俺と彼女のミステリー研究会(未設立)

椎木唯

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学校の七不思議

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 缶って最後までしっかりと飲み切れないよな、と切実に嘆きながら飲み終わった缶を床に置く。ちょうど同じタイミングで夜見も小説を
書き終えたのかペンを置いた。デジタルの現代で珍しい万年筆で書いているのだ。特に会話もなかった時間で、源次郎の視線は物珍しい手元に言っていた。
 まあ、源次郎にとって万年筆が物珍しいものなだけで物書き界隈、その中でミステリー作家などは万年筆で書いているのかも知れないが。実際に目にした事がないので予想にしかすぎないが。

 そんな事を考えながら背伸びをしている夜見に話し掛ける。直後、書き終わった紙を破り捨てた。

「万年筆で書いてるのか? すげえな…え?」
「ミステリー作家は存在すらをミステリーにしていると言われるくらいだからね。形から入ったほうが作風もミステリーになるって訳だよ。まあ、結果として書き難かったから文字がミステリーになったけどね」

 そうなのか? と恐る恐る机の上に置かれた二分割になった紙を手に取る。やはり、それは最初に見た通りの達筆な文字であった。
 見せびらかしか? と、若干思った源次郎だが夜見の反応を見るに真剣に字が汚いから捨てた、とそう言っているように思える。これが悪女みたいに良い笑顔で見てきたのならヒステリーを起こしていたが未遂であった。

 続きが書かれているので目で追ってみるが…まあ、内容は別の意味でミステリーだった。話を戻す。

「…形から入るって入れてないじゃん。普通にパソコンとか、今なんてスマホで文章が書ける時代だぜ? それじゃダメなのか?」

 携帯小説、なんて言葉はガラケーの時代からでもあるのだ。ワンチャン、万年筆よりも使い手は多いのかも知れない。実際、読み専と言った源次郎であるが書いた事はあるのだ。そしてネットに投稿したこともある。まあ、結果は現状で分かるので特に示さないが。
 そんな原始人に電気を教えるが如くの気持ちになる源次郎だが、夜見の反応は予想とは違っていた。

「それは私も考えたんだけどね…実際、少し前の私ならノートパソコンを持っていたからね。書こうと思えば書けたさ。パソコンに書くって表現は正しいか分からないが…」
「それを言ったらデジタルの時代で実際に紙に書いている人こそ少ないだろうに…」
「まあ、この場に小説家はいないから真実を確かめる術はないのだけどね! 不毛な討論だね」

 それもそうだ。
 これこそ自分だけの考えで決めつけてしまう、ミステリーといえばミステリーではないだろうか。言わないな。

「結論を言ってしまえば形から入りたくて万年筆を買うためにパソコンを売ってしまったのだよ。元を取るためにこうやってセコセコと書いているのだけど…まあ、発展途上だからね! まだまだ実力は測れないよ!?」
「内容に対して言っているのであって文章力については何も言ってないけどな。でも、そう言うことなのか…」

 夜見はもう書く気がないのか万年筆の先を布で拭い、インクを落とす。そして像が踏んでも壊れないですよ、で絶対一回は選ばされる眼鏡ケースに仕舞う。眼鏡ケースではないが。
 同じ要領で眼鏡をケースに仕舞う。彼女曰く「眼鏡をかけていると文豪みたく見えるだろ? これも形から入る、だよ」らしい。伊達らしい。

「一番盛り上がった時代は意外と江戸なのらしいよ」
「…ん? えっと、ミステリーのか?」

 話題を変えた夜見に若干驚くが、意外にも面白そうな内容に源次郎の姿勢が前屈みになる。近づいた源次郎の顔面におっかなびっくり頬を赤める夜見。

「ごほん。そうなのだよ。実際、江戸時代…まあ、厳密には江戸前後なのだがその辺りの時代は手に職をつけ過ぎる時代だったらしい。隣を覗けば草履を作っている、下を覗けば傘を作っている…と、若干のミステリー味を感じるがそんな時代。その流れに沿うように版元に掛け合えば簡単に出せる書籍も町人には人気の職業だったのだよ。その証拠に…まあ、例えに出せるジャンルは知らないから言えないけど。その中でミステリーって
ジャンルは他と一線を引いたジャンルで『俺はこんな風に表現できるんだぜ?』て、マウントを取れるもので結構な作品が世に出たらしいのだよ」
「へぇ…えっと、江戸川乱歩的な?」
「それは小説家の名前だね」

