とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第456話 チョコ作り体験会

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 私は試着室にて用意された服とかつらを装着し、扉を開け待っている二人の前に立った。
 試着室に用意されていたのは、ボーイッシュのコーデで揃えられた女性用の服とセミロングのかつらにキャップ付きの帽子である。

「えっと……に、似合ってるよクリス」
「そうですわ、自信を持っていいですわよ」
「いや、褒められても……」

 私は少し苦笑いのモランと笑顔のジュリルの表情を見て、小さくため息をつきつつも改めて鏡を見る。
 こういうボーイッシュな服装は何というか、クリスでの私服に近いからそんな抵抗ないけど、女性用でここまで近い感じにも出来るんだな。
 変な違和感もないし、動きやすいし意外といいかも。
 そんな風に思いながら鏡を見ているとジュリルが小声で「気に入ってくれたのかしら?」と声を掛けて来て、私はとっさに振り返った。

「そ、そんなんじゃないよ」
「そう。では、行きましょうか」
「クリス自信もって、私が見ても男子には見えないから」
「あ、ありがとうモラン」

 モランに励まされつつ私は二人に付いて行き、チョコ作り体験会の会場に到着する。
 そこは王都内でも有名な菓子屋らしく、多くの女子が集まっていた。
 私たちはそんな彼女たちを横目に店の隣に立っている建物へと案内されると、そこはその店が所有する調理場であった。
 調理場を通り過ぎ待合室には、既に同じチョコ作り体験会に参加すると思われる女性たちが数十人集まっており、各グループごとに別れて雑談していた。
 私が予想した通り会場に男子の姿などなく、いるのは同い年くらいから大人の女性までと年齢層は様々であった。
 その後参加である私たちは別室に移動し上着を脱ぎ、エプロンを着て髪の毛が落ちない様にと料理用の帽子を被り、準備万端の状態で調理場へ向かった。
 調理場には既に数名の料理人が待っており、その中には店長兼料理長もおりその人物が全員集まった所で改めて自己紹介をして話し始めた。
 内容は、応募した三人一組での本日の作業内容や体験会の流れから始まり、各道具の説明や注意事項であった。
 話が一通り終了すると、各班ごとに指定されたキッチンへと移動し始め私たちも移動する。
 各キッチンの近くには担当講師の様に必ず料理人が付く形式になり、その料理人が周囲四方向の参加者たちの様子を見ながらチョコ作りを教えるという形式となるのだった。
 そして私たちの近くの担当になったのは、店長兼料理長であった。

「では皆さん、今日はよろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」

 それからは、材料を受け取りに向かい同時に渡されたレシピを見ながら調理を始めた。

「で、始まったわけだけど二人は調理経験は?」
「私はちょっとだけあるよ。ジュリルは?」
「誰に聞いているのかしら」

 自信満々だね、ジュリルは。私はモランと同じ位かな。
 マリアと一緒にちょっと料理したり手伝ったりしたくらいだし。
 そして私は貰ったレシピを改めて見る。
 えっと、そんなに手順も多くないし難しい事はしなさそうだから大丈夫そうだね。
 私は最初の手順に従い、包丁を手にし板状に作られたチョコを手にとり、レシピ通りに細かくゆっくりと刻んでいった。
 モランは私より包丁の扱いに慣れているのか、軽やかにチョコを刻んでいく。
 その時だった、真横から何かを勢いよく振り下ろした音が部屋中に響き渡る。
 部屋にいた全員が一斉にその方へと視線を向けるのだった。
 その直後、再び同じ音が部屋中に響き渡り、私は咄嗟にその音を出している犯人に声を掛けて手を止めさせた。

「ジュリル、ちょっとストップ」
「はい? 何ですの?」
「さっきから注目集めてるから、ていうか何その包丁の持ち方!?」

 ジュリルは包丁を武器の様に持っており、完全に振りかぶっている状態であった。
 まさかの状態に私が驚いていると、モランが一旦振りかぶった包丁を下ろすようにジュリルに伝える。
 そしてよくよく話を聞くとジュリルは今まで一切の料理経験がない事が判明する。
 ジュリル曰く、刻むとレシピにあったのでこの刃物で力強く叩き斬ればいいのだと思っていたらしく、先程の様な事態が発生していたのだった。
 その後店長兼料理長が私たちの元へとやって来て、事情を理解しジュリルに丁寧に包丁の使い方から説明してくれたのだ。
 ジュリルは優秀なだけあり、店長兼料理長の教えを直ぐに理解してあっという間に私以上に完璧に包丁を使いこなしたのだった。

 それから私たちは一緒にレシピを確認しながら、道具を使い役割分担しながら調理を進めた。
 所々、店長兼料理長がやって来て様子を見てくれアドバイスをしてくれたり確認してくれ、大きな失敗をする事無く進めて行った。
 調理も最終段階になり、クリームと合わせたチョコがクリームの様になった所でバットにそれを流し入れる。
 表面を平らにした後、それを冷やす為に調理用魔道具へと運び他の班と一緒に冷やし始める。
 冷やしている間は休憩時間とし、お店で出しているチョコの試供品を貰い食べたり、他の班と雑談をして時間を過ごした。

