異世界の治療士達

智恵 理陀

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第三章

karte.026 適性 

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 レイコはうきうきと両足をばたつかせてはいるものの、俺は何故いきなり観光する事になったのかがまったく理解できずにいた。
 どうしても俺達を交流会へ参加させたいようだが、これは誰かが差し向けたのか?
 だとしたらジアフあたりが怪しいな、あの人なら職員を丸め込んで交流会に参加させようと裏で手を回していたとしても不思議じゃない。

「到着しました。こちらが観光地としても人気となっているロイナル丘でございます」

 レイコは到着と同時に丘へと足を下ろして駆けていった。
 中々に長い移動時間でそれだけで疲れたんだがあいつはそんなものなど微塵も感じていないようだ。

「わははは」

 更には転げ周り、体全体に草やら花やらをつけていく。
 楽しそうで何より。
 フリュウゲさんはシートを敷いて紅茶と菓子の用意までしていた、準備がいいなおい。
 その匂いに気付いてレイコは転げたままシートまで近づいてくる。
 寝ころんだままでの飲食は流石に許さん。
 俺はレイコの体勢を整えてきちんと座らせた。

「あちらに見えますのがクルエヴ山でございます」
「天気も良くてばっちり見える、眼福」

 丘の向こう側に広がる山々はセルヴェハルを囲むように連なっている。
 快晴もあって眺める景色はくっきりと大自然を眺められてまさに絶景と言える。

「今日はクルエヴ山に生息している龍も見えますね、あの龍達は自分達の住処に病魔ができるとそれを取り除く習性があるためクルエヴ山は病魔に侵されないのですよ」
「ほほー」

 しかし縄張り意識も強いため、俺達治療士が彼らの縄張りに少しでも近づこうものなら襲い掛かってくるので危険だ。
 龍も魔物に分類されるが魔力を持った獣であり、病巣が悪化した魔物になったのではないので病巣自体はない。
 なので魔物とはいえ俺達治療士の処置対象とはならないのだ。
 そういった魔物は、いくつかいる。

「他の皆様もクルエヴ山と龍達の飛び回る姿を一目見ようとやってきたのでしょう。今日は絶好の観光日和です」

 確かに観光客が多いな。
 観光名所にも力を入れているだけある。
 何人か行き詰った治療士は観光地の案内役や管理人に回ったりもしてるって話も聞いたが実際はどうなのだろう。
 もしかしたら俺も数年後には観光職員になってたりするかね。

「私のいた世界では、こんな綺麗な風景は中々見れなかった」
「そうなのか?」

 どういった世界なのか、前にもこいつから聞いた話から想像するに塔ばかりありそうな世界――文明は発展を遂げているものの自然は少ないのだろうか。
 別世界か……一度は行ってみたいものだな。
 どんな世界が広がっているかこの目で見たい。

「なあレイコ」
「何?」
「この世界は綺麗な風景もたくさんある、けど不安定な世界さ。治療士がいなければいつ乱れるか分からない。お前のいた世界とは大きく違うだろう」
「そうね、全然違う」
「どうだ、この世界で暮らしてみて」

 レイコはどんな記憶を巡っているのか、軽く空を仰いで暫し呻った後に、

「楽しい」
「……そうか」

 気に入ったのならそれでいい。

「私はこの世界でルヴィンと共に成り上がる」
「変な野望は持たないでくれ」

 一体どこへと進もうとしてるんだお前は。 

「ルヴィン様」
「なんだ?」
「こちら紅茶と、過去に出された論文の資料でございます」
「普通添えるのは菓子じゃ?」
「参考になると思いまして」

 それはありがたいけど菓子くらい出してくれてもいいじゃないか。
 なんで観光地で風景じゃなく資料眺めなきゃならんのだ。

「レイコ様、実はこのロイナル丘も一度病魔に罹った事があるのですよ」
「そうなの?」

 今では見事に芝生が大地を包んでいて綺麗な緑一色を彩っているロイナル丘。
 一時期は病魔によって緑など消え失せてしまっていたなど、誰が想像できようか。

「はい、地中の鉱物が罹ったとされておりまして、転移を繰り返して非常に治療が難しい症状でしたが、ルヴィン様のお師匠――リン・ミカド様によって見事に治療されたのです」

 懐かしい、まだ師匠が元気だった頃の話だ。
 あの時はおよそ十年ほど前、師匠には危険すぎるからと同行は許されなくて、留守番の時間がいつもよりも長く感じたな。

「危険な依頼や重病の依頼を見る度にあの方が生きておられたら、と思う事がございます」
「それほどすごい治療士だったのね」
「それはもう。生きておられたら今頃ギルド本部長に就任していたでしょう」
「ギルド本部長?」
「その説明はしておりませんでしたね、ギルド本部長とは言わば治療都市の長と同等の立ち位置なのです」

 政治にも進出できる勝ち組への一歩。
 師匠は政治なんて興味はないからギルド本部長には絶対にならないってよく言ってたがな。
 北区ギルド支部長もほんの数ヶ月だけ就いてすぐに他の治療士に譲ったりしてたし、あの人は何かしら役職に就くっていうのが好きではなかった。

「現在ギルド本部長の座は王都の特級治療士が就任されておりますがあくまで代行といった形です」
「ギルド本部長か、そういえば見た事がないな」
「普段は王都におりますので。ルヴィン様が論文を書き終えれば論文に目を通すべく王都から足を運んでくる事でしょう――と、失礼、連絡が入りましたので少し席を外します」

 小型の魔力通信機が振動していた。
 あれは便利なものだ、高くて中々手を出しにくいが今なら買っておくべきか?
 そのうち考えよう。
 何よりレイコが欲しそうな目をしてやがるし。

「ギルド本部長って、なんかすごそう」
「そりゃすごいってもんじゃない、名誉ある称号と言っても過言じゃあないぜ」
「ルヴィン、なろう」
「俺がなれるわけないだろ」

 銀級の俺に何を期待してるんだ。

「魔法さえ十分に使えないのによ」
「そうなの?」
「ああそうだ、俺は魔力を使って強化系や無属性魔法なら発動できるが基本の六属性は使えない。生まれつき、そういう体質なんだ」

 だから正直お前が羨ましい。
 きっとどれか一つの属性は使えるんじゃないかって俺も努力はした。努力すればするほど、虚しくなる。属性検査もしたくなくなるほど。
 治療士は結界魔法を貼れればそれでいい、基本的にはな。
 ただ難しい依頼や魔物退治となると俺は戦力にはならない。強化や結界だけでは炎や雷を防げやしないのだから。

「検査はしたの?」
「勿論したさ。結果は適性なし、だ」

 金級すら上がれないんじゃないかと思っていたが、次元病との遭遇はまさに渡りに船だ。
 次元病に関しては属性など関係はない、技術のみが勝負の鍵になる。
 積み重ねてきた知識、そして師匠から教えてもらい受け継いだ技術は嘘をつかなかった。
 けれど、他の依頼はそうじゃない。
 技術だけでは上には行けない。病魔によって様々な魔法を駆使して処置する必要があるからだ。

「お前なら俺より上の階級を目指せるよ、魔力もあるしどの属性も使えるんだ」
「私の使える属性、分けてあげたい」
「分けられるなら分けてもらいたいもんだねえ」

 残念ながらそれは不可能だ。
 たった一つだけでも、俺でも使える属性があればそこからでも依頼を受けられる幅は違ってくる。
 自分の使える属性が有力な依頼を受けていってその分野を極める治療士もいるが、無属性の俺は果たして……どんな道を歩めるのか。
 師匠のようにはなれない。
 それだけは、分かってる。
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