 ナチュラルに間違えたことで源次郎の頬は赤く染まる。
 その後間髪入れずに夜見が

「まあ、嘘なのだけどね! ミステリーは好きだけど読み専で、いっつも感想は『へぇ、凄い! 何が凄いか分からないけど凄いね!』な、私だからね!」
「ダメじゃねえか…。まじでちょっと信じそうになったぞ、それ…」

 実際、初対面で気がしれていない仲で江戸時代にどうこうで~て、話が上がったら信じる以外に選択肢は出ないだろう。だって初対面だもの。

 ガタッと、身が崩れそうになるのを必死に抑える源次郎。少し落胆の表情が溢れてしまったのか夜見の表情は比例するようにして明るくなる。話し方が時代錯誤な高校一年生である。それで女性とかどんだけ要素を詰め込めば良いのか。

「ふっふっふ…こうやって少しずつ騙す術を身につけることで技術をあげているのだよ…!」
「その一言だけ聞けば完全に詐欺師だけどな…まあ、役に立てたのなら骨折り損の…ではないから良いけどな」
「まあ、そのせいで中学生は虚言癖のある美少女として有名人だったのだけどね」
「弊害出てるじゃねえか…」

 そして直すことなくここまできたのか、と思ってしまう。楽しい人であるのはこの短時間で感じれた源次郎である。それが小説に何の影響を及ぼすのかは分からないが。

 話は結構に逸れたわけで、戻そうと源次郎は机の上に置いていた勧誘の紙を指差す。夜見が見えるように向きを変える。

「話は変わるけど…ここはミステリー研究会だろ? 入りたいんだけど…ここって他に部員いないのか? 休みとか?」

 辺を見渡すが見える景色はがらんと空けた教室で、唯一他と違うのはアホみたいに棚に並んでいる本の数々。本棚を設置する為にどかされた机と椅子諸々。ミステリー研究会の跡地だということは認識できるのだが、それを覆い隠すほどに机椅子が多い。まあ、跡地って事で物置に使われているからだろうが。

 そんな景色で見える人影はいないのだ。
 がらんとした空間で二人っきりである。源次郎としては空間の無駄遣いだ、研究会とするのなら書くなり読むなりで研究結果を張り出して空間を有意義に埋めよう、と考えているのだ。男女二人っきりであるのにそんな考えが出ている辺、男としてのソレに不能感を覚えるがそんなことはない。
 一方の夜見の内心はそこそこに面の整った清楚感のある高身長男子との二人っきりの空間でドッキドキである。しかも相手は自身と同じミステリー好きだっていう接点もある。これは恋愛漫画の冒頭かな?? と、思っているがそんな事はなかった。二人の出会いもあるが、源次郎の一言でもムードぶっ壊しである。

 少しテンションが下がった風で夜見は返答する。

「生憎と部員は部長の私だけだね。先輩方を勧誘、て事も考えたのだが私人見知りだし。待つことにしたのだよ」
「それで良いのか部長…。って事はそもそも研究会として設立できていないんじゃないか?」

 研究会の最低設立人数は三人であるのだ。
 部長と語る夜見と源次郎を足しても二人で、どうしてもあと一人足りない。足りていないのがミステリー研究会なんです! と、ゴリ押しでも良いのだが、それをするなら後三人足して部活動としてやりたい。だって部活動費出るし。
 ありもしない事を考えながら源次郎は机の上に出した紙を鞄の中に仕舞う。

 そんな源次郎の言葉に少し悩んだ表情を見せる夜見。

「…旧校舎であるし、立地的に生徒も先生も来づらいのがこの場所。黙って活動しても分からないんじゃないかってのが私の見解だね」
「確かに人通りも異様なくらい少なかったけど…変に理論づけてるけど無断使用だからな、それ。問題が起こったら一発で退場だぜ?」
「問題が起こる要因は全くないけどね。唯一あるとしたら…ミステリーを研究しすぎてこっくりさんをしてしまうとか? 下位獣霊を召喚して願い事が叶う聖杯を巡る聖戦に巻き込まれてしまうとか?」
「もうそれはミステリーじゃないよな」

