俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章25 生命の伽藍堂 ⑥

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「全員動くな」



 斜めに切断された金属の断面が鈍く光る。


 その先端を近付ける。


 水無瀬の喉元に――



「動けばこいつを殺す」



 弥堂 優輝はクラスメイトの女の子の首筋に凶器を付きつけ、この場に居る全てのモノを脅迫した。

 水無瀬の背後に立ち油断なく鋭い眼つきでこの場にいる者たちを睥睨する。


「ナナナナナニやってんだテメェーーーーッ⁉」


 突然自分の味方であるはずの魔法少女を人質にとった狂った男に、悪の怪人は混乱した。


「……一体なんの真似ですか」


 一方でアスは呆れたように白けた目を弥堂へ向けた。


「というか、アナタいつの間に抜け出したんです」


 つい今まで爆心地にいたはずなのに、水無瀬の魔法光線が着弾するドサクサで離脱をする抜け目のなさまでは評価出来るが、その後の行動に関してはアスには不可解すぎて眼つきが胡乱なものになる。


「言ったとおりだ。こいつを殺されたくなければ下手な真似はしないことだな」

「私達はその子の敵ですよ? 人質として成立しないでしょう? せめてボラフさんを人質にとりなさいよ。もちろん見捨てますが」

「オイ……」

「本当にそうか?」

「なんですって?」

「困るだろう? こいつが死ねば」

「アナタ……」


 アスの顏から微笑が消える。


「水無瀬にとってお前らは敵かもしれんが、お前らにとってのこいつはどうかな?」

「……なるほど。なかなか賢い子ですね。ですが、どうやって殺すつもりです? 魔法少女の防御をそんな工業製品で抜けるとでも?」

「忘れたか? 俺はこいつを操れる。変身を解かせればいい。なんなら先に結界を解いて大勢の人間の前で変身を解除させてからこいつを殺してやろうか?」

「チィッ……、狂人め……」

「調子にのって喋り過ぎたな」

「そうでしょうか? 例えば、アナタたちニンゲンは家畜を育てますよね? 明日どの個体を出荷するかと同僚と会話をして、それを牛や豚に聞かれたからといって失敗をしたと考えますか?」

「…………」


 問いには答えずただ視る。


(家畜か。なるほどな)


 奴らにとっては人間がそれなのだろう。

 違う生き物であり、違う存在であるからこその発想であり感性だ。


「……お前らの目的はなんだ?」

「おっと、ここでようやくそれを訊くのですね。なるほど、ちゃんと考えられている。狂っているようでしっかりとロジックがある」

「お前の寸評など訊いていない」

「ですが、それは最終的に捻じ伏せられるだけの力があるか、最低でも拮抗していなければあまり効果的とは言えませんよ?」

「だがお前はそれを好まないだろう?」

「ククク……」

「…………」


 言葉を応酬する二人の間の空気が張り詰めたものになる。


 同じ場に立たされるメロとボラフは目には見えない重圧を感じた。


 アスだけならばともかく、存在として格下であるはずの人間の弥堂にも圧倒される。

 力ではなく遣り口で格上の存在と渡り合ってみせる弥堂に、言い知れぬ畏れを抱いた。


「答えろ」

「そうですね。どうせ理解できないでしょうから具体的に説明するつもりはありませんが、戯れに少しだけ答えてあげましょうか」

「…………」

「私達の目的は大枠では『世界』の環境を保全することです。その為にニンゲンに迷惑をかけています」

「環境とは自然のことか? そんなことを気にかけるようには見えんが」

「そんなことはありませんよ。我々には死活問題です」

「人間に迷惑をかけると何故環境が守られる?」

「それは説明するつもりはありませんが、正確に言うと結果的にニンゲンの迷惑になることが多いだけで、アナタたちを苦しめることそのものが環境の改善に繋がるわけではありません」


 水無瀬たちやボラフから聞いていたことと近い答えだ。

 ただの悪ふざけでそう言っている可能性もあると考えていたが、このアスの口から聞くとどうやら本気で言っているらしいし、より具体的な話であると、そう思える。


「なら何故魔法少女を生かしておく? こいつは邪魔な存在ではないのか?」

「そうですね……、説明はしないと言いましたが、そうしないことで逆に話すのが難しくなりますね……。まぁ、これに関しては別プロジェクトなので。最終的には同じ終着点に繋がるのですが、我々も一つのことだけをやっていればそれで済むほど暇ではないのですよ」

