スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第51話 やばい奴

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 あれから3日後、予定より1日遅れたがついに試作品の日本酒が完成した。いくつかの樽に分けて日本酒を作ったが、アプリから見る結果的に樽の半分がアルコール発酵に失敗してしまったようだ。しかし残り半分は酒になっているらしい。

 まだ朝早いが、試飲をしていかなくてはいけないだろう。全く、こんなに朝早くから酒を飲むなんて、そんなことはしたくないんだけどなぁ…いやぁ、これも仕事だししょうがない。本当にしょうがないなぁ…もう。

「では早速一杯……まっず!」

 うえぇぇぇ…なにこれ。アルコールは薄いし酸っぱいし、何より癖がすごい。雑味が多いんだよなぁ…これは失敗だ。次に行こう。

 次のはちゃんと酵母が入るか不安だったので、街で売っていたぶどう酒を少し加えて作った酒だ。アルコール発酵はしっかり行われているはずだ。これも一口…ま、まずい…

 やばい、これもしかして全部失敗したんじゃないの?そういえば、俺はこの米を酒米だと思っていたが、本当は酒米ではなかったのではないか?だってこの米を酒米だと思ったのは俺のアテにならない舌の感覚だけだ。

 これで全ての酒の味を確認したが、結局全て失敗か……。あれ?まだもう一つ樽があったぞ。こんなの作ったっけ?まあいいか、とりあえず飲んでみよう。

「あれ?この酒は美味くはないが、悪くもない。アルコールもまだしっかりしている方だな。」

シェフ『“あ、その酒上手くできていました?試しに作ってみたんですけど”』

ミチナガ『“え?これお前が作ったの?”』

シェフ『“はい、作業工程は覚えていたんで作ってみました。特に綺麗に研磨した米じゃないんですけど上手くいったようで何よりです。”』

 特に研磨していない米?そういや、ルシュール辺境伯からもらった麹用の酒米が少し残っていたな。もしかしてこの米は研磨しないほうが美味い?本来、でんぷん質は中心に固まるはずだけど、これは外側に固まっているとか?

「つまり俺は米を精米してでんぷん質をみんな捨てたのか…」

 それならこの結果にも納得がいく。でんぷん質をほとんど含んでいない米だから糖が少なくて、アルコール発酵も大して行われなかった。雑味の部分だけが残ったからまずい酒になってしまった。俺が美味しくしようとした努力は無駄どころか、返って酒を不味くする要因だけを残したということか。

「まあとりあえず、米の酒はできたからルシュール様に伝えるか。まだ美味しくないけど。」




「なるほど……確かに米のお酒ですが…味はダメですね。」

「ええ、普通の酒米だと思っていたのですが、少し違う米らしくて…」

 メイドさんにルシュール辺境伯との面会を求めたところ、少し時間はかかったが、なんとか面会が叶った。こうしてルシュール辺境伯に会うのは久しぶりだ。毎日忙しいのか、顔に疲労が見える。

「あの米ですね。では、今まで得られたデータをまとめた資料があるのでそれをお渡ししましょう。しかしこの短期間でよく作れましたね。」

 あ、この感じ。なんだか懐かしいな。思いっきり怪しまれている。俺が異世界人だと知っているし、異世界人が特殊な能力を持っていることも知っている。だけどその能力だけは詳しく知られていない。下手に教えて厄介ごとに巻き込まれるのも嫌なんだけどな。

「おっと、すみません。あまりいい言い方ではありませんでしたね。」

「気づいて言っているくせに……。まあいいですよ。あなたは他人に吹聴するような人でもないでしょう?ただ、人払いと他人に聞かれないようにそれなりの措置はとってください。」

 俺からのこの言葉を待っていたのだろう。すぐに人払いを行い、防音や盗聴を防ぐ結界を張ってくれた。ルシュール辺境伯はかなり長生きをしている。だからこう言った俺のようなイレギュラーの話は格好の娯楽なのだろう。

「既に知っているとは思いますが、私の能力は生産系です。戦闘能力一切なしの。おまけに私自身にはなんの能力も力もありません。」

「ええ、それはすでに冒険者ギルドでのステータス調査によって判明していますね。それでその生産系能力の詳しい内容を知りたいのです。」

「その能力はこのスマートフォン内で農業、畜産、漁業、加工業が行える能力です。それと映像を記録する能力などもあります。」

「それは…とてつもなく強力な能力ですね。戦闘力のなさを差し引いても有り余るだけの魅力があります。……しかし、私の見立てではそこまで万能ではないのでは?」

「ええ、全ての能力の行使に多量の金貨を消費します。例えばですが…私がこの米を作るためには金貨5万枚以上の経費がかかっています。」

「……それは大金ですね。なるほど、今までの異世界人の能力から考えれば、デメリットを合わせるとちょうど良いくらいの能力になりますね。」

 ちょうどよくなんてないぞ。はっきり言って最低だ。そりゃルシュール辺境伯のように現在金を大量に持っている人ならば良いかもしれないが、俺のような貧乏人ではまともにスマホが使えるようになるまで大変なんだから。

「試しに…何かその能力を見せてはもらえませんか?」

「試しにですか……すみません。今お金なくて…」

「金貨が?しかし、ファルードンのところで金貨を40万枚受け取りましたよね?」

「ええ、ですがもうそれがなくて…」

「……その金貨の他にもシンドバル商会から金貨20万枚をもらって…」

「それも使い果たしました。」

「………」

 な、なんですかその目は。お、俺だって別に好きで使ったわけじゃないし。というか40万枚はポチたちが使ったわけだから俺はノーカンでしょ。俺なんてあれだけの日数で20万枚だよ。長持ちした方じゃん。