 それはそうだね、と微笑する夜見。
 そこまで問題が起こる原因は見当たらない。見当たらないのなら無断でいいんじゃないか、と悪魔の源次郎が囁く。そんな誘いに乗ってもいいよね、とミステリーに寛容な源次郎は黙認する。まあ、共犯だが。

「まあ、人数は足らなくても成果を出せば特例で許してくれるかもな。設立の話」
「成果とは?」

 源次郎は良い笑顔で

「吉崎さんのミステリー作品書籍化」

 そう答える。どちらかと言うと名字にさん付けの方にミステリー味を感じるがそう言えば二人は初対面である。ならこの位の距離感の方が正しいかもしれない。
 吉崎自身、名字読みに若干の違和感を覚えるがすぐに納得する。そしてすぐに反応する。

「いや、それはおかしくない!? もっと、こう、良い成果があるよね?? 例えば…そう! 学校の七不思議の解明とか!」

 咄嗟の発言で悩んだ夜見であったが機転が効き、良い成果の例を出すことに成功した。表情が和らいだ。それに対して源次郎は「七不思議って全部知ったら死ぬんじゃなかったっけ…?」と、思っているがそんな事はお構いなしに吉崎は小説を書いていた紙を取り出し、達筆な字で万年筆を走らせる。

『閉じている女子トイレの奥から2番目を十六回ノックし、名前を呼ぶと聞こえる女性の声』
『午前2時22分になると幻の五階が現れる旧校舎』
『百メートル九秒台を出せる陸上選手のみが見える新校舎一階の廊下』
『毎年、新年に聞こえる音楽室からの合唱曲』
『ふとした時に見ると下腹部が走っている五時限目の運動場』
『最近目が悪くなってきたー

「ちょ、ちょっと待て」

 調子が乗ってたのかすらすらと書き始めた夜見の手を止めさせる。
 言って仕舞えば最初の一つ目で気になるところであったが流石に気のせいだよな、と見送った結果の六不思議目である。もう学校の、よりただの不思議な感じがしてしまう。
 止められた夜見が不思議そうな視線を向けてくる。

「どうしたのだね坂下源次郎。七不思議知ってしまうことに恐怖を覚えてしまったのかい? もう、しょうがないね…冷房付けるね」
「もし本当に怖気付いてしまったのなら冷房は追い討ちにしかならないと思うけど…って、ちげえよ。お前の七不思議ってただのミステリーが多くないかって話」

 そしてフルネームはフルネームで微妙に距離感が近く感じてしまう。生徒と教師、的な。

「まず一つ目は…閉じているドアをそんな回数ノックしたら誰でも反応するだろ。腹痛で、限界を超えそうでもそんなにノックしないぞ?」
「まあ…そうだね。実際、私がやられて気がついたときに七不思議として回っていたし…」
「いや実体験なのかよ…」

 トイレの花子さんが同級生だった件。
 
 その後、達筆な二つ目を眺め…

「…で、江戸時代は大工が強かった時代って話だよな。タイプ相性的な」
「いや、そんな話は一切してないよ!? してたけど数分前の話だよ?」

「二つ目からはただの七不思議だよな…あるある系だけど体験したくないやつ。もうミステリーじゃなくてホラーだもん」
「結構有名な七不思議だけどね。カラス異常発生と対となる的な」
「そう言われると怖さが減っちゃうけどね…」

 もう、階層が増えるのも生ゴミの処理が悪かったのかな? と、思ってしまうまである。流石に無理があるが。


 研究会としてすら設立できていないが、二人の会話の内容だけ見ればミステリー研究会している様子である。そんな放課後であったが楽しい時間は無情にも過ぎ去っていき、窓から溢れる光は暖かく、薄暗い夕日に変わっていった。徐々に見える景色はミステリーから、ホラー系に変化し始め、源次郎は帰宅の準備を始める。それに連なるように夜見も広げた荷物を片付ける。

 高校生活若干遅れであるが青春が始まりつつあったミステリー研究会であった。
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