とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
402 / 564

第401話 記憶はいつか忘れる物

しおりを挟む
 修学旅行5日目、その日は結果的にはジュリルたちと最後まで一緒に行動し水の都の観光を満喫した。
 ちなみに観光の途中でジュリルの親友であるウィルと出会った時には、何故かジュリルと近いなどと変な事をチクチクと言われてしまった。
 後からジュリルに、以前からウィルは私の事を警戒している様な態度をとっていた教えてもらい、私はウィルに何をしたのだろうかと考えたが分からないので、深くは考えずにそういう関係性なのだと理解した。
 そしてホテルに戻り夕食をとってからの夜の自由時間には、遊技場で男女共に楽しく遊ぶ姿や楽し気にこれまでの観光して来た所を話し合う姿が多くの所で見られた。

 私もトウマたちと遊技場にてジュリルたちとボールを打ち合う競技で競ったりと、盛り上がった。
 その後私は少し疲れたので一息つこうと、一度遊技場を離れてゆったり出来る休息所に向かった。
 いや~見てるだけでも楽しいし、少し笑い過ぎてお腹もいたいな。
 私は先程まで居た遊技場で、ウィルとトウマが激しい打ち合いをしたり、男女ペアでのトーナメントでルーク・ジュリルペアとニック・マートルペアの試合とか居るだけでも楽しい空間を思い出しては、くすりと笑うのだった。
 そのまま廊下を歩いていると、ふと外のベランダスペースにいる人を見かけ足が止まる。
 あれ? 誰か外にいる。誰だろ?
 そのままクリスはベランダに続く扉へと近付くと、顔が見てその人物がタツミだと理解すると、扉を開けて声を掛けた。

「タツミ先生~こんな所で何しているんですか?」
「? 何だ、お前か」

 タツミは振り返り声を掛けて来た人物がクリスだと分かると、また正面を向く。
 手には飲み物を持っており、そこからは湯気が出ていたので温かい飲み物を持っている事が確認出来た。
 クリスは、周囲に誰も居ない事からこの場で今の自分の状況を報告してしまおうと思い、タツミへと近付く為に外に出た。
 外は今の服装では少し肌寒く、ずっと居たら震えてしまうだろうと考えてしまい、途中で足が止まる。

「何やってるんだお前は? 何もしない状態で、こんな冬の外に居られる訳ないだろうが」
「タツミ先生。じゃ、何で先生はそんな厚着もしないでここに居られるんですか?」

 そうタツミはそこまでの厚着はしておらず、クリスに近い服装で震える事無くこの冬の夜のなら外に居たのだ。

「それこそ魔法に決まってるだろうが。せっかく魔法が使えるんだから、便利に使わないと勿体ないだろう」
「そもそも外で魔法を勝手に使うのは厳禁なんじゃ……」
「誰にも見られてなければいいんだよ」
「教員が言っていい事なんですか、それ?」
「今は教員の立場はお休みなんだ。教員だってたまには息抜きが必要なんだよ」

 そう言うとタツミは、近くのテーブルに置いてあるコップと黒い飲み物が入った容器の元に向かい、コップに黒い飲み物を注ぐと湯気が立ち上がった。
 そしてそのコップを持って私の元へとやって来ると、それを渡してくれた。
 私がそれを受け取ると、タツミはニヤッと笑った。

「受け取ったな。それじゃ、ここで見た事聞いた事は誰にも言うなよ」
「え!? それってこれが口止め料って事ですか?」
「そう言う事だ。それにおまけで、お前にも俺の魔法をかけてやったんだ文句ないだろ?」
「魔法? いつの間に」

 そう言われるまで全く実感がなかったが、先程の寒さが全く感じなくなった事に気付く。
 よくよく自分の周囲の魔力を感じると、周囲に風の膜の様なものが張られており、これのお陰で寒さがほとんど入って来てないと理解する。
 凄い、一見何ともない魔法だけど、緻密な魔力操作と持続的な魔力がないとこんな事簡単に出来ない。
 しかもそれと自分だけでなく、私にも掛けているしよく見ると先程のコップや飲み物が入った容器の机の上にも張っている。
 もしかしてこの人、思っているより凄い人なんじゃ……
 そんな事をクリスが考えていると、タツミが元の場所に戻り木の手すりに肘を付き、クリスの方を向く。

