ネグリと付与の魔剣

椎木唯

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盲目になって! ネグリ君。

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 獣とは理性無き生き物であり、文明として栄えるまでの人類の天敵であった。





「では、今回の作戦を発表しよう『触れ合え動物園。アレルギーなんで吹っ飛ばせ』だ。相手は『獣』の名を冠する新生物だ。今までの相手とは格が違うぞネグリ」

「…話があるって叩き起こされたらそれですか。今早朝ですよ? 太陽も完全に昇ってないし…僕が吸血鬼だったら灰になるかも知れなかったんですよ!? その時はどう責任を取ってくれるんですか!!」

「…吸血鬼なのか?」

「いえ違いますけど」

 早朝、朝を告げる太陽が顔を出すか否かの時間である。
 寝ている所を団長さんに叩き起こされ、朝食を頬張っていたところに作戦発表だ。しかもアレルギーなんて吹っ飛ばせって…

「僕、動物系のアレルギーは持っていないんですけど…って、今までの相手と格が違うならメイさんとか、それこそ団長さんとかが相手すればいいんじゃないんですか?」

 作戦名がおかしいのは今日に限った事ではないのでこの際スルーする。

 団長さんの説明…と言うか騎士となる教育機関で教えられた新生物の強さ順は有象無象の新生物<能力持ち<支配系統であるのだ。
 恐らく、一昨日戦った『侵略』の新生物は強さ的には真ん中の能力持ち…なのか? 意味的には支配系統っぽいけど……まあ、問題はその戦った相手が末端である点だ。いくら相手が強大でも、今戦っている相手が下っ端であるなら、反応は「雑魚にまで教育が施されているなんて…こまめな人なのね」である。
 新生物にとって、『侵略』にとっての末端がどのような意味に該当するのかまだ分からないが本体よりは格段に弱いのが定石だ。
 なら自分から死地に旅立つ必要はないのではないか? そして、そんな強い相手と戦うのは別に弱い僕である必要はないのではないか? そんな考えのもと提案する。

 僕の言葉を受け、ごもっともだと反応を示す。まあ僕弱いけどね。弱いんだけど…面と面向かって同意を示されると心にくるものが…。魔剣さんは圧倒的強さを誇るので「何ィ!? 戦いに行ける場を提供されているのに自分から逃げ出すとはなんて貧弱なネグリなのだッ!!」とか言われて団長さんに二つ返事で『獣』の新生物に向かいそうである。なので睡眠中の魔剣さんは起こさずそのままである。

 若干、僕の中でアレンジが加えられた魔剣さんが出てきたが、似た感じである。情緒不安定なのか、偽りの魔剣さんが何十にもあるのか。今のところは謎が謎を呼ぶだけで真理には辿り着けていない状況だ。

 確かにネグリは弱いからなぁ、とパンを頬張りながら言う団長さんに心の中で断頭しながら、言葉を待つ。

「だが、これは上の指示である。昨日のネグリと新生物との戦いを見せたらワシの上司が異常に気に入ってしまってな…。行くのも行かないのも、まあ自由だが……了承しない場合は強制的に送る事になっているのだがそれでも良いか?」

 有無を言わせないような重圧に思わず、

「きょ、強制じゃないっすか…」

 小心者のネグリ君が出てしまう。
 命懸けの戦いには小心者とか、臆病者とかが最後まで生き残るって言うじゃん? 最後に生き残ったものが勝者なのだよ、とは持論であるが…魔剣さんと出会った時からその持論は空論になってしまっただろう。ただいま起きた魔剣さんが乗り気であるのだ。ええ、両バサミで拒否権はないですよね…スープ飲んだら出発します。

 スープを飲み干し、芋の香りを堪能しながら水で口を洗い流す。余韻に浸りながら死地へ向かう手段を考える。
 昨日と同じ距離ならばメイさんの送り迎えは必須だけど…。

 いそいそと何か準備をし始めている団長さんに聞いてみる。

「送り迎えはメイさんがしてくれるんですよね?」

 その言葉の返答は想像を遥かに超える文言であった。

「ん、メイか? あー、メイは別件で朝早くから出ているぞ。だから送り迎えは予備のドラゴンでしてやろう。乗り心地は最低だが…速度は補償するぞ?」

「えっと、他の人のドラゴンをお借りしたりとか…」

「他の人って…竜護舎はワシとメイ。そしてネグリの三人しか居ないぞ?」

 …え?

