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一章 力で商人のヒモになる
ビキニなアーマー
しおりを挟む憂館とは町一番の料理大会で優勝した実績を持つ、今に通じる技術を持ちながら古風な風貌を残す洋食店だ。
一番の特徴は自家栽培、養殖をしている為に実現する事ができる価格帯の低さである。最たるは卵料理だろう。そこまで安定供給されず、価格が不安定だった卵料理は憂館には極々当たり前にメニューに連なっているのだ。
自家製であるものの、卵はそこまで値段は安く無いが、他店よりは幾分他値段が抑えられた良心的な価格帯である。値段が安いのに目がいってしまう。
目がいって仕舞えばあとは憂館のものである。入ってきた客を1人残らず虜にできる料理人の腕前と、食べるために育成された動植物が織りなすハーモニーは新しい物を探す町人の間で直ぐに噂話になるのだ。
そんな名店を貸し切り、コロッセオのオーナーと対面でアクはオムライスを食べていた。
モルリ商会の会長、モルリ・リーンとの会話の中で店内についての意見を求められたのに関係の無い、女性の容姿に対して口を出すほどに素っ頓狂なアクちゃんである。
そんな空気感が伝わっているのか食事の中に殆ど会話がなく、盛り付けられたサラダを食べ終わり、口を拭いて満足そうに寛いでいる時に会話らしい会話が始まった。
「話とは他でも無い。私のコロッセオで専属闘士として所属してみないか、というものだ。勿論、お金が欲しいならある程度は工面ができる。命を危険に晒したく無いのなら八尾八丁の試合を組もう。どうだろう、専属として所属してみないか?」
真剣な相貌で見つめてくるオーナーである。
整った男らしい顔の作りなので女体化する前のアクであったのなら一瞬で落ちていたこと間違い無しだろう。そんな性別の垣根を超えてくるほどの妙な魅力を醸し出している人物なのだ。
そんな訳で満腹になったアクには「彫りの深い人だな…雨の日には目元で小人が雨宿りしそうだなぁ!?」と、思うに止まっていた。
効果不幸か。
そんな事とはつゆ知らないオーナー、ケインは目を逸らさないアクにある一つの仮定を出していた。
それは
「幻想的な戦いを見せた彼女も女の子。圧倒的なダンディーで虜になっている説」
である。
妄想にも甚だしいがそれは神のみぞ知るセカイである。
沈黙の原因は何か、と考えた時に質問に返してない自分のせいだと気付いたアクは口を開く。ここまでの空白の時間は断りの文句を考えていたのだと、そんな感じを出しながら。勿体ぶりながら喋る。
「…えっと、その気持ちは嬉しいんすけど既にモルリ商会の方で内定を頂いていると言うか…ね。新作の服を提供してもらえるみたいなんでその約束を破ってまで戦いたい、と思う程戦いに飢えてないんで…」
まあ、スーツは破っているんだけどな!
勝手にスーツは貰っていると事実を捏造しているが…バレなければ犯罪にならないのだ。スーツは貰い物だと思い込みを加速させて事実にすり替える。既に貰ったスーツは着れなくなったので処分されていると思うが。
妙なタイミングで嫌な事実を思い出してしまったと。急に乾燥してきた口内を潤すようにピッチャーから水をコップに注ぐ。氷が入っているようでキンキンに冷えていた。歯肉炎が痛む気がする。
そんなアクの言葉を聞き、頭を抑えたケイン。ポロポロと溢す言葉から察するに
「…またか。モルリ商会か…ヴェイルは…。ああ、そうなのか…」
どこか因縁のある関係なのだろう。
それに対してどう反応しようか悩むが、別に対応する必要はないよなと真実に気が付きそのままスルーする。そのスルーが功を制したのか薬を懐から数錠だし、噛み砕き精神を落ち着かせに入るケインの姿になる。
悩むケインも見るに耐えないおっさんだったが、胸から取り出して錠剤を噛み砕くおっさんも絵面としてはどっこいどっこいの強烈さである。
理由はどうであれ、気持ちを落ち着かせたケイン。深呼吸を一つ置き、話始める。
「そうか…そうなのか。いや、なら時間をとってしまって申し訳ない」
一呼吸を置き、縋るようにして言葉を捻り出す。
「…が、もし良かったらであるが内定関係の書類を見せてもらえないか? これは完全にこちら側から向こう側に対する粗探しなんだが…」
粗探しって言っちゃって良いものなのか…と、若干疑問符が頭上で舞っているが…そう言えば契約書類なんてものは一切書いた記憶がないのだ。出会って数分で面接、そして合格であるのだ。ペンすら握った時間はなかった。
