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あなたを傷つけた
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遠くで、雨が降っている。ぼんやりとした心地で士匄は思った。体がだるく、腕が痛く、下腹部が痺れ、頭に土が詰まっているように重い。
さあさあ、ぽとぽと。耳に雨があたり、跳ねて流れた。雨のわりにはぬるい。
ゆっくりと目を見開いた。そこに雨雲は無く、見慣れた天井である。視線を巡らせると、趙武がハラハラと涙を流しながら見下ろしてきていた。士匄は力ないしぐさで腕を伸ばし、目元を拭う。趙武の目に怯えが浮かんだ。
「……何を泣いている」
夢心地で問うと、趙武が唇を噛む。きゅっと美しいまぶたをつむり、また開いた。涙が散って、士匄の頬に小さく飛ぶ。
「ごめんなさい、范叔ごめんなさい」
雨季、霧雨の中に佇む山百合のような風情で趙武が泣いている。士匄は頭がはっきりとせず、いまいちわからないまま、
「泣くな」
と小さく言って、重い体を揺らした。身じろぎも辛い、と思った矢先に、肛門からドロリと粘液が溢れ落ちた。その瞬間、士匄の脳は急激に覚醒し、手を床に強く打ち付けると、反動で起き上がる。泣きながら驚いた顔をする趙武の細い首を掴み、そのまま押し倒して床に叩きつける。たおやかな体がきしむような音が、した。
「お前……っ」
うつむくと、己の長い髪がさらりと流れるように垂れてくる。趙武は泣きながら力なく両手を投げ出し、抵抗もせず見上げてきていた。男とは思えぬ白く滑らかな肌が、視界にうつる。淡い紅色の乳頭に薄い胸、細い腰は獣欲をかきたてられる男もいるであろう。しかし、陰毛の下には萎んだ男性器がしっかりとあり、それは士匄を鳴かせるものでもある。
この男も裸体をさらけだし、髪を解き、無様な姿を見せているくせに、羞恥の顔をしない。士匄は今更ながら嫌悪を感じた。
「お前、なんのつもりだ、なんの。わたしを辱め、奴隷にでもしたかったか」
あの、恋情にあふれた日々はなんだったのか。幸せだっただけに、士匄の怒りは膨れ上がっていく。趙武が自責と哀しさを込めた目を向けた。
「……八つ当たり、です。あなたは本当は、悪くなくて……とても傷ついてたのに、私もあなたを傷つけた」
首を締めていいですよ。
そう、最後に言って、趙武がうっすらと微笑んだ。死人のような笑みであった。
「誰が、傷ついていた、だ」
士匄は吐き捨てた。勝手に心情を決めつけられるのは不快でしかない。
「わたしが! 傷つくなどあるか!」
怒鳴りつけると、士匄は黙り込んだ。趙武の言う八つ当たり行為で、頭はまだ起きていないらしく、うまく考えがまとまらない。怒りはあり、理不尽という思いが生まれ、決めつけられたという不快さが渦巻く。そして、趙武こそが傷ついた顔をしていた。自傷でも自己憐憫でも媚びでもなく、傷ついたことを隠そうと必死になって、失敗している顔であった。
「……お前のほうが傷ついた顔をして、しかも泣いている。そうだ、傷ついているのはわたしではなくお前だろうが」
導き出された指摘をし、士匄は趙武の首から手を離した。腕を取り起こさせる。趙武は抵抗しなかった。
趙武は泣きやむことなく、静かに涙を流し続けていた。目元が赤く、よほど泣き続けているらしい。士匄は指で拭うのをやめた。あまり触ると、腫れが酷くなると思ったのだ。明日には、この美しい面相もまぶたがパンパンに腫れて台無しになるに違いない。
「お前が傷ついているのは、まあ理由は知らんがわかった。八つ当りに私へキチガイじみた恥辱を与えたことも、まあわかった」
士匄の声は静かで冷たかったが、抑えられた怒りがあった。猛獣が餌を獲る直前、身構え緊張した一瞬にも似ていた。趙武が苦く重い顔を向け、