 新事実、あの教育機関最底辺の僕でも知っている竜護舎の人員は三人。竜護舎の人員は三人。
 団長さんは頭飛び抜けて強者であり、メイさんも僕が知る限り圧倒的強者である。それに連なるように金魚の糞である僕と、魔剣さん。

 …竜護舎の優しさで僕を仲間に引き入れたんじゃなくて、只の人員確保?

 薄らと真実に片足を突っ込んでいる気がした。

 最低でも「やっぱイラネ」と言われないように頑張るしか…






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『では討伐したらこの場所で待っていろ! 俺は適当に大空に羽ばたいているからよ!』

『待っていろとは良い身分じゃねえか! テメェが日光浴する暇もなく帰ってやるから地を這いつくばってろッ!』

「魔剣さん…カルシウムも必須栄養素だから毎食欠かさず食べようね…」

 猛烈な蛇行飛行の末にたどり着いた地面。久方ぶりとも思える数十分のフライトだったが、大地に足をつける感覚は大事である。人としての尊厳を取り戻した気分だよ…。
 と、そんな人間に生まれたことを感謝していると謎に喧嘩を売る魔剣さんの姿が。待って、相手はドラゴンだよ!? 流しそうめんみたいにぺろっと食べられちゃうよ!!

 そんな心配を余所に飛び立ったドラゴンに中指で見送りをする魔剣さん。どうしてこんなに好戦的になってしまったんだ…。原因は道中にあるのだけど。

 飛び立って、姿が見えなくなったドラゴンを、最後に唾を吐き捨て魔剣さんはこちらを見る。

『にしてもほんっとうに最低な運転だったな。これじゃあまだコーヒーカップをぐるぐると回された方が立派な運転だと思うぜ』

「確かに直進の意味を理解していない飛行だったけど…けど、早く着いてよかったじゃん。団長さんが言うには1時間は最低でも掛かるって言ってたからね」

『早く着くために乗客を振り回して良いのかよって話だぜ…でもまあ、相手は『獣』の新生物だろ? この地に降り立った瞬間から武者振るいが止まらないな…』

「空中浮遊だから降り立ってはないけどね」

『気分だよ、気分。取り敢えず進んでいこうぜ、森の中。ピクニックと洒落込もうじゃねーか』

 ピクニックにしては些か獣の声が響きすぎる森だけどね…。

 大体腰ほどまでの高さの草が生い茂り、最高でも3メートル程しかない木々が並ぶその空間は森というより、人工的に整えられた庭の方が近い印象だ。そんな空間に足を踏み入れ、進んで行く。
 森みたいな場所はどこか『侵略』と戦ったあの場所を思い出すが…この場所は自然というよりは、誰かの為に成形された森な感じがするのだ。腰ほどの高さの草は身を隠すのに適し、最高でも3メートル程の木々は立体的な動きをするのに丁度いい。

 少し前から異質な空気を感じ、魔剣になった魔剣さんを手にしながら進んでいくと、獣の声の正体に当たった。

『やあ、こんにちは。良い天気だね。ピクニック日和だよね。僕はそう思わないけど』

 四足歩行。艶々の毛並みは高級感で溢れ、凛々しい脚は闘牛のような荒々しさを感じさせる。背中から尻尾にかけて人の指が亀の甲羅みたいに守っている。犬の耳を頭部に生やした目の焦点が定まっていない人面犬…? 人面牛…? まあ、『獣』がそこにはいた。

 どうやら僕達の存在は既に知っているようで、特に驚いた感じもなく声をかけられたのだ。涎をダラダラと垂らしながら。

『聞こえてると思うけど。挨拶には挨拶でって教わらなかったのかな? 流石ニンゲンだね。女じゃないってのが少し気に入らないけど…男は男で身が引き締まって美味しいからね』

