とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第525話 走り去る黒猫

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 ――最終期末試験一日目の学科試験終了後、大食堂にて。


「うへぇ~終わった~~」
「まだ一日目が終わっただけだろうが」
「何だろうが終わったもんは終わったんだよ」

 シンリが食事を持ってやって来たアルジュに対しぶーぶー言っていると、遅れてマックスとケビンがやって来て同じテーブルを囲む。

「何だ何だ、終わったばかりの試験の話しか?」
「あーやめてくれ。さっきの試験でのケアレスミスを忘れた所なんだ。思い出させないでくれ」
「へ~何処間違えたんだよケビン」
「聞くんじゃないよマックス!」

 二人のやりとりにシンリが笑っていると、アルジュは「まだそう言い合えるだけましだな」と食事に手をつけながら答える。

「どういう事?」
「あそこの二人をみれば分かるだろ」

 アルジュは問いかけて来たシンリに対し、後方の奥のテーブルにて互いにうつ伏せになりこの世の終わりかの様な雰囲気を醸し出している場所に視線を向ける。
 するとそこに居たのは、同じクラスのライラックとリーガであった。

「えっ、何あれ!? 暗すぎ。何であの二人あんなになってるの? 試験終わって騒ぎそうなのに」
「まあ今回は、いつもの試験じゃなく最終期末試験。来期の進学等に影響してくるものだからな、よっぽど出来がまずかったんだろうなお前とは違って」
「何で僕の方を見るのかな、アルジュ」

 アルジュは何も答えずそっと視線を目の前の食事へと向けるのだった。
 そんな態度にシンリは「何で無言なんだよ」とピーピーと絡み始める。

「まあ去年も何だかんだ大丈夫だったから、こうして進級してるんだし大丈夫でしょ」
「勉強が出来る奴の言葉は違うな」
「お前も大丈夫だって、ケビン。しっかりやって来たんだろ?」
「ま、まあな」

 少し照れながらケビンが伊達メガネを軽く触る。

「ていうか、もういい加減眼鏡外せよ」
「あ、ちょっと!」

 マックスがさっとケビンの眼鏡をとり、ケビンは取り戻すために慌てて手を伸ばすのだった。
 と、同テーブル内で騒がしい展開が起きているのを近くを通りかかったニックが目にする。

「元気だなあいつら」
「試験終わりってそんなもんだろ。ピース見て見ろよ、いつも通りのドカ食いだぜ」
「あれは反動だろ。こっちが制限かけてたんだから」
「あ~たしかにそうかも」

 フェルトがピースの勢いよく食事を食べる姿を見ながら呟いた。
 そのままニックは歩き始め、ピースの隣の席に座る。
 既にピースの食事で一席埋まっていた為、隣の席に腰かけたのだった。

「いや~にしても物凄い量だなピースのやつ」
「試験の方は問題なさそうみたいだし、もう制限する必要もないから好きに食べさせてやればいいさ」

 何でも美味そうに食べるピースの姿にフェルトも食欲が湧き、手を合わせるとすぐに食事を食べ始めた。
 その様子を黙って目にした後、ニックも食事をとり始めるのだった。
 そこから離れた別の席にてルークが一人で食事をしていると、そこにガウェンがやって来て黙って同席する。

「今日は調整するか?」
「……いや、今日はいい」
「そうか」

 ただそれだけ会話を交わし、二人は黙って食事を続けとり終えた所で再びガウェンが口火を切る。

「試験の調子はどうだ」
「いつも通りさ。特に問題はない」
「さすがだな。その調子なら今回も一位だな」
「そうかもな」

 ここまでルークはガウェンの問いかけに対し、一度たりとも顔を見て答えずにいた。
 適当に答えてる訳ではないと思いつつ、心ここに有らず状態だと感じ取るのであった。
 そこでガウェンはとある問いかけをする事を決める。

「ルーク、クリスの事件についてだが」

 ガウェンのその言葉を聞いて今まで目すら向けなかったルークがガウェンの方へと視線を向けた。

「あの日、俺の記憶がやたらと曖昧なんだ。お前と話した様な気もするし、話してない様な気もする。そもそも事件の場に居たと言われるが、それすら記憶が曖昧なんだ。ルークはあの日、俺の事を見たか?」
「……たしか居た、気がする。前日の夜に会った記憶はあるが、その後からは俺も記憶が曖昧でな」
「お前もなのか。何でかモヤが掛かった感じなんだよな。辻褄が合う様で合わない記憶っておかしいよな」
「そうだな。でも分からない事を考えた所で、答えなんてでやしない」

 ルークはそう言って席から立ち上がり、トレイに食器を乗せ返却口へと向かい始めた時だった。
 ふと大食堂のガラス張りの窓へと視線を向けテラスの方を見ると、偶然黒い猫がテラスを走り抜けるのが目に入る。

「(黒猫とはめ――っ!?)」

 直後、ルークに電撃が走った様な頭痛が襲い掛かる。
 だが数秒後には痛みは退き、少しよろめいた体勢を立て直す。
 突然よろめき物音を立てた事にガウェンも気付いて、心配し駆け寄った。

「大丈夫かルーク。何かあったか?」
「いや、ちょっとふらつただけだ。大丈夫だ」
「それならいいが。一応医務室に行った方が」
「大丈夫」

 心配するガウェンをよそにルークはそのまま立ち去って行く。

「(何だ今の頭痛は? 一瞬だったが、今までない物凄い衝撃だった。これはもしかして、何かされているのか?)」

 そんな事を思いながら食器を返し、大食堂から出た所でトウマとバッタリ出会う。
 トウマはノルマ、ベックスと共に居たがルークと目が合うと二人に「先に行っててくれ」と告げルークに駆け寄る。

「ルークちょっといいか」

 そのままルークは黙ったままトウマについて行き、廊下の隅の方へと移動する。

「で、話はなんだ?」
「昨日の事だよ。あれ、どう思う?」

 トウマは周囲を気にしながら小声でルークに問いかけた。

「どうも、兄貴がいうんだ嘘じゃないだろうな」
「だとしても、何で俺らに言う?」
「さあな。そこまでは分からない」
「あーもう、訳分かんねえ。オービン先輩には会えないし、当の本人にも訊く事は出来ねえし、このままじゃ明日の試験に影響が出るわ」

 ここまでトウマが困惑している訳は、昨日の夜オービンが訊ねて来て二人に対して話した件である。
 オービンは昨夜、アリスの退学の決定と競技場の地下で一時的に隔離されている事を知る。
 更にはアリスから最終期末試験に参加したいと希望があった事も伝えていたのであった。
 最後の件についての決定は本日されるとだけ聞かされ、それ以降オービンからの連絡はないまま二人は最終期末試験の一日目を迎えていた。

「何にしろ教室に現れてない以上、アイツの希望は叶ってないと考えればいいだろ。俺はちょっと医務室に行く用事があるから、もう行くぞ」
「お、おいルーク。ちょっと待てよって、何でそんな簡単に受け入れられるんだよお前は……はぁ~俺が考え過ぎなのか?」

 トウマは軽く肩を落とし、大食堂へと入って行くのだった。
 一方でルークは医務室の方へと歩いていると、曲がり角でバッタリとレオンと遭遇するのだった。
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