「ではそろそろ時間ですので、各班自分たちのチョコを取りに来てください」

 料理人の呼び声にモランが私たちの班のチョコを取りに向かう。
 再びキッチンにて、バットから固まった生チョコと呼ばれる物を取り出し、温めた包丁で小さい正方形状に切り出し最後の仕上げにココアと呼ばれる粉を振りかけて完成となった。

「おー出来た」
「いい感じじゃない?」
「早速試食と行きましょう」

 私たちは自分たちで作ったチョコをひとかけら口へと運ぶ。
 するとチョコは口の中で甘くとろけ始め、噛みしめるごとにチョコの味が口いっぱいに広がるのだった。
 美味しい~~本当にこれ私たちが作ったチョコ? こんなに美味しく作れるものなの?
 想像していた以上の美味しさのあまり、私は無意識にもう一口食べようと手を伸ばしていたら、モランに手を止められた。

「気持ちは分かるけど、二口目を食べたらもう止まらないと思うよ」
「うっ……た、確かに。ごめん、ありがとうモラン」
「さぁ二人共、早く箱へと取り分けてしまいますわよ」

 その後私たちは、作ったチョコを数箱に取り分けてリボンで箱を飾り付けし、全ての作業が終わると最後に店長兼料理長からの簡単な挨拶があり、体験会は終了するのだった。
 私たちは体験会の話しで盛り上がりながら学院へと向かうが、途中でうっかり今の姿のまま戻る所だと私は気付き着替えた店へと向かおう事を伝えた。
 それからは着替えた店で戻の姿に戻ってから、学院へと戻った。

「全然あの姿でも良かったですのに」
「冗談止めてくれよジュリル」
「ごめんなさいね。でも、今日は楽しかったですわクリス」
「私も楽しかったよ。急に誘っちゃってごめんね、あんな格好までしてもらって」
「確かにあれはもう忘れて欲しいけど、俺も楽しかったよ。お見上げのチョコもあるし、食べるのが楽しみだ」

 私は笑顔で二人にお礼を告げると、二人は軽く視線を合わせた後に頷くと今日作ったチョコとは別の箱に入ったチョコを渡して来たのだ。

「な、何だよ急にどうしたんだよ」
「あの店長さんから教えてもらったんだけど、東の地区ではこの時期に友人にチョコをプレゼントする習慣があるらしいの。だからそれをマネてクリスにプレゼント」
「私もモラン同様にクリスへのチョコのプレゼントですわ。同じ月の魔女仲間としてですわ」
「そんなの俺知らないぞ。いつ聞いたんだよ」
「休憩時間中にトイレに行ってる時かな」
「そんな話してたのかよ。プレゼントは嬉しいけど、俺何にも準備してねえからお返しとか出来ないし、ちょっと受け取りづらいんだけど」

 するとジュリルは私が二人と同様に持って帰って来た手作りチョコの袋を指さした。

「あるじゃないの。それと交換でいいですわ」
「え、いやいやこれ一緒に作ったやつだし、同じじゃないかよ」
「私もそれでいいよ。というか、クリスが箱に詰めて飾り付けしたやつが欲しいな」

 二人はそう言ってくれるが、私はこんなものじゃ割りに合ってないと思い断ろうとしたが、一瞬の隙にジュリルに袋を奪われ強制的に二つ箱をとられ私の袋に二人のプレゼントを入れられて返された。

「ちょっと、何勝手に」
「これで交換終了ですわ。こうやって何かを送り合うのは、私初めてかもしれませんわ」
「私、これ大切食べるねクリス。ありがとう!」
「ほ、本当にそれでいいのかよ」

 と、私が問い返すと二人は息ピッタリに「これでいいの(ですわ)」と返してこられ、私は特に返す事も出来なかった。
 その後二人は上機嫌に自分たちの寮へと帰って行った。
 私も少しモヤモヤしたが、二人が喜んでくれてるしわざわざ貰った物を返すのも失礼なので、二人に「プレゼントありがとう!」とお礼を告げてから寮へと戻った。
 そして私は寮へと戻り、リビング兼食堂にいた皆に貰った物だと嘘を付いて、作って来たチョコを皆が食べられるように中央に置くとピース筆頭に直ぐに人だかりが出来てしまう。
 私は変に追求される前に、自分の分と二人から貰ったプレゼントを持ちすぐさま自室へと戻った。

 部屋にはシンもいなかったので、早速二人から貰ったチョコを食べようと箱を開けると、一方にはざまざまな形で作られ鮮やかな色のチョコが入っており、もう一方には月と魔法の杖の形のチョコが入っていた。
 これ、どっちがどっちか何となくわかっちゃうわね。
 私はそれぞれのチョコを見てクスッと笑った後、貰ったチョコを一つずつ口へと運び楽しかった今日の事を思い出しながら、一人で堪能した。
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