 そんな彼の『頂きます』の声と、魔剣さんと僕の『キモ…』の息があった感想で戦いが始まった。

「魔剣さんッ!!」

『こんな奴で強化したくないんだけど…そんな贅沢は言えないみたいだね』

 魔剣さんの協力の元、剣から数本の管が僕の腕に突き刺さる。それと同時に飛びかかってきた『獣』の攻撃を回避し、叩きつけるように振り下ろす。心地良い感触を手に感じ、血肉を得たことで『付与』される。さっきまでとは格別に体の軽さが違う。毛皮の布団から羽毛布団に変えたような気分だ。

『まだなようだぜ』

「うへぇ…『獣』って名前から想像してたけど…『侵略』と同じような物量で押す感じのタイプなんだね。すごい形相の人面犬がぞろぞろと…」

『すげぇ絵面だな…。これじゃあペットショップに行っても素直に愛でられなくなるぜ…』

 都会に憧れる系と思っていたけど。ペットショップにも行ってみたいのか。ギャルに子犬って似合うもんね…。
 夢膨らませている魔剣さんを再度強く握り直し、襲ってくる『獣』の首を落とす。ほぼ魚群のように襲ってくるのだ。休む時間はないが…一体一体がそこまで強くない。無駄口は十分に挟める。

「そもそも街に行けないけどね」

『行く為に新生物を沢山狩るんだろうが…。背後に1匹いるぞ』

「包囲されてるって事か…」

 魔剣さんの言葉通りに背後にいた『獣』を回避し、叩っ斬る。既に両断を超え、地面も軽く抉れるような斬撃を放てるまでに強化されていた。倒した数は数十を超え、全知全能を感じられる程に『付与』されていた。
 『侵略』と戦った時は百を超える数だったけど、どうして数十しか倒してない状態で同じような全能感を感じられているのか疑問に思っていると

『それは一回に「付与」される濃度の違いだな』

「濃度…?」

『まあ、強い相手の血肉を得るたびにそれ相応の「付与がされると思っていれば十分だな』

「へぇ。だから『侵略』の時と同じくらいに全能感に溢れているのか…」

 永遠に狩り続けていれば地面を両断する事も可能なのでは…? と、男の夢である地形破壊攻撃に夢を乗せる。
 しっかりと重さがあった魔剣さんは、この場に屍を絨毯かのように形成していく中、羽のような軽さに感じられるほど『付与』が施され、その名の通りに縦横無尽に駆け巡りながら形成逆転である。

 向かってくるのを対処していたが、逆にこちらが襲う側に回る。

「どうだ、捕食者が被食者に回られる感覚はッ!! 何とも言い表せないような幸福感なんだろうな、もっと味合わせてやるよッ!!」

『うーん…血に酔い過ぎるのは行けない事だけど…ナヨナヨしすぎるのも良くないよなぁ。良いぞ、もっと味合わせてやれ!!』

 一歩踏み出すごとに『獣』の頭を踏み抜き、次に踏み出す頃には斬撃が飛んでいる。その場に台風でもきたのか、そう思わせるような剣の嵐があった。そして、その場に決して居座らないように場所を自由に変えながら様々な角度から襲いかかる。
 時には下、地面を這いつくばるような体制から。空中から飛びかかるように。木を足場にアクロバティックに。さながら曲芸師のよう。廻りめく視界の中で、酷使する三半規管を心の中で労りながら切り刻む。

 何十も、何百も。

 だがしかし、『獣』は消耗を一切見せておらず、人面犬が森から出てくる速度は一定であった。まるで機械で量産される部品のように一定で、水準を保ち、順当に増えていく。
 僕が一つ倒す頃には二つ増えているような、そんな錯覚を感じるように永遠と、終わりがないように感じられる。

 そんな時、鼻が熱くなる感触があった。攻撃をくらったのか、そう思って手を当ててみると

「あ、鼻血か…」

『「付与」は相手の血肉を対価に力を得るものだ。力を溜め込み、発散できなくなったらネグリの鼻血みたいに我慢できずに溢れ出るだろうな。ネグリ、限界は近いぞ! 勝算はあるのか!? いや、無いとアタシが困っちゃうんだけどな!?』

