とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第96話 大運動会⑯~決着そして~

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「おい、今オービンに引けを取らないで戦ってるのは、本当に弟か?」
「エメル。どうしたんだよ、急にそんな事聞きやがって。それ以外に誰がいるんだよ」
「ちっ」

 ダイモンの返答にエメルは小さく舌打ちをした。
 それは、今の状況を全く理解していないと分かったからだった。
 エメルを含め、寮長や副寮長と呼ばれるクラスの人間ならば目の前で起きている戦いが、異常な事が直ぐに分かるからだった。
 オービンは第3学年の中でも群を抜いて優秀であり、その才能は誰もが認めており、他の学院からも一目置かれている存在だ。

 そんなオービンも寮長となる前には、何人もの生徒が挑むも全員返り討ちにしてしまい、誰もオービンに勝てるどころか同等に戦える奴などいないとされていた。
 だが、唯一オービンが勝てなかった相手がいる。
 それは第1学年時に出場した学院対抗戦の対戦相手、シリウス魔法学院のアバンと言う第3学年の生徒だ。
 その例外を除いて、今まででオービンが全力で相手した奴はいなかったが、今行われている戦いでオービンは全力の力で弟ルークの相手をしている。
 しかも、世間では落ちこぼれと評価されているが、学院での成績は優秀であるルークだが、所詮オービンと比べれば劣る程度だと思っていたが、今オービンに対して押し負ける事無く同等に戦っている。

 実の所オービンが何を考えているかは分からないが、これだけは分かる。
 この戦いで確実にオービンの弟であるが、世間では落ちこぼれと思われているルークの認識が、大きく変わる。
 そんな事をエメルは思いつつ、中央の競技スペースでの戦いを黙って見続けた。
 その頃オービンとルークの戦いは、ゴーレム勝負の様に魔法や武装を駆使して相手のゴーレム破壊しあっていた。
 先にルークの方が全滅させられるも、オービンもゴーレムを2体撃破され、残る1体もボロボロであった。

 両者共に激しく魔力を消費している状態だが、そこから再び激しい魔法の打ち合いや接近戦などが繰り広げられ、それを皆が固唾を呑んで見守った。
 その戦いはただの学院イベントの一種ではあるが、互いに今までの不満や言えなかった事全てを言葉ではなく、全力で相手にぶつかり合う事で伝えようとする、兄弟喧嘩の様でもあった。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
「はぁ……はぁ……」

 2人共完全に息が上がっており、オービンよりもルークの方が呼吸が速くなっていた。

「もうお終いか? はぁ……はぁ……あっけないぞ。はぁ……はぁ……」
「(くそ! 兄貴も同じく息が上がってても話せるのに、俺は息が上がり過ぎて、言葉も出せねぇのかよ……)」

 するとオービンは、片手をルークに向けると『バースト』の魔法を唱え始め、更に魔力分類の力で威力を上げだす。
 それを見たルークは、このままやられるわけにはいかないと同じ魔法を唱えだすが、完全に魔力が切れてしまい発動させることが出来なかった。

「(っ、魔力切れ!? こんな所で……)」

 直後、オービンの魔法が発動しルークは爆発の威力で吹き飛ばされるも、場外には出ておらず残っている力を振り絞り立ち上がる。
 そのままオービンへと一歩一歩、歩いて詰め寄るが完全にルークの意識は朦朧としていた。

「(あと少しなんだ……あと少しで兄貴に勝てるんだ……このまま終わられるか……兄貴に勝って、俺は……)」

 するとオービンが、ルークにしか聞こえない声で何かを口にし出していた。

「この勝負に勝ったのは、俺だよルーク……だけど、もう心配する事はない。それに、お前にはいい友もいるんだ、俺なんかよりそっちを大切にしろルーク。もっと友を頼れ」

 その言葉はルークへは聞こえていないと思っていたオービンだったが、ルークが自分に手を伸ばすようにした事に驚く。
 しかしその後ルークは、完全に意識を失い前へと倒れてしまう。
 オービンへとルークが伸ばした手は、倒れた際にはオービンの足元近くまでで届く事はなかった。
 そうして『代表戦』第5戦目が終了し、勝者の名前が宙に表示されると大歓声が響くのだった。


 大運動会第10競技『代表戦』
  第5戦目 勝者 第3学年 オービン


 そして同時に、最終ポイントも表示され、優勝学年がアナウンスされた。


 大運動会ポイント累計
  第3学年 375点
  第2学年 290点
  第1学年 55点

 
その後、倒れたルークは教員たちが医務室へと運び治療が行われた。
 会場は、いまだに『代表戦』のほとぼりがさめやらぬのか盛り上がっており、競技スペースでは閉会式に向けて準備が進められていた。
 また、会場に偵察に来ていた各学院の生徒たちは帰り始めていた。
 私たち第2学年も一旦、閉会式まで休憩時間と言われ他の生徒たちと『代表戦』について話して時間を潰していた。
 一方、オービンは他の第3学年たちと軽く話した後、閉会式までの休憩すると通路へと歩いて行った。
 そこでやっと1人になったオービンは、通路に片手をついて体を支えていた。

