とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
560 / 564

第559話 退学日の朝

しおりを挟む
 アリスは、タツミとの約束通り六時ギリギリに競技場に辿り着くとそのまま駆け込む様に自室へと戻りベッドに座り込む。
 暫くしてベッドに横たわると、睡魔が襲って来る。
 それに対しアリスは逆らうことなくゆっくりと瞳を閉じるのだった。
 次に目を覚ましバッと起き上がり付けっぱなしにしていた腕時計を見ると、時刻は八時半過ぎを指していた。

「もっと時間が経っちゃってかと思ったけど、そうでもなかったか」

 ベッドから降り、アリスはシャワーを浴びに行く準備をし扉に向かうと、足元に紙切れが挟まっているのに気付く。
 紙切れを手にするとそこにはタツミから朝食についての書置きであった。
 そこには「九時までに起きたら部屋に朝食を取りに来い」と書かれていた。
 アリスは一度自身のにおいを気にしつつ、朝食は食べておきたいと思い先にタツミの部屋に向かうのであった。
 部屋に辿り着き、ノックすると眠そうなタツミが出て来る。
 書置きの件を伝えると、朝食のトレイを渡される。
 さすがにそこでシャワーを浴びに行くから後で取りに来るとは言いづらく、アリスはトレイを受けより一度部屋に戻りトレイを置きシャワー室に向かった。
 シャワー後部屋に戻り、アリスは温まった身体で少し冷えてしまった朝食を食べる。
 食後トレーはいつも通りタツミが回収に来るまで別の場所に置き、退学前日となった今日をどう過ごそうかと考え始める。
 特に特別な一日にしたいという気持ちもなく、ふとまだ読みかけの積まれた本に目がいき手を伸ばしていた。
 そのままアリスはこれまで通り読書に自然と没入していくのだった。
 そしてその時手にしていた本は『世界旅日記』というタイトルで、著者部分は一度かすれて消えていたが上からマジックでなぞるように『リリエル・ロードリヒ』と書かれていたのだった。
 時間も忘れて読書を続けていると、突然肩を叩かれアリスは驚き勢いよく振り返る。
 そこにはタツミが昼食のトレイを持って立っていた。

「楽しんでいる所悪いが、昼食だ」
「あ、ありがとうございますタツミ先生。気付かなくてすいません」
「いや謝るのはこっちだ。夜勤明けで昼食を持って来るのが遅れたからな」

 そういわれアリスはそこで久しぶりに机の上に置いた腕時計を見る。
 時計は既に十三時を過ぎた時刻を指していた。
 タツミから昼食のトレイを受け取り、朝食のトレイを回収したタツミは一時間後に回収に来ると告げ部屋を後にした。
 アリスは読みかけの本にしおりを挟んだ所で、身体も昼食を思い出しかの様にお腹が鳴る。
 その後ゆっくりと昼食を食べて、タツミが回収に来た所で食後の運動をしたいと相談し一時間程室内訓練場で身体を動かすのであった。
 シャワーで汗を流し、部屋に戻って来ると改めて明日の退学日に向け準備し忘れがないか確認し始める。
 荷物も纏め、部屋も最低限の物しか残しておらずすぐに片づけられる状態を保っていた。

「うん。チェック漏れもないし、大丈夫かな」

 ふと時刻に視線を向けると十八時を少し過ぎていた。

「たしか昼食が遅かったから、少し遅めに夕食を持って来るて言ってたから十九時前くらいかな?」

 そんなことを口にしながら椅子に座るアリス。

「にしても、もう明日退学か。早かった様な気がするな。いや、本当ならもっと前にバレて退学になってたかもしれないから、遅い方かな」

 苦笑いしながら机に置いてあるカレンダーを見つめ、手にとる。
 自分がこの学院に来た四月まで戻り、一枚づつめっくていき元の月に戻す。

「これでお別れか……誰かお見送りとか来てくれるかな。なんて、あり得ないか」

 その時トウマの言葉を思い出し、くすりと笑う。

「いや、期待し過ぎないでおこう」

 小さくそう呟くと再び読みかけの本に手を伸ばし、しおりを挟んだページを開き読書を再開したのだった。
 時刻が十九時になるとタツミが夕食を持ってやって来た。
 その時に明日の事とまとめた荷物についての話をし始めた
 退学日である明日は朝の七時に迎えに来て、そのまま正門へと向かう流れとなり学院から少し離れた場所で迎えの馬車が待機していると聞かされる。
 荷物については明日持って行ける最低限の物以外は、今日の夜に廊下に出して起きタツミが正門近くの保管場所まで運ぶ流れで、明日迎えの者が先にその荷物を受け取りに来る手筈となっていた。
 タツミは連絡事項を告げ終わり、特にアリス側から質問もなかった為部屋を後にする。
 アリスは受けった夕食を食べ始め、食べ終わると先に廊下にまとめた荷物を出し始める。
 一時間後にはタツミがいつものようにトレイを回収に来て、その際に荷物の確認をアリスと行う。

「悪いな、先に出してもらって」
「いえ。後部屋に残しているはバックで持って行ける量なので」
「分かった。大図書館から持って来てまだ返してない本はそのままでいい。忘れものだけないようにしておいてくれ」
「分かりました」