「言っている意味がわからんな」

「そうでしょうね。ですが、しっかり説明したとしても普通のニンゲンの範疇を超えた話になるのでどうせ理解できませんし諦めた方がいいですよ? 簡単に言うなら少子化対策、と言ったところでしょうか」

「少子化……だと……?」


 弥堂の眼つきが鋭いものになる。


 少子化。


 昨今この国で嫌でも耳にする言葉だ。

 あまり世情に関心が高いわけでもない弥堂であっても日常生活の中で多少の知識や事情はインプットされている。


 しかし、それらの知識と実際彼らがやっていることに近似性を見いだせない。


 それに、彼らの言う少子化問題とは彼らの種族の話なのだろうか。


(おそらく、違う……)


 チラっとボラフを視る。


 彼らが人間ではないのは間違いないが、だが、かといってこのボラフやアスが生物的な意味での同じ種だとは思えない。そうは視えない。

 弥堂の考えではこいつらはそうやって増えるものではないと考えている。


 であるならば、ここで言う少子化問題とは人間の話をしていると弥堂は踏んだ。

 家畜と言った。

 もしも奴らにとって人間が家畜なのだとしたら。

 人間が家畜として一部の動物を繁殖させているように、奴らも人間を繁殖させようとしているとも考えられる。


 問題は奴らの行動がどう人間の繁殖に繋がるかということだ。


(闇の組織……、魔法少女……、ゴミクズー……、触手……っ! そうか――)


 弥堂は閃きを得た。


(魔法少女を苗床に、卵を産ませるつもりか……っ!)


 闇の組織の真の目的に気が付く。


 しかしその一方で、果たしてそれだけだろうかと自身の気付きを疑う。

 効率が悪いように感じたからだ。


 チラリと目線だけを自身が拘束している水無瀬へ向けて、この少女は一体何人ほど産めるのだろうかとそのポテンシャルを探る。


 魔法少女という存在の全容は未だ知れないが、常識的に考えてたった一人で一国家で問題となるレベルの少子化現象を覆せるほどの出産をやり果せるとは考えづらい。


 魔法少女を母体とした繁殖、それだけではないはずだ。


 自分が生きている間だけ機能していれば、死んだ後に社会が破綻しようとどうなろうと構わないと、弥堂はそう考えるタイプのクズなので今まで真剣に少子化問題に向きあってはこなかった。

 しかし、彼の所属する部活動の上司である廻夜朝次めぐりや あさつぐはそうではなかった。


 彼は少子化問題に対して熱心に考察をしているようで、部員である弥堂にも知識や危機感を共有すべく自らの手で集めた文献資料やPCで起動できるシミュレーションソフトを渡してきて、その内容を網羅するよう命じてきた。

 そして忠実な部員である弥堂は部長から課されたそのタスクを全て熟した。


 強い興味や関心はなくとも、その知識は確実の己の裡に記憶として蓄積されている。


 弥堂は素早く記憶の中からこの状況を見通すことを可能とするような記録を引き出すため該当するキーワードを掘り起こす。


(孕ませ許可証、性交の自由化、種付ける権利、ドスケベ法令、出産クーポン、Go To デリバリー……!)


 多くの大人たちが少子化問題に真摯に向き合った結果生み出された様々なパワーワードが記録から浮かび上がる。

 これらの多くは国によって行われる施策で少子化を解決しようというものであったはずだ。

 ということは、ヤツらは人外の武力を以て人間のナワバリを侵略することが目的ではなく、国家の中枢に這入りこみ法令によって人間の社会の在り様を変えてしまうことが狙いなのではないだろうか。

 それはもはや国家転覆だ。


 人間では倫理や道徳が邪魔をしてこのような政策は執れない。しかし人外のモノどもならばそのような抵抗感はないだろう。


 自立心の強い人間である弥堂は法を守るか守らないかは必要性に応じてその都度臨機応変に自分で決めるので、例えどんな法律や制度が定められようとも別に関係ないと考えている。

 しかし、責任感が強く基本的には博愛主義者である廻夜であればそうもいかないだろう。


 こういった少子化対策について彼は何か言っていなかっただろうか。

 神算鬼謀の権化である廻夜部長ならばこの状況を見通すヒントのようなものを自分に授けてくれていたかもしれない。


 糸口を求めて記憶の中から記録を喚びだす。
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