 この段階でも、周辺には気を配らなければならない。

「周辺の変色は見られるか?」
「ない。触診もしてみたけど転移は確認されてない」
「なんだかやりなれてるような口調だな、その調子で注視しろよ」

 集中してきたからか、転移や異常の警戒心も高い。
 そこらの駆け出し治療士よりは筋がいいかもしれんな。

「切開した、黒い液体出てる。控えめに言って気持ち悪い。触っても大丈夫なの?」
「直接肌で触れなければ大丈夫だ。それに病魔自体が人間に感染する事はないから安心しろ」

 レイコは恐る恐るながら液体を突き、若干ある粘着性に表情を曇らせた。
 女はこういうのは特に嫌がるよなぁ。

「これはなんという病気?」
「悪性侵食液病だ、いや待てよ……? これだけの隆起と動きがあるのを見ると合併症も考えたほうがいいか」
「……病巣、だっけ。それが二つ?」
「可能性は十分考えられる」

 悪性侵食液病なら処置はすぐだが、もう一つのほうが魔物化に近いとしたら……急がなければならないか。
 しかしまだ症状も不明で病名も判明していない、どういった処置を行うべきか。
 ここはもはや……処置中に魔物化した場合の事を想定して動いたほうがいいかもしれない。

「今はこいつを処置しよう。ナイフを用意しろ、切開用じゃない奴な」
「月柄でいく」
「月柄だろうが花柄だろうがどちらでもご自由に」

 ナイフを深く刺して奥にある殻を捉えたら深く刺す。
 ここまでの処置はエルスの時と同じだ。
 それにしても流石新品のナイフだ、病巣を捉えた時の異音も小さく、感触に気付くのが一瞬遅れるほどの切れ味だ。

「ん、何か、刺さった?」
「病巣を包んでいる殻に刺さったんだ」
「……ルヴィン、地面、揺れてる?」
「言われてみれば……」

 そこはかとなく。
 ……縦揺れしているような気がする。

「殻はどうなってるかな……」

 すっとナイフを引き上げるや、刃先についてきた殻に違和感を覚えた。

「……引っ張られてる?」
「何か……おかしいな」

 引っ張られてるだなんて。
 ……こんな症状は初めてだ。
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