とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第551話 人生サボってなんぼ

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 アリスは自分が知らない所で進められていた一件をオービンとタツミから聞き終える。

「何でそんなことしたんですか、オービン先輩」
「誰にも見られない試合なんて悲しいだろ? それに、このままアリスが悪いイメージのまま退学されては俺としても嫌だからね」
「交換学生措置とは、よく考えたものだな。それにしてもよくヒビキが引き受けたな」

 タツミはオービンの行動力と発想力に少し関心していた。
 オービンなりにこのままアリスが退学するのをただ見ていることは出来ないとし、少しでも見られ方思われ方を変えれればというお節介でとった行動であると明かした。
 そしてルークにだけはこの一件を伝えており、ルークもアリスの為になるならばとオービンに一任させていたと知る。

「退学というもの自体は変えられないが、何らかの形でアリスがこの学院でクリス君として学び成長していたという風に思って欲しかったのさ。ただ男装して紛れ込んだだけじゃないって事をね」
「オービン先輩」
「あの試合で何かが響いていればいいんだけどね」
「やっぱりここに居た」

 そう扉の方から声が聞こえ、オービンが振り返るとそこにエリスが立っていた。
 エリスは部屋に入りオービンの方へと向かって行く。

「他の寮長らが指名でのお呼びだよ」
「嫌な指名だな……ミカは?」
「オービンが来るまで話を繋いでいるわ。ほら、さっさと行くわよオービン」

 深くため息をついた後に顔を上げアリスの方に顔を向ける。

「こんなお節介な事しか出来なくて申し訳ない。ルークとの件では本当に君に助けられたよ、改めて感謝する。俺は俺に出来ることをもう少しだけあがいてみるよ、それじゃまたねアリス」

 そう告げてオービンは背を向けて部屋から出て行く。
 エリスもその後を付いて行くが、途中で足を止めアリスの方を見る。

「全てを出し切ったわねアリス、いい試合だったと私は思うわ。でも無茶はダメね。しっかりと魔力管理に力の制御等も出来ないと一人前じゃないわよ」
「はい、ありがとうございますエリス先輩」

 優しく笑いかけてエリスは立ち去って行った。
 二人がいなくなるとタツミは診断書のファイルを閉じ、椅子の背もたれに寄りかかる。

「何だかんだお前は周りの人に恵まれているな。自覚あるか?」
「まぁ一応は。オービン先輩にエリス先輩、それにルークやトウマ、レオンたちにジュリル、モランと数え出したらきりがないほど恵まれていると思ってます」
「今の環境や周りに恵まれているのは偶然じゃないぞ。お前のこれまでの全ての結果だ。どれだけ環境が良くてもお前と同じ様になれない奴もいるし、その逆もある。自分にも要因があるということさ」
「急にどうしたんですタツミ先生?」

 そこでタツミは立ち上がり白衣のポケットに手を突っ込む。

「教員として人生の教訓を説いてるんだよ。ここでの生活で得た物はあったか?」

 タツミの問いかけにアリスは「はい」と即答する。

「沢山あります。ここに来れて、皆と出会えて本当に良かったと思ってます」
「後悔は?」
「後悔は……ないと言えば嘘になりますが、限られた中でやりきりました」
「誰かからの問いかけに答えは出せたか?」
「……はい、答えは出しました。私なりの答えですし、相手にまだ伝えきれてないですが。相手を前にすると答えを伝えるのが怖くなって、逃げたくなって顔を背けたくなるかもしれません」
「誰しもが思うことさ。真摯に全てに向き合う必要はないぞ、自分を大切にしろ。自分がなければ元も子もないからな。これは悪い大人からのアドバイスだ」
「悪い大人って自分で言いますか?」
「人生サボってなんぼだ。重要な時に力を発揮できればいいんだよ。ずっと肩に力入れて生きてられるかっての」

 するとタツミはポケットから棒付き飴を取り出し、フィルムを剥がし口に咥える。
 そしてもう一本取り出しアリスへと投げ渡す。

「嫌なら逃げる、ダメなら諦める。これらは決して悪じゃない。長い人生を生き抜くためのコツだ。ただし使い方、使い時を間違えれば人生は荒む。だからって、ずっと優等生に生きるのも何処かで必ずつまずくからおススメしないからな」
「言葉に説得力がありますねタツミ先生。参考にさせていただきます」
「若いうちは訊いて、見て、学んで人としての視野をおおいに広げろ。そしてそこから未来への道を絞ればいい。どこまでを若いとするかは、人それぞれだがな」
「タツミ先生はどうなんです?」
「俺は拾ってもらった身だからな。もうどうするかは決めている。今更広い世界を見る必要もないし、十分色んなものを別の視点でも見て来たからな」

 タツミはふとこれまでの経験を振り返ると、何故か最後にマリアの顔が出て来たので顔を振った。
 急に顔を振るタツミにアリスは少し驚く。

「何であいつが出るんだよ、たっく……で、俺のことはいいとしてお前は決めているのか、この先どうするのかを」

 アリスはその問いかけに黙って俯いてしまうが、すぐに顔を上げた。

「かなり悩みましたが、ある人からの言葉をきっかけに決めましたよ。不安で一杯ですけれどね」
「そりゃ良かった。決まってないなら仕事でも紹介してやろうと思ったが、必要なさそうだな」
「ちなみにそれはどんな仕事ですか?」
「やらない奴に教えねえよ。さて、俺もそろそろ戻らないといけないから安静に寝てろよ。仕事だけはこれ以上増やしてくれるなよアリス」

 そう告げてタツミは部屋から出て行くのだった。
 残されたアリスはベッドの上で、言われた通り再び横になる。
 その時、タツミから渡された棒付き飴のことを思い出す。

「飴は今食べちゃうか」

 アリスは身体を起こし飴に被されていたフィルムをとり口に咥えると、久しぶりの甘い物に笑みがこぼれるのだった。
 こうしてアリスの王都メルト魔法学院での最後の試験である最終期末試験は終わた。
 そして翌日、アリスの退学日がマイナ学院長から直々に伝えられるのであった。
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