 そしてタツミは自室へと戻るためにアリスに背を向け歩き出した時、一度足を止め振り返った。

「今読んでいる本、面白いか?」
「はい。とても」
「そうか。さすが、リリエルが書いた本なだけあるな」

 最後は呟くように言った為、アリスには聞こえていなかった。
 タツミは再び自室へ向け歩き始める。
 アリスは自室へと入り、もう少しで読み終わるリリエルが書いた本を手にとり、眠くなるまでその本を何度も読み返すのであった。
 そうして、アリスの退学日前日の夜は更けて行き日付が変わる。
 アリスは日付が変わった所で読んでいた本を閉じ、就寝するのだった。
 次に目を覚ますと時刻は目覚まし時計をセットした五分前の午前五時五十五分であった。
 いつもならこのまま二度寝してしまうアリスであるが、今日は二度寝せず身体を起こした。
 そのまま顔を洗い、服を着替える。
 着替えた服は今日で着るのが最後になる、王都メルト魔法学院の男子服であった。

「今日で最後って思うと、ほんの少しだけ名残惜しいな。今までがおかしかっただけだけどね」

 鏡の前で自身の姿を見ながら苦笑した。
 長い髪は両サイドの耳から前の毛を後ろに向かってねじり、後ろで一つにまとめる。
 そしてリボンの飾りをつけ一つ結びにした。
 タツミが来るまでは、昨日の寝る前まで読んでいた本を再び開き読み始める。
 七時になると約束通りタツミが部屋の扉をノックする。
 アリスの返事を聞き、タツミが扉を開けるとアリスは既に準備出来ており読んでいた本を机に置く。

「アリス。その本、そんなに好きならあげるぞ」
「えっ……いやいや、だってこれ大図書館のやつじゃないですか」
「そうだが、誰にも読まれてないからな。お前が昨日からずっと読んでいるのは知っているし、このまままた誰も読まれない大図書館に持って行くよりお前が持っていた方がいい気がしてな」
「そんなのタツミ先生が決めていいんですか?」
「大丈夫さ。管理している人も、その本いやその本を書いた著者の本だけはいつからあったのか分からないと言ってたからな。一つないくらい大丈夫さ。好きなんだろ、それ」
「好きですけど……いいんですか、本当に貰って」
「いいよ。ほら、早くそれも持って行くぞ」

 少しためらうアリスだったが、そう言われてしまい一度机に置いた本を手にとりバックを持って部屋を出た。
 そして部屋に一礼しタツミの後を付いて行くのだった。
 競技場を出ると外は少し肌寒かったが、雲一つない空に朝日が昇っていた。
 タツミと共に特に会話もなく校舎の方へと向かって行く。
 朝早い事もあり、誰かに会う事なく校舎に辿り着き校舎内へと入り正門へと向かう。
 校舎内も誰もおらず静かで朝日が差し込む校舎内を歩き続け、校舎内を出て暫く歩くと正門が見えて来た。
 するとその近くの校舎付近に誰かが待っているのが目に入る。
 近付いて行くとその正体が、学院長であるマイナだと分かる。

「おはよう、アリスさん。タツミ先生。アリスさん似合っているわよその格好」
「おはようございますマイナ学院長。ありがとうございます」

 タツミはマイナが待っていたのを知っていたのか特に驚くことなく軽く頭を下げる。

「今日は最後の日だからね。お見送りに来たの」
「そうですか。すいません、朝早くから」

 アリスの言葉にマイナは首を横に振る。

「最後がタツミ先生と二人ってのもさみしいでしょ」
「いえ、誰もいないより居てくれるだけで私は嬉しいです。タツミ先生にもすごくお世話になりましたし」
「ここに来てから、生徒の中でお前が一番関わった時間が長くなったが、一番充実していた一年間だったよ」

 そう答えたタツミをマイナが肘でつつき、その姿にアリスはくすりと笑う。
 アリスは正門側へと歩き、足を止め二人の方を振り返る。

「今日まで本当にお世話になりました。色々とご迷惑をおかけしましたが、本当に楽しくこの学院で過ごせました。タツミ先生、マイナ学院長ありがとうございました。他の先生方にもお世話になりましたとお伝えください」
「分かりました。私から伝えておきます」
「お願いします」
「それともう一つ、寮の皆にこれを」

 そう言いながらアリスが内ポケットから何かを取り出そうとした時だった。

「ちょっと、待ったー!」

 遠くからそんな声が聞こえて来て、その場に居た全員が後ろを振り返る。
 すると遠くから誰かがこちらに走ってやって来る姿があった。
 その人物がアリスたちの近くに辿り着くと、息を切らし膝に手を当てながら下を向くがすぐに顔を上げた。

「間に、あった。はぁー、はぁー。約束通り、見送りに来たぞアリス」

 息を切らしながらそう口にしたのは制服を来たトウマであった。
 トウマの登場にマイナとタツミは特に何も言わず見守り続けた。

「っ……トウマ。本当に来てくれたんだ」
「その言い方、来ないと思ったな。行くって約束したろうが」

 色々とあったが今まで通りのトウマにアリスも変に考えず今まで通り接する。

「ごめん」
「一緒に過ごした仲間の最後くらい、しっかり見送るっての。これでも次期寮長だぞ」
「ここでそれ言うの」
「いいだろ別に。それに本当ならこんなに走る予定じゃなかったんだよ」
「? 寝坊したとかじゃないの」
「まあそれも一要因だが、それだけじゃないんだよ。あいつらの準備が遅いから」
「あいつらって」
「見送りは俺だけじゃないんだよ、アリス。言ったろ、今の俺は次期寮長なんだよ」

 そう言うとトウマは走って来た方へと振り返ると、遠くからトウマと同じ様に制服を来たクラスメイトたちが歩いて来ていたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

処理中です...