とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第300話 マリアの手帳②

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 私は8歳の頃に初めて傭兵とし戦場に出された。
 その後、様々なスキルを強制的に身に付けさせられ、数多くの成果を上げた。
 別にそれが好きだったとか、向いていたとか言う理由ではない。
 そうしなければ殺されるしかなかったからだ。
 だから私は死にたくない為に必死に他人を殺し、必ず失敗せず成果を上げる人へとなっていた。
 その後、9歳にして同い年やそれ以下の子供たちの部隊が作られその部隊長を任された。
 皆私と同じがそれ以上の力を持つ者しかいなかったが、必ず戦場に出て帰還した時には半分以下しか帰って来なかった。
 そして失った分、新しい補充兵がやって来てまた戦場へと送り出される毎日であった。

 その頃の私はそれが日常であり、隊長として死にに行かせる命令もした事もある。
 戦場から戦場へと私たちを編成した組織は渡り歩き、それに私たちも従うしかなかった。
 だが、それから4年後に傭兵として戦場に投入されている間に組織は壊滅し、私たちは帰る場所がなくなり、追われる様に逃げそのままバラバラとなったのだ。
 その後は生きる為に盗みをしたり、食える物は何でも食べ、ボロボロになりながら私は1人で生き続けた。
 そしてある日、私はリーリア様と出会い運命が変わったのだ。

「それがマリアの初恋の相手の名前なのか、イェレナ?」
「タツミ・カミール……あ、そう言えば昔、一度戦場で優秀な傭兵だって聞いた覚えがありますよ」
「そうそう、確かあれはジェシカが入って2度目の戦場だったかな。マリアが異様に不機嫌な様子で帰って来て、見逃されたってボソボソと呟いていたんだよ」
「あー! はいはい、思い出した思い出した。あん時か、確かにそれは私も覚えてるよ。だって、あれ位しかそんな態度取ってなかったから、逆に覚えてるわ」
「ちょっと、貴方たち」

 と、私が声を掛けるも彼女たちは話を止めずに逆に何故か盛り上がり始める。

「あの頃がマリアこうも丸くなるなんて、考えられないよね? あの頃は冷徹で目がこう、つりあがってたイメージ」
「似てる、イェレナ。私たちが息切れしてると冷たく『何そんなんで息切れしてるの』てよく言われて、何なのこいつって思ってた~」
「それなら私も経験あります。補充兵とした出会った日に、マリアさんに滅茶苦茶ダメだしされました。しかも私だけです。酷いですよね? もうその日は、ずっと泣きながら訓練してました」
「あるある、マリアって自分が思っていたラインに達してなかった人に、物凄く冷たかったし。後、自分が失敗しないからって、ちっちゃいミスも物凄い勢いで詰めて来て、私も泣いた経験ある」
「ねぇ、貴方たち?」

「懐かしいな~ジェシカが入って来て、1年後にフェルマとノラとヘレンとが入って来たんだよな。それまでずっとジェシカが下っ端でさ、めっちゃマリアに目付けられてたよね」
「そうそう、それで男子のウィルソンとジャックは巻き込まれない様に、知らんぷりだよ。酷い先輩だよね~」
「確かにそう言われればそうですね。ウィルソンさんもジャックさんも酷いです。こんなか弱い女子がいたぶられてるのを、見て見ぬふりなんて驚きです」
「おい、お前ら……」

「あ、驚きって言えばシェラだろ。まさか、ジェシカの妹が同じ部隊に補充兵として来るとは思ってなかったよ」
「それな~あの時内心めっちゃ驚いた。あんまり表情に出しちゃいけない雰囲気があったけど、私は物凄い驚いてたよ今更言うけど」
「そんな事言ったら、私が一番驚いてましたからね。まさかシェラとまた再開できると思ってませんでしたし」
「あの時の補充兵で来た、シェラとルディンは優秀でマリアも珍しく何も言わなかったよな?」
「あぁ、でもその反動か分からないが最後の補充兵で来たリックには、異様に当たりが強かったな。ジェシカの比にならないんじゃないか、あれ」
「あの時は、あんな出来損ないのままじゃリックが無駄死にするだけだと思ったから強くい――って、そんな事どうでもいいの! 貴方たち、少しは自重しなさい!」

 私がそう注意すると3人は少し反省気味に「は~い」と返事をするのだった。
 その態度に私がため息をしているとジェーンが懲りずに問いかけて来た。

「そんで、実際の所タツミ・カミールとはどうなんだよ? 連絡先でも交換したか?」
「ジェーン? あいつの名前を二度と口にしないで」
「えっ……」
「その名前を聞くだけで、私は滅茶苦茶ムカムカするし、顔を見たら殺気が抑えられないわ」
「あ、うん……ごめん。もう二度と言わないから、笑顔で迫って来るの止めて……」
「……」
「無言で迫って来るのもなし! もう言わないから! 約束するから止めてー!」

 その後、私はジェーンに軽くほんのかる~くデコピンを額に叩き込んで、ジェーンを沈ませた。
 そして私は手帳を置いている机へと戻った時に、ジェシカがふと気になった事を口にした。

