とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第478話 バベッチという人物の正体③

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 あれからバベッチはロバートと共に身を隠していた。
 未だにバベッチは自身の中にいるロバートの記憶や意思と葛藤して少しずつであるが混じり歪み始めてはいたが、未だにバベッチの意思が勝っていた。
 一方でロバートは、バベッチの様に葛藤する事無く自身がロバートのオリジナル体でない事など気にする態度を見せなかった。
 ましてや、オリジナル体だろうとそうでなかろうと今生きている自分がロバート・ベンズなのだと思うのであった。
 元はバベッチの『分身』によって生み出された身体であり、根底にはバベッチ自身であるのでバベッチに対して逆らう事や殺そうという感情は生まれる事はなかった。
 だが擬態により上書きされる形の為か、根底にあったバベッチの意識なども同じ様に上書きされ消え始めていた。
 だからといって、殺そうとも従わせようといった感情が出る事はなかった。
 この時ロバートの擬態は、本来ならば芽生える事などない自我が芽生え始めていた。

 擬態は本来、対象になりきるだけでありこの場合バベッチがロバートになりきっているはずだが、既にその内側のバベッチは消えかけており完全に主導権がロバートに移り自身の意思で考え行動していたのであった。
 バベッチはその後皆の元に戻ろうとしたが、結果的には身を隠していた所へと戻って来ていた。
 意識的に何故か戻る事に抵抗が生まれ、戻ったら自分の内側にいるロバートが皆を殺すのではないかと思いつつ、既に自分は皆の認識では死んでいると思うからでもあった。
 その後も特に互いに鑑賞する事無く、二人は共に身を隠し続けたがバベッチは日に日に、おかしくなっていった。
 記憶もロバートの記憶と混ざり、意思や夢や目標といったもの全てがそれが自分のものかどうか分からなくなり、歪み自分自身を見失っていた。

「俺は……俺は……何だ?」

 バベッチはそればかり口にし、壁に何度も軽く頭を打ち続けた。
 そんな状態を見続けたロバートがある日声を掛けた。

「お前、好きな異性はいるのか?」

 急な質問にバベッチは動きが止まり、ロバートの方へと視線を向けた。

「いないのか? つまらない男だな、お前」
「なん、だと?」
「じゃいるのか? 言ってみろ相手の名前」
「っ……何でそんな事」
「暇つぶしさ。ちなみに私はマキ。もう死んじまったが、最高にタイプで心から愛していたよ」
「……俺は……リ、リーリア」
「それで、告白はしたのか?」
「して断られたよ」
「まさか一度きり断れただけで、諦めたのか? 本当にそいつの事好きなのか?」
「なっ、何だと! 好きじゃなかったら告白なんかするか! そもそも、断れてそれをふまえて二度目とかあるものか!」
「執着がないな。好きな相手だろうが、夢だろうが目標だろうが一緒だろ。手に入れなきゃ何の意味もない、ただの妄想だ。お前ならこの意味分かるだろ? 私がお前の中にもいるんだから」

 その時バベッチは、今バベッチとして話せておりこの身体は自分のものだという自覚が実感出来ていた。
 これまで混ざり合い、グチャグチャの状態で自分が何なのかと思い悩んでいたのが嘘のような状態であった。
 バベッチは自身の意思が強く固定され混ざりあっている中でも流されず、今自身を保てているのは強い想いがあるからだと理解する。
 その中心にあったのがリーリアへの想いであった。

「私はどんな手段であろうと目的に対しては取り組み達成して来た。マキも何度断られようとも告白し続けた結果、彼女とも結ばれた。だが彼女はこの国の貴族らによって殺された。貴族家の恥だ、平民以下と結ばれる事実さえあってはならないと決めつけられ、私の目の前で命の灯を消されたのだ」

 その瞬間バベッチの頭の中にはその時の映像が鮮明に思い浮かぶ。
 そしてロバートはその一件を機に、世界は狂っている貴族などという制度自体不要だと思い行動を起こし始めたのだ。
 共感してくれる人物らを集め、集団となり反対行動を起こすも最終的には貴族らに握りつぶされる。
 だが諦めず手段をかえ、協力者を集め集団となり力もつけ始め、貴族を恨む奴らまでも取り込み始め、裏で貴族らに罰を与え始める。
 それから徐々に人が増え始め、集団が組織へと変わり事件も公になり始め遂には犯罪組織と言われるのであった。
 ロバートが組織の名前を『モラトリアム』にしたのには、とある人物が人生における生き甲斐や生きる意味が問われているとされ、自身が何者か何になろうとしているかのアイデンティティを確立するのが課題であり、その課題が達成できなければ自分を見失ったまま成長し社会に溶け込めないと定義していた事からであった。
 自分自身は何をすべきかを決めて行動し、仲間を集めていたが、そこには何となくでという者や救われたからという者なども所属する様になり始めていた事から、ロバートは自我を確立させる猶予期間としての場として『モラトリアム』と名付けていた。