「勝算…かは分からないけど、『獣』が守っているっぽい場所は見当がついた。多分そこに無限に増殖している原因があるんだと思う」

 魔剣さんの煽りを受け、問題の場所に向かおうと歩みを進めた瞬間。人面犬の猛進が始まった。

「い、今まで防戦一方だったのにっ…!」

『どうやらあの場所で当たりみたいだな…まあ、相手さんは近づかせたくないみたいだけどな。がんばれネグリ! 負けるなネグリ! 勝たないと都会デビューできないぞっ!!』

「べ、別に都会に行ったとしてもデビューできるとは限らないけどねっ…」

 鼻血を拭い、剣を持ち直す。
 防戦から好戦的な勢いになったとしても……『侵略』と戦った時以上に『付与』されている僕の敵じゃないね!!

 全能感が僕を満たし、動作の一つ一つに力強さを感じされる。僕が神だ、僕が支配者だ!! まあ、鼻血が止めどなく流れているけど。
 向かってくる『獣』を薙ぎ払い、踏み潰しながら守っている森の奥に向かう。その場所は神秘的なまでに獣臭く、生き物的で、命の温かみを感じられる場所だった。

 最初に会った『獣』の10倍ほどの大きさの母体、とも言える人面犬が横たわり、永遠と出産を繰り返しながら授乳され続けているのだ。そして成長し、こちらに襲いかかってくる。犬が成熟するまで十ヶ月ちょっとと言われる。
 そんな一般的なワンちゃんと比べると何百倍、それ以上の成犬までの成長速度の差がある。
 『獣』の新生物はものの10秒ほどで、出産、授乳、成長を経てこちらに襲ってくるのだ。成長の過程を早送りで見ているような感じである。相手は人面犬だけど。

 そんな生き物らしい新生物に何も思わない訳ではないが…。

「これも僕が生きる為なんだ…できれば僕が死ぬまで僕を呪わないでくれるとありがたいんだけど…」

 過去に量産された『獣』は全て狩り終わり、残すは目の前の光景だけである。
 成長をしている『獣』を斬り、必死に乳を吸っている『獣』を斬り、今まさに生まれてきた『獣』を斬る。

 残すは母体だけである。脳天に狙いを定め、一思いに突き刺す。悲鳴も、抵抗も一切なかった。向けられたのは曇りなき、瞳だけだった。

「ふぅ…っと、鼻血が出過ぎて立ちくらみが凄いよ…。長風呂した後みたいになってるよ、僕」

 視界がグルグルである。悪戯に回されたコーヒーカップ並みである。まあ、友人と遊園地行った事は一切ないけど。

 取り敢えずの依頼完了である。森からはそこまで複雑に入っていないから帰るのも楽だけど…あれ? どうして“森が戻らない“んだ?

「あれー? ピクニックに来たんだけど『獣』ちゃんが殺されてるみたいだぞー? もしかしなくてもキミがやったの、これ?」

 中性的な声が聞こえ、見上げたそこには誰もおらず、反射的に剣を構えた事で攻撃は、衝撃に変わった。何この力強さ!? こんな華奢な子が発揮しては行けない領域だろ!? 質量保存の法則って知ってる? ちなみに僕は知らないです。
 追撃は無いようで、押し返すようにして僕の体が容易に飛び、数メートル離れた場所に着地する。戦闘終了で、『付与』の効果を抜いた直後で良かった。まだ強化が続いていたからギリ反応できたけど…。

 推し返した襲撃者を見る。

 病的なまでに透明感があふれる純白の肌に、大きく宝石のようにキラキラとした赤い瞳。そんな可愛らしい下地なのだが、真正面からぶっ壊すように耳元まで開かれている大きな口。その口とタメ張るような異物、デコに開いた大きなお口。私、食べるのが好きなのーって言われても納得のいかない人体改造である。
 それ以外は普通で、同い年か、少し年下か。そんな位の身長で、肌と同じような純白のワンピースを着ていた。まあ、普通では無いよね。口が二つあるってそれだけで異形である。

