とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第396話 貴方は他人の為に生きているの?

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「いやいや、やはりそこは月の魔女と黄金の悪魔の最後の決闘が一番の見どころだと思いますわよ!」
「分かるけども、私はやっぱり月の魔女が仲間の大切さや、一度助けてもらった黄金の悪魔と七光りがピンチの時に、助けにやって来た所が好き!」
「っ……分かる」
「でしょ! グッと心を鷲掴みにされない? その黄金の悪魔との最後の決闘シーンも互いに気持ちをぶつけて、勝敗をきっちりとつける所も熱くていいんだけどね~」
「そうね、これは甲乙つけがたい話題ね」

 そこでアリスとジュリルは互いに腕を組み、軽く唸った直後互いに顔を見合わせると小さく噴き出し笑い合う。

「やっぱり、月の魔女でここまで話せるのは貴方だけよアリス」
「私もこんなにも月の魔女について話せたのは、ジュリルだけだよ」
「始めの頃に今みたいに、月の魔女についての話で盛り上がったのがアリスと仲良くなったキッカケよ。覚えているかしら?」

 アリスはその問いかけに対して、小さく頷く。

「今実際に話していて感じたよ。今の私にとっては初めてだけど、体や記憶は初めてじゃないんだって。ジュリルとは色々と話したり、意見をぶつけ合ったりした仲なんだって」
「そう。それなら良かったわ。話したかいがあったわね」
「うん……」

 そうアリスが頷いた後、少し俯いた所をジュリルは目にして声を掛ける。

「何を悩んでいるの?」
「っ!」
「そんな驚いた顔しなくていいわ。雰囲気と態度で何となく分かるもの。今の貴方は隠すのが下手ね。よくそんな状態から、半年以上も皆を欺けていたものですわね」

 ジュリルの言葉にアリスは苦笑いをする。
 そして少し間を空けてからジュリルは悩みを打ち明け始めた。
 先程までの会話にて、アリスはジュリルならば今の自分の悩みを打ち明けても大丈夫だろうと感じた為、悩みを口にしたのだった。
 単に気が合うとか、話が盛り上がったからとかではなく、実際に会って話した事で何故だかこの人なら素直に話してもいいと思えたからでもあった。
 その時アリスがジュリルに打ち明けた悩みは、記憶を思い出した後に今の自分はどうなるのかという事であった。
 少し前から考えるようになっていた事だったが、誰にも話す事が出来ずに自分の中で考えては答えが出ないので、考えない様にしていたのだ。
 だが、徐々に記憶を思い出し始め今回はより鮮明にジュリルとの記憶を思い出した事で、再びその悩みが頭をよぎっていたのである。

 全てを思い出した時、自分は以前のアリスもしくはクリスと呼べる存在なのか、それはもう昔の自分がただこれまでの覚えている記憶を見ただけのアリスなのではないか?
 彼らが待っているのは、そんな自分ではなく記憶を失うまで接していたアリスなのではないのか?
 もしくは全ての記憶を思い出した時に、今の自分ではなく以前のアリスに戻り、この記憶を失っている間の記憶も含めての自分になるのだろうか?
 そうなったら、今の私という人格はどうなるのだろうか?
 そんな事を次から次へと考えてしまい、全く先が見えない何処かをただひたすらに歩き続けている感覚になっていた。
 なら、そんな事を考えなければいいだけだとも思いもしたが、ふと思い出したかの様に考えてしまう自分がおり、考えては適当に自分を納得させてその場で考える事を放棄して、見て見ぬふりをして来ていた。
 アリスはそんな事まで、全てをジュリルに溜めていた事を吐き出すように全てを打ち明ける。
 一方でジュリルは、そんなアリスの話を途中で遮る事なく、最後まで話を聞き続けたのだった。
 そして全てを話し終えたアリスは、ふと我に返ったかの様にジュリルに対して一方的に話し続けてしまった事を謝った。

「今更謝られても、こっちも困るわ」
「ご、ごめん……」
「別に責めてはいないのだから、落ち込まない」

 ジュリルにそう言われて、アリスは俯きそうだった顔を直ぐに上げた。
 そのままジュリルの方を向くと、ジュリルが続けて話し始めた。

「とりあえず、一言いうとしたらアリス。貴方、人の事を気にし過ぎですわ」
「っ!」
「誰がこうだとか、こうあるべきだとか、貴方は他人の為に生きているの? 違うでしょ。貴方は貴方の為に生きているんじゃないですの?」

 アリスはジュリルの言葉に黙り込んでしまう。
 しかしジュリルは、アリスの言葉など待たずに話し続けた。

「これはあくまで私の主観ですわ。ですから、必ずしも誰もがそうとは言いませんわ。ただ、今の話を聞いた分には、私はそう思ったという事ですのよ。悩みの答えでもアドバイスでもないかもしれませんけれど、今の貴方がどうしたい、どうなりたいかと考えるべきではないんですの?」
「今の私がどうしたいか……」
「私は記憶喪失になった経験がないので、冷たい言い方ですが本音を言うと、何と言うべきか分かりませんの。ただ、誰かの言いなりや以前の自分に必ずしもなる必要はないと思いますの」
「どうして?」
「だって、さっき以前のアリスでなくても私と月の魔女についてあれだけ話せたのよ。今のアリスが、学院に来る前のアリスと言うのならこれから皆と関わって行けば、必然的に以前の貴方と似た様な態度や言動をすると思いますの」

 その瞬間アリスは、先程までのジュリルと会話していた時間を思い出す。
 確かに以前の記憶があったはしたが、特にそれが大きく影響したとかではなく、自然に今の私としてジュリルと会話をし、以前の私と似た様な時間を過ごしていたのだと気付く。
 記憶を失った自分は、結果的には今の自分がベースとなって失った記憶の時間をクリスとして偽りつつも、芯の部分では今のアリスが基準に過ごしてきたのだと改めて理解する。

「一応何度も言いますが、これは私の主観ですわ。そうなるのではという、願望も入ってると思って下さいね」
「うん」
「それを前提に、私は貴方が改めてどうしたいかを考えれば、おのずと悩みは解消するのではと思っていますわ」

 そうジュリルが口にすると、座っていたベッドから立ち上がった。
 急に立ち上がったジュリルにアリスは追う様に視線を上に向けた。

「どうしたの、急に立って」
「あまり私が話してしまうと貴方はそのまま流されて行きそうな気がしますので、ここで私との話はおしまいにしますわ。後は、ゆっくりと自分で考えて決める時間に当てた方がいいと思いますの。それに、そろそろ就寝時間になりますし」

 そこでジュリルが部屋に掛けられていた時計を指さして、アリスも現時刻を理解する。

「そういう訳ですので、おやすみなさいアリス」
「え、ちょっと」
「レオンは置いて行くので、帰りはレオンと共にね」

 ジュリルはアリスの言葉に足を止める事無く、すたすたと扉の方まで向かって行き部屋を後にするのだった。
 あっという間の出来事に暫く固まってしまうアリスだったが、これはジュリルなりのメッセージなのではと思い始める。
 最終的にどう決めたとかではなく、自分で最後は答えを出すべきだという事なのではと、勝手に思い込む。
 例えそうではなかったとしても、自分で決めて出した答えならばこの先それが揺らぐことはないし、後悔もする事はないと思いアリスはジュリルの言う通り、改めて自分で考えて答えを出す事を心に決めるのだった。
 その後、アリスは部屋の中で改めてクリスとしての気持ちの切り替えを行い、部屋を出てからレオンと合流し元の泊まる部屋がある階へと共に戻って行くのだった。
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