とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第558話 さようなら、そしてよろしく

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「久しぶりね、クリス君。いや、クリス君じゃないのよね」

 思いもしない人物との遭遇でアリスは固まってしまう。
 どうしてモランがここに? え、偶然? いやいや、こんな時間に偶然とかあり得ないでしょ。
 アリスが混乱しているとモランがその疑問に答え始めた。

「そうだよね、こんな時間に私とバッタリ会えばそんな風になっちゃうよね。私もたまたまここに居た訳じゃないの。ここに居ればクリス君と会えるかもと言われてて」
「誰に?」
「それは……ヒミツ。これは言えない約束なの」

 口元に人差し指を当てる姿にアリスはそれ以上は追求しなかった。
 ここに来ると知っているのはタツミだけだったので、何かしらで聞いたのだろうなと思うのであった。

「でも本当に会えるとは思わなったな。もう会えないと思っていたから」
「……私もだよ」

 暫くの沈黙があった後、アリスがモランに謝った。

「ごめんなさいモラン。今まで貴方に嘘をついていたわ。本当にごめんなさい」

 頭を下げるアリスにモランは優しく声を掛け、頭を上げさせる。

「ううん。何となく秘密があるのは分かってたし、その上でのこれまでの行動だから」
「それでも騙してた、嘘をついていた事には変わりないよ」

 アリスが視線を落としながらそう答えると、モランはゆっくりとアリスに近付き足を止める。

「ねえ、アリスって呼んでもいい?」
「急にどうしたの?」
「いきなり呼ぶのも失礼かと思ってさ。クリス君じゃないし、さっきまで癖でクリス君呼びしちゃってたから。しっかりと貴方の本当の名前を呼びたいと思って」
「それは全然構わないよ」

 モランは小さくガッツポーズし「やった」と呟く。
 その姿にアリスは可愛いなと思うのであった。

「アリスにはアリスの事情があってここに来たんだから、私にはそれ以上謝らなくていいよ。責めてもないし、怒ってもないのだから」

 アリスはその言葉に先程まで抱いていた罪悪感が薄れていくのだった。

「でも、もしまだ罪悪感がある、騙していた事を償いたい的な事を考えているなら。今から私とお話しながら散歩してよ」
「えっ」
「っ……い、いや?」

 覗き込むような姿勢で問いかけられアリスは同性であるがドキッとしてしまう。
 アリスは咄嗟に視線を逸らしながら答える。

「嫌じゃ、ないよ。私も退学前にモランと話したいし」
「退学前?」

 そこで初めてアリスが退学になるという事を知るモラン。
 正式にはアリスの処遇はまだ発表されておらず、一部の者しか知らない情報であった。
 アリスはてっきり自身が退学になるのだと学院中に知られているのだと思っていた為、そう口にしてしまったのである。
 それからモランの知っている現在の情報をアリスは聞き、情報を共有するのであった。

「そっか。もう明日退学なんだ」
「うん。ごめん、てっきり知っているもんだと思ってて」
「謝る必要はないわよ。でも尚更ここで会えて良かった。最後に二人で話せるのだから」

 モランは笑いかけながらそう告げると歩き始める。

「じゃ早速散歩しながら、お話しましょアリス。この際だから、貴方と話したいこと聞きたいこと一杯あるの。ほら早く」
「ちょ、待ってよモラン」
「置いてっちゃうよ~」

 小躍りする様に先を歩くモランを、慌ててアリスが追いかけて行く。
 そんな二人の姿を遠くから見守る二つの人影があった。

「上手くいったようですわね」
「で、何で首謀者のお前が居るんだジュリル?」

 建物や木々に身を隠しアリスたちに気付かれない様にしていたのは、ジュリルとタツミであった。

「タツミ先生、言い方に気をつけて下さい。それだと私が犯罪者みたいじゃないですか」
「似たもんだろ。脅してこの作戦を強要して来たじゃないか」
「脅しとは失礼ですわね。取引ですわよ、あれは」

 今回の一件は、ジュリルが仕組んだものであった。
 ジュリルがアリスの退学情報を入手し、タツミに協力してもらいモランと会せる計画を立てたのだった。
 その為にアリスに接触しているタツミに連れだしてもらう必要があり、今回朝方の学院内見学を提案させたのである。
 条件に乗るかはアリス次第であり、強要はしないという条件でタツミが一枚噛んでいた。
 そもそもにジュリルから提案を最初に受けた際には断ったのだが、ジュリルはそれを見越しての準備をしておりある物でタツミの協力を得たのである。
 それは決して誰も入手できないはずのタツミの恥ずかしい学院生時代と傭兵時代のとあるシーンの写真であった。
 協力してくれるのであれば、この写真を渡すと言われ協力しなければ何をするか分かりますよね的な雰囲気を醸し出され、タツミはジュリルに屈したのである。
 それほどまでにジュリルが入手した写真を誰かに見られたくなかったのであった。
 既にその写真はタツミに渡されており、内ポケットにしまっていた。

