魔女っ娘珍道中~薔薇の魔女は好き勝手に生きていきます~

にわかオタクと犬好き

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魔女っ娘、暇をつぶす

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   カイルくんの家庭教師になって三日が経った。一度、転移魔法でクルムの町に戻って宿を引き払ってきた。
  突然のことでアンナちゃんに泣かれてしまったけど、なんとか宥めて今に至る。
  来るときにいつも行く串焼き屋でたくさん串焼きを買ってきた。事情を話すとおじさんは残念そうにしていたけど、たくさんサービスしてくれた。フローラさんも私との別れを惜しんでくれて嬉しかった。
  薬屋のおばぁちゃんのところにも行って新しく作ったポーションを買い取ってもらった。餞別がわりに高めに買い取ってもらった。なんか申し訳ないけどおばぁちゃんがいいって言うから気にしないことにした。
  そして最後に冒険者組合に行ってレミィに挨拶する。

「ってわけでしばらく戻ってこないと思う」

「そうですか……寂しくなりますね」

「まぁ二度と会えないわけじゃないから。偶に戻ってくるつもりだし」

  転移魔法ですぐだしね。

「そうですか。その時はまたご飯でも食べましょう」

「うん。元気でねレミィ」

「はい。ロゼも」

  そんなこんなでただいまカイルくんの指導をしているわけ。あれ?なんか忘れているような……まぁいいか。
  カイルくんは筋がいいのか魔力循環がだいぶスムーズに出来るようになっている。といっても上半身だけだけど。足に魔力を持っていこうとするとどうしても上手くいかないみたい。

「上半身を無理に維持しようとしなくていいよ。失敗してもいいからまずは全身に魔力を回せるように」

「はいっ」

  カイルくんはけっこう頭で考えちゃうタイプみたいだし、完璧にしなくちゃって考えすぎて上手くいってない。
  魔力循環は頭で考えるよりも身体の感覚で覚えていくものだからね。

「腕にそんなに魔力を溜めなくていいよ。少ない魔力の方が操作しやすいからまずは少ない魔力をスムーズに動かせるように」

「はい。ロゼ先生」

  カイルくんは言われた通りに魔力を抑えて少ない魔力で始める。うん。いい感じ。上半身に回すのはもう合格点だね。足に回すのもさっきより上手くいってる。
  そして魔力を初めて全身に回すことが出来た。カイルくんは嬉しそうにこちらを向く。うん。よくできたね。
  でもまだまだこれからだよ。

「よくできたね。じゃあそのままの状態を1分間維持してね」

「えっ!?あ、はいっ!」

  魔力循環は維持してなんぼだからね。最初は1分、次は3分って徐々に慣らしていく。まぁ最初は難しいだろうけどね。
  案の定、1分経つ前にカイルくんの魔力循環は消える。あからさまにがっかりした顔をするカイルくん。まぁでも最初にしてはよく持った方だと思うよ。

「これもやってるうちに慣れてくるから。継続することが大事だよ。毎日、時間のあるときにやってね」

「はい……」

  うーん。あんまり慰めにならなかったか。私はカイルくんの頭を撫でる。
  上目遣いでこちらを見てくるカイルくん……かわいい。なんか小動物みたい。

「じゃあ、カイルくんが魔力循環を全身に回せたご褒美に簡単な魔法から教えてあげるよ」

「本当ですかっ!?」

「うん。一応、魔力循環は出来てるし簡単な魔法なら大丈夫」

  私がそう言うと目に見えて機嫌が直るカイルくん。こういうところは年相応だなぁ。

「まず、カイルくんにわかりやすいように見本を見せるからね」

「よろしくお願いします。ロゼ先生」

  ペコリと頭を下げるカイルくんに頷いて、訓練場に置いてある的に右手を向ける。
  普段は目標に手を向けるなんてことはしないけどカイルくんがわかりやすいようにしないとダメだからね。
  とりあえず、カイルくんが一番適切の高い土属性からにする。

「アースボール。」

  私が言うと同時に固められた土が球状になって的に飛んでいく。
  一直線に飛んでいった土の球は的の中心に着弾。木で出来た的を貫いて訓練場の壁に当たって砕け、土に戻る。