「そこだけおわかりで」
と小さく言った。その言葉に短気な士匄はイライラしながら、趙武の肩をつかんだ。
「バカにしてるのか! 何が不満だというのだ」
「……なにもかもです」
士匄の怒号に、趙武がぽつぽつと無表情で言う。涙は徐々に止まろうとしていた。
「なぜ。なぜ、長い間、お休みになられていたのですか。お病気でもお家の事情でもない、ただ出たくないと伺いました。なぜ、私の書にお返事されなかったのです? たくさんお読みいただいたの、嬉しかった。慰めになったのも嬉しいです。でも、半月間のわたしの気持ちなど、あなたはてんでお考えになってない」
趙武は一拍おき、ため息をつく。
「ええ、そんなあなたと知ってますし、好きです。私は意を決してこちらに伺いました。私は趙氏の当主です。いまだ後見人ありきの半人前といえども趙氏そのものですから、嗣子のあなたへ伺うというわけにはいかない。後見人を通し、士氏の当主に伏して願い、それでもあなたにご負担かけたくなく儀礼無しとお願いしてまかりこしました。その苦労は私の勝手ですが、あなたは私をひと目見た瞬間、怯えて逃げた。そして、何故来た、と」
「わたしにも先触れあらば、そのようなことは、言わん」
士匄の抗弁に、趙武が首を振った。
「あなたはきっと、私を拒んだ。だって、あなたは傷ついてたんですもの。とても嫌なことがあって、その傷そのままに、ほったらかして、のほほんとされて。少し場がくだけたら、傷に気づかずポロリと酷いことをされたと、何気なく明るくおっしゃる」
趙武がまた、ため息をついた。士匄は傷などない、と小さく呻くだけで終わる。
「私はあなたがとても好きで、大切な宝物で、幸せになってほしいのに、何も力になれない、あなたも私を頼らない。傷ついたことさえねじ伏せるあなたの強さも矜持も、私は好ましい。でも、腹立たしい! あなたは私がなぜ憤ったかも、八つ当たりしたのかも、おわかりになろうとしない。だって、あなたはお強い」
体も、立場も、心も。そう、悔しそうな顔を浮かべながら、趙武が手を伸ばし士匄の胸板を一度、色のない仕草でなでた。不思議なことに、趙武の手のひらを士匄は素直に受け入れた。趙武がみっともなく裸体を晒していることも、己の衣を剥ぎ取られた恥辱も遠く感じた。
「傷ついてるあなたをさらに傷つけたのは私です。あなたを慮ることも労ることもせず、腹だたしく怒りが抑えられず、感情と欲情のままに傷つけたのは私です。全部八つ当たり。ごめんなさい。……ごめんなさい」
激情を抑え、震える声で静かに言い切った趙武が見上げてくる。瞳が揺れていた。あふれ出ようとする涙をこらえているようだった。
士匄は――。
士匄は、考え込んだ。この男は短気で欲にかられ感情的に見えるが、底は理の男である。趙武にあてられ逆に怒りが静まり、考え込んでしまった。
「……わたしは何もかも億劫になっていた。お前の書だけが、それを慰めたが、何もやる気なく、その日そのまま暇をつぶした」
狩りも詩吟も、妻たちとの戯れもその場限りの気晴らしである。億劫、という気持ちは晴れなかった。
「書を見ながら、なぜ本人が来ぬ、とも思っていたが。目の当たりにするとなぜか逃げたくなった」
士匄はため息をつくと、趙武の顔をなでた。優しく、愛しさのある手つきであった。趙武が心地よさ気な顔をする。彼はなにもかもさらけ出している。士匄にできぬことである。
「そうか。わたしは傷ついていたのか」
確かめるように言うと、士匄は趙武を引き寄せ、その細い腰を掴み抱き寄せた。趙武が抱き返してくる。肌と肌が直接触れて、溶け合うようであった。
「ごめんなさい、范叔。傷つけました、ごめんなさい。あなたの痛みを労れなかった」