「(ハイナンス家の情報網の凄さを、身をもって体感した。学院生時代のはいいとし、どうして傭兵時代のあのシーンが写真で残ってるんだ)」

 タツミはそっと写真を入れているポケットに手を当てる。
 移動していくアリスとモランを陰から追いかけるジュリルにタツミが小声で声を掛ける。

「覗きも大概にして、見つかる前に早く戻れよジュリル」
「タツミ先生、私が誰だが分かっていますか? 二代目月の魔女ですのよ。バレる事は万が一にもありませんわ」
「変な所で二代目月の魔女の名を使うな。俺は見回りの仕事に戻るから、次見つけたら寮まで引きずって行くからな」
「分かりましたわ。もう少し見届けたら戻るつもりですわ」

 本当に分かっているのか怪しいジュリルであったが、タツミは小さくため息をつき見回りの仕事に戻るのであった。
 一方でモランとアリスは楽し気に会話をしながら誰もいない学院内を散歩し続けるのだった。
 最初の出会い、猫探しなどから始まりクリスとして大変だった事、女性的な事はどうしていたのかのモランからの問いかけで話が進む。
 アリスもジュリルとの関係やシルマやミュルテといった人たちの自分への現状、女子側の授業内容など様々な話をするのだった。
 話が盛り上がる中でアリスは思い切って、モランから向けられていた好意について自分から切り出した。
 思わぬアリスからの話題に一瞬動きが止まるモランだったが、すぐに「その話しちゃう?」と切り返す。

「ごめん。でも、最後ならこれは一度直接話しておきたいと思って……嫌な気分になるなら絶対にとは言わないよ」
「ううん、大丈夫。私もどうしようか迷ってたところ。このままうやむやの感じにするか、はっきりと決着をつけるべきかって。でも、自分じゃその勇気がでなくて、アリスが言ってくれたらいいなって何処かで期待しちゃってた。ごめん、嫌なこと押し付けて」

 アリスは自分自身も同じことをトウマにさせてしまった為、モランの気持ちがアリスは凄く分かるのだった。
 その経験から逃げず、押し付けず自分から切り出そうと決めていたのだった。
 モランはその場で立ち止まり一度深呼吸をした。

「アリス、私は貴方の事……いえ、正確にはクリス君の事が好きでした。これまで色々と大胆な事もしちゃったから分かってたよ、ね?」
「うん。でもクリスはいない、だから一度気持ちには答えられないと告げた。真実を明かさず一方的にモランの事を思っていたけど、結果的にはモランの気持ちを拒絶する様な形で」
「あの時は私も勢いというな流れで口にしちゃって、普通じゃなかった。でもそれがきっかけで私も吹っ切れられた」
「冬休みの約束、守れなかった」
「ちょっとイメージとは違うかもだけど、こうして色々と話してくれているから全く守れなかった訳じゃないよ」
「やっぱりモランは優しいね」
「私、心が広いのが長所なのよ。ちなみに短所は人見知り。知ってた?」
「うん、クリスの頃からそうじゃないかなって思ってたよ」

 アリスの微笑みにモランは以前までのクリス表情がが被り、少し頬を赤らめ顔を逸らす。
 急に顔を逸らしたモランにアリスは首を軽く傾げる。
 その後再び歩き始める話題を変えながら話を続けるのだった。
 そしてあっという間に時間は過ぎて行き朝日は昇り、タツミとの約束の時間が迫り始める。

「そろそろ戻らないと」
「六時だったね。もう時間が迫っているのね、早いな」
「モランとここで会った時は驚いたけど、こうして退学前にもう一度話せて本当に良かった」
「私もアリスと話せてよかった。こう胸の所でモヤッとしてたのが、晴れたわ」

 すると急にモランがそわそわし始める。

「あの、さ。別れる前に一つ我儘言っていい?」
「うん」
「そのギュッと、していいかな」

 モランは恥ずかしさからさ俯いてそう答えると、アリスは黙って一歩モランに近付くと優しく抱きしめた。
 それに対しモランもアリスのことを優しく抱きしめる。

「今までありがとうモラン」
「私の方こそだよ。最後の我儘まで聞いてくれてありがとう、アリス」

 暫くして互いに離れると照れくささから、同時にクスッと笑うのだった。

「それじゃ」
「うん。それじゃね、アリス」

 モランと別れの言葉を交わすと、アリスは競技場へ向かって歩いて行く。
 途中で持って来た時計を見て約束の時間が迫っていた事に気付き、小走りで立ち去って行くのだった。
 一方でモランは、一度背を向け自身も寮へと戻って行くが直ぐに足を止める。
 そして、その場で振り返り小走りで立ち去って行くアリスを見つめた。

「さようなら、私の愛しかった人。そしてよろしく、私の新しい友人」

 そうモランは微笑みながら、朝日に照らされながら立ち去って行くアリスの後ろ姿を目にしながら呟くのであった。
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