異世界の治療士達

智恵 理陀

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第二章

karte.018 道具の選別

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「――さっきの人は?」
「白金特級治療士さ、南区のギルド支部の管理も任されて……ってお前いたのか」

 振り返るやレイコ――の顔は確認できず。
 漂うコーヒーの香りから目線を下に下げるとようやくレイコを発見した、何故テーブルの下でコーヒーをすすっているのだろうかこいつは。

「何してんの?」
「二人のやり取りをじっくり観察したくて」
「そうかい。それで、話はどうだった?」

 テーブル下から移動したレイコは俺の隣に座るや溜息一つ。

「疲れた。曖昧な記憶を探るのは本当に疲れる。あ、風景画を描いてもらった、大体こんな感じ、思い出せた光景」

 彼女から絵を見せてもらった。
 魔物の絵を担当している人が描いたのか、美術品のように精緻な描写がなされていた。
 建物の形状はこの世界のものと大差はないものの――

「どれも建物が高いな、どうやって建てたんだ?」

 この絵に描かれている建物は、十階建てをも超えている。
 それが群と成しているのだから、それだけで技術や文明の違いを思い知らされる。
 建築、生産能力の違いは、その世界そのものがどれほど発展しているのか、絵とはいえこれだけでもよく分かるものだ。

「なんだか、機械があった、気がする」
「機械……ねぇ。他国は地道に研究してるがセルヴェハルは魔法と機具を組み合わせたものが主流になったからなぁ」

 ギルドは別世界の情報を得て機械技術の発展でも考えてるのか。
 しかし彼女の説明からでは仕組みまでは分からないはずだ、多少はこちらでも再現して利用できるものがあったとしても先進できるような大きな変化は与えられないだろう。
 何を考えているのやら。いや、余計な詮索しても腹は膨れない。

「あと治療士になったと説明したらお金くれた。治療士に必要な道具買っていいって。足りなかったら領収書を送ればギルド持ちと言われた。私が治療士になって依頼をこなす事は特に問題ないみたい」
「そうか…………よし、それならいい。早速買いに行くぞ」

 支給金の他にまたお金を出してくれたのか。
 ギルドめ……お金には随分と余裕があるようで。
 ふふっ、これは利用させてもらおう。

「……私が治療士になるのはお勧めしないとか言って気乗りしてなかったのに」
「そりゃあお前、もう治療士になったんだからしょうがないしならば先ずはだ、治療士志望者たる者、装備もちゃんと整えないとな」
「手のひら返しは何か裏がありそう」
「ないない、ほら行くぞ」

 ギルドの金を使ってついでに俺も装備を買わせてもらう。
 金はあるけどギルドからもお金が出るのならば、ちょっと使わせてもらっても構わないよな? 低級治療士は収入が安定しないんでね、節約できる時には節約しないと。
 それにこいつの面倒を見ているんだ、俺も少し私用で使わせてもらっても構わないだろう?

「悪い事考えてそうな顔」
「そうか? 気のせいだろ」
「気のせいだったか」
「気のせい気のせい、あ、それちょっと見せてくれ」

 レイコから金袋の中身を見せてもらった。
 さすがギルド本部、金があるある。
 余るほどあるならこっちが少しくらい使わせてもらっても問題ないな。
 意気揚々と向かうは治療機具屋。
 道中は様々な治療士のための店が立ち並び、通りかかるたびにお勧め品を紹介されたりと喧騒が止まない道が続く。

「すごい賑わい」
「各地区にこういった治療士商店街が一つあってな。この街に住んでいる治療士の他に近隣の治療士達も足を運んでくるほどいい物が揃ってるんだ」

 ただ来させるには早かったか。
 やはりレイコはどこに行っても注目されちまう。

「どうも、将来有名な治療士になるレイコです」
「その自己紹介はやめてくれない?」

 通りかかる店の商人一人一人に話しかけてたらキリがないし恥ずかしいから本当にやめてほしい。

「ほー! そりゃあ楽しみだ! それに隣のあんた! 次元病処置した治療士さんだろう!? いいもんあるし是非買ってくれよ!」
「へえ今話題の治療士さんかい! 次元縫合糸あるよ! 補充しないかい!?」
「いい麻酔針入ったよ! どうだいあんた!」

 ただでさえ喧騒が包み込む商店街の狭い通路が、更なる喧騒を生み出した。
 こちとら目的の店はもう決まっている、話を聞いてまわっていたら日が暮れちまう。
 やや足早に、レイコの手を引いて進む。

「悪いね、また後で」
「何か買っていかないの?」
「ここのは後だ、治療師に一番必要なものが置いてある店に行くぞ」

 治療士は一から道具を集めるとなると思った以上に金が掛かる。
 金銭面で余裕が無い治療士は大抵が知り合いや師匠から譲り受けるか、中古ものを扱ってる店に行くかになるが今はどちらも取る必要はない。
 折角だから上物で揃えようじゃないか。

「治療師は何が必要なの? やる気? 根気? 勇気?」
「それも別の意味で必要だが、こいつは欠かせない」

 立ち止まり、店の看板を共に見上げる。
 ナイフの絵が描かれた看板からどんな品物が並んでいるかは想像する事が出来るだろう。 

「ナイフ?」
「ああ、ここはナイフやメスを取り扱っている治療具店だ。入るぞ」

 店内は客が十数ほど、いつもこれくらいで見慣れた顔もいれば他所からやってきたであろう客もちらほら。
 並ばれているナイフの一覧、左から右へと高い順に並んでいる。
 いつもは真ん中付近をうろうろってとこだが今日は一番右まで歩こうじゃないか。

「メスは?」
「今は使用頻度は減りつつある、病魔が木々や硬いものにも巣食うようになってきた上に、大型も増えてきたからな」
「メスでは対処できなくなったものが増えたとな」
「お前の場合は最初は小さい病魔の依頼をこなしていくだろうから必要といえば必要だな」

 メスの置いてある棚へ移動する前に、と。

「……っと。こいつを買おうかな」

 一番右のナイフの前で止まる、この店で最高級の一品を前にするだけで昂ぶるものがある。
 軽量のため振りやすくその上切れ味は抜群、ミスリル製というのもあって頑丈、何より見た目も美しい。
 剣身から柄頭まで銀、剣身には波紋模様が浮かんでいてこれがまたいい。
 いつか欲しいと思っていた逸品が中々手が出なくてね。

「嬉しそう」
「いいぞこいつは……うん、とてもいい」
「ついでに私の分も」
「一本しかないから隣ので我慢しろ」

 というより頼むよ、これ本当に欲しかったんだ。

「えー……」

 悪いがこれだけは譲れん。

「こっちは花柄もあるぞ?」
「たかが花柄ごときで私を釣れると思うなよ」

 にしてはかなり凝視してるなおい。
 手ごたえありだ、もう少し誘導してみよう。

「いいのか? 花柄だって悪くないぞ?」
「くっ……」

 揺らいでる揺らいでる。
 よーく比べてみろよ、ゴツゴツしたやつと花柄、どっちがいいのか。

「やっぱり花柄」
「よし……」
「よし?」
「あ、いや……」

 これで争いなくナイフの選別は終えられそうだ。
 道具で仕事が大きく変わるわけではないが、意気込みややる気に関しては大きく変わってくる。
 こういった、ただの道具であれ自分の集中力を高めてくれる物というのは大切だ。
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