趙武がぐすぐすと泣く。士匄はその形の良い頭を撫でた。
「お前の狼藉は許さん。お前のよこした傷もわたしのものとしよう。ただ、返事をしなかったことと、逃げたことと……まあ、拒んだ言葉はわたしの責だ。そこは、まあ、悪かった」
士匄の言葉に趙武が抱きしめる手を強めた。顔を首すじにうずめて、ごめんなさい、とまた言った。そうして意を決したように口を開く。
「私の全てを見てください。体を離して。そして、全部見て、あますことなく恥ずかしい浅ましいところ、この体を見て、あなたのものとしてほしい」
士匄は、いらん、とにべもなく返す。腕の中の趙武が身を震わせた。悲しみが伝わる。
「お前がくれた芍薬で、充分だ。あれでいい。あれがいい」
そう、歌うように言うと、士匄は趙武を巻き込みながら倒れた。共に横になった趙武がきょとんとした顔をする。その額、頬を撫でて、士匄は笑んだ。
「わたしは睦言が好きだ。お前の八つ当たりだろうがなんだろうが、睦んだあとだ。楽しもう。愛を語るでも良い、無粋なものなら具合を評するもある。お前はわたしがよがり狂っていたのを堪能したのだろう、どうだ良かったのか」
士匄の少々下品な問いに、趙武が首まで真っ赤に染まった。
結局、士匄はなぜ、趙武があそこまでトチ狂ったのかとなると、いまいちわかっていない。ただ、趙武の気持ちのようなものが伝わり、何やら己の持つ筋にストンと落ちた。趙武の本気で憂う顔を見てたら、それ以上は野暮だと、考えるのも怒るのもやめた。
「わたしはお前を傷つけたな、趙孟」
会話の合間にポツリと出された士匄の言葉に、趙武が少し困ったように微笑んでいた。
ところで、士匄は自分で身だしなみなど全くできぬが、なんと趙武はできた。一時期、大貴族とは程遠い生活をしていたかららしい。
不格好ながらも髪を整えられた士匄は
「それは隠しておけ。わたしも誰にも言わん。卿になるであろう趙氏の長が、小者や奴隷の技を持っているなど、外聞が悪い」
と、極めて真剣に、重要なことだと言わんばかりに、本気の顔で言った。趙武は声を立てて笑い転げた。
さあさあ、ぽとぽと。耳に雨があたり、跳ねて流れた。雨のわりにはぬるい。
ゆっくりと目を見開いた。そこに雨雲は無く、見慣れた天井である。視線を巡らせると、趙武がハラハラと涙を流しながら見下ろしてきていた。士匄は力ないしぐさで腕を伸ばし、目元を拭う。趙武の目に怯えが浮かんだ。
「……何を泣いている」
夢心地で問うと、趙武が唇を噛む。きゅっと美しいまぶたをつむり、また開いた。涙が散って、士匄の頬に小さく飛ぶ。
「ごめんなさい、范叔ごめんなさい」
雨季、霧雨の中に佇む山百合のような風情で趙武が泣いている。士匄は頭がはっきりとせず、いまいちわからないまま、
「泣くな」
と小さく言って、重い体を揺らした。身じろぎも辛い、と思った矢先に、肛門からドロリと粘液が溢れ落ちた。その瞬間、士匄の脳は急激に覚醒し、手を床に強く打ち付けると、反動で起き上がる。泣きながら驚いた顔をする趙武の細い首を掴み、そのまま押し倒して床に叩きつける。たおやかな体がきしむような音が、した。
「お前……っ」
うつむくと、己の長い髪がさらりと流れるように垂れてくる。趙武は泣きながら力なく両手を投げ出し、抵抗もせず見上げてきていた。男とは思えぬ白く滑らかな肌が、視界にうつる。淡い紅色の乳頭に薄い胸、細い腰は獣欲をかきたてられる男もいるであろう。しかし、陰毛の下には萎んだ男性器がしっかりとあり、それは士匄を鳴かせるものでもある。
この男も裸体をさらけだし、髪を解き、無様な姿を見せているくせに、羞恥の顔をしない。士匄は今更ながら嫌悪を感じた。
「お前、なんのつもりだ、なんの。わたしを辱め、奴隷にでもしたかったか」
