異世界の治療士達

智恵 理陀

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第三章

Karte.025 初めての魔法

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 ようやく。
 ようやくして、レイコが魔法を試せる時がきた。
 あの観衆を静めるのも時間が掛かったものだ、あれからどんな展開を期待していたのか暫く俺達を見守っていたが流石に案内役がやってきて解散を命じられていた。
 そりゃあここで何かするわけでもなくただ室内で謎の過度な人口密度をもたらしていただけだったしな、解散されて当然だ。
 だが何人かはやはり影で今でも俺達を見守っている、何なんだ本当に。

「発動のコツは?」
「書物を漁ってからがいいだろうが、まあお前なら想像するだけでぱっと出せるんじゃないか」

 その膨大な魔力が何かしら発動を促してくれるだろう。
 魔力量が豊富なのだから、きっとすぐだ。

「火を出したい」
「なら――ああ、一応空に向かって放てよ?」
「了解」
「飛空艇とか何も飛んでないのも確認しろ」
「空、よし」

 レイコは空に右手を向けた。
 俺を見て、次に何をすればいいのかを目で問いかけてくる。

「炎を想像しろ。指輪を意識して、そこから炎の元を作り上げるような感覚を得ていけ。最後に手から出る感じで」
「むう」

 こういった想像から入るのは大事だ。
 書物では想像を得やすく発動を促しやすくするコツも書いてはいるが、それよりも大事なのは確かな想像だ。
 魔法を発動させる上で複雑な魔法であれば詠唱や魔法名を唱える事も必要になるが、今は想像から自力で魔法を出すコツを得るべきだろう。
 ちなみにこれも師匠の受け売り。

「最初は難しいぞ、あとで書物を探して詠唱と――」
「出た」

 俺が話している途中、彼女の言葉と同時に爆風、空に高々と火柱が空を穿った。
 先ほどから広場で練習していた魔法士と俺は目が点になりながらその炎が消えるまで暫し見つめ、炎が消失すると同時に彼女の顔を見る。
 開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。

「ウける」
「ウケんな」

 初めて発動した魔法は、もはや人間兵器とも言えるほどの威力を有していた。
 ジアフの放った魔法とほぼ同等と言っても過言ではないだろう。
 想像によるものだけでこれほどの威力を練られるのであれば、詠唱などにより確かな魔法を構築出来たらどれほどの魔法を作り出せるか。

「……初めて魔法を使った感想は?」
「面白い、ちょっと疲れるけど」

 あれだけの大型魔法を使って僅かな疲労で済むのもどれくらいすごいのか分かっていないようだな。
 そこの魔法士見てみろよ、レベルの違いを分からされて落ち込んでるぜ。

「他の魔法を使いたかったら想像力を高めるのと、書物を漁れよ」
「分かった、いくつか買っていく」

 魔法は奥深い。
 長い訓練と経験、想像力に魔力が必要だ。
 最も苦戦するのは自分に備わっている魔力を高める事――だが、その魔力が十分にあるというのならば彼女に必要な訓練等はかなり省ける。
 うちのチームでも即戦力になるな、今後やれる依頼の幅も広がりそうだ。

「さて、ここの用も無くなったし次はどこに行こうか」
「ギルド支部は」
「支部? んー……そうだな、行くか」
「やったー」

 ギルド支部に行くとなるやこれまた楽しそうな足取り。
 だが――

「ルヴィン様、少々よろしいでしょうか?」

 ギルド本部の職員が笑顔で待っていた。
 その笑顔、にこやかながらどこか怒気を纏っている気もする。

「な、何か?」
「お乗りください」

 馬車に揺られて何処へ強制連行。
 何か悪い事でもしたかな? うーん……した気もする。

「そういえば、ラハルェさんは?」
「体調不良のため私が担当を勤めさせていただきます、フリュウゲ・ミスラと申します」

 咳も出てたし仕事の疲れが重なったのかねぇ。
 まあ女の職員が担当になるのも悪くはない。

「少々、目立ちすぎではございませんか」
「そうですかね?」
「あの人だかり、報告がすぐにきました。しかも到着するや修練所から火柱が上がって周囲は騒然です」
「ルヴィンは悪くない、魔法は私が放った」
「目立ちすぎるのはどうかお控えください。ルヴィン様も、レイコ様の身元引受人でございますので、そのあたりはしっかりと管理くださるようお願いします」
「申し訳ない、以後気をつけます……」

 ラハルェと違ってこの人は厳しい。
 その釣り目、私は厳しいですと言わんばかりだぜ。

「馬車に乗せたのは人が集まり始めたあの場から離れるためです、見ましたかあの人だかりを」
「あんな狭い修練所でも意外と人って入るものなんですね」
「人も建物も、見た目によらないのね」
「そういう話ではなくて」
「ですよね、はい」

 どう見ても目立ちすぎたな。
 そこは素直に反省しよう。

「貴方は話題の人物、何が起きるか分からないのですからしっかりと危機管理も持ってください」
「明日から気をつける」
「今日からでお願いします」

 言下に深い溜息。
 彼女もこれから苦労しそうだ、よりにもよってただでさえ付き合ってると疲れるこいつの担当になっちまったんだからな。

「ルヴィン様もレイコ様を連れての行動の際はギルドに連絡してくださるはずでしたが」
「今日は……忘れてた。というか面倒なんですよね一々連絡するのも。それにちょっとした移動でも馬車を呼ぶのは手間ですし……」
「せめて連絡くらいはしていただかないと困ります」
「分かりましたよ」

 連絡くらいは入れてやるさ。
 忘れなければの話だけど。

「それとですね、暇があるのならば論文を少しでも書いて早めに提出するのを心がけたほうがよろしいかと思います」
「正論がとても痛い」

 その鋭い眼光も加わってこちらとしてもぐうの音も出ない。

「ルヴィン、論文ちゃんと書いて」
「誰のせいで今日論文書けてないか分かってる?」
「責任転嫁はやめていただこう」
「お前が女じゃなかったらぶっ飛ばしてるところだぞ」
「ルヴィン様、あまり乱暴なご発言はお控えください」
「あ、はい」

 ……肩身狭いなぁ。

「今日はこの後の予定はございますか?」
「この後は、まぁ……交流会までの時間潰しにギルドへ寄るくらいですかね」
「寄ってもしょうがないと思うので今夜の交流会の会場へ参りましょうか」
「しょうがないって……」
「どうせ大した用もないのでしょう?」
「うっ……」

 図星である。
 そして彼女の口から交流会という言葉が出た時点で、俺達を何が何でも交流会へと参加させたい素振りを感じられる。
 レイコのためにも、催しにはそれとなく参加はさせたいのだろう。

「少々早いですが、参りましょう」

 なんだこの展開。 

「少々どころじゃないけど」
「と、言うと思いまして。実は観光プランもご用意いたしましたのでお時間まで観光をお楽しみ下さい」
「それは嬉しい、行こう」
 強引にもほどがある……。
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