「…それほどまでにお金のかかるものなのですか?」

「ま、まあそうですね。金貨100万枚あっても使おうと思えば1日で使えてしまいますから。」

「わかりました。では私の持っている金貨を差し上げましょう。いくらあれば能力の行使ができますか?」

 お、本当ですか、それは太っ腹だなぁ。じゃあ何に課金しよっかなぁ。だけど、種を買ったりしても正直インパクトには欠けるよなぁ。レシピを買っても…インパクトないなぁ。何かはっきりとわかりやすいものがいいよなぁ。それに何かお高いもの…

「あ、では白金貨を1枚いただけないかと…」

「さすがにそれは……私も簡単に出せませんよ。そもそも価値を知っているんですか?白金貨は金貨が大量に市場に出回る中、産出数が少なく、価値の安定しているものなんです。確かに一般的には金貨1万枚分と言われていますが、持ち運びやすさや価値の安定性から金貨10万枚分以上の価値で取引されることもあるんですよ。」

「そ、そうなんですか…すみません。ルシュール様にもその能力の行使がわかりやすいように使い魔を生み出そうかと思いまして…」

 この金貨の飽和した世界で、一定の価値を持つ白金貨はかなりの価値があるのだろう。金貨10万枚運ぶのが一枚で済むのならば、商人も必ず一枚は欲しくなる代物だ。まあ俺の場合、スマホがあるので問題はないが。

「使い魔を生み出すのに白金貨を使うのですか。使い魔なんて魔力を術に通せば簡単にできますが。」

「私は魔力もないので…。うちの使い魔は一度生み出せば、死んでも金貨を消費することで復活させることができるんです。それに職業に就けば鍛治や料理などの腕も良いですし、自身で最適の行動をやってくれるんですよ。」

「それが使い魔?使い魔は命令された特定の行動しか行えず、意思も持たない存在のはずですが…。なるほど、それは面白そうですね。」

 そういうと机の引き出しから小袋を取り出し、白金貨を手に取る。あ、あの袋の中に白金貨何枚入っているんだよ…割とずっしりしていたぞ。

「ではこれでどうぞ。私にも見えるようにお願いしますよ。」

「ありがとうございます。ではこの画面を見ていてください。これから始めるので。」

 やった!上手くいったぞ。俺は白金貨をスマホに収納し、ルシュール辺境伯のそばまで近寄る。早速使い魔ガチャを開き、見えるように画面をルシュール辺境伯の方へ向ける。

『使い魔ガチャへようこそ。』

「今なんと言ったのですか?聞いたことのない言葉でした。」

「ああ、これは日本語ですね。私の国の言葉です。本来は翻訳されて伝わるはずなのですが、スマホからだと翻訳されないのかもしれませんね。初めて知りました。今は使い魔ガチャへようこそと言いました。」

 人にこのスマホをここまで見せたことがないので、また新しい発見だ。これなら下手に使っているところを見られても、何をしているかわからないだろう。まあ人前で使う予定もないけどね。

「それでここに白金貨を入れて回すと…あ、エフェクトかかった。レア確定です。」

「レア?良い悪いがあるのですか?」

「ええ、まだノーマルとウルトラレアしか出したことはないんですけど、レアになると能力を持っているんですよ。」

『おめでとう!スーパーレアの使い魔だよ。住む場所を与えると特別な能力を得ることができるから是非頑張ってね。』

 おお、スーパーレアだ。なかなか運がいいじゃないか。能力がちゃんと使えるようなものだといいなぁ。ピースの能力は未だに使い道ないし。デメリットしかないし。

 新しい使い魔の住む場所はポチのアパートだ。まだまだ部屋は空いているので、そこに住んでもらえば問題ない。ただ、スミスと親方から工房に住む場所を作って欲しいとの依頼が来ていた。その方が職業能力を強化されるらしい。まあ金貨全部なくなったのでその話も流れてしまったが。

 新しい使い魔が入居すると、すぐにその能力が解放された。どうせなので、その場で鑑定を使い能力を確認する。

 名前なし 職業なし 能力、植物への親和性

「あ、出ましたよ。今回の使い魔はスーパーレアで、能力は植物への親和性です。」

「良いのが出たらしいですね。それにしても植物への親和性ですか…植物を操ることができるのですか?」

「あ~…ちょっと聞いて見ます。」

ミチナガ『“おーい、新入り君。君の能力はどんなことができるんだい?”』

 ……返事がない。このパターンは考えていなかった。今まで5体の使い魔を手に入れているが、まさかのガン無視とは思いもしなかった。すると、それを見かねたポチが新しい使い魔の元に駆け寄り、何か聞いている。ちなみに新しい使い魔は畑の作物のそばでしゃがみこんでいる。

ポチ『“なんかね、ずっと植物に話しかけているよ。時々笑っているし。やばいやつ当たったね。”』

ミチナガ『“……なんか、ごめん。”』

「えっとですね……植物に話しかけているらしいです。他の使い魔もやばいやつって言っています。」

「……そうですか。」

 本当はルシュール辺境伯は植物が好きだから、それにちなんだ使い魔が当たったんですねって言おうと思っていたが、まさかのやばいやつだったとは…

 これじゃあルシュール辺境伯にちなんだ使い魔ですなんて言ったらすごい問題になりそう。ならなくても俺は当分ルシュール辺境伯の顔見られないよ。今でも気まずいし。

 使い魔ガチャ…当たりでもこれとは…今後引くのがめっちゃ怖いやん。


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