とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第395話 月の魔女についての話しでもしましょうか

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 ――遡る事、三十分前。

 クリスが自室へと戻ろとしていた時、背後から声を掛けられて振り返るとそこに居たのはレオンであった。

「レオン?」
「クリス、今少しいいか?」
「え、まぁ特に何もないけど」

 急に声を掛けられ何事かとクリスは少し首を傾げていると、レオンが近付いて来て小声で話し掛けて来た。

「ジュリル様との件だが、連絡をしてこの後二人で話せる用意が出来た」
「え!?」

 突然の話にどうしていいか分からず動揺していると、レオンは続けて話し始めた。

「そんなに緊張しなくてもいい。ジュリル様には事情は既に伝えてあるから、聞きたいとかを話せばいい」
「そう簡単に言われても、今の俺は記憶は何となくあるけどもジュリルとは初対面なんだぞ。緊張もするし、そう簡単に話せるか不安なんだよ」
「クリスなら大丈夫だと思うぞ。意外とすんなりと、ジュリル様ともお話出来るはずだ」
「何その自信」
「今日までの実績からかな。数日前に記憶喪失状態だったけど、ひとまずはトウマやルークたち、他の皆とも一応は話せてはいるじゃないか。それを考えればジュリル様とも、全く話せないという事はないんじゃないかな?」
「……そう、かもしれない」

 クリスは不安げに返事をすると、レオンはそのままクリスをジュリルとの合流場所であるホテルの一室へと案内し始めた。
 その道中もクリスは不安である事を暫し口にしていたが、レオンが心配ないと不安を払拭し続けたのだった。
 そして到着した場所は、学院生は誰も止まっていない階のとある一室であった。

「え、ここ? この階って誰も学院の人居ないよね?」
「ああ。ジュリル様が臨時でホテルの一室を抑えたんだよ。ハイナンス家の名で秘密裏に抑えたとは聞いているね」
「そんな事出来るの、ジュリルは?」
「さすがにこれは僕も初めてだから、何とも言えないけどハイナンス家で何度かこのホテルを使用した事があるらしくて、その縁もあるのかもしれないと僕は思うね」
「なるほど」

 クリスは納得し部屋に入ると、レオンはそのまま中で待っている様に言いジュリルを迎えに行くと告げて、部屋を後にしたのだった。
 残されたクリスは、とりあえず椅子に座っていようと思い暫く座っていたがそわそわしてしまい落ち着かない為、立ち上がってしまう。
 そのまま窓からの景色を見たり、立って待っていたりして気を紛らわせていたが、どうにも落ち着く事が出来ずにいた。

「(あ~何だか何してても落ち着かないな。何でだろ。記憶にあるジュリルに会うから? 顔とか分からないし、知っている様で知らない人に会うからかな?)」

 そんな事を思いつつクリスは、近くのベッドが目に入り柔らかいベッドに座れば少しは落ち着けるかもと考えて、思い切ってベッドに腰かけた。
 すると柔らかいベッドに少し埋もれる感じで、今までにない感じだったからなのか気持ちが落ち着くのだった。
 その直後、部屋の扉がノックされクリスが返事を返すと部屋に入って来たのはレオンとジュリルであった。

「悪い、待たせたなクリス」

 クリスは咄嗟にベッドから立ち上がり「いいや」と少し強張った表情で返した。
 直後、レオンの後ろにいたジュリルが前に出来ていた口を開く。

「話はレオンから聞いているわ、アリス。私の事、どこまで覚えているのかしら?」

 クリスはその時初めてジュリルと会い、その瞬間見とれてしまったかの様にじっとジュリルの事を見つめるのだった。

「(この人がジュリル。凄い綺麗な人で、気品もある。こんな人と私は知り合いで記憶にある感じに、話したり戦ったりしていたのか)」

 この時クリスの中の記憶では、ジュリルとの記憶で靄が掛かっていた所が徐々に晴れていき鮮明になっていく。
 その反動なのか、クリスは黙ったままジュリルを見つめ続けていると、ジュリルとレオンも全く動かなくなってしまったクリスを心配し再び声を掛けるが反応がなく困っていた。

「アリス、アリス。聞こえているのかしら?」

 ジュリルは、反応が全くないクリスの肩を軽く揺らしながら声を掛けると、ようやくクリスが反応する。

「っ!? はっ、ご、ごめんなさい! その、ちょっと、色々と混乱しちゃって」
「大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫です。すいません突然……」

 クリスは苦笑いをしながら、その場から数歩だけ後ろに下がる。
 それを見たジュリルはレオンの方を向き、小声で話し掛けた。

「後は二人だけで話すわ。貴方は外で待っていて」
「急に二人だけで大丈夫ですか? 今のクリス、いやアリスはジュリル様とは初対面ですよ」
「だからよ。変に距離が出来てしまう前に、話しやすい距離感を作るのよ。貴方がいたら、話ずらい事もあるの」
「……分かりました。ジュリル様がそういっしゃるのであれば、従うのみですので。では、僕は外に居ますので何かあれば呼んでください」
「ええ」

 するとレオンは軽く一礼して、その場から離れ始め入って来た扉から外へと出て行く。
 だが、クリスはまだその事を知らずに軽く下を俯いてどうしようかと考えていたのだった。
 そんなクリスにジュリルが声を掛ける。

「アリス、まずは座ってゆっくりと話しましょうか」
「!?」

 そこでようやくクリスはレオンが居ない事に気付き、驚くが既にジュリルがベッドに座り近くに来る様に、手でベッドを叩いていたので断る訳にはいかないと思いゆっくりとクリスはジュリルの近くに座る。
 座った場所はジュリルから人一人分距離がある場所であったが、ジュリルはそれ以上近付いて来る様には言わずに話し始める。

「それじゃ、まずは自己紹介からの方がいいのかしら? それとも私の事はもう知っているでいいのかしら?」
「え、えーと、記憶としては断片的にですけど思い出していますけど、一応今の俺としては初対面なんで、自己紹介からでいいですか?」
「分かったわ。私はジュリル・ハイナンス。王都メルト魔法学院第2学年のクラスはコランダム。一応、二代目月の魔女とも呼ばれているわ。貴方とは6月辺りに初めてしっかりと話したわ。月の魔女についてね」
「俺は……いえ、私はアリス・フォークロスです。貴方との記憶はいくつか思い出してはいますが、そのそれは記憶でしかなくて全部鮮明に覚えている訳ではないです。すいません。でも、月の魔女という共有の話題があるのは知ってます」
「そう。念の為だけど、私が貴方をアリスと呼ぶのは外では二人だけの時だけよ。ルーク様や自称親友も、私が貴方の正体を知っている事は知らないわ。この関係を知っているのはレオンだけよ。それだけは覚えておいて」
「はい、分かりました」
「後、その敬語もいいわよ。同級生だし、以前からため口でしたし。まあ無理にとは言わないわ、慣れたらでいいわ」
「は――う、うん。分かったジュリル」

 アリスのその返事にジュリルは優しく微笑む。

「それじゃ早速だけど、月の魔女についての話しでもしましょうか」
「……え?」

 思いもしないジュリルからの切り出しに、アリスは自分の耳を一度疑うのだった。
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