とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
445 / 564

第444話 憧れの存在

しおりを挟む
「エリス先輩、何でここに?」
「お見舞いっていうか、愚痴りに来たのよ」
「そう言えば、エリスは今日から聴取だったね。お疲れ様。明日もあるんだろ?」
「そうなのよーまた明日もあれをやるって思うと、憂鬱なのよね……あ、そう言えば入れ違うようにヒビキの奴を見たわよ」
「そりゃ、病院抜け出したら聴取も早まるよな」
「ヒビキには悪い事をしてな」
「オービン、あつもそれを分かっててお前の頼みを引き受けたんだろ」
「そうかもしれないが、ヒビキに貸しをつくちまったな」

 何故かオービンは嬉しそうにそう呟いた。

「何かヒビキとやってたみたいだけど、ルークとトウマはどうしてここに? 一応普通に面会出来ない状態でしょ、オービンもミカも」

 エリスの問いかけにミカロスが代わりに説明し、エリスは状況を理解するのだった。

「なるほどね、本来ならこの時期に寮長、副寮長の細かい引き継ぎとかするけど、戻れないからここでざっくりとやって、早いけど任せようって話ね」
「学院も大変な状況だし、勝手だけど今は次期寮長や副寮長に現トップとして頑張ってもらうべきと思ってね」
「大変ね、次期寮長も副寮長もこんな形で急に学院を任されるのだから」

 壁に寄りかかりながらエリスは、ルークとトウマの方に視線を向ける。
 するとルークはトウマの方を見る。

「何だよルーク」
「いや、意外と落ち着いてるなって思ってよ」
「顔に出てないだけで、内心やべなーって思ってるよ。でも、俺だけじゃなくてお前が副寮長としていてくれるんだから、何とかなると思ってるよ」
「そう言って俺に全部押し付けるなよ、トウマ」
「うっ……そ、そんなわけねえだろ。あははは」

 トウマの態度にルークは小さくため息をつく。

「さてと、時間も限られてるし早速始めようか二人共」
「ああ」
「お願いします、オービン先輩! ミカロス先輩!」

 するとミカロスが一度自分のベッドの方へと戻ると、手に紙を持って戻って来た。

「簡単に資料は作っておいた。これを元に話をすすめよう」
「さすがミカ。仕事が出来る寮長だね~」
「こういうのは前から俺の仕事だろ、オービン」
「いつも悪いね、ミカ」

 そうしてミカロスが資料を配り、寮長副寮長の仕事にやるべき事などの引き継ぎを始める。
 エリスは近くの椅子に座り黙ってそれを聞き続けるのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「飲み物、ありがとうございますティア王女様」
「いいのよ。急に呼び出したのはこちらだし、それで急にあんな話をして動揺させてしまったのだから」

 私はティアの言葉に対して何て返していいのか分からず、黙ってしまう。
 少し気まずい感じで、私はつい持っていた飲み物に目を向け親指で周囲を撫でる様に触る。
 ティアから話があるのは分かっているのだが、それをこちらから口に出せずにいた。
 一方でティアもどう話を始めるべきかを悩んでいる様な雰囲気を感じた。
 互いに踏み出せないままでいると、リリエルが軽く手を叩く。

「はい。ティア、さっきの決意は何処にいったの? アリスもそんな緊張しないでいいわよ。ちょっとした昔話をするだけなのだから」
「昔話、ですか?」
「そう。ほらティア」

 そうリリエルがティアの背中を押すように話し掛けると、ティアはゆっくりと話し始める。
 それは今から25年もの前、ティアやリーリアにマイナが学院生時代の話しであった。
 今の私と同じ様に王都メルト魔法学院で過ごし、そこでのリリエルとの出会いや特に仲がよかった人たちを口にする。
 リーリアとは昔はよく衝突していた仲であったり、ちょっとした問題児だった事、更には現国王とも同級生で交流があった事などをティアは懐かしそうについ昨日までの出来事かの様に話続けた。
 私も次第にその話を聞いているうちに、お母様の学院生時代に興味が出てしまい質問したりしていた。
 タツミとリリエルはその会話を邪魔する事無く、ただ黙って聞き続けていた。
 その後もティアの話は続き、ティアたちが最高学年の時に起きた王国転覆事件へと話題が変わって行く。

