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第二章
Karte019 僅かな蟠り
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「麻酔針に噴射器、縫合糸と道具袋……ここだけじゃ揃えられんな」
「必要なものは任せた」
「……揃えてはやるけど、基本的な使い方くらいは勉強しておけよ?」
一つ一つ教えてやるつもりもないし、何でもかんでも教えりゃあいいってもんでもない。
自ら学ぶ意欲ってのも大切だ。
ずっと手を引いてやるより、背中を押して後は見守ったほうが伸びる時がある。
「参考書とかないの?」
「あるにはあるが……」
参考書はいくつかあるとはいえ、どれも本当にただの基本知識くらいしか学べない。
治療士は現場で覚えるのが一番だ、どう使うかよりどの場面で使うかが重要なのだから。
何より本を読んだくらいで治療士の仕事ができたら苦労しない。
本で済むのは最初の治療士試験だけだ。
「夕方まではまだ少し時間はあるな、もうちょいまわるか」
「聞いていい?」
「おう、なんだ?」
他の店に行く道中。
レイコについて分かった事がある。
それは――やはりこうして共に行動していると……こいつ、意外と喋る。
表情に変化は相変わらずないのだが、割りと心を開いてくれているようで悪い気分ではない。
「ルヴィンの家族は? あのおっきい館には昨日の人達しかいなかったけど」
「俺は孤児だ、家族が生きてるかどうかも分からん。子供の頃に物を盗んで過ごしてたら師匠が俺を拾ってくれてな。強いて言えばあの人が親代わりだったけど三年前に死んじまった」
「そうなんだ……ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいさ」
お前の家族は――?
なんて、聞こうとしたけど記憶喪失なんだから分かるはずもないか。
「師匠って、どんな人だったの?」
「一言で表すと……豪快な人、だったかな。何から何までよ」
「豪快……」
無駄にでかい館でも思い出したのか、軽く空を仰いでなるほど、と小さく呟いていた。
少人数で住むってのに狭いより広いほうがいいとか言い出した結果があの館だ。本当に、豪快な人だった。金使いに関しても。
「治療士としては?」
「そりゃあもう……」
……いや。
どう言っていいものか。
「――おっと、ここも寄らなきゃな」
「ここは……?」
話はまた今度、としよう。
というのも。
二人で看板を見上げる。分かりやすく剣が飾られている事からもうお察しであろう。
「武器屋さ」
「ほほう」
治療士になるにはここにも寄らなきゃな。
魔物と戦うとなればナイフより剣や銃が有効だ。
中に入るや筋骨隆々の客が目立つ、皆自分に合う武器を吟味しており中にはこれから厄介な魔物を討伐する依頼でもあるのか斧を鋭い眼光で見ているのは鬼気迫るものがある。
「私に合う武器は?」
「何がいいかねぇ。軽量の剣なら触れなくもないだろうが」
今まで武器を持った事があるようには思えない華奢な腕だ。
剣をまともに振れるのかも、怪しい。
「色々触ってからにするか。弓はどうだ、魔法効果を重ねれば威力も上がるし安全圏での攻撃も可能だ」
「銃は?」
「銃であればライザックさんに教えてもらえるけど、扱いや手入れが大変だぜ」
訓練しなきゃ最初の一発目の反動ででんぐり返しするはめになるだろうよ。
「剣なら俺が教えてやれる。多少弓も使えるがあとはお前次第だ」
「じゃあ剣で」
深くは考えてないなこいつ。
しかしそれも仕方がない、戦闘経験のない奴に武器の選別は難しかろう。
悩むよりなら直感で選んでみるのも一つの手だ。
「一応弓も買っておけば?」
「そうする、会計お願い」
勧めたものなんでも買いそうだな。
一通り触らせてやろうと思うがさて、どれを選ぶか。
下手したらどれも選ばないなんて事にもなりそうだが、そうなったらこの武器は非常時用にまわそう。
一先ず回れるところはできるだけ回り、それなりの道具は揃えられたが馬車の中が酷く狭くなった。
一旦館に荷物を置きに行くとして、さてさて。