「で、何か用があって来たんだよな。でなきゃ、わざわざこんな教員に話し掛けたりしないよな」
「そうですけど、何か不機嫌そうな顔をしてますけど、声掛けられるの嫌でしたか?」
「……別に。ただ考え事してただけだ」

 そう言いつつ少し間があったから、本当は嫌なのかも。
 と思いつつも、私はタツミの横へと貰ったコップを両手で持ち並び、そこから見える景色に目を向けた。
 そこからは大きな明りはないが、遠くの方で街の微かな明りが見る事しか出来ず、夜なので他にいい景色が見える訳ではなかった。
 私はそのまま記憶喪失の現状について、タツミに報告をした。
 この数日で思い出した記憶の事や、思い出す際には必ず何かしらの要因があるのではないかという推測や、必ず頭痛が起こる事などを伝えた。
 タツミはずっと景色をの方を見つつ、たまに飲み物を飲みながら黙って私の話を聞き続けていた。
 私も途中からタツミの方は向かず、景色の方を向きながら話し続けた。

「とまあ、現状や推測について報告をしたかっただけなんですが」
「……そうか。経過は悪くはなさそうだな。今の状態がいいかと言われると俺にもそうとは言い切れない」
「はい」
「だが、これまで関わりがある人と接する事やそれに関する事に触れる事で、お前の記憶に何らかの刺激が加わり思い出すキッカケになっているのだと、お前と同じ様にこれまでの傾向で俺もそう考えてはいる」
「タツミ先生もそう思いますか。なら、このまま似た事をし続ければ、全ての記憶を思い出すという事になるますよね?」

 その私の問いかけにタツミは直ぐに返事をせずに、飲み物を飲んでから暫くして口を開いた。

「お前、何か記憶を思い出す事を急いでないか?」
「えっ……だ、だって、今の俺は記憶喪失なんですよ。そりゃ早く思い出して元に戻りたいと思うじゃないですか」
「まぁお前がそうしたいって言うなら、それでもいいが。前にも言ったかもしれないが、そんなに焦る必要はないんじゃないか。何かしら考えてそうしているのかもしれないが、所詮は過去の記憶だ。記憶はいつか忘れる物で、過去に執着し過ぎると今を見失うぞ」
「……俺は、私は早く以前の私を思い出して、今の私がどうなるかを知りたいんです。このまま私のままなのか、以前の私に戻るのかを」
「……そうか」

 タツミはそれだけ口にするだけで、それ以降はどうしてそう考えたのかとか、それを知ってどうするのかとか何も訊ねて来る事なく黙って景色を見つめながら飲み物を飲み続けた。
 私もそれ以上聞かれなかったので自分からこれ以上答える事はせずに、タツミと同じ様に温かい飲み物を口にし続けた。
 その後私は飲み物を飲み切った後、コップをタツミに渡しお礼を告げてから、私はその場から立ち去った。
 タツミは去り際に「夜更かしはあまりするなよ」と教員らしい一言だけ告げて、自分はその場に残り続け自分が持っていたコップにもう飲み物がない事に気付き、再び飲み物を注いだ。

「(あいつなり、自分で答えを出そうとしているんだろうな。そんな奴に変に口出しするのは、邪魔でしかない。それに俺は今教員は休憩中なんだから、教員らしい事はしなくてもいいんだ)」

 そんな風に思いながら、再び遠くの街明りへと視線を向けた。

「それよりも今は、他に考えなければいけない事があるんだよな。今日で折り返し……さて、どうなっているやら」

 タツミはそう呟きコップを持つ手に少し力が入るのだった。
 そして修学旅行5日目の夜は過ぎて行き、修学旅行後半戦の6日目の朝を迎えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...