「そう言えば、マリアさんのその手帳何て言うか、可愛らしいですね。でも、少し古い感じがしますね」
「そう言われて見れば、改めて見るとマリアぽくないな。お前あんまりそう言う可愛いらしいの持たないだろ。ていうか、少し子供ぽい気もするけど」
「確かに私ぽくはないな。でも、これは大切な人に初めて貰った物なんだ。中身だけ変えて、ずっと使ってるんだよ」

 私は机の上に置いた手帳をさっと手で触れる。

「そうなんですね。大切に使っている感じがにじみ出てますね」
「でも剥げていたり、ヒビが入ってるけど大丈夫なのか? 大切な物なのに壊れたらどうするんだ?」
「大丈夫よ。これは絶対に壊れない魔法が掛かってるのよ」

 手帳を手に取って、私はそれを貰った日の事を思い出し追憶にふけた。
 2人は「手帳に魔法?」とハテナマークを浮かべており、そこで一度ふっ飛ばしたジェーンが起き上がりどう言う状況か理解出来ず首を傾げるのだった。

「そんな事より、貴方たちは明後日の準備はもうしているんでしょうね?」
「それはもちろん」
「バッチリですよ」
「おう、それに関しては抜かりなしさ。そう言うお前は大丈夫なのか、マリア?」

 ジェーンが私にとっては愚問な問いかけをして来て、鼻で笑ってしまうが自信満々に私は答えた。

「当然でしょ。一年に一度きりなんだから」

 その時3人は、そう返して来ると分かっていた顔をしていた。
 その後明後日の話を少ししてから、私たちは部屋から出て解散するのだった。
 私は自室へと戻る途中で手帳を開き、一番最後のページを見ているとアリスお嬢様に偶然声を掛けられる。

「マリア。どうしたのこんな時間に、手帳を見ながら歩いてるなんて」
「私は他のメイドたちとつい話をしていたら遅くなったので、今自室へと帰る所です。アリスお嬢様こそ、こんな時間にどちらへ?」
「ちょっと喉が渇いてね。キッチンに水を取りに行く所」
「でしたら、私が――」
「いい。この時間は仕事終わりでしょ。時間外までやって貰わなくていいよ。それに水を取りに行くだけなんだし」
「……分かりました」

 するとアリスお嬢様は、何かに気付き私へとぐっと近づいて来て、手帳を指さした。

「もしかしてその手帳って、昔私がマリアに上げたやつ?」
「っ……は、はい。そうですよ」
「まだ使ってたんだ。もうかなり昔でしょ? かなりボロボロだし、そんなになるまで使って壊れそうじゃない。大丈夫なの?」
「これは壊れない魔法が掛かってるんで、大丈夫なんですよ」
「え? 何その――って、そ、そそ、それって私が昔おまじない的に言った言葉だったりする?」

 アリスお嬢様は思い出したのか、急に顔を赤くして私に訊ねて来た。
 その顔を見て、私は昔の事を思い出し「はい」と返事をした。
 そう、この手帳はまだアリスお嬢様が5歳になられた頃、私へ手作りで手帳をプレゼントしてくれたのだ。
 その時にアリスお嬢様は絶対に壊れない魔法と言う名のおまじないと掛けてくれた。
 私はアリスお嬢様から初めてのプレゼントを貰い、それが物凄く嬉しくてそれ以来ずっっと愛用しているのだ。
 アリスお嬢様のまじないを信じ、子供っぽいと思われようとも大切に大切に今日まで使い続けている。

「あ、あれは、その私も子供だったし、そう言うお年頃的な……」
「分かっていますよ。でも、私は嬉しかったのです。アリスお嬢様が一生懸命、私の為に作ってくれたこの手帳が」

 そんな私の言葉に、アリスお嬢様は少し耳を赤らめた。

「もう恥ずかしいから、今度新しいのプレゼントするからそっちに変えて」
「嫌です。これは私の一番の宝物ですから」
「ねぇ~お願い! お願いマリア! そんなの私が耐えられないの~お父様やお母様に見られたら何か恥ずかしいし」
「エリック様とリーリア様はもうご存知ですし、こう言っては何ですが昔私はお2人に自慢までしていますよ」
「いや~~恥ずかし過ぎる!」

 アリスお嬢様はその場でしゃがみ込み、両手で顔を覆ってしまった。
 その後暫く悶えた後、立ち上がり顔を赤くして宣言をして来た。

「次の誕生日覚えてなさい! ぜっっったいに返させてあげるんだから~」

 そのまま逃げる様に私の前から立ち去って行くのだった。

「廊下を走るのは、はしたないですよ」
「っっ……分かってますよーだ!」

 少し頬を膨らませたアリスお嬢様はスピードを緩めて廊下を歩いて行くのだった。
 私はそんなアリスお嬢様の背中を微笑んで見ていた。

「楽しみにしています、アリスお嬢様」

 そう小さく呟き、私は手帳を大切に握り締めて、自室へと再び歩き始めた。
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