「私は私の目的の為に組織を創り、行動している。どんな風に思われようとも、私の目的は貴族制度を消す。その為には手段は選ばない。お前も想う相手がいるなら、どうすれば手に出来るか考えた方が有意義じゃないか?」
「リーリアを、手にする」

 するとロバートは立ち上がり、仲間との定期連絡に行くと言い残しその場から立ち去って行く。
 そして残ったバベッチはリーリアへの想いが大きくなっていき、その中でロバートの言葉が頭の中で響き渡る。
 本来のバベッチであれば、そこで潔くあがかずに一度自分の中でケリをつけた事であったのでどうこうしようとは思うことはなかったが、既に今はバベッチであるが想いも意志もロバートと混ざり歪んでいる状態の為どうすればリーリアを手に出来るかを考え始めるのだった。
 そしてバベッチはあらゆる方面から、今の自分に何が出来どうすれば彼女が振り向いてくれるのかなどを計画を練り始める。
 ロバートが戻って来ても気付く事なくバベッチは集中したまま、独り言を口にしながら続けていた。
 その姿を見てロバートは、不敵な笑みを浮かべた。
 それからバベッチはある計画を作り上げると、ロバートに対し協力関係を持ち掛けるのだった。
 この時、王国転覆事件から既に一年が経過していた。
 バベッチは自身に身についた新たな力を試し出来る事、影響、能力について研究しロバートは分身体かつ擬態させた数ある中でも特殊な例であると理解する。
 実験研究を行った為、多くの分身体に更には擬態させた状態を創り出したので更にバベッチ内には多くの意思や記憶が蓄積され、混ざり歪んでいたが中心にある自身の一部は変わらずにあり続けた。
 ロバートもバベッチの計画は自分の目的にもメリットがあると判断し、協力関係を結ぶのであった。

 それからバベッチは情報収集も兼ねてクリバンス王国の端にて小国同士で紛争を起こさせられるか、分身と擬態を使い小国を操作し紛争を起こさせた。
 それに乗じてロバートの組織は紛争地位に住む貴族らを次々に殺して行った。
 この紛争では子供の暗殺者を使ったり、傭兵を互いの国で雇い紛争は過激になっていくが、それも二年後には終結する。
 そしてその年にハンスとティアの婚約が公表され、次期国王と王女とし国の仕事を正式に引き継ぎ始める。
 二人の協力関係はそれからも続いたが、四年後に突如解消された。
 理由は不明だが、それからもバベッチは分身と擬態を繰り返し使い続け計画を成功させる為に、情報を集めシュミレーションを重ねていた。
 それから七年後に、バベッチはとある村に魔物を放ちとある実験を行っていると、そこへ偶然オービンの一行が助けにやって来て、その際に王国軍兵として忍び込みちょっかいを掛けとある事故を起こさせるのだった。
 その後定期的に姿をくらましては、現れると擬態を増やしを繰り返し続けるのだった。
 そこでリリエルの視点は終わり、皆に視界が戻る。

「これが、バベッチという人物の正体だ。彼はバベッチであり、既にバベッチではなくなっている。いくつもの分身体に擬態も増やし続け、監視し続けていた私でさえも途中から一番最初の彼を追えていない」
「追えていない? それじゃさっきまでの観ていたあれは」
「使い魔が見つけたバベッチの行動だ。その場に私が居た訳じゃない。バベッチも私の監視に気付き、上手く撒かれてしまった後に各地に使い魔を放ちバベッチを探したんだよ」
「……それじゃオービンの事件の場に居たのも」
「ええ、使い魔よ。私はただ観ている事しか出来ていないわ」

 リリエルがそう答えるとティアは「そうでしたか」と口にし、俯くのだった。
 リーリアたちは知れる限りの事を知って、各々で考えたり整理したり受け入れがたいという顔をしていた。
 そんな彼女らをみてリリエルは、ここまで話したのは早すぎたと思うのだった。

「(バベッチが急にリーリアに接触してくるとは思わず私も動揺していたな。この話を全てしたのは、私の判断ミスだ。事を急ぎ過ぎた)」

 するとリリエルは皆の視線を集めるために声を掛け、自分に視線を向けさせると大きく一度手を叩いた。
 直後全員が意識を失うのだった。

「皆悪い、今日の事は暫く忘れてもらうよ。この先に待つ来たる日が来るその日まで」

 そうしてリーリアたちの記憶から、一時的にこの日の記憶が消えるのだった。
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