「……ルォウの事、忘れてたな」
「そういえば、いつの間にかいない」
「お前を待ってる間に一度本部を離れたんだ」
「どうしよう?」
「ん~……」
彼女は今頃どこで何をしてるのやら。
買い物にも夢中になってすっかりあいつの事は頭の外に出てしまっていた。
「まあ、いいか。そのうちまたあいつからやってくるだろう」
館に戻る前に、一度街の反対側へと向かうとした。
彼女にはまだ見せてはいないからなこの街全体を。
「セルヴェハル、結構広いのね」
「そこそこな、おかげでいろんな人がくるしいろんな事も起きる、退屈しないぜ」
今は南へまっすぐ向かっている。
円形状に広がる街を一周するとなると相当の時間を要する、中央区から南区へまっすぐ向かって最後は北に向かって少し外側を遠回りする道のりでお願いしている。
南区に行くのはいつ以来か、俺の依頼範囲は大体北部中心だから南区へ足を運ぶ事はほとんどない。
少し南区のギルドを遠目から見てみるとしようかね。
あの人に――ジアフに会うとまた話が長くなりそうだし。
「あそこが南区ギルド支部だ」
「なんだか、白い」
相変わらず。
遠くからでもはっきりと分かる驚きの白さ。
「あそこのギルド支部を管理している奴の好みなのかは知らんが……ま、白いのも悪くはないかもしれないぞ?」
「どうして?」
「鳥の糞が落ちても目立たない」
「なるほど」
その辺も考慮しての白ではないとは思われるが、いかにも綺麗好きっぽいジアフらしさがあるという印象が漂ってくる。
支部周辺の治療士達はまばら、もう中で依頼完了の手続きをしているのかもしれない。
少々南下し、街と外との境界線を走ってもらうとした。
このあたりは景色がいい、別に彼女を喜ばせようとしているわけではないのだが、ああ、ただの気まぐれだ。
「このあたりも、いい眺め」
「自然が溢れていていいよな。けどこの景色も病魔に罹ればすぐに変わっちまう」
「そうならないよう、私も頑張る」
ここらは南区の連中が担当してるから俺達の出る幕はないだろうが。
これまで絶景と言われた場所であっても病魔によってその風景が失われた場所はいくつもある。
これほどまでに脆い世界、いつか荒廃してしまうのではないか――そんな不安さえ抱かせる。
「今日はもう帰るか、そのうち他の区にも連れて行ってやるよ」
後は馬車に揺られながら景色を眺めるとしよう。
……レイコは観察していると実に面白い。
今はずっと景色を楽しんでいて、彼女の中には退屈など微塵もないのだろう。
そして、彼女の世界はどれほど退屈があったのか。
また話を聞きたいものだな。
「必要なものは任せた」
「……揃えてはやるけど、基本的な使い方くらいは勉強しておけよ?」
一つ一つ教えてやるつもりもないし、何でもかんでも教えりゃあいいってもんでもない。
自ら学ぶ意欲ってのも大切だ。
ずっと手を引いてやるより、背中を押して後は見守ったほうが伸びる時がある。
「参考書とかないの?」
「あるにはあるが……」
参考書はいくつかあるとはいえ、どれも本当にただの基本知識くらいしか学べない。
治療士は現場で覚えるのが一番だ、どう使うかよりどの場面で使うかが重要なのだから。
何より本を読んだくらいで治療士の仕事ができたら苦労しない。
本で済むのは最初の治療士試験だけだ。
「夕方まではまだ少し時間はあるな、もうちょいまわるか」
「聞いていい?」
「おう、なんだ?」
他の店に行く道中。
レイコについて分かった事がある。
それは――やはりこうして共に行動していると……こいつ、意外と喋る。
表情に変化は相変わらずないのだが、割りと心を開いてくれているようで悪い気分ではない。
「ルヴィンの家族は? あのおっきい館には昨日の人達しかいなかったけど」
「俺は孤児だ、家族が生きてるかどうかも分からん。子供の頃に物を盗んで過ごしてたら師匠が俺を拾ってくれてな。強いて言えばあの人が親代わりだったけど三年前に死んじまった」
「そうなんだ……ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいさ」
お前の家族は――?
