とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第90話 大運動会⑩~電池切れ~

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「はぁ~~……」
「どうした、そんな深いため息をついて」

 隣で大きくため息をつくマルロスに対して、ワイズが声を掛けるが何も答える事無くため息をついた。
 それを見てワイズは全く理解出来ず、首を傾げていると隣のミカロスが話し出した。

「マルロスは、この後のイルダの心配をしてるんじゃないのか?」
「イルダの? でも、あんなに元気そうに動いてるじゃないか。何を心配してるって言うんだ?」
「電池切れだよ」

 突然言葉を発したマルロスに、ワイズが驚いているとマルロスは勝手に愚痴の様に話し出した。
 イルダは、今や完全に夜行性の生活をしているが、昔は皆と同じ生活スタイルであった。
 だが、武術家の出である事から、夜も惜しまず鍛えて強くなろうとしている内に、昼夜逆転してしまったと聞いて初めは呆れていた。
 武術家の出と言う事もあるのか、イルダの基本スタイルはカウンターを取っての攻撃が中心として、魔法より魔力分類の方が自分に合うと感じそれを磨いて行った。
 そして出来上がったのが、今のイルダのスタイルである。
 パッと見はダイモンと戦うスタイルが似ている様に思われるが、イルダは簡単に言えばバランス型と言える。

 その由縁は、身体能力の高さである。
 観察眼・洞察力・瞬発力・動体視力と言った能力が高く、それを活かしているかは不明だが、意外と寮の生徒の事はだいたい把握していたり、寮の事を考えて行動していた所が前寮長の目に止まり、今では寮長となっている。
 しかし、後輩たちにはそう言う所を一切見せない事や夜行性でいつも寝ている姿をさらす為、ただ寝てるだけ寮長とか、飾り寮長などと言われたりしている。
 本人は対して気にしていないらしいが、副寮長を含め同寮の第3学年の意見としては「もう少し寮長らしい所を見せて威厳を持ってほしい」と口を酸っぱくして言っているとマルロスが愚痴をこぼした。

「それを聞くと、どの寮の副寮長も大変な思いをしているんだなと、我輩だけじゃないのかと安心するよ」
「本当だよ。うちの寮なんか特に辛いから変わって欲しいくらいだよ。イルダは日中寝ちゃうから、自分の仕事が増える増える」
「まぁ、副寮長は基本寮長の補佐役で、地味で大変な仕事ばかりだから同然のことじゃないか」
「そう言えるのは、ミカロスとスニーク位さ」
「そんな事を言って、副寮長を受けたのは自分だろ。事前に仕事内容とかは分かっていたんだから、嫌なら断れば良かったじゃないか」

 ミカロスの言葉に、マルロスは正論を言われ言葉に詰まるも「自分が受けたのには、色々とあるんだ」と会話を終わらせるような言葉を返した。
 その返しにミカロスは、小さく微笑んだ。

「まぁ、何にしろ寮長には寮長にしか出来ない事もあるし、我輩たち副寮長には副寮長にか出来ない事があるってことだ」
「何綺麗にまとめてるんだよ、ワイズ」
「あはははは。いいだろ、お前だってミカロスの言葉で話を終わらせようとしたろ。と言うか、電池切れについてはまだ聞いてないぞ」
「そう言えば、その話だったね。簡単に言うと、体力切れで倒れるって事」

 その後にミカロスは、イルダの電池切れについてもう少し詳しく話した。
 いつもなら、今の時間帯は寝ている時間で体力回復などしているのだが、今日は強制的に起こしましてや、睡眠時間も足りていない為、元の体力が少ないと話す。
 そんな状態で、いつもの様なキレで動き続けたら、いつしか先に体力切れで突然倒れると言う。
 以前も似たような状況が何度かあった際には、電池が切れたように突然倒れた事があったので、それからイルダ寮の第3学年の中ではそれを電池切れと呼んでいるらしい。
 それを聞き、ワイズたちは再び中央の競技スペースに視線を戻した。

「(くっそ! どうしても、この人を振り切れない! なんて動きをするんだ)」
「そう言えば、後輩には僕の身体能力をみせた事なかったね。こう見えても、意外と動けるんだよ僕」

 するとロムロスは、イルダを引きはがすのを諦めたのか、その場にただ立ち尽くすと後ろを振り向きイルダと真正面から向き合った。
 想像してなかった行動に、イルダも驚き何度か瞬きをしていた。

