とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第56話 朝帰り

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 朝日が昇り始め、渓谷にも光が当たりだした頃、私が目を覚ますと誰かが言い争う声が聞こえる。

「だから、これは食えないって言ってんだろ」
「いいや。食えますよ」
「どこをどう見たら、これが食えるって言うんだよ。完全に、外見が身持ち悪いだろうが!」
「これだから、貴族は……いいですか、これは外の皮を剥けば綺麗な実が出てくるんですよ。全く、外見で全てを否定するとは、どういう教育を受けて来たんだか」
「あんたこそ、どこでそれを食ったんだよ! 普通に考えれば、それを食おうと思わないだろうが」
「……ん? ルークに、マリア?」

 私は少しの寝ボケながら、見た光景をそのまま口にすると、2人が私に気付く。

「アリスお嬢様、お気づきになられましたか!」
「アリス、目が覚めたか」
「……うん。少し体も楽になった気がする……ん? ちょっと待って、何でマリアがいるの?」

 そこで私は、今の状況に違和感を覚え始めた。
 マリアは私が遭難したと聞き、探しに来てくれたと答えてくれたが、まだ頭が回らず考えられない所に、ルークが話し掛けて来た。

「熱が出て倒れた時はどうなるかと思ったが、マリアのおかげで助かったんだ」
「そ、そうなんだ……」

 私はそこでやっと違和感の正体に気付いたのだ。
 そう、マリアが私の姿をしておらず、いつも通りの姿をしている事にだ! と言うか、何で!? 何で元に戻ってるのマリア!
 私は動揺しつつ、マリアを見つめていると、マリアは近付いて来て額に手を当てて熱がない事を確認した。

「うん。熱は下がったみたいですね。本当に良かったです、アリスお嬢様。遭難した上に熱で倒れていると知った時には、心臓が止まりそうになりましたよ」
「え、えっと……うん? ちょっと待ってね、マリア」
「おい、そんな事よりアリスに話す方が先だろ、マリア」
「マリア? というか貴方、さっきから誰に向かって指図してるのかしら?」

 ルークの言葉を聞き、私はゆっくりとルークの方を向き、今口にした事を再確認すると、ルークは私の事を間違いなくアリスと呼んでいた。
 私は一回大きく深呼吸して、今の状況を考えたが全く理解が出来なかった。

「な、な、何で、あんたが私の事をアリスって呼ぶのよ!?」
「ほら見ろ、先に話さないから面倒な事になったろ」
「それより私は、貴方に呼び捨てされる関係ではないのですが、しっかりと上下関係を分かっていますか? もし、その態度が変わらなければ、アリスお嬢様に言ってしまってもいいんですよ、私は」
「っ! そ、それは、止めてくれ……マリア…さん」
「全く第二王子とか言われていますが、目上の人への態度が全くなっていないのですね」

 2人は、私を無視して勝手に喧嘩の様な話をしているので、私は大声で私の話を聞けと叫ぶと、2人は驚いて私の方を向いた。
 そしてマリアから、この状況の説明を受けた。
 マリアの話によれば、昨日私が熱で倒れている時に、マリアは私の姿で探し出し薬で熱を下げてくれた後、ルークに正体を見破られたのだと話された。

 ルークは私の女子と言う事や、家族関係などの情報からマリアを追いつめて、マリアも反論をしたが、これ以上隠す事が出来ないと判断してルークに話してしまったと頭を下げて言われた。
 直ぐにマリアに頭を上げるように言ったが、この時点で、私の目的も全てルークにバレてしまったため、このまま普通に学院生活は出来ないと勝手に思っていると、そんな私の考えを分かっていたかの様に、ルークは別に今まで通りに生活すればいいと言われ、私は驚いた。
 ルークは、全てを知った上で私にやれるものならやってみろと言った後、元々私との契約の方が先だと突き付けて来た。

「契約って、あの女子と言うことを黙ってるってやつの事?」
「あぁ、契約は契約だ。途中での放棄は認めない。それは、お前がどんな理由で俺に会いに来たとか、全て関係なくだ」
「そ、それって……どういう事?」

 私の言葉に少しコケる様な動作をするルークに、マリアが小声で分かりやすく言わないと伝わらないぞと囁く。
 するとルークは、一度咳ばらいをして、目線をずらして言った。

「だ、だからだな。その、俺は別にお前を教員とかに告発しないし、誰にもバラさないって事だよ! やっと出来た、ライバルみたいなもんだしな……」

 最後の方は、小さくて聞こえはしなかったが、ルークのその言葉に私は顔を上げてルークの手を握った。

「ほ、本当!? 私の目的とか全部知ったうえでの答えだよね! ね!」
「そ、そうだよ」
「ありがとう! ありがとうルーク! 本当にありがとう!」

 私は、まだこの学院にいられることに感謝し、ルークの手を握りつつそれを私の頭の額につけつつ、頭を下げた。
 その光景にマリアは、少し照れるルークを見てにやにやしていると、ルークがマリアにそんな目で見るなと訴える。
 この学院に来た当初は、月の魔女と同じ学院に通え同じように学べる為に、仕方なく受けたルークの鼻を折る事であったが、半年の間で寮の皆や他の生徒や女子生徒たちと関わりを持つことで、私の意識は変わっていた。

 もっとここで皆と学びたい、過ごしたいと。
 馬鹿な事をする奴らもいるけど、凄い奴がたくさんいるし、自分も刺激される事ばかりで、なりより毎日が楽しくて仕方なくなっていたんだ。
 それを失わなくていいと分かったので、私は全てを知っても黙り続けてくれるルークに感謝したのだ。

「アリスお嬢様。ひとまず、ルーク様のお手を握るのはお辞めくだい。彼も困っていますよ」
「あっ! ご、ごめんルーク。私、その、まだこの学院にいられると分かってつい……もうバレたら、いられないと思ってたからさ」
「そうか。なら、これからは俺を倒すことに集中できるってわけだな」
「う~ん、どうだろ。倒すどころか、追い抜かして行くかもね」
「それこそ、やれるもんならやってみろ、アリス」

 マリアがそこで軽く手を叩くと、朝になり私も体調が良くなったので、捜索している皆の所に行きましょうと声を掛ける。
 そこで、マリアは改めて忠告して来た。
 あくまでルークだけが全てを知っただけで、オープンになったわけではないので、ここを出たら今まで通りクリスとして過ごし、ルークもそう接するようにと強く言われた。
 私は分かってると言い、ルークは何度もそれを聞いていたのか、軽く頷くのみだった。

 そして、マリアは再び私へと変装し、先頭で洞窟を出て行き、私たちもその後を付いて行った。
 洞窟の外に出ると、上から朝日の光が差し込んで辺りは明るくなっていた。
 どこかに朝日が反射して、ここまで届いているのだろうとマリアが言うと、ひとまずここまで来た道がまだあるか、先に見てくるのでここで待っていて下さいと言い残し、走ってこの場から去って行った。
 また2人きりなった私たちは、特に会話することなくマリアの帰りを待っていた。
 私はこの沈黙に耐え切れず、ルークに声を掛けようとすると、ルークも同時に声を掛けて来た。

「「あの」」

 互いの声が被り、互いに譲り合っていると、そこに何か近付いて来る音が聞こえ、マリアが帰って来たのかとその方向を向く。
 しかし、そこにいたのはマリアではなく、狼の魔物の群れであった。
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