なんて、聞こうとしたけど記憶喪失なんだから分かるはずもないか。
「師匠って、どんな人だったの?」
「一言で表すと……豪快な人、だったかな。何から何までよ」
「豪快……」
無駄にでかい館でも思い出したのか、軽く空を仰いでなるほど、と小さく呟いていた。
少人数で住むってのに狭いより広いほうがいいとか言い出した結果があの館だ。本当に、豪快な人だった。金使いに関しても。
「治療士としては?」
「そりゃあもう……」
……いや。
どう言っていいものか。
「――おっと、ここも寄らなきゃな」
「ここは……?」
話はまた今度、としよう。
というのも。
二人で看板を見上げる。分かりやすく剣が飾られている事からもうお察しであろう。
「武器屋さ」
「ほほう」
治療士になるにはここにも寄らなきゃな。
魔物と戦うとなればナイフより剣や銃が有効だ。
中に入るや筋骨隆々の客が目立つ、皆自分に合う武器を吟味しており中にはこれから厄介な魔物を討伐する依頼でもあるのか斧を鋭い眼光で見ているのは鬼気迫るものがある。
「私に合う武器は?」
「何がいいかねぇ。軽量の剣なら触れなくもないだろうが」
今まで武器を持った事があるようには思えない華奢な腕だ。
剣をまともに振れるのかも、怪しい。
「色々触ってからにするか。弓はどうだ、魔法効果を重ねれば威力も上がるし安全圏での攻撃も可能だ」
「銃は?」
「銃であればライザックさんに教えてもらえるけど、扱いや手入れが大変だぜ」
訓練しなきゃ最初の一発目の反動ででんぐり返しするはめになるだろうよ。
「剣なら俺が教えてやれる。多少弓も使えるがあとはお前次第だ」
「じゃあ剣で」
深くは考えてないなこいつ。
しかしそれも仕方がない、戦闘経験のない奴に武器の選別は難しかろう。
悩むよりなら直感で選んでみるのも一つの手だ。
「一応弓も買っておけば?」
「そうする、会計お願い」
勧めたものなんでも買いそうだな。
一通り触らせてやろうと思うがさて、どれを選ぶか。
下手したらどれも選ばないなんて事にもなりそうだが、そうなったらこの武器は非常時用にまわそう。
一先ず回れるところはできるだけ回り、それなりの道具は揃えられたが馬車の中が酷く狭くなった。
一旦館に荷物を置きに行くとして、さてさて。
「……ルォウの事、忘れてたな」
「そういえば、いつの間にかいない」
「お前を待ってる間に一度本部を離れたんだ」
「どうしよう?」
「ん~……」
彼女は今頃どこで何をしてるのやら。
買い物にも夢中になってすっかりあいつの事は頭の外に出てしまっていた。
「まあ、いいか。そのうちまたあいつからやってくるだろう」
館に戻る前に、一度街の反対側へと向かうとした。
彼女にはまだ見せてはいないからなこの街全体を。
「セルヴェハル、結構広いのね」
「そこそこな、おかげでいろんな人がくるしいろんな事も起きる、退屈しないぜ」
今は南へまっすぐ向かっている。
円形状に広がる街を一周するとなると相当の時間を要する、中央区から南区へまっすぐ向かって最後は北に向かって少し外側を遠回りする道のりでお願いしている。
南区に行くのはいつ以来か、俺の依頼範囲は大体北部中心だから南区へ足を運ぶ事はほとんどない。
少し南区のギルドを遠目から見てみるとしようかね。
あの人に――ジアフに会うとまた話が長くなりそうだし。
「あそこが南区ギルド支部だ」
「なんだか、白い」
相変わらず。
遠くからでもはっきりと分かる驚きの白さ。
「あそこのギルド支部を管理している奴の好みなのかは知らんが……ま、白いのも悪くはないかもしれないぞ?」
「どうして?」
「鳥の糞が落ちても目立たない」
「なるほど」
その辺も考慮しての白ではないとは思われるが、いかにも綺麗好きっぽいジアフらしさがあるという印象が漂ってくる。
支部周辺の治療士達はまばら、もう中で依頼完了の手続きをしているのかもしれない。
少々南下し、街と外との境界線を走ってもらうとした。
このあたりは景色がいい、別に彼女を喜ばせようとしているわけではないのだが、ああ、ただの気まぐれだ。
「このあたりも、いい眺め」
「自然が溢れていていいよな。けどこの景色も病魔に罹ればすぐに変わっちまう」
「そうならないよう、私も頑張る」
ここらは南区の連中が担当してるから俺達の出る幕はないだろうが。
これまで絶景と言われた場所であっても病魔によってその風景が失われた場所はいくつもある。
これほどまでに脆い世界、いつか荒廃してしまうのではないか――そんな不安さえ抱かせる。
「今日はもう帰るか、そのうち他の区にも連れて行ってやるよ」
後は馬車に揺られながら景色を眺めるとしよう。
……レイコは観察していると実に面白い。
今はずっと景色を楽しんでいて、彼女の中には退屈など微塵もないのだろう。
そして、彼女の世界はどれほど退屈があったのか。
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