あの、恋情にあふれた日々はなんだったのか。幸せだっただけに、士匄の怒りは膨れ上がっていく。趙武が自責と哀しさを込めた目を向けた。
「……八つ当たり、です。あなたは本当は、悪くなくて……とても傷ついてたのに、私もあなたを傷つけた」
首を締めていいですよ。
そう、最後に言って、趙武がうっすらと微笑んだ。死人のような笑みであった。
「誰が、傷ついていた、だ」
士匄は吐き捨てた。勝手に心情を決めつけられるのは不快でしかない。
「わたしが! 傷つくなどあるか!」
怒鳴りつけると、士匄は黙り込んだ。趙武の言う八つ当たり行為で、頭はまだ起きていないらしく、うまく考えがまとまらない。怒りはあり、理不尽という思いが生まれ、決めつけられたという不快さが渦巻く。そして、趙武こそが傷ついた顔をしていた。自傷でも自己憐憫でも媚びでもなく、傷ついたことを隠そうと必死になって、失敗している顔であった。
「……お前のほうが傷ついた顔をして、しかも泣いている。そうだ、傷ついているのはわたしではなくお前だろうが」
導き出された指摘をし、士匄は趙武の首から手を離した。腕を取り起こさせる。趙武は抵抗しなかった。
趙武は泣きやむことなく、静かに涙を流し続けていた。目元が赤く、よほど泣き続けているらしい。士匄は指で拭うのをやめた。あまり触ると、腫れが酷くなると思ったのだ。明日には、この美しい面相もまぶたがパンパンに腫れて台無しになるに違いない。
「お前が傷ついているのは、まあ理由は知らんがわかった。八つ当りに私へキチガイじみた恥辱を与えたことも、まあわかった」
士匄の声は静かで冷たかったが、抑えられた怒りがあった。猛獣が餌を獲る直前、身構え緊張した一瞬にも似ていた。趙武が苦く重い顔を向け、
「そこだけおわかりで」
と小さく言った。その言葉に短気な士匄はイライラしながら、趙武の肩をつかんだ。
「バカにしてるのか! 何が不満だというのだ」
「……なにもかもです」
士匄の怒号に、趙武がぽつぽつと無表情で言う。涙は徐々に止まろうとしていた。
「なぜ。なぜ、長い間、お休みになられていたのですか。お病気でもお家の事情でもない、ただ出たくないと伺いました。なぜ、私の書にお返事されなかったのです? たくさんお読みいただいたの、嬉しかった。慰めになったのも嬉しいです。でも、半月間のわたしの気持ちなど、あなたはてんでお考えになってない」
趙武は一拍おき、ため息をつく。
「ええ、そんなあなたと知ってますし、好きです。私は意を決してこちらに伺いました。私は趙氏の当主です。いまだ後見人ありきの半人前といえども趙氏そのものですから、嗣子のあなたへ伺うというわけにはいかない。後見人を通し、士氏の当主に伏して願い、それでもあなたにご負担かけたくなく儀礼無しとお願いしてまかりこしました。その苦労は私の勝手ですが、あなたは私をひと目見た瞬間、怯えて逃げた。そして、何故来た、と」
「わたしにも先触れあらば、そのようなことは、言わん」
士匄の抗弁に、趙武が首を振った。
「あなたはきっと、私を拒んだ。だって、あなたは傷ついてたんですもの。とても嫌なことがあって、その傷そのままに、ほったらかして、のほほんとされて。少し場がくだけたら、傷に気づかずポロリと酷いことをされたと、何気なく明るくおっしゃる」
趙武がまた、ため息をついた。士匄は傷などない、と小さく呻くだけで終わる。
「私はあなたがとても好きで、大切な宝物で、幸せになってほしいのに、何も力になれない、あなたも私を頼らない。傷ついたことさえねじ伏せるあなたの強さも矜持も、私は好ましい。でも、腹立たしい! あなたは私がなぜ憤ったかも、八つ当たりしたのかも、おわかりになろうとしない。だって、あなたはお強い」
