とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
469 / 564

第468話 交渉

しおりを挟む
 現れたデイビッドはゆっくりと瞳を開けると、両手を見つめゆっくりと握って開いてを繰り返した。

「欠損は……なし、かな」
「まさか、元に戻るとはね」
「それだけ私の意志が強かったという事ですね。バベッチ」

 デイビッドはバベッチの方を睨みながら呟くと、バベッチは小さくため息をつき「また変に自我が芽生えた個体かよ」と呆れた顔で呟く。
 それからバベッチはジュリルたちの方へと顔を向ける。

「イレギュラーはあったが、見ていた通り君たちが付けたリングは爆発する。さっきのデイビッドみたくなりたくなければ、おとなしく俺の指示に従ってくれ」
「はぁ~急に爆発させられたのは最悪だったけど、さっきの私みたくなりたくないでしょ? 痛みはほとんど、いや少しはあったけどバラバラに弾け飛ぶのって最悪ですよ」

 ジュリルは二人の言葉を聞くと、モランたちの方に視線だけ移した。
 その時モランは完全に萎縮してしまい、身体が震えていた。
 マートルとミュルテも驚きと恐怖を感じている表情をしており、ミュルテは無意識なのか少しずつ後退していた。
 そして自分たちの後ろにいる参加者達は、完全に恐怖に陥ってしまい一歩たりとも動けない状況であった。

「(っう……どうするべきですの? 下手に動けばこのリングで爆破。相手の目的は不明で、要求は人質になる事。何かに巻き込まれているのは確かですけど、このまま言いなりになっても無事である保証はないはず……)」
「大丈夫、心配する事はないよ。俺の言う通り、黙って静かに人質になっていてくれれば手出しも爆発もさせないからさ」

 と、バベッチがまるでジュリルの考えを読んだかの様に話し掛ける。
 ジュリルはバベッチのうっすらと笑みを浮かべた表情に、背筋に冷たいものが走る。

「(あの人の言葉をこのまま鵜呑みにするのは、何か危険な感じがする……と言っても、立場上完全に向こうより下で、選択肢などない状況ですわ。相手が求めているのは人質……交渉のしようはあるはずですわ)」

 するとジュリルはゆっくりと息を吐いた後、一歩前に出てバベッチに対しとある提案をする。
 その内容は、自身が人質になるので他の皆を解放して欲しいというものであった。
 ジュリルの言葉にモランたちは驚き、デイビッドは眉をひそめた。

「なに虫のいい事言っているんですか? 貴方達は従うが、従わないかの二択ですよ」
「こんなに多くの人質が必要ですの? 私だけでも十分ではありませんの? ハイナンス家の令嬢ですのよ」
「確かにこの中で家柄としては一番高位ですが、そんな事はどうでもいいんですよ」
「(家柄を気にしない人質? 目的が読めないですわ。ただ単に人質として大人数欲しいというだけですの? そうとしたら、何故教員方だけを飛ばして私だけにして人数を減らしたのです?)」
「何にしても、ジュリルさん貴方のその提案は却下ですよ。この場の全員に人質になっていただきます」

 交渉が上手く運べずなかった事にジュリルは苦い顔をしていると、バベッチが突然「この状況下で自己犠牲か」と呟く。

「バベッチ?」
「いいだろう、ならその気持ちがどこまで本気か試そうじゃないか」
「何を言い出すんだ急に! まさか、今の提案を受け入れるつもりじゃないですよね?」

 突然の発言にデイビッドは困惑した表情をしていると、バベッチは「お前は黙ってろ」と威圧的に言い返す。

「二代目月の魔女、いやジュリル・ハイナンス。君の自己犠牲精神は素晴らしいよ。この状況でそんな事が出来るなんて、まさしく二代目月の魔女と呼ばれる存在だよ!」
「っ……そこまで言ってくれるという事は、私の提案を受け入れてくれるという事ですの?」
「ああ……でも、これから出す条件をクリアしたらね」