 森に迷い込んだ幼な子って線は無くなったけど…状況が悪化したわけだ。

 生憎と新生物って線は…どうなんだろうか。まだ分からないが…。
 相手はピクニックに来たそうで、『獣』が殺されているって言うイレギュラーが起こった事で帰ってくれないかな…と、必死に祈る。既に体の中に『付与』の能力は無く、全能感は子供の頃の夢のように呆気なく消えさっていた。

 考えるような仕草をする彼女。直ぐにあっけらかんとした天真爛漫な笑顔を見せる。これが普通の人間だったのなら恋愛ラブストーリーの幕開けだったんだけど。生憎と現実は真逆である。血で血を拭うリアリティサバイバルである。サバイブしてないけど。

「あれで殺せるって思ったんだけどー! キミ、結構強いんだねー! 私驚いちゃった! 驚いちゃったし、興味が湧いちゃったの!!」

 耳まで裂けている大きな口で、大きく笑いながら来ているワンピースを脱ぎ捨てる。おっと、R-18的な展開か? と、期待に胸を膨らませたがR-18Gの方だった。無修正のグロは受け付けていませんので…。
 ここまで何も喋らなかった魔剣さんがようやっと口を開く。剣なので口はないけど。

『あれは…マズイ。マズイマズイマズイ……アタシの夢と希望の都会デビューが……儚くも熱い、恋愛ラブストーリーが……アタシを待っているイケメン達が……幻想になり捨てちまう! ネグリ、全速力で退避だ!! 相手はアタシ達が到底勝てるような相手じゃねえッ!!』

「つれない事言うじゃん、もう! でも…へぇ、『付与の魔剣』かな? 俄然、興味が湧いてきちゃった♡」

 脱ぎ捨てたワンピースが地面に落ちると同時に、素肌を人の目で覆った彼女は向かってくる。全身を目で覆う存在である。新生物じゃない、と
思ったが新生物であった。
 僕の予想は悪い意味で裏切られる。

「私は『盲目』! 君たちが言うところの支配系統って言われる新生物って奴だよ!!」

 体表に浮かんだ数百もの視線を受け、僕の体は浮かび、飛ばされる。最大限魔剣さんで攻撃を受けた筈だったけど…飛ばされる最中、軋むような腕の痛さを覚える。ヒビでも入っちゃったのかな…。
 同じか、それ以上の体格の男を飛ばす。しかも飛ばした相手に追いつくそうな脚力を兼ねそろえている『盲目』。支配系統は最上位って教わったけど…ここまで一方的になるとは。

 少しヒビの入った魔剣さんに声を掛ける。

「魔剣さん。力を貸してください」

『…逃がしてくれねぇみたいだもんな。精々死なないように頑張ってくれよ。アタシとしても新生物の野郎に使われるよりは、ネグリに触られる方がまだマシね』

「触られるって…使いこなせてないって事なの…? 湧き出てきた自尊心が叩き折られた気がします」

 使うではなく、触ると言われている事に少し心に傷が出来るが立て直す。僕は落ちこぼれで、何の才能も持ってないからね。再確認し、思い上がった心を自制する。それと同時に手を突き立てるような『盲目』の攻撃を左腕で受け流し、魔剣さんで攻撃する。
 体制が悪く、深い傷は与えられていないが…それでも血は得る事ができた。『侵略』や、『獣』と格段にレベルの違う『付与』が僕の体を巡る。
 もっと、後数回でも攻撃を当てれば上回れはしないでも、同格にはなれると思うが…。

「受け流した筈の左腕はバキバキになるとはね…。今、この時においてはアドレナリンに感謝するよ…」

 そこだけ交通事故にでもあったの? と、そう思ってしまうような挽き肉なりかけの腕があった。

 包丁で軽く切っただけの対価に左腕とは…等価交換もままならない相手である。エログロな『盲目』は…何というか悪夢的なエロさを感じるので眼福要素は一切ないので、帰ってくるのは痛みだけと。ハイリスクローリターンな戦いになるだろうな、と予想する。

 まあ、それも直ぐに裏切られるのだが。
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