「とりあえず、こんな感じかな。じゃあ、次はカイルくんの番だよ」

「えっ!?でも、僕は……」

もしかして魔法がちゃんと的まで飛んでいかないのを気にしてるのかな。

「大丈夫。魔力循環が出来るようになったからちゃんと的まで飛ぶよ」

「えっ!?」

  自分の考えていることを当てられたからかそれともちゃんと的まで飛ぶと言われたことに対してかはわからないけど驚いてこちらを見るカイルくん。

「大丈夫。私を信じて」

  安心させるように言うと、カイルくんは頷いて私が使ったのとは別の的の前に立つ。
  右手を的に向け、魔力を腕に溜める。魔法の発動に十分な魔力量になる。

「アースボール!」

  詠唱と同時に土の球が的に飛んで行き、着弾。私のように的を貫通することはなく、木の板である的は半分に折れる。
  うん。制御も上出来。あとは練習次第で威力も上がるはず。

「ロゼ先生っ!」

「えっ!?」

「出来ました!僕、魔法をちゃんと的まで飛ばせました!」

「よかったね。カイルくんがちゃんと魔力循環を練習して魔力の制御が上手くなったからだよ。あとは練習して威力を上げたりすればいいだけだから」

「はいっ!頑張ります!」

  うんうん。やる気になったのはいいことだよ。

「じゃあ、次ね」

  今度は右手を足下から少し離れた位置に向ける。

「アースコントロール」

  発動と同時に訓練場の土が盛り上がり、私の顔の辺りで止まる。

「ロゼ先生、この魔法は……」

「アースコントロールは地面を操作する魔法。今みたいに土を盛り上げたり出来るの。最初はこうやって土で山を作るのから始めるといいよ。で、慣れてくると……」

  私は盛り上がった土を操作して四角い壁作る。

「こうやって、壁を作って身を守る事も出来るし、敵の前で作れば視界を塞ぐ事も出来る。あと、もっと制御すれば……」

  再び土を操作して壁が形を変える。しばらくすると私と同じくらいの身長の人形が出来上がる。
  カイルくんは驚いて目をパチパチしている。

「こういうことも出来るようになるよ。そして……」

  私が魔力を流すと土の人形が動き出す。

「うわっ!?」

  驚くカイルくん。まぁいきなり人形が動き出したらびっくりするよね。人形は的まで歩いていく。的の前まで来ると右手の拳を的に突き出す。
  的は先程のカイルくんの魔法が当たった時と同じように半分に折れる。

「ああいう風なことも出来るようになるよ。どう?土属性も捨てたもんじゃないでしょ?」

「はいっ!すごいです。あんなことまで出来るなんて!」

「まぁ、あんな人形を作ったりするのは練習しないとダメだけどね。最初は土で小さい山を作ることから始めよう」

「はいっ!頑張ります!」

  その後、執事さんが迎えに来るまでアースボールとアースコントロールの練習をした。詠唱なんてすごい久しぶりにしたなぁ。人に教えるのは自分の復習みたいになっていいかも。
  今日使ったのはほとんどもう使ってない魔法だったし。そういう意味では家庭教師も悪くないかな。
  カイルくんは他にも勉強があるらしく、私が魔法を教えるのは二時間ほど。まぁ、魔力循環は空いた時間にするように言ってあるし、焦って教えるものでもないからいいかな。
  授業を終え、私は街へ出る。特に目的があるわけではないけど、ぶらぶらして時間を潰す。クルムの町で買ってきた串焼きを出して食べながら歩く。
  とはいえ、暇だ。こうなったら外に出て魔物でも狩ってくるかなぁ。
  ん?何か向こうが騒がしい。暇つぶしになるかもと思い、人集りが出来ている方へ向かってみることにした。

「さぁさぁ!ぜひ見ていってくんな!俺の隣にいるこのドモルに腕相撲で勝てた人には賞金30000シエルとここにある商品を1つタダでやるぜ!参加料は1000シエル。誰か挑戦する奴はいねぇか!」

  小柄な男と大柄な男が大声でそう言っていた。大柄な男を見ると強そうに見えるんだろう。腕なんか隣にいる小柄な男の足よりも太い。身長も2メートル近くあるし、普通の人には威圧感があるんだろう。