「はぁ……はぁ……はぁ……少し、無理し過ぎたかな……」

 そこに副寮長であり親友のミカロスとエリスがやって来る。

「さっきの戦い凄かったな。まさか、お前がそこまで全力を出すとは驚いたが、ルークも引けを取らずお前と戦えていて、見る目が変わったぞ」
「そうそう。まさか、ルークがあそこまで対等に戦えるとは私思ってなかったわ」
「はぁ……はぁ……だろ。ルークは、俺と同じ位凄いんだよ……」

 オービンが息苦しそうに答えたると2人は、すぐにオービンに異変が起こっていると分かり近付く。

「おいオービン。大丈夫か? 顔色が悪いし、呼吸も速くなってるぞ」
「肩を貸すわ。ほら捕まって、オービン。すぐにでも医務室へ行きましょう」
「ただ疲れただけだ……そんなに、心配する事じゃないよ。2人共」

 そう言うオービンであったが、完全に自力で体を支えられず壁に手を付いてないと立っていられない状態であった。
 ミカロスはこんな状態のオービンを初めて見たので、動揺していたが今は直ぐにでも医務室へ連れて行くことが最善だと思い、多少強引にでも連れて行こうとする。
 隣にいるエリスにも、目配せでそれを伝えると2人でオービンに手を伸ばすと、オービンの方からミカロスへと手を伸ばして来た。

「だから、大丈夫だよ……ミカ……」

 そう言ってオービンが伸ばした手は、ミカロスとエリスの間を通り抜けた。

「……あれ? おかしいな、ミカに触れないぞ」
「っ!!」

 その時点で2人は、完全にオービンが危ない状態であると分かり、体を支えに行くが先にオービンは地面へと倒れてしまう。
 ミカロスは、倒れたオービンにまだ意識があるかを確かめる為に呼びかけるが、反応がなくどうしていいか分からずにオービンに声を掛け続けた。

「おいオービン! 聞こえてるのか! おい! オービン、しっかりしろ!」

 するとそこにタイミングよく、タツミ先生が息を切らしてやって来た。

「タツミ先生、どうして……」
「タツミ先生! オービンが! オービンが!」
「分かってる! 話がちげぇんだよ! 全く! おい、直ぐに治療室に運ぶ。手伝え」
「タツミ先生、オービンは」
「今説明してる状況じゃねぇんだ! このまま、こいつの命に関わる!」

 そう言われ2人は、何が起こっているのか聞きたいのをぐっとこらえタツミ先生の指示の下、動いた。
 その後オービンは誰も居ない治療室へと運び、そこからはタツミ先生が治療を行い、何とか意識を取り戻すオービンであった。

「……もしかして俺、やっちゃった?」
「やっちゃったかじゃねぇ! 死にかけたんだ!」

 オービンの口元にはマスク形状の魔力補給機が取り付けられており、視線を隣ずらすとミカロスとエリスが今にも泣きそうな顔をして、こちらを見ていたのが目に入った。

「ミカ、エリス。どうしてそんな顔してるんだよ」
「お前が急に倒れるからだろうが! 心配させんな! 馬鹿がぁ……」
「本当に、本当に心配したんだからね。突然倒れて、死にかけてるなんて言われて……」
「死にかけてるって、少し言い過ぎだよ」
「言い過ぎな訳ないだろ、オービン。それとお前、俺との約束を破ったな。しかも、そっちの2人を見る感じだとお前、その2人には話してないな」

 するとタツミ先生が、会話に割り込んで来て色々と言われてしまう。
 ミカロスとエリスは何の事だとオービンを問い詰める。
 オービンは、タツミ先生に謝るとミカロスとエリスにも心配かけたと謝った。

「ひとまず俺の事は後でいい。それより、こんな状態を親友2人に見せておいて、まだ隠し通そうとは思ってないよなオービン」
「さすがに俺も、そんな事は考えてませんよ、タツミ先生」

 するとオービンはベッドから体を起こし、枕を背もたれにした状態でミカロスとエリスの方を見て話し始めた。

「2人には黙っていたが、俺は魔力消失症と言う病なんだ。簡単に言えば、あと2、3年で俺の魔力が全て消失し、最終的には体中の筋肉が動かなくなるっていう難病だ」
「……はぁ?」

 オービンの突然の告白が始まった頃、大運動会の閉会式も始まりだしていた。
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