公爵は妻となった私よりも浮気相手を本気で愛し、新たな妻にしたいと思っていますが、絶対に許しません!

マミナ

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贖宥状とシモニーの取引②

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蝋燭が点々とした明かりを照らしながらも不気味さの漂う通路をウェルヘムとスカーレットは少し怯えながらもコツコツと足音を鳴らしながらゆっくりと進む。

途中途中で階段を降りながら歩き続ける。

「クルルギ、本当に着くんだろうな。」

「はい、大丈夫ですよ。もうすぐで目的地につきますから。」

焦らないでください、と笑顔で答えるクルルギに二人は疲れた顔つきになっていた。

それもその筈で、特にスカーレットはどういうわけか少し長めのハイヒールを履いている為、足腰に悲鳴を挙げている状態である。

「もうキツイわ…足が動かない……いつになったらつくのよ…。」

「大丈夫かい、スカーレット。すまない…こんなきつい思いをさせて…だか心配はするな、クルルギがもうすぐ目的地に着くと言っている、後少しの辛抱だ。」

ウェルヘムはスカーレットの痛がる足元をさすって肩を寄せて支える。

その光景を間近で見ることになったクルルギ。

『私の前で甘い雰囲気を出すのは結構な事だが、彼女はただの愛人でしかも問題の多い女。正直に言って可笑しいとしか言いようがない。その態度を妻であるリリアン様に向けることは無いのだろうか?まあそんなことは些細なことなのでどうでもいい、むしろ都合がいい。指摘する必要もないな、大事な取引相手になる貴族様だからね。』

あくまでも平静を装って見ないふりをした。

カツカツとハイヒールを鳴らす音が止まる。

スカーレットが目の前の厳重に鍵の掛かっている金属製の扉をクルルギは鍵を全部開けて、扉を開く。

「さあ、つきましたよ、ウェルヘム様スカーレット様。ここがこのアトランテ教会の贖宥状の発行・販売の取引を行う秘密の部屋です。」

クルルギが案内した部屋は少し薄暗いが部屋の至るところに金属製の豪華な装飾と木製の長い椅子と豪華なテーブルが見えた。

そのテーブルにはいくつかの書類が置いている。

恐らくは二人に渡す贖宥状なのだろう。

それもその筈で、この部屋には厳重に鍵の掛かった金庫と本棚がいくつかあったからだ。

それに、二人が座ったテーブルとは違う広くて長く、質素で大きなテーブルがいくつもある。

ここで、司教やシスター等が十人以上、この部屋で贖宥状の大量発行をしていたのは容易に想像出来る。

ウェルヘムはそんな風に考えながらもクルルギ大司教を見ていた。

クルルギはウェルヘムの考えていることに気付く。

「お気づきになりましたか、ウェルヘム様。流石です。」

あからさまに笑顔を作って褒める彼にウェルヘムは当然だろうと得意気な表情になる。

スカーレットもウェルヘムにうっとりとした表情を見せる。

そんな二人にクルルギはテーブルに置いていた書類を丁寧に渡した。

贖宥状である。

「ウェルヘム様、あなたはリリアン様という妻がいるにも関わらず他の女性に不貞を働いていたという噂を他の貴族からされていると聞きました、なんとも残念なことですね。」

わざとらしく悲しそうな顔を見せるクルルギに気付かないウェルヘムは不満げになる。

スカーレットも同様だ。

「それは他の貴族達の負け惜しみのようなものだ。何なら他の貴族とて何人かは妻以外に何人もの側室を抱えているなんて珍しくもないし、この国の法律自体、必ずしも妻以外の配偶者の存在を認めているではないか。」

「そうですわ、ウェルヘム様の言う通りよ。噂をしている人達は私の事を淫乱だの、盗っ人だのとあまりにも酷い物言いでわざと私に聞こえるように大きな声で陰口を言い合ってる醜さで、本当に私達と同じ貴族とは思えませんわ。」

「しかし、今はあの妻にだけは知られる訳にはいかず、もし知られて訴えられてしまえば事態は面倒になってしまう…だからこうしてこんな場所にまで平民のふりをして誰にもバレないように用心していたというのに……。」

「そうですか…それはなんて心苦しい思いをあなた方はしていたのですね……ですがご心配には及びません。その為にこの贖宥状が今ここにあるのです。」

大丈夫ですよと言っているかのような表情を見せるクルルギに少し違和感を持つウェルヘムとスカーレットだが、とりあえずこの贖宥状に日付と名前を書いた。

「本当にありがとうございますウェルヘム様。これであなたはこの贖宥状という神の御意志によって不貞の罪に問われる事なくこれからの人生は幸福に包まれることでしょう。そして、あなた方に対してあらぬ噂を立てる他の貴族の方々には必ず不幸が起きるのは確実ですよ。」

確信を持って言っているのか分からないクルルギだが、ウェルヘムとスカーレットは疑う事もせず信用する事にしたのだ。

なんといっても彼は、大司教の地位につき、教皇や王族との信頼が厚く、貴族の中には彼の信者が多くいたからだ。

実際に社交界では、彼の名はよく耳にすることが多く、最近でも、治安が悪くなり始めているにも関わらず、頻繁にこの教会に通っている貴族は多くいる。

しかも、この教会は他の教会よりも莫大な収益を上げているのは周知の事実。

だからこそ、ウェルヘムとスカーレットは怪しげな表情を見せる彼を疑う事をしなかった。

むしろ、この男を味方につければ、私達に莫大なメリットがあるし、もし家族や妻に愛しのスカーレットの存在がバレてもこの男の力を借りることが出来れば、罪に問われる事もなく、彼女との悠々自適な生活ができるのでは……??

まあ、公爵としての地位と貴族としての特権を失うのは、些か痛い気がするが、あんな煩わしい仕事をしたくはないのでそれ程気にはしていない。

何処か安全かつ遠くの場所で快適に暮らすことが出来るのなら別に気にしなくていい。

領主としての仕事や面倒事等、嫌いな家族とどうでもいい妻に押し付けてしまえばいい。

そんな事を考えながら、贖宥状を見るウェルヘムとスカーレットに彼は取引を持ち掛けた。



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