 するとバベッチは後方で待機させていたフードで全身を覆い隠していた人物を一人呼び寄せ、前に立たせた。
 ジュリルは警戒し、咄嗟にかまえる。

「今からこいつと君が戦って、勝ったら君の提案を受けてあげるよ。それが俺からの条件。簡単でしょ?」
「戦う……本当に勝てば、他の人々を解放してくれるのですのね?」
「そうだよね、君は俺の言葉を信用出来ないんだよね? ならそうだな……逆に何をしたら信用してくれるのかな?」

 逆に問い返されジュリルはどういい返すべきか迷ってしまう。
 そして出した答えは、半数の人質解放であった。
 だが、バベッチはその返答には首を横に振った。

「どうして?」
「それは見合ってないからさ。君の要望を叶える為に、条件を出して更には信用してもらうとわざわざ聞いているのに、そこで君の要望を叶えるのは違うだろ?」
「(流石にダメでしたわね)」
「信用する気がないというのなら、この話は終わりにしようか」
「っ! ま、待って! ……分かりましたわ。では、せめてこの爆発するリングを外してくださいまし。こんなのが付いていたら、戦闘に集中出来ませんわ」

 咄嗟にジュリルは別の要望をし、消えそうになった道を繋ぎ止めた。
 バベッチは暫く考えた後、一度だけ指を鳴らすとジュリルたちについていたリングが一斉に外れ地面に落ちた。

「バベッチ! 何をしているのですか!」
「黙っていろと言ったはずだ!」
「ぐぅっ……」
「これで信用してくれたかな?」
「……ええ、少しだけですけども」

 ジュリルは外れ落ちたリングを見つめた後、軽くリングが付いていた手首を触った。
 その直後、バベッチが再び指を鳴らすとジュリルとフードを纏った人物の周囲が結界に覆われる。

「(結界!?)」
「他に被害が出ては困るからね。勝負は簡単、どちらかが負けを認める、もしくは戦闘不能になった時点で終了。これでどうかな?」

 その問いかけにジュリルが返答しようとした時、結界外からモランたちが声を掛けるのだった。

「ジュリル!」
「ダメよこんなの! 今すぐに止めて!」
「そうよ、ジュリルちゃん! 勝手に決めないでよ!」
「皆……」
「おやおや、青春だね」

 バベッチはその光景をただ、にやにやと見つめる。

「ジュリル、どうして」
「ごめんなさい勝手に。でも、あのまま相手の言いなりになるのは危険だと思ったのですわ。だから私が」
「だからって、一人で何とかしなくてもいいでしょ」
「モラン」
「た、確かに私は怖くて怖気づいちゃって頼りないかもだけど……ジュリルを一人だけなんてしないよ!」
「そうよジュリル。もう忘れたの? 今貴方は一人じゃないのよ」
「ジュリルちゃんが戦うなら、私たちも戦うよ」

 ジュリルは皆の気持ちを聞いて、小さく笑うと背を向ける。

「……ええ、忘れてなんてないわ。だから、貴方達には参加者さん達を護って欲しいのですわ。相手は、まだ何かを仕掛けて来るかもしれない」
「ジュリル」
「本当に身勝手で申し訳ないけれど、ここは私に任せて欲しいのですわ! 私は、二代目月の魔女ですわよ!」

 いつも見て来た頼れて憧れであるジュリルの後ろ姿を見てモランは「……分かった、わ」と引き下がり、マートルとミュルテも同じ様に下がる。
 彼女達は自分達が頼りないから、ジュリルがこのような判断をしたのだと思いつつ、今のジュリルを止める事は出来ないと思うのだった。
 だがそれと同時に、今の彼女なら必ず勝つと信じれるたからそれ以上言葉をいわずに下がるのであった。

「ごめんなさい、さっきの話しですけどもその条件でかまいませんわ」
「それじゃ、早速始めようか」

 バベッチのその言葉と共にジュリルの前に立っていたフードを纏っていた人物がフードを勢いよく脱ぎ捨てる。
 そして姿を現した対戦相手に、ジュリルは驚愕する。
 相手として立ちはだかったのが、タツミであったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...