思わず溢れてしまう。
「書類…? いや、口頭でしか説明はなかったすけど…」
どうやらその言葉は想像していなかったのかケインは棚からぼた餅! 鴨がネギを背負ってきたッ! と、言わんばかりの狂気的な笑顔を見せた。
「何!? それは本当か嘘ではないな!?」
若干押されながら
「え、ええ。そうですけど…」
と、そう答えるとケインは近くに待機していた筋肉質な執事に声を掛け…一枚の紙を持って来させる。席が2、3個離れた上座と下座的な関係で座っているのだが、ケインはその紙を受け取り、結婚を迫る結婚詐欺師的なサムシングで隣に座った。
「なら、丁度良い! モルリ商会の給料の2倍は出す。家も提供しよう。男が欲しいならこちらから都合が良い奴を探して送る。どうだ、これで雇用書を書いてもらえないか…?」
ミミズが張ったようなニュルッとした文字が書かれた紙を差し出してくる。徐々に文字が読めてきた。これは…もしかして俺老眼? 流石に若い時からの老眼って辛そうだけど…。
まあ、そんな事はない。
ケインが言った内容がより、丁寧な文章に書き換えられた内容が見られる。
結構な優良物件である。まあ、モルリ商会の給料説明で詳しい数字が出なかったので実質ゼロである。つまりゼロに何をかけてもゼロなのだ。その分新作の服を貰えるので内心としてはどっこいどっこいと的な心情が強いので文句はないのだが。
と、そんな事をケインに伝えると
「…なる程。モルリ商会がゆるいことは痛いほど分かった。そしてお前の事もなんとなく分かった気がする。アクは…服に興味があるんだよな?」
「まあ。正確には様々な服を着た俺に興味があるね」
「…変態だな。だが、その変態具合が丁度良い」
紙を出した時と同じように筋肉質の執事に声を掛ける。その中で「ビキニアーマー」がどうの「女戦士」がどうとか言っていたが…まさかね。
まさか、異世界といえばで真っ先に出てくるであろうエロの代名詞のあの格好が合法的にできる訳じゃないよな…?
そんな、ドキドキワクワク胸をときめかせながら待っていると文面が徐々に変化していくのがわかった。魔法かな? と、奇怪なものを目にした気分だったが自身も同じような事をしているなと気付いたら文字が変わるくらい可愛いものだと思えてきた。神経が麻痺し始めている。
「『コロッセオで使用された服、防具などの全デザインをアクに提供し、望むのならばその形通りに装備品を作成し、譲渡する。その期間は双方の考えが一致し、同意が得られた場合のみ終了とする。
その対価として月に一回、王家主催のコロッセオの大会に出場する事とする。』」
と書かれている。
上部の説明に目を通し、『提供し』の部分でテーブルに置かれたペンを手に取り自身の名前を記入する。瞬間、紙は光を帯び始めた。
「お…え? 今? ま、まあ、良いか…えっと、そうだな。この契約はアク君のファッションに対する欲を満たす対価に大会に出場してもらうものだ。流石にアク君のモルリ商会のアレがあるから無理にとはいえない。が、過去の発表から見てコロッセオの公式戦とは時期は会わないはずだ。よろしくな」
そう言って手を出してくる。ゴツゴツとした力強い手だ。
ほぼノータイムで握り返す。
何の紙に書いたのか。悪魔との契約なのか。有無を言わせないほどの強制力を感じながら、光を放ち、徐々に紙が解けアクとケインに吸収させる。身を任せていたがそれが終わったのを見計らい、笑顔を見せる。
「ビキニアーマーを着てコロッセオでるわ。よし、悩殺させたい奴は誰だ立たせすぎて立てねえようにしてやんよ」
「…アク君ってもしかして変態なのか? いや、勢いがあるのには別に構わないのだが…」
勢いのあったケインとは正反対のアクだったが、いつの間にかテンションが真反対になってしまっている。
引きつつあるケインだったがアクの言う悩殺、と言う言葉には説得力を感じている。そう感じさせるほどには
アクの容姿は整っているのだ。
丁度良いタイミングで現れたビキニアーマーを持っていた筋肉質の執事から受け取り、数分後。
「…ごめん。やっぱ俺には早すぎたわ。流石にエロすぎじゃね? 溢れるんだけど…」
「…溢れる!?」
何が、とまではケインや執事は問えなかったが妄想の幅が広がった。
そんな訳でアクのビキニアーマー初体験は意外にも呆気なく終わった。
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