「あれ、もう逃げないの?」
「……えぇ。たまには先輩の言う事でも聞いてみようかと思いまして!」

 と言うと、突然ロムロスがイルダ目掛けて接近戦を初め、殴り掛かって行くがイルダはステップをする様に後ろに下がりつつ、軽くかわし続けた。

「(やっぱり、当たんねぇ! でも、このままいけば)」
「端に追いやれる?」
「っ!」
「そして、魔法で足場を崩して場外を狙うって所かな」

 イルダの読みが的中していると、ロムロスは表情で伝えてしまうが、今更作戦を変える気はなく一気に端へと追いやる為に、両手を前に突き出し『ガスト』の魔法を唱える。
 突然の突風にイルダも避けられず、ロムロスの思う様に端へと追いやれてしまうが、全く焦ることなくカウンターをする姿勢をとる。
 そこに、ロムロスが自身の足共に『バースト』を使い勢いよく突っ込んで来るが、イルダは体を捩じる様にしてロムロスを掴むとそのまま場外へと放り投げようとする。

「このまま終われるか!」
「無駄だよ。僕の体幹はそんなやわじゃ……あっ……れ……」

 ロムロスがイルダの体の一部に手を掛けて、生き残ろうとした時だった。
 突然イルダがロムロスを掴んだまま、場外側へと体が倒れだすとそのままロムロスと一緒に場外へと倒れてしまうのだった。
 まさかの展開に、会場の観客もロムロス自身も何が起こったのか分からずにいた。
 すぐさまイルダの方を見ると、いびきをかいて気持ち良さそうに寝ていたのだった。

「……はぁ?」

 そうロムロスが口にした直後、第2戦目終了の合図が鳴り、空中に結果が表示された。


 大運動会第10競技『代表戦』
  第2戦目 両者場外に出たため引き分け


 その結果に何とも言えない感情になったロムロスだったが、完全に爆睡してしまったイルダに何も言える事が出来ずに、とてつもなく不満そうな表情でクリスたちの元へと戻って行った。
 ロムロスが立ち去った後に、ダイモンがイルダを肩に担ぎ上げ回収すると、そのままマルロスの元まで持って行き引き渡した。
 イルダを受け取ったマルロスは、軽くイルダの頭を叩いた後競技場内へと引きずって連れて行った。
 一方で、第2学年の方では不満そうに帰って来たロムロスに私が声を掛けた。

「えっと……とりあえず、引き分けだったし最悪の展開は避けられたから、ロムロスの作戦通り……じゃないよね」
「いや、確かに結果的には引き分けになったからいい。だが、あれは完全に俺が負けていた対戦だった。イルダ寮長に何が起こったかよく分からないが、あの人は俺が思ってい以上に強かった」
「そうだな。この2戦で改めて、寮長の強さを知ったよ。でも、この競技は『代表戦』まだ俺たちが負けた訳じゃない」
「クリスの言う通りね。まだ、1敗1引き分けで、次勝てば五分なのよ。だから、私の勝つ姿をその目に焼き付けなさい」

 スバンが会話に入って来て、ロムロスを励ましているのかよく分からない言葉を言い切り、私はどうしていいか分からず、とりあえず黙っていた。
 するとロムロスが、「反省は終わってからも出来るな」と呟き自分を落ち着ける為か、小さく深呼吸をして俯いていた顔を上げた。

「そこまで言うなら、お前は寮長に勝てるんだろうな」
「いいえ、私の相手はたぶん寮長ではないわ」

 そうスバンが口にした直後、第3戦目の対戦相手が発表になった。


 大運動会第10競技『代表戦』
  第3戦目  第2学年 スバン VS 第3学年 スニーク


「本当だ。スバンの言う通り、相手は寮長でなく副寮長だ」
「ほらね。でも、私が願っていた対戦相手よ」

 そう言い残すと、スバンは中央の競技スペースへと登って行った。

「ここでスバンにエメル寮長でなく、副寮長のスニーク先輩をぶつけて来た? てっきり、同僚同士で俺たちには寮長を当てて来ると思ったが、違うのか?」
「ロムロスは、誰が誰に当たるか予想していたのか?」

 私の問いかけに、ロムロスは頷いて答えた。
 既に第2戦目までで、同僚同士対決で次期寮長候補には寮長をぶつけて来ていたので、このままスバンもエメルが相手だと思っていたと告白した。
 また第3学年は、こちらの出場順を完全に読んで順番をエントリーしているのではないかとも答えた。
 その考えがロムロスの中では濃厚になったいたが、この時点でその予想は覆ってしまい、この先相手がどう順番をエントリーしたのか読めずにいた。
 そして、中央の競技スペース上にスバンが立ち、対戦相手のスニークを待っていると両耳の耳飾りから鈴音を鳴らしながらゆっくりと上がり、位置に着くとスニークは微動だにせず姿勢よく合図を待っていた。

「スニーク先輩。私は、今日貴方を倒してエメル寮長に認めてもらいますわ」
「……貴様が寮長に認められるだと?」
「えぇ、そうよ」
「しかも、当方に勝ってと言ったか?」
「言ったわ。それが、約束ですからね」
「ふっ……貴様の様な雑魚が、戯言をぬかすな。その口、当方が直してやろう」

 両者が戦闘態勢をとると、第3戦目の開始の合図が鳴り響いた。
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