体も、立場も、心も。そう、悔しそうな顔を浮かべながら、趙武が手を伸ばし士匄の胸板を一度、色のない仕草でなでた。不思議なことに、趙武の手のひらを士匄は素直に受け入れた。趙武がみっともなく裸体を晒していることも、己の衣を剥ぎ取られた恥辱も遠く感じた。
「傷ついてるあなたをさらに傷つけたのは私です。あなたを慮ることも労ることもせず、腹だたしく怒りが抑えられず、感情と欲情のままに傷つけたのは私です。全部八つ当たり。ごめんなさい。……ごめんなさい」
激情を抑え、震える声で静かに言い切った趙武が見上げてくる。瞳が揺れていた。あふれ出ようとする涙をこらえているようだった。
士匄は――。
士匄は、考え込んだ。この男は短気で欲にかられ感情的に見えるが、底は理の男である。趙武にあてられ逆に怒りが静まり、考え込んでしまった。
「……わたしは何もかも億劫になっていた。お前の書だけが、それを慰めたが、何もやる気なく、その日そのまま暇をつぶした」
狩りも詩吟も、妻たちとの戯れもその場限りの気晴らしである。億劫、という気持ちは晴れなかった。
「書を見ながら、なぜ本人が来ぬ、とも思っていたが。目の当たりにするとなぜか逃げたくなった」
士匄はため息をつくと、趙武の顔をなでた。優しく、愛しさのある手つきであった。趙武が心地よさ気な顔をする。彼はなにもかもさらけ出している。士匄にできぬことである。
「そうか。わたしは傷ついていたのか」
確かめるように言うと、士匄は趙武を引き寄せ、その細い腰を掴み抱き寄せた。趙武が抱き返してくる。肌と肌が直接触れて、溶け合うようであった。
「ごめんなさい、范叔。傷つけました、ごめんなさい。あなたの痛みを労れなかった」
趙武がぐすぐすと泣く。士匄はその形の良い頭を撫でた。
「お前の狼藉は許さん。お前のよこした傷もわたしのものとしよう。ただ、返事をしなかったことと、逃げたことと……まあ、拒んだ言葉はわたしの責だ。そこは、まあ、悪かった」
士匄の言葉に趙武が抱きしめる手を強めた。顔を首すじにうずめて、ごめんなさい、とまた言った。そうして意を決したように口を開く。
「私の全てを見てください。体を離して。そして、全部見て、あますことなく恥ずかしい浅ましいところ、この体を見て、あなたのものとしてほしい」
士匄は、いらん、とにべもなく返す。腕の中の趙武が身を震わせた。悲しみが伝わる。
「お前がくれた芍薬で、充分だ。あれでいい。あれがいい」
そう、歌うように言うと、士匄は趙武を巻き込みながら倒れた。共に横になった趙武がきょとんとした顔をする。その額、頬を撫でて、士匄は笑んだ。
「わたしは睦言が好きだ。お前の八つ当たりだろうがなんだろうが、睦んだあとだ。楽しもう。愛を語るでも良い、無粋なものなら具合を評するもある。お前はわたしがよがり狂っていたのを堪能したのだろう、どうだ良かったのか」
士匄の少々下品な問いに、趙武が首まで真っ赤に染まった。
結局、士匄はなぜ、趙武があそこまでトチ狂ったのかとなると、いまいちわかっていない。ただ、趙武の気持ちのようなものが伝わり、何やら己の持つ筋にストンと落ちた。趙武の本気で憂う顔を見てたら、それ以上は野暮だと、考えるのも怒るのもやめた。
「わたしはお前を傷つけたな、趙孟」
会話の合間にポツリと出された士匄の言葉に、趙武が少し困ったように微笑んでいた。
ところで、士匄は自分で身だしなみなど全くできぬが、なんと趙武はできた。一時期、大貴族とは程遠い生活をしていたかららしい。
不格好ながらも髪を整えられた士匄は
「それは隠しておけ。わたしも誰にも言わん。卿になるであろう趙氏の長が、小者や奴隷の技を持っているなど、外聞が悪い」
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