「俺がやるぜ!」

  人集りを割ってやってきたのは髭面のクマみたいな男。自信たっぷりの表情で用意されたテーブルに小銀貨を置き、腕を乗せる。

「よし、じゃああんたが最初の挑戦者だ!ドモル!準備しろ!」

「う、うん。アニキ」

  大柄な男、ドモルがテーブルに腕を乗せ、クマ男と腕を組む。

「よし、いくぞ!よーい……ドン!」

  小柄な男の掛け声と同時にクマ男が腕に力を込める。ドモルも力を込めて負けないようにする。徐々にドモルが押されていく。テーブルすれすれで止まる。
  クマ男は勝負を決めようと更に力を込めるがビクともしない。
  そしてクマ男の体力がなくなってきたところでドモルが一気に逆転。クマ男の腕がテーブルについた。

「勝負あり!勝者ドモル!」

「くっそぉぉぉ!」

  クマ男はすごい悔しそうだ。最初は追い詰められて最後に逆転する。こういう商売の常套手段だよね。もしかしたら勝てるかもという希望を持たせるのがキモだ。
  その後も何人か挑戦するが、最後にはドモルが勝つ。そろそろ挑戦者がいなくなってきた。小柄な男もそれがわかったようだ。

「挑戦者もいないみたいだしそろそろ……」

「じゃあ私がやる」

  私は店じまいしようとする男を遮り、手を挙げる。周りの人が驚いている。小柄な男も同様だった。

「お嬢ちゃん、本気か?」

「もちろん。はい1000シエル」

  小銀貨を差し出すと、少し迷ったが、受け取った。

「わかった。じゃあ、最後の挑戦者はお嬢ちゃんだ。ドモル!準備しろ!」

「う、うん。アニキ」

  私はドモルの正面にいき、腕を組む。

「よし、いくぞ!よーい……ドン!」

  男の掛け声で勝負が始まる。しかし、ドモルは仕掛けてこない。

「どうしたの?」

「お、おれ、よわいものいじめ、きらい」

  なるほど、私に気を使ってるわけか。まったく……せっかく暇つぶしに来てるんだからしらけさせないでよ。

「じゃあ私からいくよ」

  一言そう言って力を込める。クマ男と同じように徐々に押していく。
  ドモルは驚いている。まさか私に押されるとは思ってなかったんだろう。
  ドモルが慌てて押し返そうとしているが、私は押し続ける。

「ぬ、ぬ、ぬぅ……」

  脂汗を滲ませながら必死に押し返してくるドモル。私はわざと押される。
それでドモルは安心したのか勝負をつけようと一気に押してくる。
  私はテーブルすれすれのところで止める。

「ぬぅ……!」

  ドモルは先程のクマ男のように体重をかけて押してくるが私の腕は動かない。
そろそろいいかな。腕に力を込め、一気に押し返す。
  勢いをつけてドモルの腕をテーブルに叩きつけた。バキッと音がしてテーブルが半分に砕ける。
  ドモルは椅子から転げ落ちた。静寂に包まれる周囲。何が起きたのかわからないんだろう。私みたいな女の子がドモルみたいな大男を腕相撲で倒したのだから。

「え……」

「私の勝ちでいいんだよね?」

「あ、えっと……勝者……挑戦者」

  半ば呆然としながら私の勝ちを宣言する男。
  それを聞いて周囲の人間が再起動し、歓声が上がる。

「すげぇぇぇ!」

「あの嬢ちゃん何者だ!?」

「あんなデカイ男に勝っちまった!」

  私は未だ呆然としている小柄な男に向き直り、手を出す。

「賞金、ちょうだい」

「え!?……あぁ……」

  男は袋を差し出す。私は受け取って中を確認する。ちゃんと30000シエル入っていた。なんだ、持ってなかったら色々考えていたのに……まぁいいか。
  次に私は小柄な男の広げている商品を見る。
……うーん。あんまりいい物ないなぁ。
……ん?これは……やっぱり!アンティークだ!!
  何でこんなものがあるのかわからないけど気にしない。

「じゃあ、賞品としてこれ貰っていくから」

  手に取ったアンティークを見せながら小柄な男に背を向けた。まだ上の空だったけどし~らない。
  周囲の人から祝福されながら私は屋敷に戻った。



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