汚部屋へGO!〜戦いの記録

はに丸

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前座。友人の家がヤバかった

第5話 水は全ての母、源、そして力

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 みなさんは、シンクの中に皿やどんぶり、マグカップが乱雑に突っ込まれているさまを想像できるであろうか。

 もちろん、水桶などない。一人暮らしのシンクは大きくないため、水桶など邪魔である。

 目的はシンクの洗浄と食器を洗い清めることである。が、食器は泥がかたまりこびりつき、マグカップも泥と卵の殻が、中にびっしりである。

 つまり、一旦『つけ洗い』をする必要がある。が、水桶もなく、シンクの底は茶色と黒の入り混じったヘドロがある。

 このあたりになると、時折なんとも言えない異臭があり、生理的な嘔吐感でえづいて咳き込む。人が最も嘔吐感を覚えるのは、病気などを除けば臭いだろう。もらいゲロは極めて自然の発露なのだ、たぶん。

 ここで、友人がこだわり無くてよかったことが幸いした。

 友人は洗濯物入れをプラスチックで大きめのものをつかっており、それをバケツ代わりに使って良いと許可してくれたのである。

 こういうのも、心理的なものがあるので、ありがたかった。

 この洗濯物入れは臨時の水桶である。水を入れ、シンクからひとつひとつ食器を救出し、水桶に入れていく。

 できうるなら食器用塩素洗剤が欲しかった。漂白剤ブリーチさま。しかし、通常の食器用洗剤しか無いため、つけた水のなかに洗剤をいれる。

 次にシンクである。シンクの床面にびっしり水垢と油となんかの汚れの融合体なヘドロがある。何センチも積もってないのが僥倖だが、どちらにせよ敵の本陣、さすが大将、難敵すぎる。

 こんなものに食器用スポンジで、ゴシゴシ洗っても、汚れが取れる前に食器用スポンジの残骸が秒で出来上がる。

 つまり、この汚れを浮き上がらせるため水を溜め、なおかつなんらかの洗剤で時間の短縮を図らなければならない。

 が、食器用洗剤にこの任務は重い。油汚れすぐ取れるキュッとしようが、手をつなぎたくなるハーミングだろうが、無理やん。

 私は友人のおおらかさに頼った。

『洗濯用洗剤を使ってええか?』

 友人はおおらかであった。

 そんなわけでシンクに蓋して水を溜めて洗濯用洗剤を入れ、しばらく放置。この蓋は完全な密閉性はないが、しばらくは水がたまっているはずである。

 この間に、シンクの隣にある調理スペースの掃除である。ここはとにかく拭き掃除。が、ヘドロがこびりつき固まっているところが多い。

 それは今、どうしょうもない。散らばった虫の卵の殻や干からびた野菜だったかも知れないもの、とにかく細かいゴミを拭いては捨てる。

 そのうち、シンクにたまった水が減ったので、もう一度水を入れて洗濯用洗剤を投下。

 今度は床の上の掃除。棚やシンクを掃除したため、また虫の殻が床に散らばったのである。無限にあった生命体たちよ、どこへ行ったのか。

 この間、記載していないが掃除機のバラバラ死体が見つかっている。本体、延長管、ブラシ部分が全てバラバラの場所で発掘された。掃除機など、この状況では邪魔なのでゴミの隣にそっと立てかける。

 さて。シンクの泥はだいぶ柔らかくなり、水も引いている。水道からの水圧で泥が動くほどである。すげえな洗濯用洗剤。良い子の皆は真似しないように。台所用使ってください。

 ここから、スポンジでかき集め、掃除ウエットシートで包みゴミ袋に捨てる作業が始まる。

 水はすごい。固まった泥にしか見えなかったものが、湿地の泥ていどになり、すいすい取れる!

 ここまで来ると、嘔吐に咳き込むような異臭も消えており、泥が減っていく。シンクの底、皆さんご存じステンレスの銀色が姿を見せたのである。

 水の力は偉大で、人の叡智である洗濯用洗剤も偉大だった。

 エコと環境は知らん。地球は私たちに優しいこともあるが別に、気にもとめてないだろう。肌荒れが気になったら地表の生物全て滅してスッキリするかもしれないが。

 そのようなわけで、シンクの掃除がある程度進んだが――。

 最大の敵。完全に凝固した泥、カレーで言えば底にこびりついて取れない焦げ。これは、現状の状況では無理であった。

 そして、その時友人からも兵站がつきたことを知らされる。ゴミ袋が尽きたのだ。まだ、必要なのはわかっている。

 時間は17時を過ぎていた。

『ゴミ袋は買いに行こう。あと、食器用スポンジの追加、塩素洗剤、そしてクレンザーが欲しい』

 ゴミ袋やスポンジはともかく塩素洗剤やクレンザーはそうそう使うものではないことを踏まえ、それでも必要であるという私の主張を、友人も受け入れ、二人でスーパーに向かうことが決定した。

 ところで、マンションには倉庫型や蓋付きのゴミ収集置き場があることが多い。友人宅も倉庫型であったため、持てるだけ、8つのゴミ袋を持ち、捨てた。第一弾であるが倉庫内の圧迫がヤバい。

 こうして、私たちは補給のため、外に出た。夕方の初夏は清々しい。都会のど真ん中にあるベッドタウンであるが、とても空気がうまかった。
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