 今回の王都襲撃事件の様に、学院生ながらに事件の中心に関わり敵とも戦闘をしたと明かす。
 その頃は王国軍も各地に派遣されていた事で、有志を集い王都を護るために戦ったと口にし、それにはお母様やマイナ学院長、更にはハンス国王にもう一人いつも一緒にいたバベッチと呼ばれる人物も参加したのだと語る。
 ティアはそこで一度言葉に詰まるが、話は止めずに少し苦しそうな表情をして続けた。
 そしてそこで語られたのは、大切な仲間であったバベッチの死であった。
 仲間の命の危機を救い、代わりに自身が犠牲になったのだと口にする。
 王国転覆事件では、多くの死者が出た惨劇の事件と今では語られており、同時に月の魔女の逸話が生まれた事でも有名である。
 その事件で大切な仲間を失ったと知り、私もそんな辛い過去があったのだと思っているとティアは「そう、つい最近まで思っていた」と続けた。

「どういう、事ですか?」
「あいつは……いや、バベッチは生きているの」
「死んでなかったって事ですか? え、でも埋葬したって言ってましたよね」
「ええ、そうね。私たちはバベッチの亡骸を皆で埋葬をしたわ。だけども、彼は私たちの前に変わらない姿で現れたの」
「え? え? それって、死んでるはずの人間が生き返ったって事ですか? いやそもそも死んでない?」
「それは……」

 ティアは再び言葉に詰まると、リリエルがそこで口を開く。

「バベッチは自分が死んだのだと偽装したんだよ」
「何でそんな事をしたんですか、バベッチさんは? わざわざお母様やティア王女様たちを欺くなんて」
「ある野望を始めるためさ。バベッチはそこから数十年かけて、暗躍し続けそして再びリーリアたちの前に現れたんだ」

 リリエルの言葉対してティアは黙り少し視線を下げていた。
 私はそんなティアの姿を見てから、再びリリエルへと視線を向けた。

「そしてバベッチは叶える野望の為に、今回王都を襲撃したんだ」
「!?」

 そして私はリリエルからバベッチが叶えようとしている野望を聞く。
 それを聞き、私はバベッチが考えている事を全ては否定する事は出来なかった。
 努力してもそれが実のならない事はあるのだと知っており、もしそれが必ず実るのなら凄く良いと思う。
 だけど、それは叶えられるか分からないから努力するのであって、思うだけで叶えられるのなら前提が変わってしまう。
 バベッチがやろうとしている事は世界を人々を助けるのではなく、衰退させる行為であり、それに伴った行動も決して許される事ではない。
 私はそう考えながら力強く手を握りしめていると、ふと今までの話がどう自分の危険と繋がるのかと思い出す。

「ティア王女様、リリエルさん。この話は私が危険になっている事とどう関わってくるんですか? それもとも、それはまた別ですか?」
「この話に出てきたバベッチが、お前を危険にさらす可能性があるんだ」
「っ! でも、どうして私がそこに絡んで来るんですか? 面識もないし、狙われる理由もないじゃないですか」
「それは彼が、バベッチがリーリアに固執しているからよ」
「お母様に?」
「細かい事はここでは省くが、バベッチはリーリアに何度か先に接触していて、自分の元へと勧誘までしている。ここからは推測だが、バベッチは今のアリスに過去のリーリアを重ねている、もしくは利用してリーリアを引き込もうと考えている可能性がある」

 まさかの理由に私は驚いてしまう。

「バベッチは未だに姿をくらましている。またいつ、どこで仕掛けて来るか分からない。だから、こうして危険があるかもしれないと貴方に話したの」
「……こう言ってはあれですけど、出来れば知りたくなかったです。知った事で、これから更に周囲に気を張りながら生活しないといけないと思うと……」

 私が俯き思った事を口にするとティアが立ち上がり、私の方へとやって来て地面に膝をつけて突然私の手を握って来た。

「ティア王女様!?」
「不安にさせてごめんなさい。でも安心して。貴方にバベッチは近づけさせない。私にリリエル先生、それにマイナに学院の教員、そしてなにより貴方の近くにはルークや学院の仲間たちがいる」
「っ……」
「アリスさん、貴方は一人じゃない。バベッチの事は頭の隅に置いておいてくれればいいの。こんな話をしておいてだけど、貴方は一学院生として残りの時間を全力で楽しみながら過ごして」
「ティア王女様」

 そこでティアは優しく私を包む様に抱きつく。

「貴方には私がついているのだから、大丈夫」
「……ありがとう、ございます」
「あの月の魔女様がそこまで言い切ると、もう危険すらないかもね」

 リリエルのその言葉を聞き、私は一瞬思考が止まる。
 そしてリリエルの方を素早く向いた。

「……え? 今何て言いました? 誰が月の魔女?」
「誰って今、アリスの目の前にいる人物に決まっているだろ?」

 私はゆっくりとティアの方へと顔を向けると、ティアは何故か私から少し離れてリリエルの方を少し驚いた顔で見つめていた。
 するとゆるっくりとティアも私の方へと顔を向けて来た。

「ティア王女様が……あの、月の魔女?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...